グリーン成長戦略をわかりやすく解説!重点14分野の実行計画を総まとめ
- グリーン成長戦略とは、地球温暖化への対応を経済成長の機会ととらえ、「経済と環境の好循環」を作っていくための産業政策です。
- この戦略は、3つの産業・14の重点分野からなります。重点分野別に、実行計画が策定されています。
- グリーン成長戦略の対象に自社の業種が含まれる場合には、この戦略を踏まえ、会社としてすべき取り組みを検討・実行しましょう。
地球温暖化への対応を経済成長の機会ととらえ、「経済と環境の好循環」を生み出すための産業政策である、グリーン成長戦略。温室効果ガス削減に取り組む中で、グリーン成長戦略があると知り、「どういった内容なのか」「自社は対象業種なのか」などを把握したい企業も多いでしょう。
今回は、グリーン成長戦略の概要や14の重点分野の実行計画、同戦略に関連する8つの政策などをわかりやすく解説します。これを読めば、グリーン成長戦略への理解が深まり、温室効果ガス排出削減に向けた機運がより高まるでしょう。
グリーン成長戦略とは?
グリーン成長戦略とは、地球温暖化への対応を社会経済の成長の機会ととらえ、「経済と環境の好循環」を作っていくための産業政策のこと。日本政府によって、2021年6月18日に定められました。
この戦略では、産業政策・エネルギー政策の両面から成長が期待される重点分野に関して、2050年カーボンニュートラルの実現に向けた実行計画を示しています。
同戦略への理解を深めるため、重点分野やカーボンニュートラルとの関係について紹介します。
参考:経済産業省『2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略(本文)』
【図説】グリーン成長戦略の3つの産業・14の重点分野
グリーン成長戦略は、3つの産業と14の重点分野からなります。
対象の産業・重点分野は以下の通りです。
企業としては、自社の業種と関連の深い重点分野があるかを確認することから始めてみましょう。
グリーン成長戦略と「カーボンニュートラル」の関係
カーボンニュートラルとは、温室効果ガスの人為的な排出量と吸収量を均衡させること。グリーン成長戦略とカーボンニュートラルには、深い関わりがあります。
日本政府は2050年のカーボンニュートラル実現を目指していますが、並大抵の努力では難しく、各産業におけるビジネスモデルや経営戦略などの根本的な見直しが必要になるといわれています。
そうした中、政府の役割は、民間企業が「この状況を好機をとらえ、イノベーションを起こしたい」という前向きな挑戦を全力で応援することにあります。こうした民間企業の姿勢は社会全体の成長につながる重要な要素といえます。政府は、国として可能な限り具体的な見通しや高い目標を示し、民間企業が挑戦しやすい環境を作るために、グリーン成長戦略を策定しました。
カーボンニュートラルについて詳しく知りたい方は、こちらをご覧ください。
参考:経済産業省『2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略(本文)』
【図版入り】グリーン成長戦略の実行計画
グリーン成長戦略では、重点分野ごとに実行計画を策定。「主な今後の取り組み」やそれらを実施することによる「2050年における国民生活のメリット」が示されています。
また、実行計画では、その分野の成長を実現するための重点技術などについて、関連する工程表も提示。工程表は、「研究開発フェーズ」「実証フェーズ」 「導入拡大フェーズ」「自立商用フェーズ」の4つのフェーズで構成されています。
フェーズ | 内容 |
---|---|
研究開発フェーズ | 政府の基金と民間の研究開発投資によって、研究開発を進めていくフェーズ |
実証フェーズ | 民間投資の誘発を前提とした官民協調投資によって、実証していくフェーズ |
導入拡大フェーズ | 公共調達・規制・標準化による需要拡大や、量産化によるコスト低減を図り、導入を拡大させていくフェーズ |
自立商用フェーズ | 規制・標準化を前提に、公的な支援が無くとも自立的に商用化が進むフェーズ |
工程表がどのようなものかをイメージできるように、例を挙げてみましょう。「自動車・蓄電池産業」では、以下のような形となっています。
企業としては、自社の業種と関連の深い重点分野のものだけでも、確認しておくことが大切ですね。
参考:経済産業省『2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略(本文)』
【エネルギー関連産業】4つの重点分野の実行計画
実際、どのような実行計画が定められているのでしょうか。ここでは、エネルギー関連産業の4つの重点分野(「洋上風力・太陽光・地熱」「水素・燃料アンモニア」「次世代熱エネルギー」「原子力」)における計画の概要を紹介します。
洋上風力・太陽光・地熱
カテゴリー | 主な今後の取り組み | 2050年における 国民生活のメリット |
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洋上風力 | ・導入目標の明示と国内外の投資呼び込み ・系統や港湾のインフラの計画的整備 ・競争力を備えたサプライチェーンの形成 など | (記載なし) |
太陽光 | ・2030年を目途に普及段階に移行できるよう、次世代型太陽電池の研究開発を重点化 ・アグリゲーションビジネスやPPAモデルなど関連産業の育成・再構築を図りつつ、地域と共生可能な適地の確保などを推進 | ・商業施設や家庭の壁面にも設置可能な水準を目指すことで、一般家庭の電気料金を節約 |
地熱 | ・次世代型地熱発電技術の開発推進 ・リスクマネー供給や科学データの収集などの推進 ・自然公園法や温泉法の運用の見直しによる開発の加速 | (記載なし) |
水素・燃料アンモニア
カテゴリー | 主な今後の取り組み | 2050年における 国民生活のメリット |
---|---|---|
水素 | ・導入拡大を通じて、化石燃料に十分な競争力を有する水準とする ・日本に強みのある技術を中心に、国際競争力を強化 ・輸送・貯蔵技術の早期商用化 など | ・価格が安定するため、急な価格高騰の影響を抑止する効果などが期待できる ・例:仮に家庭電力料金に換算すると、水素・アンモニアともに、約8,600円/年相当の支出抑制効果を発揮 |
燃料アンモニア | ・火力混焼用の発電用バーナーに関する技術開発の推進 ・安価な燃料アンモニアの供給に向けた、コスト低減のための技術開発やファイナンス支援の強化 ・国際標準化や混焼技術の開発を通じた、東南アジアマーケットへの輸出促進 |
次世代熱エネルギー
主な今後の取り組み | 2050年における国民生活のメリット |
---|---|
・2050年に都市ガスをカーボンニュートラル化 ・総合エネルギーサービス企業への転換 ・合成メタンの安価な供給の実現 | ・既存インフラの活用により、追加負担を回避 ・例:仮に新規インフラ投資で全てを改修する場合、一般家庭で約14,000円/年の負担増の見込み |
原子力
主な今後の取り組み | 2050年における国民生活のメリット |
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・国際連携の活用による、高速炉開発の推進 ・国際連携により、2030年までに小型モジュール炉技術を実証 ・2030年までに高温ガス炉における水素製造に係る要素技術を確立 など | ・放射性医薬品材料の医療分野などへの活用(例:がん治療)が期待できる |
【輸送・製造関連産業】7つの重点分野の実行計画
次に、輸送・製造関連産業の重点分野に関する実行計画を紹介します。対象は、「自動車・蓄電池」「半導体・情報通信」「船舶」「物流・人流・土木インフラ」「食料・農林水産業」「航空機」「カーボンリサイクル・マテリアル」の7分野です。
自動車・蓄電池
主な今後の取り組み | 2050年における国民生活のメリット |
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・電動化目標の設定 ・蓄電池目標の設定 ・電動化推進に向けた、施策パッケージの展開 など | ・移動の安全性・利便性向上 ・移動時間の活用を革新 ・電動車を蓄電池として活用することによる、「動く蓄電池」の社会実装 |
半導体・情報通信
主な今後の取り組み | 2050年における国民生活のメリット |
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・次世代パワー半導体やグリーンデータセンターなどの研究開発支援を通じて、半導体・情報通信産業の2040年カーボンニュートラルを実現 ・データセンターの国内立地・最適配置の推進 | ・データセンターの国内立地により、自動運転や遠隔手術、AR、VRなど新たなサービスを実現 ・次世代パワー半導体の実用化などを通じた、家電の電気料金の負担軽減 ・例:次世代パワー半導体がすべての家電に搭載された場合、省エネ効果は、一家庭当たり約7,700円/年に相当 |
船舶
主な今後の取り組み | 2050年における国民生活のメリット |
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・ゼロエミッション船の実用化に向けた、技術開発の推進 ・省エネ・省CO2排出船舶の導入・普及を促進する枠組みの整備 ・LNG燃料船の高効率化に向けた、技術開発の推進 | (記載なし) |
物流・人流・土木インフラ
主な今後の取り組み | 2050年における国民生活のメリット |
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・高速道路利用時のインセンティブ付与により、電動車の普及を促進 ・ドローン物流の本格的な実用化・商用化の推進 ・空港の脱炭素化、航空交通システムの高度化の推進 など | ・自動車を運転できない国民にとって利便性の高い公共交通サービスの実現 ・グリーンインフラによる、防災・減災、健康でゆとりのある生活空間の形成などの実現 |
食料・農林水産業
主な今後の取り組み | 2050年における国民生活のメリット |
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・カーボンニュートラルの実現に向けた革新的な技術・生産体系の目標設定と、その開発・社会実装の推進 ・ネガティブエミッションに向けた森林や木材、海洋などの活用に関する目標の具体化 | ・木材を暮らしに取り入れることによる生活の快適化(例:睡眠効率向上など) ・日本食の消費拡大による健康寿命延伸への貢献 |
航空機
主な今後の取り組み | 2050年における国民生活のメリット |
---|---|
・航空機の電動化技術の確立に向けた、コア技術の研究開発の推進 ・水素航空機実現に向けた、コア技術の研究開発などの推進 ・航空機・エンジン材料の軽量化、耐熱性向上などに資する新材料の導入推進 | ・低騒音の電動航空機の実現による、空港周辺住民や乗客にとっての許容性向上 |
カーボンリサイクル・マテリアル
カテゴリー | 主な今後の取り組み | 2050年における 国民生活のメリット |
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カーボンリサイクル | ・低価格かつ高性能なCO2吸収型コンクリート、 CO2回収型のセメント製造技術の開発 ・カーボンフリーな合成燃料を、2040年までに自立商用化 ・より低濃度・低圧な排ガスからCO2を分離・回収する技術の開発・実証の推進 | ・消費者の環境配慮や長寿命といったニーズに合わせたコンクリート製品・建築物を提供可能にする ・より高機能な自動車や電子機器などを、現行品と同価格で利用可能にする |
マテリアル | ・「ゼロカーボン・スチール」の実現に向けた技術開発・実証 ・産業分野の脱炭素化に資する、革新的素材の開発・供給 ・製造工程で高温を必要とする産業における熱源の脱炭素化推進 | ・交通や移動にかかる時間などのコストの大幅な低減 ・高レジリエンスかつ長寿命な構造物の実現 |
【家庭・オフィス関連産業】3つの重点分野の実行計画
続いて、家庭・オフィス関連産業の3つの重点分野、「住宅・建築物・次世代電力マネジメント」「資源循環関連」「ライフスタイル関連」についての実行計画を紹介します。
住宅・建築物・次世代電力マネジメント
カテゴリー | 主な今後の取り組み | 2050年における 国民生活のメリット |
---|---|---|
住宅・建築物 | ・省エネ基準適合率の向上に向けて、更なる規制的措置の導入を検討 | ・非住宅・中高層建築物の木造化を促進 |
次世代電力マネジメント | ・デジタル制御や市場取引を通じた、アグリゲーションビジネスの推進 ・デジタル技術や市場を活用した次世代グリッドの構築 ・マイクログリッドによる、エネルギーの地産地消、レジリエンスの強化、地域活性化の促進 | ・最適な電力マネジメントにより、電気料金の節約やレジリエンスの向上を実現 |
資源循環関連
主な今後の取り組み | 2050年における国民生活のメリット |
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・3Rの観点から、技術の高度化、設備の整備、低コスト化を推進 | ・廃棄物処理施設の強靭性を生かした安定的な電力・熱供給や、避難所などの防災拠点としての活用 |
ライフスタイル関連
主な今後の取り組み | 2050年における国民生活のメリット |
---|---|
・観測・モデリング技術を高め、地球環境ビッグデータの利活用を推進 ・ナッジやデジタル化、シェアリングによる行動変容の実現 ・地域脱炭素化の推進と、その実践モデルの他地域・他国への展開 | ・行動科学やAIに基づき、個々人に合った、エコで快適かつレジリエントなライフスタイルを実現 ・例:緑化空間の増加により、快適性が向上 |
グリーン成長戦略に関連する8つの政策
日本政府は、グリーン成長戦略に関連した政策も実施しています。「予算」「税制」「金融」「規制改革・標準化」「国際連携」「大学における取り組みの推進など」「2025年日本国際博覧会」「グリーン成長に関する若手ワーキンググループ」の計8つの政策があります。
政策 | 概要 |
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1.予算 | ・2兆円のグリーンイノベーション基金の造成 ・多様な主体が関与できる柔軟な仕組みづくり ・基金事業運営の基本方針に基づく、重点的投資の実現 |
2.税制 | ・カーボンニュートラル税制の適用 ・繰越欠損金の控除上限引き上げの特例措置 ・研究開発税制の拡充 |
3.金融 | ・円滑な資金供給に向けた、ガイドラインやロードマップの整備 ・グリーンボンドなどの社債等取引市場の活性化 ・サステナビリティに関する開示の充実化 ・金融機関による融資先支援と官民連携の推進 ・さまざまな金融制度による支援の実施 |
4.規制改革・標準化 | ・規制・制度の整備 ・標準化に向けた積極的な取り組みの実施 ・カーボンプライシングの本格導入に向けた検討 |
5.国際連携 | ・日米間、日EU間の連携強化 ・「東京ビヨンドゼロウィーク」を通じた国際発信 ・新興国のエネルギートランジションを支援 ・WTOにおける議論の主導 |
6.大学における取り組みの推進など | ・大学のカリキュラムや教育研究環境の早急な整備 ・大学と地域社会の連携強化 ・経済波及効果の分析手法などの検討 |
7.2025年日本国際博覧会(大阪万博) | ・万博を革新的なイノベーション技術の実証の場に ・万博全体として、カーボンニュートラルを意識 ・取り組みやその効果を発信 |
8.グリーン成長に関する若手ワーキンググループ | ・経済の持続可能性を表す、新たな指標の設定 ・カーボンニュートラルへの移行に向けたコスト負担に関するガイドラインの策定 ・CO2の可視化(ライフサイクルアセスメント)の推進 ・起業人材や研究開発人材などの育成推進 |
戦略の実現に向け、さまざま取り組みが実施・検討されていることがわかりますね。
グリーン成長戦略についてのFAQ
グリーン成長戦略の概要について解説してきましたが、「さらに詳しく知りたい」という方もいるかもしれません。そこで、よくある質問とその答えを紹介します。
活用できる補助金はありますか?
「事業再構築補助金 成長分野進出枠(GX進出類型)」があります。この補助金は、新市場進出、事業・業種転換、事業再編といった思い切った事業再構築に意欲的な中小企業などの挑戦を支援するためのものです。
2024年4月に受付を開始した第12回公募では、「今なおコロナ禍の影響を受ける事業者」や「ポストコロナに対応した事業再構築をこれから行う事業者」の支援に重点を置くべく、事業類型の見直しを実施。これまであった「グリーン成長枠」が廃止され、代わりに「GX進出類型」が新設されました。同類型の対象は、ポストコロナに対応した、グリーン成長戦略「実行計画」14分野の課題の解決に資する取り組みをこれから行う事業者です。
補助内容は、以下の通りとなっています。
■事業再構築補助金 成長分野進出枠(GX進出類型)の補助内容
企業の区分 | 従業員規模 | 補助上限額 | 補助率 |
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中小企業 | 20人以下 | 3,000万円(4,000万円) | 1/2(2/3) |
21~50人 | 5,000万円(6,000万円) | ||
51人~100人 | 7,000万円(8,000万円) | ||
101人以上 | 8,000万円(1億円) | ||
中堅企業 | - | 1億円(1.5億円) | 1/3(1/2) |
参考:経済産業省『事業再構築補助金第12回公募の概要』
補助金のため、必ずしも受給できるとは限りませんが、活用を検討するとよいでしょう。詳細は、経済産業省『事業再構築補助金第12回公募の概要』をご確認ください。
どのくらいの経済効果・雇用効果が見込めますか?
経済産業省が公表している資料によると、2050年の経済効果は約290兆円、雇用効果は約1,800万人と試算されています。日本経済に与えるインパクトは非常に大きいといえますね。
参考:経済産業省『2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略(広報資料)』
グリーン成長戦略を受け、自治体はどのような取り組みを進めていますか?
グリーン成長戦略に基づき、各自治体では地球温暖化抑制に向けた取り組みを強化しています。中には、この戦略を受け、独自の戦略を策定・公表している自治体もあります。
自治体 | 戦略名 | 概要 |
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栃木県 | とちぎグリーン成長産業振興指針 | グリーン成長戦略や県のロードマップなどを踏まえ、産業分野における取り組みの基本姿勢や方向性を明確化したもの |
福岡県 | 福岡県水素グリーン成長戦略 | グリーン成長戦略を踏まえ、脱炭素化の「キーテクノロジー」として位置付けられている水素の市場形成や産業展開などを目的としたもの |
福岡県北九州市 | 北九州市グリーン成長戦略 | グリーン成長戦略の14の重点分野について、同市のポテンシャルを踏まえ、今後、市内で成長が期待される分野を整理し、独自の重点施策を定めたもの |
企業としては、本社や支店などが所在する自治体でこうした戦略が策定されていないかを確認することも大切ですね。
参考:栃木県『とちぎグリーン成長産業振興指針(概要版)』
参考:福岡県水素グリーン成長戦略会議『福岡県水素グリーン成長戦略』
参考:北九州市『北九州市グリーン成長戦略』
グリーン成長戦略を踏まえ、自社でできる取り組みを考えよう
「経済と環境の好循環」を作っていくための産業政策である「グリーン成長戦略」は、3つの産業・14の重点分野からなります。各分野において、2050年カーボンニュートラルの実現に向けた実行計画が示されているので、自社と関連が深いものだけでも内容を確認することが大切です。グリーン成長戦略を踏まえ、「地球温暖化対策として、自社では何ができるか」を考え、実行しましょう。