脱炭素が社内に浸透しない原因とは?全社を巻き込む具体策と手順を解説

脱炭素の社内浸透に向けて動く中で、経営層との温度差や現場の無関心に悩む担当者は多いはずです。本記事では環境省のデータを基に、意識を変えるための実践的な3ステップを解説します。これを読めば、信頼獲得やコスト削減といったメリットが分かります。メリットを提示できれば、脱炭素経営への理解が深まり、社内での取り組みが進めやすくなるでしょう。先進企業の成功事例についても解説していますので、ぜひご一読ください。
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- 脱炭素が社内に浸透しない根本的な原因は、経営層のコスト認識や現場の当事者意識の欠如などがあります。
- 脱炭素化を成功に導くためには、CO2排出量の見える化と目標設定を軸とした3ステップの実践が必要です。
- 国際基準のSBT認定を取得することで、環境先進企業としてのブランド力が向上し、高い評価につながります。
脱炭素が社内に浸透しない3つの原因
脱炭素に向けた取り組みを始めたものの、全社的な動きにつながらず悩むサステナビリティ担当者は少なくありません。ここでは、社内に脱炭素の考えが浸透しない根本的な原因を3つの視点から解説します。
(参考:環境省『グリーン・バリューチェーン プラットフォーム 各種ガイドライン』)
原因1.「脱炭素経営は単なるコスト増」という経営層の認識
社内で脱炭素を進める上で大きな壁となるのが、経営層が脱炭素の取り組みを「利益を生まないコスト」と見なしているケースです。再生可能エネルギーへの切り替えや省エネ設備の導入には、初期投資が必要となるため、財務的な負担が先行して見えてしまいます。
経営層が中長期的なリターンやリスク回避の側面を理解していないと、トップダウンでの強力な推進力は得られません。経営陣のコミットメントがない状態では、現場に重要性を説いても響かず、取り組みは停滞してしまいます。
原因2.「脱炭素はサステナビリティ担当者だけの仕事」という社内の誤認
脱炭素に向けた取り組みを始める際、総務やサステナビリティ担当者など特定の人に業務を一任してしまうケースは少なくありません。社内で専門の担当者や部署が立ち上がった場合でも、かえって現場の当事者意識が薄れてしまう現象もよく見られます。「環境問題はサステナビリティ推進部や担当チームなどの専門の担当者がやるもの」という認識が広まると、他部署からの協力が得にくくなります。
脱炭素化は、製造工程の見直し、営業手法の変更、さらには調達先の選定など、すべての事業活動に密接に関わるテーマです。一部の担当者だけの業務と誤認されている状態では、企業全体の温室効果ガス(GHG)排出量を削減することは困難です。
原因3.明確なCO2削減目標と脱炭素経営のメリットの共有不足
自社が「どれくらいのCO2を排出しているのか」「いつまでに、どの程度減らす必要があるのか」が可視化されていないことも、浸透を妨げる原因です。現状とゴールが不明確なままでは、社員はどう行動すべきか分かりません。
さらに、脱炭素に取り組むことで企業や社員自身にどのようなメリットがあるのかが共有されていないと、日々の忙しい業務の中で優先順位が下がってしまいます。納得感を持たせるための「目標の数値化」と「意義の共有」が不可欠です。
【最新トレンド】なぜ今、脱炭素の社内浸透を急ぐべきか
国内外で脱炭素化の動きが加速する中、企業規模を問わず脱炭素経営への移行や温室効果ガス排出量削減に向けた具体的な対応が迅速に求められています。ここでは、なぜ今すぐ社内へ脱炭素の浸透を急ぐべきなのか、ビジネス環境の最新トレンドを基に解説します。
大手企業を中心としたサプライチェーン全体のCO2削減要求
現在、多くの大手企業は自社だけでなく、サプライチェーン全体(Scope3)での温室効果ガス排出量削減を目指しています。それに伴い、部品メーカーや物流を担う中小企業に対しても、CO2排出量の算定や削減が要請されるようになっています。
自社のScope1やScope2に該当する排出量は、取引先である大手企業から見ればScope3の一部となります。そのため、サプライチェーン全体での脱炭素化が求められる現在、中小企業自身もCO2排出量の算定や削減に積極的に取り組む必要があります。
(参考:環境省『グリーン・バリューチェーンプラットフォーム 排出量算定に関するガイドライン』)
対応が遅れることで生じるリスク
脱炭素化への対応が遅れることは、企業にとって複数の重大な経営リスクをもたらします。代表的なものとして、炭素税などの規制強化に伴うコスト増加や、資金調達の難化(ESG投資への乗り遅れ)が挙げられます。
特に深刻なのが、既存取引の停止や新規受注の機会損失につながるリスクです。大手企業がサプライチェーン全体の排出量削減を推進する現在、環境対応の遅れは取引要件から外れる原因となりえます。
さらに、環境意識の高い消費者や求職者からの評価が下がるリスクも無視できません。社内浸透を急ぎ、企業全体で脱炭素に取り組む姿勢を示すことは、これらのリスクから会社を守る重要な防衛策です。
経営層や社内を説得する脱炭素化の3つのメリット
脱炭素化を推進するには、それが企業にもたらす価値を全社で理解することが重要です。ここでは、経営層や社員を説得し、巻き込んでいくために役立つ3つの具体的なメリットを紹介します。
(参考:環境省『グリーン・バリューチェーン プラットフォーム 各種ガイドライン』)
メリット1.取引先からの信頼獲得とビジネスチャンスの拡大
脱炭素への積極的な取り組みは、取引先からの評価を高める重要な要素です。特に、CO2排出量の見える化(算定)や削減目標の開示を行っている企業は、サプライチェーン全体の脱炭素化を進める大手企業から優先的な取引パートナーとして選ばれやすくなるでしょう。
新たな顧客を開拓する際にも、環境対応力が強力なアピールポイントとなります。コスト増だけに着目するのではなく、売り上げ拡大への投資として経営層に提示することが、理解を得る第一歩です。
メリット2.業務効率化による中長期的なコストの削減
脱炭素化に向けた取り組みは、徹底した省エネや業務プロセスの見直しを伴うものです。不要な電力消費の削減、ペーパーレス化、物流ルートの最適化などは、結果としてランニングコストの削減をもたらします。
日常的な見直しに加えて、LED照明や省エネ空調への入れ替え・太陽光パネルの設置など一時的な設備投資が必要であっても、中長期的には利益率の向上に貢献するはずです。現場の社員に対しても、「無駄を省き、働きやすい環境を作る」という身近なメリットとして伝えることで、前向きな協力を得やすくなるでしょう。
メリット3.社員のエンゲージメント向上と採用力の強化
社会的な意義の大きい脱炭素経営に取り組むことは、社員の自社に対する誇りやエンゲージメントの向上に直結します。自分の仕事が地球環境の保護に貢献しているという実感は、日々の業務のモチベーションを高める要因にもなりえます。
また、近年は環境問題やSDGsに関心の高い若年層が増加傾向にあります。サステナビリティに積極的な企業は採用市場でも有利に働き、優秀な人材の確保を後押ししてくれるでしょう。これは人事や採用担当者を巻き込む際の強力な材料となります。
【企業事例】脱炭素の社内浸透アクション
他社がどのようにして社内の意識改革を進めているのかを知ることは、自社の施策を考える上で非常に有効です。ここでは、環境省のインタビューで紹介されている2社の具体的な取り組み事例を解説します。
事例1.ミズノ株式会社|社内向け定期教育とサステナビリティの日常化
総合スポーツ用品メーカーのミズノ株式会社では、サステナビリティを経営の中核として位置付け、社内浸透に向けた継続的な教育活動に注力しています。
具体的には、月に2回社員向けの教育の時間を設けています。自社のパーパスの理解促進や法制度について学ぶとともに、環境やサステナビリティに関するテーマも勉強会に取り入れています。
入社以来こうした教育を継続的に受けることで、社員にとって環境への配慮は特別なことではなく、日常の一部となっています。「何かをやらなければならない」という受け身の意識ではなく、日々の業務の中で「自分に何ができるか」を自然に考える姿勢が浸透している点が、同社の強みです。
(参考:環境省『ミズノ株式会社インタビュー』)
事例2.内海産業株式会社|理念の社内浸透と商品のCFP算定
ノベルティグッズの企画・販売を行う内海産業株式会社では、自社の事業活動を通して脱炭素化を社内に浸透させました。同社は2017年に新たなミッションやビジョンを制定し、理念と社会課題を紐づけて社内共有を図る過程において、SDGsや脱炭素の考え方を取り入れています。
特徴的なのは、単なる座学で終わらせず、自社が手掛ける「身近なノベルティ商品」を入り口にして実践を重ねている点です。具体的には、ゼロカーボン商品開発や自社商品のCFP(カーボンフットプリント)算定など、環境課題への関心を自然と高める取り組みを2019年以降、着実に進めています。
このような自社商品を通じた継続的な実践は、顧客へのアピールになるだけでなく、結果として社員自身の意識を自然に変革することにつながっています。
(参考:環境省『内海産業株式会社インタビュー』)
社内浸透を成功に導く脱炭素経営の具体的な3ステップ
脱炭素化を社内に定着させるためには、順序立てた計画的なアプローチが不可欠です。ここでは、経営層や社員をスムーズに巻き込むための具体的な3つのステップを解説します。

ステップ1.自社の排出量を「知る」|現在のCO2排出量算定と経営層の巻き込み
最初のステップは、自社の事業活動全体でどれくらいの温室効果ガスを排出しているのかを正確に把握することです。現状の数値が分からなければ、目標も対策も立てられません。
まずは、燃料費や電気代の請求書などからデータを集め、Scope1(直接排出)とScope2(間接排出)の算定を行います。この過程で得られた具体的な排出量と、前述した「脱炭素化のメリット・リスク」をセットにして経営層へ報告します。

客観的なデータに基づく提案を行うことで、単なるコストではなく「経営課題」としての認識を促し、経営トップのコミットメント(推進の宣言)を引き出すことが社内浸透の第一歩となります。
ステップ2.削減目標を「立てる」|全社の共通目標の設定
現状の排出量が把握できたら、次は「いつまでに、どのくらい減らすのか」という全社的な削減目標を設定します。経営層から現場まで、全員が同じ方向を向くための重要なプロセスです。
目標設定においては、自社の希望的観測ではなく、国際的な科学的根拠に基づいた水準に合わせることが推奨されます。客観的に評価される目標を掲げることで、社内外に対する説得力と信頼性が大幅に向上します。
目標設定の国際基準「SBT」の導入
目標を立てる際の参考になるのがSBT(Science Based Targets)です。SBTは、パリ協定が求める水準(世界の気温上昇を産業革命前より1.5度以内に抑える)と整合した、企業が設定する温室効果ガス排出削減目標です。
SBTを取得することで、自社の目標が国際的な基準を満たしていることが証明されます。これにより、環境先進企業としてのブランド力が向上し、投資家や大手取引先からの高い評価につながります。

上記のSBT及び中小企業版SBTの合算グラフが示す通り、日本国内におけるSBTの取得企業数は年々急増しており、脱炭素経営は企業の新たなスタンダードになりつつあります。取引先や社会からの評価を獲得するためにも、早期の導入が強く求められます。
「中小企業版SBT」の活用
中小企業にとって、通常のSBTは手続きや要件のハードルが高い場合があります。そこで活用したいのが「中小企業版SBT」です。
■中小企業版SBTの主な特徴
- 通常のSBTよりも申請プロセスが簡略化されている
- Scope3の算定・削減目標設定は任意(測定・削減の意思表明は必要)
- 取得費用が通常のSBTに比べ安価に設定されている
この制度を利用することで、リソースが限られる中小企業でも国際基準に準拠した目標を比較的容易に設定・宣言することができます。設定した目標が国際基準を満たしているという事実は、社員のモチベーションアップにもなるでしょう。
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ステップ3.排出量を「減らす」|社内へのインプットと実行
目標が定まったら、いよいよ具体的な削減アクションを実行に移します。ここで重要なのは、経営トップの宣言や設定した削減目標を全社研修などを通じて共有することです。単なる方針発表で終わらせず、自社の事業がどのようにCO2削減と結びつくのかを丁寧に伝え、全社への確実なインプットを行います。
インプットの後は、日常業務を通じた現場主導のアウトプットを促す仕組みづくりが必要です。例えば「部署ごとに業務内で減らせるCO2をテーマにしたワークショップを開催する」「社内公募で脱炭素アイデアコンテストを実施し、優秀な提案を実際の業務に採用する 」などです。トップダウンの指示ではなく、現場の社員自らがアイデアを創出する機会を設けることで、一人ひとりに当事者意識が醸成されます。
このように、事業と結びついた丁寧なインプットと、現場からのアウトプットを掛け合わせることで、脱炭素の取り組みが「自分ごと」として社内全体に深く浸透していくでしょう。
脱炭素化における社内浸透の第一歩は「CO2の見える化」と「目標設定」
経営層との温度差や現場の無関心を解消するためには、精神論ではなく客観的なデータの共有と明確なゴールの設定が不可欠です。まずは自社のCO2排出量を算定し、現状を「見える化」することから始めましょう。
そして、中小企業版SBTなどを活用して、社内外に誇れる共通の目標を立てることが、社員一人一人の意識を変える強力な原動力となります。専門的な知識やリソースが不足している場合は、外部の支援サービスやコンサルティングの活用も検討し、確実な一歩を踏み出してください。
HELLO!GREENでは、これから脱炭素経営に取り組む中小企業の皆さまに向けて、有益な情報を発信しています。環境省認定制度「脱炭素アドバイザー アドバンスト」にも認定されている 「炭素会計アドバイザー」資格を持つ専門スタッフの知見を活かし、わかりやすく信頼できる記事づくりに努めています。