【実践解説】温室効果ガスを減らすには?国の対策や企業・個人ができる取り組み
- 温室効果ガスが増える主な原因は、「化石燃料の使いすぎ」と「森林の減少」です。
- 2050年カーボンニュートラルの実現に向け、日本をはじめとする世界各国で対策が進められています。
- 温室効果ガス削減に向け、企業ができる取り組みとしては、「エネルギー効率の向上」や「再生可能エネルギーの活用」などがあります。
地球温暖化対策として、世界中の国・企業・個人に求められているのが、温室効果ガス排出量削減に向けた取り組みです。「なぜ、温室効果ガスは増えてしまったのか」と疑問に感じたり、「温室効果ガスを減らす方法を知った上で、できることから取り組みを始めたい」と考えたりしている方も多いでしょう。
この記事では、温室効果ガスの概要や増える理由、削減に向けた各国の対策、温室効果ガスを減らすために企業・個人ができる取り組みを解説します。これを読めば、温室効果ガスを減らすためにどのような取り組みをすべきかのヒントを得られ、明日からでも対策を始められるでしょう。
そもそも温室効果ガスとは
温室効果ガスとは、大気を構成する成分のうち、地球表面から放出された熱(赤外線)の一部を吸収して熱が逃げにくくなる効果(温室効果)をもつもののこと。つまり、あたかも温室のように、地球を温める効果をもつガスともいえるでしょう。
温室効果ガスには以下の7種類がありますが、排出量が最も多いのはCO2です。
温室効果ガスの種類
- 二酸化炭素(CO2)
- メタン(CH4)
- 一酸化二窒素(N2O)
- ハイドロフルオロカーボン類(HFCs)
- パーフルオロカーボン類(PFCs)
- 六ふっ化硫黄(SF6)
- 三ふっ化窒素(NF3)
温室効果ガス排出量の推移と増える理由
世界全体で見ると、温室効果ガスは増加傾向にあります。世界全体での排出量の推移と増える理由について、見ていきましょう。
温室効果ガス排出量の推移
環境省の資料によると、世界のエネルギー起源CO2(燃料の燃焼や、他者から供給された電気・熱の使用に伴い排出されるCO2)の排出量は、1990年時点では205億トンでしたが、2020年時点では317億トンにまで増加。2030年には、362億トンになると予測されています。
温室効果ガスが増える理由
温室効果ガスが増える主な原因は、「化石燃料の使いすぎ」と「森林の減少」です。
温室効果ガスが増える理由 | 増えるメカニズム |
---|---|
化石燃料の使いすぎ | 石油や石炭、天然ガスなどの化石燃料を燃焼⇒CO2を排出 |
森林の減少 | 森林の減少に伴って温室効果ガス吸収量が減少+伐採された樹木が破棄して燃やされせる段階で、樹木に貯蔵されていた炭素が温室効果ガスとして排出⇒温室効果ガスが相対的に増加 |
化石燃料は、私たちの生活に欠かせない主要なエネルギー源であり、火力発電や商品生産、輸送手段、化石燃料由来の廃棄物の焼却処分など、さまざまな場面で化石燃料が用いられたり、発生したりしています。
産業革命以前は、化石燃料の使用量はそれほど多くなく、温室効果ガス排出量も抑えられていました。しかし、人々の生活が豊かになるにつれ、電力消費量が多くなったり、モノが大量生産・大量消費・大量廃棄されるようになったりした結果、温室効果ガス排出量が増えたのです。
森林減少の原因は、農地などへの土地利用転換や違法伐採、非伝統的な焼畑農業、燃料用木材の過剰な摂取、森林火災などです。林野庁の資料によると、世界の森林面積は1990~2020年までの30年間で、日本の国土面積の5倍弱に相当する1億7,800万ヘクタールも減少しました。
樹木にはCO2を吸収する効果があり、炭素が貯蔵されています。森林を伐採すると、吸収量が減少するだけでなく、破棄して燃やされる段階において、樹木に貯蔵されていたCO2が放出されてしまいます。こうした結果、温室効果ガス排出量が相対的に増えてしまうのです。カーボンニュートラル(温室効果ガスの人為的な排出量と吸収量の均衡が取れた状態)の実現も遠のくでしょう。
参考:林野庁『世界森林資源評価(FRA)2020 メインレポート 概要』
温室効果ガスが減らないとどうなる?
温室効果ガスが減らないと、地球温暖化がますます深刻化すると考えられます。
先述の通り、温室効果ガスには、あたかも温室のように地球を温める効果があります。温室効果ガスがまったくないと地球の平均気温は-19℃になるといわれており、必要がないわけではありません。しかし、温室効果ガスが過度に高まると地球表面から放出された熱(赤外線)が閉じ込められ、地球温暖化が引き起こされてしまうのです。
このまま温室効果ガス排出量が増え続ければ、これまで以上に異常気象や気象災害が発生しやすくなるでしょう。人々の生活への悪影響だけでなく、「工場の操業停止」「サプライチェーンの寸断」といったように企業の事業活動への悪影響も懸念されます。
実際に世界平均気温(年平均)は上昇している
地球温暖化の影響は既に数値として出ており、実際に、世界平均気温(年平均)は急速に上昇しています。
上のグラフは、環境省の資料をもとに作成したものです。緑線は「自然要因(太陽および火山活動)」のみを、橙線は「人為要因(人間の活動に起因するもの)と自然要因」を考慮したシミュレーションとなっています。シミュレーション結果だけ見ても、人為要因が世界平均気温の上昇に大きく係わっているといえるでしょう。
また、灰線は実際の観測値ですが、橙線とかなり近い値であることがわかります。これらの結果から、人間の活動が大気や海洋、陸域を温暖化させてきたと考えられるでしょう。
このように広範かつ急速な変化が実際に生じていることから、全ての国・企業・個人にとって、温室効果ガスの削減が急務となっているのです。
参考:環境省『IPCC第6次評価報告書の概要 第1作業部会(自然科学的根拠)』
温室効果ガスの削減に向けた各国の対策
温室効果ガスの削減に向け、各国はどのような対策を進めているのかを紹介します。
世界各国の対策
「パリ協定」や「1.5℃特別報告書(SR1.5)」を受け、世界各国で温室効果ガス排出量削減に向けた取り組みが進められています。
パリ協定とは、「京都議定書(1997年12月、COP3にて採択)」の後継となる、国際的な枠組みのこと。2015年12月、第21回気候変動枠組条約締約国会議(COP21)にて採択されました。
パリ協定 世界の気温上昇を産業革命前より2℃を十分に下回る水準に保持し、また1.5℃に抑えることを目指す国際的な枠組み |
なお、パリ協定では、カーボンニュートラルの達成目標年について、「今世紀後半」との言及はあったものの、「何年までに」と明確には示されていませんでした。
パリ協定を受け、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)は2018年10月にパリ協定の内容に関する科学的根拠として、「1.5℃特別報告書(SR1.5)」を発表。「世界の人為的なGHG排出量を、2030年までに2010年比で約45%減少させ、2050年までには実質ゼロにする必要がある」旨を提示しました。
これらを受け、世界の多くの国々が2050年カーボンニュートラル実現を目指し、取り組みを進めることになったのです。
なお、目標達成に向けては、「EV車の販売・利用促進」「EV充電ポートの設置」「水素ステーション」などの取り組みが世界各国で進められています。
参考:外務省『パリ協定(和文)』
日本政府の対策
2020年10月26日の所信表明演説において、菅内閣総理大臣(当時)は2050年までにカーボンニュートラルを実現することを宣言(2050年カーボンニュートラル宣言)。それを受け、日本政府は2021年4月に、温室効果ガス排出量を2030年度に2013年度比で46%削減し、さらに50%の高みに向けて挑戦を続ける旨を表明しました。
削減目標の詳細は、「地球温暖化対策計画」という政府の総合計画において以下のように定められています。
同計画では目標達成に向けた主な対策・施策として以下の内容が言及されており、順次、実行に移されていく予定です。
目標達成に向けた主な対策・施策 【再エネ・省エネ】 改正温対法に基づき、自治体が促進区域を設定⇒地域に裨益する(助けとなり、役立つ)再エネ拡大(太陽光など)住宅や建築物の省エネ基準への適合義務付けを拡大 【産業・運輸など】 2050年に向けた、イノベーション支援⇒2兆円基金により、水素・蓄電池など重点分野の研究開発および社会実装を支援データセンターの30%以上省エネに向けた、研究開発・実証支援 【分野横断的取り組み】 2030年度までに100以上の「脱炭素先行地域」を創出(地域脱炭素ロードマップ)優れた脱炭素技術などの活用による、途上国などでの排出削減→「二国間クレジット制度:JCM」により地球規模での削減に貢献 |
対策・施策の詳細については、環境省の『地球温暖化対策計画 令和3年10月22日閣議決定』をご確認ください。
温室効果ガスを減らすために企業ができる取り組み
温室効果ガスを減らすために、企業としてどのような取り組みが必要となるのでしょうか。
企業が真っ先にすべきなのは、「排出量の見える化」です。温室効果ガス排出量の現状をしっかり把握した上で、以下のようなことに取り組みましょう。
企業ができる取り組み
- 生産プロセスの見直し
- エネルギー効率の向上
- オフィス緑化の実施
- 再生可能エネルギーの活用
それぞれについて、紹介します。
生産プロセスの見直し
「排出量の見える化」をしたあと、まず取り組みたいのが、生産プロセスの見直しです。「温室効果ガス排出量が多いのはどの工程か」を分析し、「どうすれば排出量を減らせるのか」を検討し、見直しを図ります。例として、温室効果ガス排出量が多いのが廃棄物処理だった場合、ゴミとなるもの自体を減らす方法を考え、実践するとよいでしょう。
とはいえ、対策の前提となる「温室効果ガス排出量」は算定方法が複雑なため、自社だけで「排出量の見える化」をするのは容易ではありません。外部企業が提供している「温室効果ガス算定サービス」の活用をおすすめします。
エネルギー効率の向上
日本の発電割合の約7割が火力発電(化石燃料を用いての発電)のため、エネルギー効率を向上させることも、温室効果ガス削減に向けた効果的な取り組みの一つです。「省エネ機器の利用」や「節電の実施」などをするとよいでしょう。
取り組みの具体例としては、以下のようなものがあります。
取り組みの具体例
- オフィスや工場内の照明をLED照明にする
- 昼食休憩中はオフィスを消灯する
- 使用頻度の少ない部屋・フロアは、使用するときのみ電気を点けるようにする
- 使っていない機器の主電源を切り、待機電力を減らす
- クールビズ・ウォームビズを推奨する
- エアコンの設定温度を調整する(無理のない範囲で、冷房の設定温度を高く、暖房の設定温度を低くする)
- 建物や機器を断熱化する
- ノー残業デーを設けたり、休日出勤をなくしたりする
また、自動車を動かす際にもCO2は排出されるため、出張の頻度や移動手段を見直すのも効果的です。具体的には、「オンライン会議を増やして出張回数そのものを減らす」「自動車移動を減らして公共交通機関の利用を増やす」などするとよいでしょう。
オフィス緑化の実施
オフィス緑化を実施し、CO2吸収量を増やすのも効果的な方法です。具体的には、「会社の庭に苗木を植える」「オフィスの屋上に庭園を作る」「オフィスのベランダにグリーンカーテンを設置する」などの方法があります。
既にこうした取り組みを実施している場合には、植林活動の実施をおすすめします。会社主導のもと、従業員や顧客、地域住民らと植林活動をするとよいでしょう。
再生可能エネルギーの活用
再生可能エネルギーとは、一度利用しても再生が可能で、繰り返し利用できるエネルギー源のこと。具体的には、太陽光発電や風力発電、地熱発電、バイオマス発電などがあります。
再生可能エネルギーは発電時にCO2をほとんど排出しません。そのため、オフィスや工場などで使用する電力を再生可能エネルギーに切り替えることで、温室効果ガスを大幅に削減できます。
再生可能エネルギーの内、導入のハードルが最も低いとされているのが「太陽光発電」です。まずは、オフィスの屋根や会社の敷地内に太陽光発電パネルを設置することから始めるとよいでしょう。
また、EV車の方がガソリン車よりもCO2排出量が少ないため、社用車のEV車への切り替えも推奨します。
以下の記事では、事例を挙げながら、温室効果ガスを減らすために企業ができる取り組みを紹介しています。参考にご覧ください
温室効果ガスを減らすには?個人ができる取り組み
温室効果ガスは、個人の努力によっても減らすことができます。個人ができる取り組みとしては、以下のようなことがあります。
個人ができる取り組み
- 3Rの徹底
- 省エネ家電の利用
- 公共交通機関やEVの利用
- 太陽光パネルの設置
それぞれについて、見ていきましょう。
3Rの徹底
3Rとは、「Reduce(リデュース)」「Reuse(リユース)」「Recycle(リサイクル)」という3つのアクションの総称です。
3Rの意味
・Reduce(リデュース):資源の消費、ゴミの発生をもとから減らす
・Reuse(リユース):繰り返し使うことで、ゴミを減らす
・Recycle(リサイクル):資源として再び利用することで、ゴミを減らす
ゴミを焼却する際には温室効果ガスが発生しますが、3Rを徹底することで、温室効果ガス排出量を大幅に削減できます。
3Rのアクションの具体例としては、以下のようなものがあります。
3R | アクションの具体例 |
---|---|
Reduce(リデュース) | ・ゴミになるものを買わない、もらわない ・長く使える製品を買ったり、手入れや修理をしながら長く大切に使ったりする ・マイバッグを持参し、無駄な包装は断る ・詰め替え容器に入った製品や簡易包装の製品を選ぶ ・利用回数の少ないものは、レンタルやシェアリングシステムを利用する ・省資源化設計の製品を選ぶ |
Reuse(リユース) | ・リターナブル容器(中身を消費した後に返却・回収し、洗浄して再び使用する容器)に入った製品を選ぶ ・リターナブル容器を使い終わったら、リユース回収に出す ・フリーマーケットやガレージセールなどを利用し、不用品の再活用に努める |
Recycle(リサイクル) | ・ゴミなどの廃棄物や不用品を資源として分別する ・資源ゴミの効率的な分別回収を広める ・リサイクル製品を積極的に利用する |
省エネ機器の利用
温室効果ガス削減に直結するのが、「省エネ機器の利用」や「節電の実施」です。
省エネ機器の例としては、最新型の冷蔵庫やテレビ、エアコンといった大型家電が挙げられます。また、各部屋で使用する照明をLED照明にするのも一つの手です。なお、省エネ機器選びのポイントについては、資源エネルギー庁の省エネポータルサイト『家庭向け省エネ関連情報|機器の買換で省エネ節約』で紹介されているので、参考にしてください。
節電の具体例としては、以下のようなものがあります。
節電の具体例
- 使っていない部屋の電気を消す
- 部屋の電気の明るさを調整する(必要以上に明るくしないようにする)
- 使っていない電化製品の主電源を切り、待機電力を減らす
- エアコンの設定温度を調整する(無理のない範囲で、冷房の設定温度を高く、暖房の設定温度を低くする)
- 冷蔵庫の開閉時間を短くする
- お風呂の自動保温をやめたり、追い焚きの頻度を減らしたりする
- 入浴中、シャワーを出しっぱなしにしない
- 温水洗浄便座の設定温度を調整する
公共交通機関やEV車の利用
自動車を動かす際は、CO2が発生します。そこでおすすめしたいのが、「公共交通機関の利用」です。公共交通機関を使えば一度に多くの人が移動できるので、各自が自家用車で移動するよりも、一人当たりの温室効果ガスの排出量を抑えることができます。とはいえ、居住している地域によっては公共交通機関の利用だけだと生活に支障をきたすケースもあるため、無理のない範囲で利用するとよいでしょう。
また、CO2排出量が少ない「EV車への乗り換え」も、温室効果ガス削減に有効です。あわせて、「自動車の急加速・急発進をやめる」「アイドリングをしない」なども実施すると、削減効果がより高まるでしょう。
太陽光発電パネルの設置
CO2をほとんど発生しない「再生可能エネルギー」の代表が、太陽光発電です。そのため、自宅の屋根に太陽光発電パネルを設置することで、温室効果ガスの削減に貢献できます。自治体によっては、太陽光発電パネルの設置に際して補助金が支給されるケースもありますので、お住いの自治体のホームページなどを確認するとよいでしょう。
なお、住宅事情により太陽光発電パネルの設置が難しい場合もありますよね。そのような場合には、再生可能エネルギーを扱っている電力会社と契約するのも一つの手です。この機会に、契約する電力会社を見直してみてはいかがでしょうか。
温室効果ガスを減らすには、企業や個人の取り組みが不可欠
温室効果ガスが増える原因は「化石燃料の使いすぎ」と「森林の減少」です。排出量が減らないと地球環境や人々の生活、企業の事業活動に悪影響を及ぼすため、早急な対応が求められます。世界各国で対策が進められていますが、全ての企業や個人が対策に乗り出すことも重要です。
企業ができる取り組みとしては、「エネルギー効率の向上」や「再生可能エネルギーの活用」などがあります。個人では、「省エネ家電の利用」や「公共交通機関、EV車の利用」などに取り組むことをおすすめします。「温室効果ガスを減らすには、どういった取り組みが必要か」を各自で考え、できることから実行に移しましょう。