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【図で分かる】カーボンフットプリントとは?商品の計算例やガイドライン

目次
記事の要点
  • カーボンフットプリントは、原材料の調達から廃棄まで、商品の一連の流れで排出された温室効果ガスの排出量のこと。
  • EUでは一部の分野に対して、カーボンフットプリントの表示義務化の動きがあります。
  • 算定の際は、ISO14067、GHGプロトコルのほか、日本では経済産業省や環境省などが作成したガイドラインも参考にできます。

カーボンフットプリントとは、商品のライフサイクル全体における温室効果ガスの排出量のこと。その商品が環境にやさしいかどうか、買い手が判断する際の指標のような役割をもつものとして期待されています。

今回は、カーボンフットプリントの導入を検討している企業に向けて、意味や計算ステップなどを分かりやすく解説します。表示義務化の行方など、企業を取り巻く世界の動向についても紹介しますので、ぜひ参考にしてください

カーボンフットプリント(CFP)とは?

カーボンフットプリントの意味について解説します。

商品のライフサイクルにおける「温室効果ガス排出量」という意味

カーボンフットプリントは、原材料の調達~生産~流通・販売~廃棄といった、商品の一連の流れで排出された温室効果ガスの排出量(GHG排出量)を、CO2排出量相当に換算したものやそれを表示する仕組みを意味します。

カーボンフットプリントのイメージ

カーボンフットプリントを直訳すると「炭素の足跡」。商品のライフサイクルの段階を一つひとつたどって、どのくらい温室効果ガスを出しているのか計算する作業は、まさに足跡をたどるような作業ですね。

どこからどこまで?対象範囲の例

ライフサイクルといっても、どこまでが対象なのか疑問に思う方もいるかもしれません。紙パック牛乳を例に考えてみましょう。

例】紙パック牛乳のライフサイクル

原材料調達・乳牛の飼育
・紙パックの生産
生産・牛乳の製造
・パッケージング
流通・販売・冷蔵配送
・店舗などへの販売
使用・維持管理・家庭での冷蔵保管
廃棄・リサイクル・紙パックの収集・リサイクル処理

商品を構成する一つである牛乳は、乳牛の飼育段階もライフサイクルとして含みます。生産や販売過程だけでなく、消費者が牛乳を購入して保管するプロセスや、紙パックのリサイクル処理なども対象です。

原材料調達から廃棄・リサイクルまでの過程で出た、温室効果ガス排出量の総量がカーボンフットプリントになります。

参考:経済産業省『サプライチェーン全体でのカーボンニュートラルに向けたカーボンフットプリントを巡る動向

「ライフサイクルアセスメント(LCA)」との違い

カーボンフットプリントと「ライフサイクルアセスメントは違う?」と気になっている方もいるかもしれません。この2つは似ていますが、算定や分析、開示などの範囲が異なります。

LCAとCFPにおける対象範囲の違い

ライフサイクルアセスメントは、「オゾン層破壊や生態系の乱れ」など環境負荷全体を対象とした考え方です。このライフサイクルアセスメントの考え方に基づいて地球温暖化への影響に特化し、商品表示の仕組みも含めて考案されたのがカーボンフットプリントです。

カーボンフットプリントは義務化される?

日本において、カーボンフットプリントの開示は義務化されていません(2024年9月時点)。ただし、世界の動向をみると、開示の義務化を問わず企業にとって環境負荷を測り、削減していくことは重要性を増してきています。

カーボンニュートラル実現に向けて企業への要求が高度化

近年、企業に対して、政府、⾦融市場、顧客、消費者などのステークホルダーから環境負荷に関する情報開示を求める声が強まっています

背景には、温暖化や平均海面水位の上昇など、環境問題の深刻化もあるでしょう。科学的な知見も踏まえて、2015年には「パリ協定」が採択。温暖化対策に向けて世界共通の目標が立てられ、各国はさまざまな取り組みを実施しています。

⽇本では、「環境物品等の調達の推進に関する基本⽅針」において、物品の調達の際には、「ライフサイクル全体の環境負荷の低減を考慮することが望ましい」といった内容が記載されています。

環境物品等の調達の推進に関する基本⽅針」とは?
グリーン購入法第6条に基づいて定められた。国、独立行政法人及び特殊法人が環境物品などの調達を総合的かつ計画的に推進するためのルール

世界に先駆けて欧州で義務化の動き。衣料品・食品など

EUは、環境への取り組みが世界的にみて進んでいます。中でもフランスでは、環境負荷ラベルの義務化に向けた実証実験が行われ、食品や衣料品などで環境負荷を表示する取り組みが進められています。

参考:経済産業省『カーボンフットプリントレポート

認証機関は?カーボンフットプリントのガイドライン

カーボンフットプリントの算定に取り組みたい場合、企業が参考にできるガイドラインとして代表的なものを紹介します。

国際的ガイドライン1.ISO14067

「ISO14067」は、LCAについてルールを定めたISO14040、ISO14044に基づいた、カーボンフットプリントの国際規格です。日本企業ではISOシリーズを参照するケースも多くみられます。

国際的ガイドライン2.GHGプロトコル(GHG Protocol Product Standard)

「GHGプロトコル」とは、排出量算定の考え方を示す国際的な基準です。内容はISO14067と大きく違わず、GHGプロトコルではさらに具体的な取り組み方が示されています。

GHGプロトコルは、企業が排出するサプライチェーン全体の温室効果ガスを、Scope(スコープ)1・2・3に分けて算定します。

サプライチェーン排出量の算定範囲
参考:環境省『サプライチェーン排出量算定について|サプライチェーン排出量全般』を加工して作成

このうち、Scope3が原材料調達や、商品の購入者によって廃棄される際の温室効果ガス排出量を対象とします。

日本|経済産業省や環境省、農林水産省のほか民間認証も

カーボンフットプリントに取り組む際、国内で参考にできるガイドラインは、主に以下のようなものがあります。

ガイドラインの種類概要
カーボンフットプリントガイドライン』2023年5月/経済産業省・環境省カーボンフットプリントに関する用語の定義や考え方、企業向けの実践方法を紹介
サプライチェーンを通じた温室効果ガス排出量算定に関する基本ガイドライン (ver.2.6)』2024年3月/環境省・経済産業省GHGプロトコルに準拠した日本版ガイド。サプライチェーン全体における排出量算定の方法が分かり、分類ごとに計算式も紹介
農産物の環境負荷低減に関する評価・表示ガイドライン』2024年3月/農林水産省農業分野などに役立つ考え方のポイントが、簡潔にまとめられている。農産物の環境負荷を示す「等級ラベル」についても紹介

国のほか、一般社団法人サステナブル経営推進機構などの民間認証制度もあります。また、業界団体でルールを定めている場合もあるので、一度調べてみてはいかがでしょうか。

カーボンフットプリントの制度としての問題点

ガイドラインには解釈の幅があるものもあり、企業が自社にあわせて独自に算定方法を設定しているのが実情です。公平に評価・比較できるよう、カーボンフットプリントの数値の「正確性」「客観性」の向上が課題といえるでしょう。

国の計画では、官公庁が率先して環境負荷の少ない製品を調達することで、民間企業へ行動改革を促していくといった戦略を立てています。しかし、その実現のためには、カーボンフットプリントをはじめとした評価方法の確立、コスト負担など、さまざまな課題をクリアしていく必要があります。今後ルールが改定される可能性もあるため、最新動向をチェックしながら準備を進めましょう。

参考:経済産業省『サプライチェーン全体でのカーボンニュートラルに向けたカーボンフットプリントを巡る動向

カーボンフットプリントを計算するための4ステップ

カーボンフットプリントの算定に初めて取り組む企業は、まずなにから始めるとよいでしょうか。取り組みの流れを紹介します。

カーボンフットプリントの取り組みステップ

ステップ1.算定の目的と採用ルールを決める

取り組みを検討する際、「なにを」「どうやって」算定するかといった方法から議論しがちですが、「なぜカーボンフットプリントに取り組むのか」という目的を先に決めておくことが重要です。算定の目的を念頭に置いて、どのガイドラインを参考にするか決めましょう。

ステップ2.ライフサイクルに含まれるプロセスを洗い出す

「原材料の調達」「生産」「流通」「使用」「廃棄」など、商品のライフサイクルを構成するプロセスを見える化します。以下のようなフロー図にして、分かりやすくするのもよいでしょう。

ライフサイクルのフロー図(衣料品の例)
参考:環境省『脱炭素経営フォーラム 自社の取り組みにとどまらない消費者・サプライヤーにご協力いただくCFPの取り組み』を加工して作成

ステップ3.温室効果ガス排出量を計算する

各プロセスで排出量を計算し、全体の合計値を出します。計算式は以下の通りです。

温室効果ガス排出量の計算式
温室効果ガス排出量=活動量×排出係数

活動量
各プロセスの重量、距離など規模を示す量。【例】燃料の使用量、商品の輸送量

排出係数
活動量当たりのCO2排出量を示す数値。排出原単位とも。【例】電気使用量1kWh当たりのCO2排出量

よく使われる排出係数のデータベース

IDEA』産総研日本のデータを基に約5,300(IDEA Ver.3.4)の排出係数データをまとめたもの
排出原単位データベース』 環境省サプライチェーン排出量の算定に活用できる排出原単位を取りまとめたもの
温室効果ガス排出量算定・報告・公表制度 電気事業者別排出係数一覧』環境省・経済産業省各事業者から報告された排出係数を国がまとめたもの

ステップ4.報告書にまとめる

カーボンフットプリントの算定が終わったら、適切な方法で算定されたか、もう一度検証しましょう。確認ができたら、報告書にまとめます。カーボンフットプリントの数値を社外の消費者や、顧客企業に表示・開示することを考えている場合は、相手に応じた報告項目を選択します。

参考:経済産業省『サプライチェーン全体でのカーボンニュートラルに向けたカーボンフットプリントを巡る動向
参考:経済産業省、環境省『カーボンフットプリントガイドライン

【事例】企業のカーボンフットプリントへの取り組み

排出量の削減に向け、参考になるのが他社の取り組みです。ここでは、カーボンフットプリントの算定・削減に取り組んでいる3つの企業の事例を紹介します。

商品別CO2排出量に応じて施策を強化|株式会社コーセー

算定対象化粧品
取り組み・原料の工夫や容器回収などの削減施策を検討
・商品ラベルへの表示方法として、サイトのQRコード記載を検討

株式会社コーセーでは、スキンケア商品のカーボンフットプリントを算定。詰め替え用のレフィルタイプより、ボトルタイプの方が「調達」「廃棄」のプロセスでCO2排出量が多いことが判明しました。

このため、ボトルタイプでの削減対策として、原料の工夫や容器リサイクルも検討。消費者への情報提供として、商品パッケージにQRコードを印刷し、CO2排出削減量などの詳細を記したサイトへ誘導することも検討しています。

参考:環境省『カーボンフットプリント算定による気づき、今後の展開

目標数値に向けプロジェクト推進|株式会社ユナイテッドアローズ

算定対象衣料品
取り組み・環境への配慮をブランディングにも活用
・サプライヤーとも連携し、カーボンフットプリントを27%削減

衣服の企画や販売などを手掛ける、株式会社ユナイテッドアローズ。サステナビリティな環境への取り組みの合言葉として「SARROWS(サローズ)」を掲げ、ブランディングにも活用しています。CO2排出量の削減率など、取り組み目標を数値化・公表し、環境に配慮した商品開発や、リサイクルなどを通して廃棄率低減などに取り組んでいます。

参考:環境省『脱炭素経営フォーラム 自社の取り組みにとどまらない消費者・サプライヤーにご協力いただくCFPの取り組み

原材料の産地における施策強化|明治ホールディングス株式会社

算定対象食品
取り組み・算定結果を分析し、カカオ豆の産地における取り組みを強化
・森林伐採に関与していないカカオ豆の調達などの施策を推進

明治ホールディングス株式会社では、チョコレート製品のカーボンフットプリントを算定。当初、海外からのカカオ豆の輸送プロセスにおける排出が多いと予測していましたが、カカオ豆の栽培プロセスなど産地での排出が大部分を占めていることが判明しました。

カカオ豆の産地における森林伐採の割合が高く生産性が低いことが、カカオ豆の排出係数を増大させている点にも着目し、問題の改善に取り組んでいます。

参考:環境省『CFP算定による削減施策検討の優先順位の明確化

カーボンフットプリントの算定に取り組もう

環境への負荷を温室効果ガス排出量という明確な数値で示せる、カーボンフットプリント。自社にあった算定ルールの策定にあたって、知識を得たい場合は民間企業や各自治体などで開催されるカーボンフットプリントのセミナーに参加するのもよいでしょう。情報管理を効率化できるシステムや計算ツールを活用するのも一案です。今回紹介した取り組みステップも参考に、カーボンフットプリントの算定に向けて準備を進めてみてはいかがでしょうか。