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サプライチェーン排出量の報告を求められたら?中小企業の対応とリスク

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取引先からサプライチェーン排出量の報告を求められ、何から始めればよいか困っていませんか?脱炭素化の波は大手企業だけでなく、今や中小企業にも押し寄せています。本記事では、中小企業の担当者向けに、Scopeの基礎知識から具体的な計算から報告までの4ステップを分かりやすく解説します。

記事を読むことで、取引先からの要請に焦らず対応できるだけでなく、環境対応を自社の「強み」に変えて他社と差別化するメリットまで理解できます。効率的な算定を進めるための公的補助金や外部サポートの活用法も網羅しているため、ぜひ最後までご覧ください。

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記事の要点
  • Scopeの定義を正しく理解し、取引先から求められている範囲を明確にすることが重要です。まずは自社のエネルギー使用量の把握から始めましょう。
  • 報告要請を放置すると、取引停止になるリスクが生じます。また社会的信用の低下や採用難、対応コスト高騰のリスクも存在します。
  • 排出量算定は、データ収集など4ステップで進めることが可能です。外部の専門家や補助金を活用することで、社内リソースの負担を軽減できます。
目次

なぜ今、サプライチェーン排出量の報告が求められるのか?

気候変動対策がグローバルで加速する中、大手企業を中心にサプライチェーン排出量Scope3)の削減義務や目標設定が急速に広がっています。なぜ中小企業にまでデータの提出要請が届くようになったのか、その背景には国際的なルール変更や投資家からの厳しい視線が存在します。この記事では、世界で起きている脱炭素化の大きなうねりと、その本質的な理由について詳しく解説します。

大手企業がScope3の削減を急ぐ理由

グローバルに展開する大手企業がGHG温室効果ガス)排出量の削減を急ぐ背景には、国際的な投資基準や規制の強化があります。近年は、自社の削減だけでなく、取引先を含むサプライチェーン全体の排出量を把握・管理することが不可欠となりました。

特に欧州(EU)を中心に、製品の原材料や環境負荷データを記録・開示させる「デジタル製品パスポート(DPP)」の導入が進んでいることが、この動きを加速させています。製品の調達から製造、廃棄に至るまでのデータ連携が義務化されつつある今、大手企業は取引先全体の排出量を正確に把握できなければ、国際市場から排除されかねない状況に追い込まれているのです。

Scope3の算定にはサプライチェーン企業の協力が欠かせない

大手企業がサプライチェーン全体の排出量を正確に把握するためには、部品やサービスを提供するサプライヤーのデータが不可欠です。

大手企業が自社以外のGHG排出量であるScope3を算定する際、バリューチェーン全体の排出量は自社だけのデータでは正確に把握することができません。これまでは業界の平均値などの推計値を用いることが主流でしたが、より具体的で実効性のある削減活動を行うためには、各取引先が実際に排出した活動量ベースのデータ収集(一時データ)が必要となります。

さらに近年では、CDPでの評価向上やSBT認定への対応・維持を目的として、大手企業側でサプライヤーからの情報提供の要求やエンゲージメントを強化する動きが急速に広がっています 。つまり、サプライヤーである中小企業の協力なくして、大手企業の脱炭素化は実現できない局面を迎えているのです。

報告を求められた際に知っておくべきGHG排出量の基礎知識

取引先からの要請に正しく応えるためには、まず脱炭素の共通言語である「排出量」の基礎を押さえる必要があります。特に、Scope1Scope2Scope3という3つの区分を混同してしまうと、複雑な作業や計算ミスにつながってしまいかねません。ここでは、中小企業の担当者がまず頭に入れるべき基本の定義と、自社がどこまで対応すべきなのかという境界線の見極め方を整理しましょう。

Scope1、Scope2、Scope3の定義と違いを正しく理解する

GHG排出量は、その発生源によってScope1・Scope2・Scope3の3つの区分(スコープ)に分類されます。

GHGプロトコルと呼ばれる国際的な基準では、GHG排出量を以下のように分類しています。

分類内容
Scope1(直接排出)自社が所有・管理する設備から直接排出されるGHG(例:工場の燃料燃焼、社用車のガソリン使用)。
Scope2(間接排出)自社が他社から供給された電気、熱、蒸気を使用したことに伴って間接的に排出されるGHG(例:オフィスの照明やエアコンの電気使用)。
Scope3(その他の間接排出)Scope1、Scope2以外の、自社のバリューチェーン全体で発生する間接的に排出されるGHG(例:原材料の仕入れ、製品の配送、社員の通勤、出張、製品の廃棄)。
Scope1・2・3のイメージ
参考:環境省『各種ガイドライン パンフレットサプライチェーン排出量算定の考え方』を加工して作成

取引先の企業から排出量データの提出を求められた場合、基本的には自社で管理や把握が可能なScope1・2の合計数値を算出して報告してほしいというケースが多い傾向にあります。提出されたデータは大手企業側において、Scope3の一部として集計される仕組みのため、まずは自社のエネルギー使用量を正確に把握することが重要な最初のステップとなります。

中小企業が取り組むべき範囲を見極める

突然の要請に、自社もScope3まで全て計算しなければならないのかと頭を抱える担当者の方も多いですが、焦る必要はありません。まずは自社のオフィスや工場、店舗でどれだけのエネルギー(電気・ガス・ガソリンなど)を使っているかを正確に捉えることからスタートしましょう。このように、中小企業が取り組むべき現実的な範囲を最初に見極めることが、無駄なコストや労力を省く鍵となります。

報告要請を放置・拒否した場合のリスク

「まだ義務化されていないから」「日常業務が忙しいから」と報告要請を後回しにすることには、極めて高いビジネスリスクが伴います。現代の脱炭素への取り組みは、単なるボランティアではなく、取引を継続するための重要な「ライセンス」として機能し始めているからです。対応を怠った場合に直面する、具体的な3つの経営リスクを解説します。

リスク1.新規案件からの除外や取引停止の可能性

サプライチェーン排出量の情報開示に対応できない場合、今後の取引継続が危うくなるという最も直接的なビジネスリスクがあります。大手企業は、自社のScope3削減目標を達成するため、サプライヤーの選定基準に「GHG排出量のデータ開示」や「削減目標の設定」を組み込み始めています。

そのため、新規案件のコンペや見積もりの段階から環境対応の有無が審査されたり、要件を満たしていなければ選定候補から真っ先に除外されたりするケースが増えています。現時点では「お願い」の段階であっても、近い将来、対応できない企業は新規のチャンスを逃すだけでなく、既存取引における段階的な取引量の削減や、最悪の場合は取引停止に至るリスクが現実味を帯びています。

リスク2.企業の社会的信用とブランド価値の低下

環境対応への後ろ向きな姿勢は、取引先だけでなく、顧客、銀行、求職者からの評価にも悪影響を及ぼします。企業のサステナビリティに対する姿勢は、今やあらゆるステークホルダーから厳しくチェックされています。

排出量の報告を拒否したり放置したりする姿勢が知れ渡ると、「環境変化に対応できない古い体質の企業」「リスク管理が不十分な企業」とみなされる恐れがあります。これは、金融機関からの融資条件の悪化や、若手優秀層の採用難など、目に見えない形で企業の競争力を削ぐ結果につながります。

リスク3.将来的な開示対応の遅れ

対応を先送りにすればするほど、社内ノウハウが蓄積されず、将来的に法制化された際の対応コストが跳ね上がります。気候変動対策の規制は年々厳格化されており、将来的には一定規模以上の中小企業にも法的な開示義務や報告義務が課される可能性があります。

今から少しずつでも算定に挑戦し、データ収集の仕組みを構築しておかなければ、いざ義務化された際や、より詳細なデータ提出を求められた際、莫大な突発的コストと人手を割くことになります。

【実践】GHG排出量の計算と報告の4ステップ

GHG排出量の計算と聞くと非常に専門的で難しく思えるかもしれませんが、基本となるのは、社内にあるエネルギーの活動量を整理し、国が定めた係数を掛け合わせるというプロセスです。まずは全体の流れを正しく把握し、どこでつまずきやすいのかを知るために、設計から報告書提出まで、以下の4つのステップを解説します。

GHG排出量の計算と報告4ステップ 

ステップ1.算定範囲(境界)の設定

まずは、自社のどの範囲(支店、工場、店舗など)の排出量を算定対象にするのか、グループとしての「境界」を明確にします。

算定の第一歩は、「どこからどこまでを計算の対象にするか」を決めることです。基本的には、自社が法的にコントロールしている事務所、工場、倉庫、営業所などが算定対象となります。しかし、「テナントとして入居しているオフィスの電気代はどう分けるべきか」「海外拠点は含めるべきか」など、自社の資本関係や契約形態によって判断が分かれるケースも少なくありません。この境界設定を誤ると、後の計算がやり直しになってしまうため、自社での判断が難しい場合は、初期段階から専門家に相談することをおすすめします。

ステップ2.活動量データの収集

次に電気代の請求書やガソリンの給油伝票など、年間のエネルギー消費量を示す具体的な数値を集めます。具体的には、以下のような社内データを総務や経理から集約します。

対象となるエネルギー収集すべき主な書類の例
電気毎月の「電気ご使用量のお知らせ(検針票)」、請求書
ガス(都市ガス・LPガスなど)毎月の検針票、領収書
ガソリン・軽油(社用車など)給油伝票、法人ガソリンカードの利用明細

ステップ3.排出係数を掛けた計算

集めた活動量データに、環境省などが公表している「排出係数」を掛け合わせて、GHG排出量を算出します。排出量の計算は、以下のような数式を用いて行います。

GHG排出量=活動量(電気やガスの使用量)×排出係数

「排出係数」とは、そのエネルギーを1単位使ったときに、どれだけのCO2が排出されるかを表した数値です。排出係数は排出源単位と呼ばれることもあります。一見シンプルな掛け算ですが、電気であれば契約している電力会社ごとに毎年異なる係数が環境省から公表されており、最新の正確な数値を用いる必要があります。また、燃料の種類によっても細かく係数が分かれているため、入力ミスや係数の選択誤りに注意して算定しましょう。

以下の記事では、中小製造業向けにGHG排出量の算定方法や注意すべき点について、より詳しく解説しています。

ステップ4.報告書の作成・提出

計算が完了したら、結果を報告書にまとめます。大手企業から指定のExcelシートや専用のWebシステムが提供されている場合はそれに従いますが、独自の報告書を作る場合は、「算定期間」「算定範囲(境界)」「使用した排出係数の根拠」を明記しなければ、取引先からの信頼を得ることはできません。

このように、4つのステップそれぞれに専門的な判断や細かな実務が伴うため、自社だけで抱え込まず、算定の仕組み化や信頼性の担保のために、外部の専門家の力を借りるのも賢い選択肢です。

中小企業が効率的に対応するための解決策

大企業のように潤沢な予算やサステナビリティ専門の部署を持たない中小企業にとって、環境対応を通常業務と並行して行うのは簡単なことではありません。しかし、限られた人的リソースの中でも、つまずきやすいポイントを事前に把握し、外部の支援や制度を活用ことで、コストや手間は最小限に抑えられます。ここでは、限られたリソースで効率よく最大の効果を生み出すための、具体的な3つの解決策を紹介します。

自社算定で陥りやすい「3つのつまずき」の回避

初めての算定では、以下のような3つのつまずきやすいポイントに注意して、できるだけ正確な算定が行えるようにしましょう。

つまずき1.収集分類の壁(データの不足と分類ミス)

過去の電気料金の請求書やガソリンの領収書が一部見当たらない、また各エネルギーをScope1とScope2のどちらに分類すべきか判断に迷う、といった課題がよくあります。まずは経理や総務などの関係部署と連携し、エネルギー使用に関する請求書や検針票などのデータを漏れなく収集・集約できる社内体制を整えることから始めましょう。

つまずき2.算定の壁(排出係数の選択誤り)

必要なデータを収集できても、環境省などが公表している排出係数の選択を誤ると、算定結果が実態とかけ離れてしまう場合があります。毎年更新される最新の排出係数を環境省のホームページなどで確認する習慣をつけるほか、最新の係数が自動で反映される算定ツールの導入も検討しましょう。

つまずき3.妥当性の壁(計算結果の検証不足)

排出量を算定できても、その数値や算定方法が適切であることを客観的に示せなければ、取引先から十分な信頼を得られない場合があります。報告前には第三者の視点で内容を確認する体制を整えましょう。

このように、自社だけで「収集分類・算定・妥当性」の全てを完璧にこなすには多くのリソースが必要です。最近では、数値を入力するだけで自動計算してくれるクラウドツールを使用したり、専門知識を持った外部のサービスを賢く活用したりして、負担を減らしながら確実に対応を進める企業が増えています。

SBT認定取得による「取引先からの信頼」の向上

単に報告するだけでなく、客観的な信頼性を示す手段として、「SBT(Science Based Targets)」の認定を目指すこともおすすめです。SBT認定とは、パリ協定が求める水準に整合したGHG削減目標を設定していることを、国際的な機関が認定する制度です。SBT取得により他社との差別化を図ることができます。

取引先の大手企業がサプライヤー選定の基準に脱炭素を組み込む中、SBT認定を取得することは自社の環境対応を客観的に証明する最高の武器となり得ます。近年、Scope3の削減目標を掲げる大企業が増えており、その中にはサプライヤーに対して実際にSBT目標を設定するよう強く求めるケースが相次いでいます 。こうした背景から、SBT認定を取得することは、大手の取引先から「環境リスクのない、安心して長く付き合えるパートナー」として強力な信頼を勝ち取ることに直結します。

さらに、SBT認定には算定のハードルが低く設定され、特別な申請ルートで取得を目指せる「中小企業版SBT」も用意されています。以下の記事では、中小企業版SBT認定の要件や具体的な申請ステップについて詳しく解説しています。

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補助金活用や省エネ診断によるコストの最小化

「環境対策に回す予算がない」という場合は、公的な支援制度を積極的に活用しましょう。環境省や経済産業省、各自治体では、中小企業のGHG排出量算定や、省エネ設備(高効率空調やLED照明、太陽光発電設備など)の導入を支援する補助金を用意しています。

また、専門家が事業所を訪問し、エネルギーの使用状況や改善点を無料で診断する「省エネ診断」も実施されています。こうした支援制度を活用することで、排出量削減とコスト削減を同時に実現できる可能性があります。まずは、自社で利用できる補助金や支援制度がないか確認してみることをおすすめします。

補助金活用についてもっと詳しく知りたい方は以下の記事をご覧ください。環境省や経済産業省が公募している補助金制度について、目的別に紹介しています。

サプライチェーン排出量の報告要請をチャンスに変え、選ばれる企業へ

取引先からサプライチェーン排出量の報告を求められることは、一見すると手間やコストが増える「負担」に思えるかもしれません。しかし、競合他社が対応に戸惑っている今だからこそ、いち早く動き出し、正確なデータと前向きな削減姿勢を示すことができれば、それは自社にとって最大の武器になります。

まずは手元の電気やガス代の検針票、ガソリンの給油伝票を集めることから、最初の一歩を踏み出してみましょう。環境への取り組みを企業の新しい強みに変え、これからのグリーン経済の時代に「選ばれる企業」を目指していきましょう。

HELLO!GREEN

執筆:HELLO!GREEN編集部

HELLO!GREENでは、これから脱炭素経営に取り組む中小企業の皆さまに向けて、有益な情報を発信しています。環境省認定制度「脱炭素アドバイザー アドバンスト」にも認定されている 「炭素会計アドバイザー」資格を持つ専門スタッフの知見を活かし、わかりやすく信頼できる記事づくりに努めています。

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