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【簡単に解説】パリ協定とは?内容・目標・日本の取り組み、世界の動き

目次
記事の要点
  • パリ協定は2015年に採択された、2020年以降の地球温暖化対策に関する新しい枠組みのこと。
  • 世界各国に対して、世界の平均気温上昇を産業革命以前に比べて2℃より十分低く保ち、1.5℃に抑える努力をすることを求めています。
  • 全ての参加国が、各国の削減目標を5年ごとに提出・更新。グローバル・ストックテイクという仕組みがあり、5年ごとに状況を確認します。

パリ協定とは、2015年に採択された地球温暖化対策に関する新しい枠組みのこと。「世界の平均気温上昇を産業革命以前に比べて2℃より十分低く保ち、1.5℃に抑える努力をすること」という長期目標が示されました。この目標を達成すべく、世界各国が温室効果ガス排出量削減目標を設定しています。

パリ協定の理解を深めることは、脱炭素化に向けた考え方のベースを固めることにつながります。内容や問題点、具体的な取り組みなどを簡単に紹介していますので、最後までご覧ください。

パリ協定とは?いつ採択された?

カーボンニュートラルやネットゼロなど、環境に関する言葉の説明の中で「パリ協定」が頻出すると感じている方もいるのではないでしょうか。パリ協定は、温室効果ガス削減と関係が深く、地球温暖化防止について考える時、必ず押さえておきたい用語です。

まずは、概要から紹介します。

パリ協定は2015年に採択された、地球温暖化対策の新しい枠組み

パリ協定とは、2020年以降の気候変動問題に関する、国際的な枠組みのこと。1997年に採択された京都議定書の後継となるものです。UNFCCC(国連気候変動枠組条約)の目的を達成するための具体的な枠組みとして位置付けられています。

パリ協定は、2015年にパリで開かれた、COP21(国連気候変動枠組条約締約国会議)で、採択されました。「歴史上はじめて、全ての国が参加する公平な合意」とされています。

パリ協定では、以下のような世界共通の長期目標を掲げています。

パリ協定における長期目標

  • 世界の平均気温上昇を産業革命以前に比べて2℃より十分低く保ち、1.5℃に抑える努力をする
  • そのため、できるかぎり早く世界の温室効果ガス排出量をピークアウトし、21世紀後半には、温室効果ガス排出量と(森林などによる)吸収量のバランスをとる

参考:資源エネルギー庁『今さら聞けない「パリ協定」 ~何が決まったのか?私たちは何をすべきか?~

パリ協定の採択・発効について

パリ協定の採択に際しては、二つの動きが大きな力となったといわれています。一つ目は、二大排出国であるアメリカと中国の積極的な合意への姿勢です。

二つ目が議長国フランスの采配です。フランスは、各国の意見を聞きつつ、アメリカや南アフリカなど結果を左右しかねない国とも緊密に連携。過去のCOPの経験や政治的な演出も図りながら、採択を後押ししました。

また、パリ協定の発効条件として、以下が定められました。

パリ協定の発効条件

  1. 55カ国以上が参加すること
  2. 批准国の総排出量が、世界全体の総排出量の55%以上であること

2つの条件が満たされた結果、パリ協定は2016年11月4日に発効しました。

参考:資源エネルギー庁『今さら聞けない「パリ協定」 ~何が決まったのか?私たちは何をすべきか?~
参考:環境省『COP21の成果と今後

パリ協定はどんな内容?注目される5つのポイント

パリ協定はどのような内容の枠組みなのでしょうか。注目すべきポイントは、以下の5点です。

■パリ協定の注目ポイント

  1. 先進国だけでなく、途上国にも排出量削減が求められる
  2. 削減目標を5年ごとに提出・更新する
  3. 目標達成は「義務」ではなく「努力」とする
  4. 状況は5年ごとに確認する(グローバル・ストックテイク)
  5. 市場メカニズムが活用されている(パリ協定6条)

それぞれについて、解説します。

参考:資源エネルギー庁『今さら聞けない「パリ協定」 ~何が決まったのか?私たちは何をすべきか?~
参考:環境省『COP21の成果と今後

ポイント1.先進国だけでなく、途上国にも排出量削減が求められる

パリ協定では、先進国だけでなく、途上国も含む全ての参加国に、温室効果ガス排出量削減が求められます。全ての参加国が対象となるのは、歴史上で初めてのことです。

詳しくは後で説明しますが、京都議定書での法的な排出量削減義務が課せられたのは先進国のみでした。しかしながら、京都議定書の採択後、急速に経済発展した途上国でも排出量が急増。その結果、「先進国のみに排出量削減を求めるのは時代にそぐわない」という状況になっていました。

下のグラフは、パリ協定が発効された2016年の各国別温室効果ガス排出量シェアを示したものです。途上国(非附属書Ⅰ国。UNFCCCにおいて、温室効果ガス削減目標に言及のない途上国。グラフでは緑色)が世界全体の排出量の約63%と、半数以上を占めていることがわかります。

各国別の温室効果ガス排出量シェア
参考:資源エネルギー庁『今さら聞けない「パリ協定」 ~何が決まったのか?私たちは何をすべきか?~』を加工して作成

パリ協定では全ての参加国に削減が求められることで、発展国・途上国という枠にとらわれず、世界全体で取り組むことになったのです

ポイント2.削減目標を5年ごとに提出・更新する

主要排出国を含む全ての国が、削減目標を5年ごとに提出・更新します。削減目標の作成と提出、目標の維持は、各国の義務です。また、目標を達成するために、各国には国内で適切な対策を取ることが求められています。

なお、削減目標は先進国・途上国において、以下の考慮が必要とされています。

  • 先進国:経済全体の絶対量目標を設定し主導すべき
  • 途上国:削減努力を強化すべきであり、経済全体の目標への移行を奨励する

ポイント3.目標達成は「義務」ではなく「努力」とする

各国にて定められた目標の達成は、「義務」ではなく「努力」としています。義務ではないにせよ、各国が積極的に取り組むことを後押しすべく、「プレッジ&レビュー方式」と呼ばれる仕組みが取り入れられています。

プレッジ&レビュー方式とは、目標をプレッジ(誓約)し、取り組み状況などをレビュー(評価)する仕組みのこと。これにより、各国の削減努力が促されています。

ポイント4.状況は5年ごとに確認する(グローバル・ストックテイク)

パリ協定では、削減目標の到達具合について世界全体の進捗状況を確認するため、5年ごとに評価を実施するグローバル・ストックテイクというサイクルを取り入れています。

グローバル・ストックテイクの構成
参考:資源エネルギー庁『気候変動対策、どこまで進んでる?初の評価を実施した「COP28」の結果は』を加工して作成

グローバル・ストックテイクが初めて実施されたのは、2023年のCOP28においてです。その成果として、決定文書が採択されています。

決定文書の概要
・1.5℃目標達成のための緊急的な行動の必要性
・2025年までの排出量のピークアウト
・全温室効果ガス・全セクターを対象とした排出削減
・都市レベルの取り組みや持続可能なライフスタイルへの移行の重要性 など

2023年時点では、パリ協定でうたわれている「世界の気温上昇を1.5度に抑える」という目標と実情との隔たりがあったことから、目標達成に向けた支援が必要と強調されました。

また、2025年までの排出量ピークアウト後についても、言及。2030年までに43%、2035年までに60%を排出削減する必要性があると示されました。

参考:外務省『国連気候変動枠組条約第28回締約国会議(COP28)結果概要

ポイント5.市場メカニズムが活用されている(パリ協定6条)

市場メカニズムとは、温室効果ガスの排出について、自国の貢献により海外で削減された分を、自国の削減量としてカウントし、目標達成に計上する仕組みのこと。パリ協定では、第6条に規定されています。

市場メカニズムのイメージ

2021年のCOP26では、パリ協定6条に基づく市場メカニズムについて、国際的に移転される温室効果ガスの排出削減量の二重計上防止ルールなど、実施指針(6条ルール)が合意されました。

なお、日本で活用されている二国間クレジット制度(JCM)も、市場メカニズムに該当します。

二国間クレジット制度
参考:経済産業省『JCM(二国間クレジット制度)』を加工して作成

二国間クレジットは、カーボン・クレジットの一種です。カーボン・クレジットについては、以下の記事が参考になります。

参考:環境省『COP27を踏まえたパリ協定6条(市場メカニズム)解説資料』『パリ協定6条国際会議の開催について

パリ協定が採択されるまでの経緯と背景

2015年に採択、2016年に発効されたパリ協定ですが、それまでに以下の年表で示した動きがありました。1990年代から気候変動問題解決を図る国際的な交渉が進められてきた結果、パリ協定は採択されたのです。

気候変動問題解決に向けた国際交渉の経緯
参考:環境省『COP21の成果と今後』を加工して作成

パリ協定の背景には、国連気候変動枠組条約(UNFCCC)や京都議定書などがあります。中でも注目したいのが、2020年以降の新たな枠組みの構築に向けて大枠を決定した、2011年のCOP17の「ダーバン合意」です。

ダーバン合意では以下が決定されました。

【将来枠組みの⼤枠
・「全ての国に適⽤される」ものとする
・「条約の下で」→ 「どの参加国がどの程度責任を負うのか」といった詳細は言及しないが、「条約の下で」との表現で実質的に確保
・「議定書、他の法的⽂書⼜は法的効⼒を有する合意成果」とする→ 後者が曖昧だが、何らか「法的なもの」であることは確保
・排出削減や資金繰り、技術の向上、各国の取り組みの進捗の透明性の確保などを活動内容に含める
 
【作業の段取り】
・新しい作業部会(ADP)を2012年前半に⽴ち上げ、2015年までに合意採択する
・2020年までの排出削減の目標をより高めるための作業も併せて進める

ダーバン合意のあとは以下のような道筋をたどり、2015年のパリ協定採択へと至りました。

ダーバン合意からパリ協定への道筋
参考:環境省『COP21の成果と今後』を加工して作成

パリ協定を深く知るためにも、このような背景、道のりについて理解しておきましょう。

参考:環境省『国際交渉「パリ協定」採択までの道のり 気候変動対策の新たな⼀歩

パリ協定と京都議定書の違い

パリ協定と混同しやすいものとして、京都議定書が挙げられます。どちらもCOPにて採択された国際的な枠組みですが、先に述べたように、パリ協定は、京都議定書の後継となるものです。ふたつの違いについて、表で確認しましょう。

パリ協定京都議定書
対象期間2020年以降2020年まで
対象国全ての締結国先進国のみ
義務削減目標の作成・締結削減目標の達成
対象の温室効果ガス7種類
・二酸化炭素(CO2)
・メタン(CH4)
・一酸化二窒素(N2O)
・ハイドロフルオロカーボン類(HFCs)
・パーフルオロカーボン類(PFCs)
・六ふっ化硫黄(SF6)
・三ふっ化窒素(NF3)
6種類
・二酸化炭素(CO2)
・メタン(CH4)
・一酸化二窒素(N2O)
・ハイドロフルオロカーボン類(HFCs)
・パーフルオロカーボン類(PFCs)
・六ふっ化硫黄(SF6)
途上国への支援先進国による資金支援が義務先進国による資金の提供が義務。先進国以外の締約国にも自主的な資金の提供を奨励

対象国や義務などに違いがあることから、パリ協定は、京都議定書の採択後に変化した気候や世界情勢を反映したものといえるでしょう。

【最新版】パリ協定を受けた日本の取り組み~「2050年カーボンニュートラル宣言」~

パリ協定を受け2018年10月に開催された第48回IPCC(気候変動に関する政府間パネル)も重要な動きです。IPCCでは、パリ協定の合意内容に関する科学的根拠に基づき「世界の人為的なGHG排出量を、2030年までに2010年比で約45%減少させ、2050年までには実質ゼロにする必要がある」ことが示されました。つまり、2050年までにカーボンニュートラルを実現すべきであることが明示されたのです。

これらを受けて、日本では菅内閣総理大臣(当時)が2020年10月26日の所信表明演説において、以下を宣言しました。

我が国は、二〇五〇年までに、温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする、すなわち二〇五〇年カーボンニュートラル、脱炭素社会の実現を目指すことを、ここに宣言いたします。
引用:首相官邸『令和2年10月26日 第二百三回国会における菅内閣総理大臣所信表明演説

この宣言は、「2050年カーボンニュートラル宣言」と呼ばれています。

日本政府はカーボンニュートラルの実現に向け、さまざまな取り組みを実施しています。ここでは、日本政府の動きとして、「地域脱炭素ロードマップ」「改正地球温暖化対策推進法」「グリーン成長戦略」の3つを紹介します。

地域脱炭素ロードマップ

地域脱炭素ロードマップとは、2021年6月に策定された、地方創生に資する脱炭素に国全体で取り組み、さらに世界へと広げていくためのロードマップのこと。2030年までに集中して行う取り組み・施策を中心に、地域脱炭素のプロセス・具体策を示しています。日本政府は、5年間の集中期間に政策を総動員し、人材・技術・情報・資金を積極的に支援していくとしています。

地域脱炭素ロードマップ
参考:環境省『地域脱炭素ロードマップ【概要】』を加工して作成

同ロードマップでは、2030年までに少なくとも100カ所以上の「脱炭素先行地域」を選定することを明示。2024年3月18日時点で、全国36道府県94市町村の73提案が選定されています。

また、自家消費型太陽光や省エネ住宅といった脱炭素の基盤となる重点対策を全国で実行することも全体像として掲げています。これらの施策により、地域の脱炭素モデルを全国に広げ(脱炭素ドミノ)、2050年を待たずに脱炭素達成を目指しています

あわせて、脱炭素先行地域づくりと重点対策の全国実施を後押しするため、以下の3つの基盤的施策を進めていくことも示されました。

基盤的施策

  • 地域の実施体制構築と国の積極支援のメカニズム構築
  • グリーン×デジタルによるライフスタイルイノベーション
  • 社会全体を脱炭素に向けるルールのイノベーション

制度の詳細については、環境省の資料をご確認ください。

参考:環境省『地域脱炭素ロードマップ』『地域脱炭素ロードマップ【概要】
参考:脱炭素地域づくり支援サイト『脱炭素先行地域
参考:脱炭素ポータル『国・地方脱炭素実現会議(第3回)で『地域脱炭素ロードマップ』が決定!!

改正地球温暖化対策推進法

地球温暖化対策推進法(温対法)とは、1998年に成立した、日本における地球温暖化対策の第一歩となる法律のこと。1997年の京都議定書への採択を受けて成立しました。情勢に合わせて対策を強化すべく、これまでに何度も法改正が行われています。直近では、2021年に大きな法改正がありました。

2021年法改正のポイントは、以下の通りです。

改正ポイント概要
2050年までの脱炭素社会の実現を基本理念として明記・パリ協定や2050年カーボンニュートラル宣言などを踏まえ、2050年までに脱炭素社会を実現することを明記
地方創生につながる再生可能エネルギー導入を促進・地方自治体が策定する地方公共団体実行計画において、地域の脱炭素化や課題解決に貢献する事業の認定制度を創設
・関係法令の手続のワンストップ化が可能に
企業の温室効果ガス排出量情報のオープンデータ化・企業の温室効果ガス排出量に係る算定・報告・公表制度について、電子システムによる報告を原則化
・企業の温室効果ガス排出量情報について、従来の開示請求を不要にし、オープンデータ化

温対法については、以下の記事が参考になります。ご一読ください。

参考:環境省『地球温暖化対策の推進に関する法律の一部を改正する法律案の閣議決定について
参考:脱炭素ポータル『改正地球温暖化対策推進法 成立

グリーン成長戦略

グリーン成長戦略とは、2050年カーボンニュートラルの実現に向け、「経済と環境の好循環」を構築していくための産業政策のこと。経済産業省が中心となり、関係省庁と連携して策定されました。

同戦略では、産業政策・エネルギー政策の両面から成長が期待される「エネルギー関連産業」「輸送・製造関連産業」「家庭・オフィス関連産業」について、実行計画を策定。国として高い目標を掲げ、可能な限り具体的な見通しを示しています。

参考:経済産業省『2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略

【最新版】パリ協定を受けた世界の動き~注目すべき2カ国~

2022年10月時点で、150以上の国・地域が年限付き(2050年までなど)のカーボンニュートラル実現を宣言しており、多くの国や地域で地球温暖化防止に向けた施策を進めています。

ここでは、パリ協定採択時にカギとなったアメリカと中国について、最新の動向を見てみましょう。

アメリカ|一時脱退したものの、すぐに復帰。2024米大統領選トランプ氏再当選で今後の展開は?

アメリカは、2019年11月4日に共和党のトランプ大統領(当時)がパリ協定からの脱退を通告し、1年後の2020年11月4日に米国は正式にパリ協定から脱退しました。しかしながら、パリ協定脱退前日に、大統領選に勝った民主党のバイデン氏により、アメリカの動向は反転。バイデン氏は、大統領就任初日となる2021年1月20日にパリ協定への復帰を通告し、同年2月19日に正式復帰しました。

2024年11月のアメリカ大統領選で、再びトランプ氏が当選。トランプ氏はバイデン政権によるクリーンエネルギー規制の多くを撤廃すると表明しています。そのため、アメリカの気候変動対策が変わり、パリ協定からの再脱退もあるかもしれません。アメリカの動きを注視しましょう。

中国|「水素エネルギー産業発展中長期規画」を発表

2060年のカーボンニュートラル実現を目指す中国は、2022年3月に「水素エネルギー産業発展中長期規画」を発表。2035年にかけての水素エネルギー産業発展に向けた目標と支援の方針を示しています。主な内容は以下になります。

  • 2025年までに、モデル都市群における実証事業で大きな成果を上げる
  • クリーンエネルギーによる水素製造と水素エネルギーの貯蔵・輸送技術を大きく進歩させ、副生水素と再生可能エネルギーによる水素製造に基づく水素エネルギー供給システムの初歩的段階を確立する
  • 2025年までに、水素燃料電池自動車の保有台数を5万台、再生可能エネルギーによる水素の製造を年間10〜20万トンにする
  • 2035年までに、交通、エネルギー貯蔵、工業などの分野で多様な水素エネルギー応用のエコシステムを構築する

参考:経済産業省『令和4年度エネルギーに関する年次報告(エネルギー白書2023) 第1節 脱炭素社会への移行に向けた世界の動向
参考:環境省『水素・燃料電池を重点エネルギー技術と捉え、技術開発・普及展開を推進する

パリ協定後、日本や各国のNDC(国が決定する貢献)を受けた現状

パリ協定の発効後、日本をはじめとする各国はどの程度カーボンニュートラルの実現に向け貢献できているのでしょうか。環境省の資料から読み解いてみましょう。

2023年9月25日までに、UNFCCC(国連気候変動枠組条約)事務局に提出されたパリ協定の全締約国のNDCを分析した結果は以下の通りです。

NDCが実施された場合、2100年時点の気温上昇2.1~2.8℃の経路をたどると予測(2022年版報告書では、気温上昇2.1~2.9℃)

2030年の世界全体の温室効果ガス排出量については、以下のように見越しています。

・各NDCにおける目標が完全達成された場合:2019年比約5.3%減
・各NDCにおける目標が達成された場合(条件付目標除く):2019年比約2.0%減 、 2010年比約8.8%増

2022年版報告書に比べ、2030年までに温室効果ガス排出量がピークアウトする可能性が向上しています。しかし、依然として、IPCCの1.5℃シナリオ(2030年に2019年比43%減)からは大きな開きがあります。各国のさらなる貢献が求められているといえるでしょう。

参考:環境省『国内外の最近の動向について(報告)

パリ協定の問題点は?

地球温暖化防止に対する世界各国の認識を大きく変えたパリ協定ですが、問題点も指摘されています。ここでは2点を取り上げます。

目標を達成するには、積極的な取り組みが必要

パリ協定では長期目標として「世界の平均気温上昇を産業革命以前に比べて2℃より十分低く保ち、1.5℃に抑える努力をする」と掲げていますが、この数値は簡単に達成できるものではありません。

2023年のCOP28における初のグローバル・ストックテイクの決定文章でも指摘されてたように、各国が改めて積極的な取り組みをする必要があります。

とはいえ、積極的な取り組みが困難な国もあると考えられるため、各国とも情勢や政策を踏まえつつ、できる限りの取り組みを進めることが要求されます。

各国の目標の基準年度や指標がバラバラでわかりにくい

締結国はそれぞれ自主的に温室効果ガス削減目標を掲げていますが、目標の基準年や指標がバラバラでわかりにくいという指摘もあります。

例として、パリ協定後に日本、EU、アメリカが約束草案にて掲げた温室効果ガス排出量の中期目標を比較してみましょう。

日本は、2030年までの削減目標を「-26%」としています。一方で、EUは「-40%」、アメリカは2025年までに「-26~28%」としています。

パーセントだけ見ると日本の目標値は低いと感じるでしょう。しかし、下の表をみてわかるように各国で比較年が異なります

日本・アメリカ・EUの温室効果ガス排出削減目標
参考:資源エネルギー庁『今さら聞けない「パリ協定」 ~何が決まったのか?私たちは何をすべきか?~』を加工して作成

EUは「1990年比で-40%」アメリカは「2005年比で-26~28%」という目標です。比較年を2013年(日本の基準年)で統一した場合、EUは「-24%」、アメリカは「-18~21%」となり、日本の「-26%」は、実は高い目標であることがわかります。

なお、日本の温室効果ガス排出量削減目標の「-26%」は、2015年7月に日本政府において決定したものです。この決定を踏まえ、2021年4月22日には米国主催気候サミットにおいて、「2030年度に温室効果ガスを2013年度から46%削減することを目指すこと、さらに50%の高みに向け挑戦を続けること」を表明しました。

参考:資源エネルギー庁『今さら聞けない「パリ協定」 ~何が決まったのか?私たちは何をすべきか?~
参考:外務省『日本の排出削減目標

パリ協定の内容とそれを受けた動きや現状を理解し、地球温暖化防止に努めよう

地球温暖化対策の新しい枠組みとして採択されたパリ協定は、地球温暖化防止に向け温室効果ガス排出量を削減しようとする企業にとって、押さえておきたい用語です。発展国・途上国という括りにかかわらず参加国全てが対象であり、削減目標は5年ごとに提出・更新する必要があります。

状況を5年ごとに確認するグローバル・ストックテイクでは、「世界の気温上昇を1.5度に抑える」という目標には、2023年の時点で隔たりがあり、目標達成のために各国が積極的に行動すべきと認識されました。パリ協定の目標は容易に達成できるものではないため、国主導で対策を進めるだけでなく、各企業も自社ができる温室効果ガス排出量の削減に努めなければなりません。パリ協定の理解を深めつつ、できることから始めましょう。