【企業必見】CO2削減に向けた取り組み。日本政府の動向や企業事例を解説
- 今後、世界全体でのCO2排出量は増えていくと予想されています。日本をはじめとする世界各国が、CO2排出削減に取り組んでいく必要があります。
- 2020年10月に菅内閣総理大臣(当時)は「2050年カーボンニュートラル」を宣言。それを受け、日本政府は「グリーン成長戦略」の策定や「地球温暖化対策計画」の改定などを行いました。
- 企業としてCO2削減を進める際は、「現状の把握」「実施計画の策定」「取り組みの実施」の順に行います。「省エネ・節電の徹底」「再生可能エネルギーの活用」など、すぐにでもできる取り組みから始めましょう。
近年、二酸化炭素(CO2)を減らすための取り組みを進める日本企業が増えてきています。「明日からでも、取り組みを開始したい」「現在実施中のものとは別の取り組みも始めたい」といった企業も多いでしょう。
この記事では、CO2削減に向けた日本政府の動向や取り組む際の手順、明日からでもできる取り組みなどを解説します。これを読めば、CO2削減に向けて企業としてすべきことのヒントが得られるでしょう。日本企業の事例も紹介していますので、最後までご覧ください。
CO2排出量の現状と企業がCO2排出量削減に取り組むべき理由
二酸化炭素(CO2)を減らそうと考えた時、「そもそも、CO2は現状どのくらい排出されているのか」「なぜ、排出削減が求められているのか」などが気になる方も多いでしょう。まずは、CO2排出量の現状と日本企業がCO2排出量削減に取り組むべき理由について、解説します。
CO2排出量の現状
環境省の資料によると、世界の「エネルギー起源CO2(燃料の燃焼や、他者から供給された電気・熱の使用に伴い排出されるCO2)」の排出量は、2021年時点で336億トンでした。国・統合体別で最も排出量が多かったのは中国の106.5億トンで、全体の31.7%を占めています。次いで、アメリカ、EUの順に排出量が多く、日本は世界で第6位のCO2排出国でした。日本のCO2排出量は約10億トンで、世界におけるCO2排出量の3%に相当します。
なお、発展途上国における人口増加や経済発展に伴うエネルギー需要の拡大により、2030年には、世界のエネルギー起源CO排出量は362億トンになると予測されています。2021年から2030年までの約10年間で、おおよそ8%増える計算です。
参考:環境省『国内外の最近の動向について(報告)』
日本企業がCO2排出量削減に取り組むべき理由
こうした状況の中、日本をはじめとする世界各国の企業に、CO2排出量削減が求められています。
日本企業がCO2排出量削減に取り組むべき理由としては、以下の3点があります。
日本企業がCO2排出量削減に取り組むべき理由
- 世界全体での地球温暖化対策が急務であるため
- エネルギーコストの削減につながるため
- 資金調達がしやすくなるため
それぞれについて、見ていきましょう。
世界全体での地球温暖化対策が急務であるため
近年、地球温暖化が急速に進行しています。その影響により、世界中で猛暑や豪雨といった気象災害が頻発。水資源や自然生態系、人々の健康への悪影響だけでなく、「工場の操業停止」「物流の遅延・断絶」などによる産業・経済活動への悪影響も懸念されています。
私たちの暮らす地球を守り、持続可能な社会を作っていくためには、世界中の国・企業・個人が一丸となって地球温暖化対策を早急に進めていく必要があります。
皆さんご存じかとは思いますが、地球温暖化の要因は「温室効果ガス」です。温室効果ガスにはCO2の他にメタンや一酸化二窒素など計7種類がありますが、環境省の資料によると、2022年度時点では日本における温室効果ガス排出量の約90%をCO2が占めています。
こうした理由から、日本企業としてもCO2削減に努めていく必要があるとされているのです。
なお、温室効果ガスについて詳しく知りたい場合には、こちらの記事が参考になります。
エネルギーコストの削減につながるため
CO2削減に向けた取り組みの第一歩として、省エネ効果の高い設備の導入や太陽光発電パネルの設置などを実施する企業は少なくないでしょう。短期的には導入費がかかりますが、「従来の設備よりも、エネルギー効率がよい」「電気料金が上がっても、その影響を受けにくい」といった理由から、中長期的にはエネルギーコストの削減につながります。
なお、国の補助金制度を活用すれば、設備導入時のコスト面での負担を軽減できます。また、所定の要件を満たせば、「カーボンニュートラル税制」という税制優遇措置を受けることが可能です。コスト面でのメリットが大きいことがわかりますね。
資金調達がしやすくなるため
近年、地球温暖化の進行に伴い、社会全体でサステナビリティ(持続可能性)への関心が高まっています。それにより、世界中で急拡大しているのが、ESG投資です。ESG投資とは、企業の「ESG(環境・社会・ガバナンス)」に配慮した取り組み内容をもとに、投資先企業を選定し、投資すること。日本国内でも、ESG投資を行う投資家が増えてきています。
環境問題の代表例が地球温暖化であるため、「CO2排出量をどれだけ削減できたか」がESG投資の判断材料の一つとなることも少なくありません。すなわち、CO2削減に取り組み、社外に情報開示することで、ESG投資を受けやすくなると期待できます。
また、環境問題への取り組みに積極的な企業は社会的信用が高まるので、銀行からの融資を受けやすくなる可能性もあるでしょう。
こうした理由から、資金調達を受けやすくなると考えられます。
なお、ESG投資について詳しく知りたい場合には、こちらの記事が参考になります。
CO2削減に向けた日本政府の動向
日本政府はCO2削減に向けてさまざまな対策を進めていますが、その背景にあるのが、「パリ協定」とIPCC(気候変動に関する政府間パネル)が発表した「1.5℃特別報告書(SR1.5)」です。
パリ協定とは、2015年12月のCOP21(気候変動枠組条約第21回締約国会議)で採択された、気候変動問題に関する国際的な枠組みのこと。1997年12月にCOP3で採択された「京都議定書」の後継としての位置付けです。
同協定では、世界共通の長期目標として、以下の内容が合意されました。
パリ協定の合意内容 世界的な平均気温上昇を工業化(産業革命)以前に比べて2℃より十分低く保つとともに(2℃目標)、1.5℃に抑える努力を追求すること(1.5℃目標)今世紀後半(21世紀後半)に温室効果ガスの人為的な発生源による排出量と吸収源による除去量との間の均衡(カーボンニュートラル)を達成すること |
パリ協定を受け、IPCCは2018年10月にパリ協定の内容に関する科学的根拠として、「1.5℃特別報告書(SR1.5)」を発表。「世界の人為的なGHG排出量を、2030年までに2010年比で約45%減少させ、2050年までには実質ゼロにする必要がある」旨を提示しました。
これらを受け、日本をはじめとする世界各国がCO2削減に本腰を入れることとなったのです。
ここからは、CO2削減に向けた日本政府の動向として、「2050年カーボンニュートラル宣言」「グリーン成長戦略」「改正温対法」「地球温暖化対策計画」の4つを紹介します。
2050年カーボンニュートラル宣言
「2050年カーボンニュートラル宣言」とは、パリ協定と「1.5℃特別報告書(SR1.5)」を受け、2020年10月26日の所信表明演説において菅内閣総理大臣(当時)が宣言したものです。
2050年カーボンニュートラル宣言 我が国は、二〇五〇年までに、温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする、すなわち二〇五〇年カーボンニュートラル、脱炭素社会の実現を目指すことを、ここに宣言いたします。 |
この宣言を受け、CO2をはじめとする温室効果ガスの削減に向けた日本政府の取り組みが強化されました。
グリーン成長戦略
グリーン成長戦略とは、2050年カーボンニュートラルの実現に向け、「経済と環境の好循環」を構築していくための産業政策です。「2050年カーボンニュートラル宣言」を受け、2021年6月に策定されました。
同戦略では、産業政策・エネルギー政策の両面から成長が期待される3つの産業(エネルギー関連産業、輸送・製造関連産業、家庭・オフィス関連産業)、14の重要分野について実行計画を策定。国として高い目標を掲げ、可能な限り具体的な見通しを示しています。
詳しく知りたい方は、経済産業省の『2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略』や『2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略(概要資料)』をご確認ください。
改正温対法
温対法とは、国や地方公共団体、事業者、国民が一体となって地球温暖化対策に取り組むための枠組みを定めた法律です。1997年に京都議定書が採択されたことを受け、1998年10月に成立。その後、地球温暖化の実情などに合わせ、2024年までに9回の法改正が行われました。
直近3回の法改正のポイントは、以下の通りです。
法改正年 | 法改正ポイント | 概要 |
---|---|---|
2021年 | 2050年カーボンニュートラル実現に向けて前進 | ・2050年カーボンニュートラルを、法の基本理念として位置づけ ・地域の再生エネルギーを活用した脱炭素化の取り組みや、企業の排出量情報のデジタル化・オープンデータ化を推進する仕組みなどを規定 |
2022年 | 株式会社脱炭素化支援機構の設立 | ・脱炭素社会の実現に向けた対策の強化を図ることを目的とした、株式会社脱炭素化支援機構を設立 ・同機構では、温室効果ガスの排出量の削減などを行う事業活動に対し、国の財政投融資と民間からの出資を原資とするファンド事業を実施 |
2024年 | 二国間クレジット制度(JCM)の強化 | ・途上国などへの優れた脱炭素技術などの普及や対策の実施を通じて温室効果ガス排出削減や吸収を実現し、日本の貢献を定量的に評価するとともに、日本の排出削減目標の達成に活用する「二カ国間クレジット制度(JCM)」を強化 ・JCMのクレジット発行、口座簿の管理などに関する主務大臣の手続きなどを規定。手続きの一部を実施できる指定法人制度を創設 |
詳しく知りたい場合には、こちらの記事が参考になります。
地球温暖化対策計画
地球温暖化対策計画とは、温対法に基づく政府の総合計画のことです。
「2050年カーボンニュートラル宣言」を受け、日本政府は2021年4月に、温室効果ガス排出量を2030年度に2013年度比で46%削減し、さらに50%の高みに向けて挑戦を続けることを表明。それを受け、2021年10月に地球温暖化対策計画が改定されました。
同計画では、温室効果ガス削減目標が以下のように定められています。
また、目標達成に向けた主な対策・施策は、以下の通りです。
目標達成に向けた主な対策・施策 【再エネ・省エネ】 ・改正温対法に基づき、自治体が促進区域を設定 ⇒地域に裨益する(助けとなり、役立つ)再エネ拡大(太陽光など) ・住宅や建築物の省エネ基準への適合義務付けを拡大 【産業・運輸など】 ・2050年までのカーボンニュートラル実現に向けた、イノベーション支援 ⇒2兆円基金により、水素・蓄電池など重点分野の研究開発および社会実装を支援 ・データセンターの30%以上省エネに向けた、研究開発・実証支援 【分野横断的取り組み】 ・2030年度までに100以上の「脱炭素先行地域」を創出(地域脱炭素ロードマップ) ・優れた脱炭素技術などの活用による、途上国などでの排出削減→「二国間クレジット制度:JCM」により地球規模での削減に貢献 |
詳細について知りたい方は、環境省の『地球温暖化対策計画 令和3年10月22日閣議決定』をご確認ください。
CO2削減に取り組む際の手順
実際、企業はどのようにCO2削減に取り組んでいけばよいのでしょうか。CO2削減に取り組む際の手順は、以下の通りです。
各ステップについて、解説します。
ステップ1.現状を把握する
まずは、自社のCO2排出量を正確に測定し、現状を把握します。なお、CO2排出量の算定方法は複雑なため、社内の担当者のみで対応するのが困難な場合には、専門知識を有する外部企業の活用がおすすめです。
現状を把握したら、「CO2排出量が多いのはどの工程なのか」を分析し、どういった方向性で対策を進めていくべきかを検討します。
対策の方向性の例
温室効果ガス排出量が一番多い工程が「廃棄物処理」の場合⇒ゴミとなるもの自体を減らす方法を考える
ステップ2.実施計画を立てる
次に、CO2削減に向けた実施計画を策定します。「CO2をいつまでにどの程度削減するのか」という目標や、「目標実現に向け、いつ何を実施するのか」というアクションプランを定めましょう。
計画を確実に実行に移せるよう、このタイミングで取り組み内容ごとに責任者を定めておくことをおすすめします。
ステップ3.取り組みを実施する
計画に沿って、取り組みを実施します。あわせて、「アクションプラン通りに進んでいるか(進捗に遅れがないか)」を定期的に確認しましょう。
実施期間終了後には、効果検証を行います。CO2排出量のさらなる削減に向け、今後「どの取り組みを強化していくか」「新たにどういう取り組みを実施するか」などを考えましょう。
【明日からできる】CO2削減に向けた取り組み
CO2削減に向けてすぐにでもできる取り組みとして、ここでは以下の3つを紹介します。
CO2削減に向けた取り組み
- 省エネ・節電を徹底する
- 再生可能エネルギーを活用する
- オフィス緑化を実施する
それぞれについて、見ていきましょう。
省エネ・節電を徹底する
明日からでも実施できる取り組みとしておすすめなのが、省エネ・節電の徹底です。一つひとつの効果は小さいかもしれませんが、まとまれば大きな効果につながります。「省エネ機器の利用」や「節電の実施」などを行いましょう。
取り組みの具体例
- オフィスや工場内の照明をLED照明にする
- 昼食休憩中はオフィスを消灯する
- 使用頻度の少ない部屋・フロアは、使用時のみ電気を点けるようにする
- 使っていない機器の主電源を切り、待機電力を減らす
- クールビズ・ウォームビズを推奨する
- 体に無理のない範囲で、エアコンの設定温度を調整する
- 建物や機器を断熱化する
再生可能エネルギーを活用する
再生可能エネルギーとは、一度利用しても比較的短期間に再生が可能で、繰り返し利用できるエネルギー源のこと。具体的には、太陽光発電や風力発電、地熱発電、バイオマス発電などがあります。
再生可能エネルギーは発電時にCO2をほとんど排出しないため、再生可能エネルギーの活用はCO2削減に直結します。
取り組みの具体例
- オフィスの屋根や会社の敷地内に太陽光発電パネルを設置する
- 電力契約を再生可能エネルギーで発電している電力会社に切り替える
- 社用車をガソリン車からEV車に切り替える
オフィス緑化を実施する
オフィス緑化を実施し、CO2吸収量を増やすのも効果的な方法です。
取り組みの具体例
- 会社の庭に苗木を植える
- オフィスの屋上に庭園を作る
- オフィスのベランダにグリーンカーテンを設置する
企業としては、「まず、何から取り組むべきか」優先順位付けした上で、確実に対策を進めていけるとよいですね。
CO2削減に取り組む日本企業の事例
各企業は、実際にどのような取り組みを実施しているのでしょうか。環境省のホームページを参考に、CO2削減に取り組む日本企業の事例を紹介します。
参考:環境省『令和5年度版(2023年度版)脱炭素化事業(エネ特)活用事例』
西濃運輸株式会社|EVトラックの導入
大手運輸会社の西濃運輸株式会社は、EVトラックの導入により、CO2を削減しました。
取り組み内容 | EVトラック(8トン未満)を2台導入 |
CO2削減量 | 約7t-CO2/年 |
エネルギーコスト削減額 | 約54万円/年 |
副次的な効果 | ・自社のCO2排出量を削減するとともに、荷主側のCO2排出量(Scope3に該当)削減に貢献できた ・EVトラックは運転時の振動・騒音が少ないため、ドライバーの労働環境改善につながった |
フジオーゼックス株式会社|太陽光発電設備の新設
静岡県に本社を置く自動車部品メーカーのフジオーゼックス株式会社は、太陽光発電設備の新設により、CO2削減を実現しました。
取り組み内容 | 太陽光発電設備の新設 |
CO2削減量 | 約469t-CO2/年 |
エネルギーコスト削減額 | 約1,180万円/年 |
副次的な効果 | ・電力費を削減でき、製造コストの削減につながった ・停電時でも、太陽光発電から100vの電源供給が可能となった |
株式会社タイヘイ|冷凍設備の更新とLEDの導入
鹿児島県で地域密着型の総合小売店を営む株式会社タイヘイは、冷凍設備の更新とLEDの導入により、CO2排出量を削減しました。
取り組み内容 | 冷凍設備(冷凍機11台、ショーケース44台、冷却器11台、空調設備9台)の更新とLEDの導入 |
CO2削減量 | 約261t-CO2/年 |
エネルギーコスト削減額 | 約899万円/年 |
副次的な効果 | エネルギーデータを遠隔で確認できるようになったため、目視での確認やデータ整理にかかる作業量が削減し、的確なデータ管理を実現できた |
戸田建設株式会社|自社研究所のZEB化
茨城県で建設業を営む戸田建設株式会社は、同社の筑波技術研究所をZEB化することにより、CO2排出量を削減しました。
なお、ZEBとは「Net Zero Energy Building」の略語で、快適な室内環境を実現しながら、建物で消費する年間の一次エネルギーの収支をゼロ(「正味=ネット」でゼロ)にすることを目指した建物のことです。
取り組み内容 | 窓の断熱強化、日射追従型ブラインド、井水熱を利用したデシカント空調、床吹き出し方式の空調システム、太陽光発電、サーカディアン照明など、ZEBに資するさまざまな技術の導入 |
CO2削減量 | 69t-CO2/年 |
エネルギーコスト削減額 | 約168万円/年 |
副次的な効果 | 床吹き出し方式の空調システムやサーカディアン照明、ブラインド制御などを導入したことにより、職員から「執務環境が改善された」との声が上がった |
さらに、同社は研究所の内装・外装には緑化や木質材料を採用し、施設の改修・運用・廃棄というライフサイクルにおけるCO2収支をマイナスとする「カーボンマイナス」も実現しました。
CO2削減に向けた取り組みを確実に実行しよう
企業がCO2削減に取り組む際は、「現状の把握」「実施計画の策定」「取り組みの実施」という順で進めます。すぐにでもできる取り組みとしては、「省エネ・節電の徹底」「再生可能エネルギーの活用」「オフィス緑化の実施」があります。
今回の記事で紹介した日本企業の事例も参考にしながら、自社としてできること・すべきことを考え、CO2削減に向けた取り組みを確実に実行しましょう。