【どう活用?】脱炭素に向けた取り組み事例9選|企業が押さえるべきポイントも
- 脱炭素とは、全体として温室効果ガスの排出をゼロにする状態のこと。
- 世界中で脱炭素化が進められており、日本の企業でもさまざまな動きが見られます。
- 「再生可能エネルギー導入・CO2排出削減」「排出量の取り引き」「認定取得・活動参加」など、9つの事例を紹介します。
国内外で脱炭素化の動きが加速する中、自社における脱炭素化に向け、取り組み事例を知りたい企業も多いのではないでしょうか。この記事では、脱炭素化に取り組む9社の事例をジャンル別に紹介します。企業が脱炭素化に取り組む際のポイントも解説していますので、この記事を読めば、実際に取り組む際にヒントを得られるでしょう。
脱炭素とは?脱炭素に向けて取り組むことの必要性
脱炭素について明確な定義はありませんが、一般的には、全体として温室効果ガスの排出をゼロにする状態のことを指します。CO2削減に焦点を当てた言葉という意味合いが強く、CO2削減に焦点を当てたビジョンの大枠を示す言葉として用いられることが多いです。
さまざまなメディアで、「脱炭素化」という言葉を見たり聞いたりすることが増えてきたと感じる方も多いのではないでしょうか。世界が脱炭素化に注目していることが伺えます。
脱炭素化が必要とされる背景には、地球温暖化の進行があります。地球温暖化による気候変動によってさまざまな環境問題が引き起こされているため、問題解決に向けて、世界中で脱炭素化が必要とされています。
ジャンル別|脱炭素に向けた企業の取り組み事例9選
脱炭素化に向け、企業ではどのような取り組みができるでしょうか。ここでは、「再生可能エネルギー導入・CO2排出削減」「排出量の取り引き」「認定取得・活動参加」「その他」の4つのジャンルに分けて、計9つの事例を紹介します。
参考:環境省『取組事例01|業種別取組事例一覧』
再生可能エネルギー導入・CO2排出削減
再生可能エネルギーとは、自然界に常に存在し、永続的に利用できる上、温室効果ガスを排出しないエネルギーのこと。政令においては、太陽光・風力・水力・地熱・太陽熱・大気中の熱その他の自然界に存在する熱・バイオマスの7つが定められています。太陽光発電などの再生可能エネルギーを活用することで、CO2排出量削減に貢献できます。
参考:資源エネルギー庁『再生エネルギーとは』
事例1.河部農園
事例:太陽光発電設備12.4kWと蓄電池13.5kWhを導入
結果:約12t-CO2/年のCO2削減
静岡県で果樹園を営む河部農園は、2022年に太陽光発電設備と蓄電池を導入し、CO2削減に成功しました。自社で必要な電力の2/3を太陽光発電で賄えています。
なお、太陽光発電設備は畑に設置し、設備の下では苗木を栽培。太陽光パネルによる遮光で、苗木の日焼け防止や地温の過度の上昇抑制にもつながりました。
参考:環境省『令和5年度版(2023年度版)活用事例』
事例2.ヤマト運輸
事例:再生可能エネルギーの活用、電気自動車の導入、省エネルギーの推進
結果:2022年度における宅配便3商品の個当たり排出量実績は1.28kg-CO2e/個で、2021年度比5.9%削減(CO2e:二酸化炭素質量換算)
ヤマト運輸株式会社は、「宅急便」など主力3商品において、温室効果ガス排出量削減施策を行っています。2030年までに電気自動車約2.35万台の導入を目指しており、2022年度には331台を導入しました。2002年から導入を開始した電動アシスト自転車は、2022年度末で約3,750台の導入が完了。また、太陽光発電設備810基の設置を予定しています。
再生可能エネルギー由来の電力の使用量については、2021年度は全量の10%(61,381MWh)でしたが、2022年度は19%(123,012MWh)に増加しています。
参考:ヤマト運輸『「カーボンニュートラリティの宣言」とは』
排出量の取り引き
脱炭素化に向けた取り組みとしては、温室効果ガスの排出量をクレジットとして取り引きする方法もあります。国が認証する制度である「J‐クレジット制度」が有名です。J‐クレジットの利用法としては、カーボン・オフセットがあります。
カーボン・オフセットとは
1.日常生活や経済活動において避けることができない温室効果ガスの排出についてできるだけ排出量が減るよう削減努力を行う
2.どうしても排出される温室効果ガスについて、排出量に見合った温室効果ガスの削減活動に投資することなどにより、排出される温室効果ガスを埋め合わせる
J-クレジットやカーボン・オフセットについては、以下の記事で深堀りしています。
参考:環境省『J-クレジット制度及びカーボン・オフセットについて』
参考:J-クレジット『クレジット活用事例一覧』
事例3.坂根屋
和菓子の製造・生産過程などで発生するCO2排出量(1年間分)のうち、10t-CO2をカーボン・オフセット
島根県出雲市で和菓子店を営む坂根屋では、出雲ぜんざいの製造・生産過程などで発生するCO2排出量のうち10t-CO2をカーボン・オフセットしました。クレジットの提供元は、同じ出雲市の「神話の國出雲さんさん倶楽部」です。住宅への太陽光発電設備導入によるCO2削減事業が創出したJ‐クレジットを活用したため、環境における地産地消の好例となりました。
事例4.株式会社サンジュニア
太陽熱エネルギーで燃料消費を代替しCO2排出量を削減することで、クレジットを創出
太陽光・熱システム関連機器の製造や施工などを行う株式会社サンジュニアは、太陽熱エネルギーによるCO2排出削減をJ‐クレジット化しています。創出したクレジットは、購入者を通してCO2をオフセットする電力として供給されます。
認定取得・活動参加
企業として脱炭素を行うステップとして、各種認定の取得を目指したり、環境保全を掲げる活動に参加したりする方法もあります。認定取得のためにはさまざまな環境配慮、温室効果ガス排出削減対策が必要になるため、自ずと脱炭素化に取り組むことになります。
事例5.マツ六株式会社
・中⼩企業版SBT認定の取得
・Scope1およびScope2の温室効果ガス排出量を2030年までに2022年度比で42%削減
・Scope3排出量の把握と削減に取り組むことを約束
建築金物の専門商社であるマツ六株式会社は、「中⼩企業版SBT認定」を取得。さまざまな活動を継続しながら地球環境を考え、化石燃料由来のエネルギー使用量を削減していくことで社会的責任を果たしています。
なお、「中小企業版SBT」とは、中小企業が取得できる温室効果ガス削減に向けた認定です。詳しくは以下の記事をご覧ください。また、Scope1・Scope2については、後章で説明します。
参考:マツ六株式会社『SBT認定を取得しました。』
事例6.コムパックシステム株式会社
エコアクション21認定の取得
長野県上田市にあるコムパックシステム株式会社は、一般段ボールや輸出用強化段ボールなどを取り扱う総合包装企業です。クライアント企業から環境に対する問い合わせを受けるようになったことをきっかけに、環境に配慮した経営を意識。その具現化のひとつとして、「エコアクション21」の認証を取得しました。
エコアクション21とは、環境省が策定した日本独自の環境マネジメントシステム(EMS)です。中小事業者など幅広い事業者が自主的・積極的に環境配慮に対した取り組みができ、取り組み結果を「環境経営レポート」として公表できます。
取得したことにより、社員自らが環境負荷を下げることを積極的に考えるようになり、国内外のコンテスト入賞したり、新規クライアントの開拓につながったり、好影響が広がっています。
参考:環境省『エコアクション21』『エコアクション21のすすめ『未来につながる』~EA21企業のトップに聞く』
事例7.株式会社イワタ
・再エネ100宣言 RE Actionへの参加
・脱炭素チャレンジカップ2024での再エネ100宣言 RE Action賞受賞
寝具業界の株式会社イワタは、自然素材の使用、⻑寿命設計、メンテナンス、リサイクル、アップサイクル、国産木材・ 竹材の活用など積極的に行い、環境負荷を抑えた持続可能なものづくりを推進。2020年から、「再エネ100宣言 RE Action」へ参加しています。
再エネ100宣言 RE Actionとは、企業などが使用電力を100%再生可能エネルギーに転換する意思と行動を示し、再エネ100%利用を促進する枠組みです。環境省もアンバサダーとして参加しています。
なお同社は、脱炭素を目的とした地球温暖化防止に関する地域活動について優れた取り組みを表彰する「脱炭素チャレンジカップ2024」において、「再エネ100宣言 RE Action賞」を受賞しました。
参考:株式会社イワタ『IWATA 脱炭素チャレンジカップ2024「再エネ100宣言 RE Action賞」を受賞!』
その他
再生可能エネルギー導入や排出量の取り引き、認定取得・活動参加以外にも、脱炭素化へ向けた取り組みがあります。2社の事例を紹介します。
事例8.大和ハウス工業株式会社
・サプライヤーのCO2削減活動について、働きかけを実施
・主要サプライヤーの90%以上に対して、SBTレベルのCO2削減目標を設定
住宅総合メーカーの大和ハウス工業株式会社は、自社のサプライチェーン排出量の現状を知り、重点的に削減活動を進めるべき対象を見定めるため、サプライチェーン排出量の算定に取り組んでいます。
また、サプライチェーン排出量算定を、サプライヤーとの協働削減活動の推進に向けた戦略立案ツールとしても活用。サプライヤーのCO2削減活動について、省エネ建築や改修の企画・提案・実施など、事業を通じた支援・協働活動を推進するとしています。
SBTやSBTレベルについては、以下の記事をご覧ください。
事例9.株式会社大川印刷
・新素材の名刺を通じた、マングローブ植林
・年間20万キロのCO2吸収を目標(2024年)
・紙の生産過程で排出されるCO2を18%削減
株式会社大川印刷では、たまごの殻を微粉砕したものと、森林に関する国際的な認証を受けたパルプを原料とした新素材で名刺を作成。名刺を1箱(100枚)作るごとに、マングローブ1本がセブ島に植林される仕組みとなっています。
同社は、この他にも、配送時の電気自動車使用、印刷事業で排出されるCO2のカーボン・オフセットなど環境に配慮した印刷業を展開しています。
参考:株式会社大川印刷『新素材「CaMISHELL®」の名刺を通じて植林しよう!』『環境印刷について』
企業が脱炭素化に取り組む際のポイント
企業が実際に脱炭素化に取り組む際には、いくつかのポイントがあります。ここでは3つ紹介します。
脱炭素化を経営戦略の柱に位置づける
脱炭素化は、実務的な業務を担う一部門だけで推進できるものではありません。経営トップが企業として脱炭素化にコミットし、経営戦略に組み入れることが重要です。自社の事業と環境問題解決をどう結び付けられるか、課題を洗い出し、具体的な活動方針に落とし込んでいきます。
企業の脱炭素化に向けた動きが明確になったら、自社のホームページで公表しましょう。そうすることで、社員のモチベーションが上がると同時に、投資家や取引先へのアピールにもつながります。
温室効果ガス排出量を正確に把握する
温室効果ガスを削減するために、まずは温室効果ガス排出量を把握する必要があります。
なお、温室効果ガスの排出量については、自社だけでなく取引先から消費者まで一連の流れを含むサプライチェーン排出量という考え方を用いるのがよいでしょう。
サプライチェーン排出量の計算は以下のとおりです。
サプライチェーン排出量=Scope1排出量+Scope2排出量+Scope3排出量
Scopeとは、サプライチェーン排出量を分類する3つの枠組みです。内容によってScope1、Scope2、Scope3に分けられます。
- Scope1:事業者自らによる温室効果ガスの直接排出(燃料の燃焼、工業プロセス)
- Scope2:他社から供給された電気、熱・蒸気の使用に伴う間接排出
- Scope3:Scope1、Scope2以外の間接排出(15カテゴリに分類)
サプライチェーン排出量や算定、Scopeについての詳細は、以下の記事をご覧ください。
長期的な視点を持つ
脱炭素化へ向けた動きは、再生可能エネルギーへの転換や省エネ対策によるエネルギーコスト削減など短期的に効果が表れるものもありますが、すぐに効果が出るものばかりではありません。例えば、脱炭素化に向け、社内で新技術の開発に取り組む場合には、実際に形となるまでに一定の時間を要します。
このように、短期的には結果を出すのは難しいものの、投資家や顧客からの評価を高められるため長期的に見ればメリットとなります。先を見据えて、脱炭素化を推進しましょう。
脱炭素化に向けた世界・日本の動き
脱炭素化に向けて、世界そして日本ではさまざまな動きがあります。それぞれ見ていきましょう。
脱炭素に向けた世界の取り組み
世界の取り組みを見たときに、特に重要な2つを紹介します。
パリ協定で国際的な枠組みを制定
パリ協定とは、2015年にCOP21(第21回国連気候変動枠組条約締約国会議)で採択された国際的な枠組みのこと。世界共通の長期目標として、産業革命が始まる前の時代と比べて、地球の気温上昇を2℃以下、できれば1.5℃以下にすることを目指しています。
全ての国が削減目標・行動をもって参加することがルール化されており、多くの国が主体性を持って取り組んでいます。
参考:環境省『パリ協定の概要』
150以上の国・地域がカーボンニュートラルを推進
カーボンニュートラルとは、CO2をはじめとする人為的な温室効果ガスの「排出量」と「吸収量」を均衡させること。パリ協定などを受け、150以上の国・地域が2050年までなど年限付きのカーボンニュートラル実現を表明していています(2022年10月時点)。
参考:経済産業省『令和4年度エネルギーに関する年次報告(エネルギー白書2023) 第1節 脱炭素社会への移行に向けた世界の動向』
脱炭素に向けた日本の取り組み
脱炭素化に向けた施策が世界的に推進される中、日本はどのような取り組みを進めているのでしょうか。この記事では、さまざまな取り組みの中から4点を紹介します。
2050年カーボンニュートラルを宣⾔
2020年10月に、菅内閣総理大臣(当時)が2050年までに温室効果ガスの排出を全体としてゼロにすると表明しました(2050年カーボンニュートラル宣⾔)。その後の2021年4月、アメリカ主催の気候サミットでは、2030年度46%削減(2013年度比)を目指すという具体的な数値目標が発表されています。
地球温暖化対策の推進に関する法律の改正
地球温暖化対策の推進に関する法律(温対法、地球温暖化対策推進法)は、国、地方公共団体、事業者、国民が一体となって地球温暖化対策に取り組むための枠組みを定めた法律です。1998年10月の成立以降、地球温暖化の実情などに合わせて、何度か法改正が行われています。直近3回の法改正のポイントは以下の通りです。
法改正のポイント
- 2021年|2050年カーボンニュートラルを法の基本理念として位置づけ
- 2022年|株式会社脱炭素化支援機構の設立
- 2024年|二国間クレジット制度の強化
温対法の概要や法改正については、以下の記事でも紹介しています。
地域脱炭素ロードマップの策定
2021年6月に策定された地域脱炭素ロードマップとは、地方創生に資する脱炭素に国全体で取り組み、さらに世界へと広げていくための計画をまとめたもの。2030年までに集中して行う取り組み・施策に加え、地域脱炭素のプロセス・具体策を示しています。
同ロードマップについて詳しく知りたい場合は、環境省の脱炭素地域づくり支援サイト『脱炭素先行地域』をご確認ください。
グリーン成長戦略の策定
2050年カーボンニュートラルの実現に向け策定されたグリーン成長戦略とは、「経済と環境の好循環」を構築していくための産業政策のことです。産業政策・エネルギー政策の両面から、成長が期待される3つの産業(エネルギー関連産業、輸送・製造関連産業、家庭・オフィス関連産業)、14の重要分野をピックアップ。実行計画を策定した上で国として高い目標を掲げ、可能な限り具体的な見通しを示しています。
参考:経済産業省『2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略』
取り組み事例を参考に、自社の脱炭素化を目指そう
脱炭素化を一企業で進めても効果が薄いと感じるかもしれませんが、世界的にカーボンニュートラルを実現するためには、各企業の取り組みが必須です。また、脱炭素化と一口にいっても、具体的な対策はさまざまあります。
今回紹介した事例や企業が脱炭素化に取り組む際のポイントを参考に、脱炭素化へ向けて自社でできる取り組みをはじめてみませんか。