初めての
脱炭素経営を
サポート!

デジタル製品パスポート(DPP)とは?EUと日本の環境戦略

脱炭素経営を始めるなら、まずは脱炭素の基本ガイドをチェック

「デジタル製品パスポート(DPP)」という葉を聞いたことはありますか?欧州(EU)で先行して導入が進むこの仕組みは、「海外との直接取引がないから自社には関係ない」と思っていても、サプライチェーンを通じて国内の部品メーカーや中小企業にも大きな影響を与える可能性があります。

本記事では、DPPの基本概念やEUでの規制背景をはじめ、日本政府が推し進める「資源自律経済戦略」の最新動向までを分かりやすく解説します。今後のグローバルな情報開示要求に向けて、企業が今すぐ着手すべき「データの見える化」の第一歩を確認していきましょう。

HELLO!GREENでは脱炭素経営の進め方に悩む中小企業さまに向けたお役立ち資料をご用意しています。ぜひご活用ください。
→資料を無料ダウンロードする

記事の要点
  • EUが先行して進めているDPPは、製品の原材料やリサイクル情報などを記録する電子証明書
  • 日本では資源自律経済戦略が進められており、2026年4月にはリチウムイオン電池などの再資源化に向け資源法が改正された
  • 日本企業は、まず自社のCO2排出量の見える化やSBTの取得から着手することが重要
目次

デジタル製品パスポート(DPP)とは?

デジタル製品パスポート(Digital Product Passport/DPP)とは、製品情報を電子的に記録した「製品の履歴書」のような証明書のことです。原材料の調達から製造、流通、使用、そして廃棄・リサイクルに至るライフサイクル全体を可視化し、製品のトレーサビリティ(追跡可能性)を確保することを目的としています。

ここでいうトレーサビリティとは、製品の栽培や飼育、加工、製造、流通などの過程を明確にし、後から追跡できる状態のことを指します。もともとは食品の安全確保のために発展した概念ですが、現在は環境負荷の低減や資源循環を目的に、工業製品やそれに付帯するサービスへとその対象が広がっています。

DPPには、製品の製造元、使用されている材料、リサイクル性、さらには修理のしやすさといった多様な情報が含まれます。これらのデータをサプライチェーン上の事業者や消費者、リサイクル業者などの関係者間で共有し、情報連携ができるようにすることで、資源の効率的な利用や廃棄物の削減を目指すのが大きな狙いです。

現在、このDPPのルール作りを世界に先駆けて推進しているのが欧州連合(EU)です。EUでは製品の持続可能性に関する情報開示義務を定める法制化がいち早く進められています。そのため、日本企業にとっても、EU市場へ製品を輸出する場合や、EU企業と取引がある場合には、製品規制の波に対応すべく、今後このDPPへの対応が必須となる可能性があります

なお日本国内でも、DPPの取り組みを進めている企業があります。循環経済パートナーシップ(J4CE)のホームページで紹介されているのは、アパレル・繊維業界の株式会社ワーキングハセガワと、ブロックチェーン技術を持つ株式会社chaintopeの共同開発の事例です。

■読み取り結果のイメージ図

読み取り結果
出典:循環経済パートナーシップ(J4CE)『日本初、医療ウェアにデジタル製品パスポート(DPP)を実装

データの正確さを守りながら、情報を分かりやすく届けるための仕組みが、次の図に示すシステム構成です。

■ハイブリッドDPP構成

ハイブリッドDPP構成
出典:循環経済パートナーシップ(J4CE)『日本初、医療ウェアにデジタル製品パスポート(DPP)を実装

このDPPシステムでは、回収された繊維製品が再び糸や製品に生まれ変わるまでの工程をブロックチェーンで記録し、製品に付与されたQRコードを読み取ることで、その循環のプロセスを可視化しています。

デジタル製品パスポート誕生の背景丨EUの環境対応の流れから読み解く

なぜ今、DPPが必要とされているのでしょうか。その背景には、EUが進めてきた野心的な環境戦略と、資源を使い捨てる従来の経済モデルに対する、強い問題意識が根底にあります。

1.始まりは「省エネ規制」

EUにおける環境を見据えた製品設計の枠組みは、「欧州エコデザイン指令(Ecodesign Directive)」から本格的に始まりました。この段階では、主に「製品を使用する際のエネルギー消費をいかに減らすか」という点に焦点が当てられています。例えば、家電製品の待機電力を削減するなど、エネルギー効率の向上が中心的な課題でした。

2.「使い捨て経済」への危機感

気候変動や資源枯渇の問題が深刻化する中で、単なる省エネだけでは不十分だという認識が世界中に広がりました。大量生産・大量消費・大量廃棄を前提とした「リニア(直線型)経済」から、資源を使い捨てずに循環させ続ける「サーキュラーエコノミー(循環型経済)」への転換が世界的な潮流となったのです。

日本の「循環型社会形成推進基本法」では、持続可能(サステナビリティ)な社会を実現するためには、製品が作られてから消費者の手に渡り、最終的に手放されるまでのあらゆる過程において、資源を無駄なく活用し、再資源化を進めることが急務であるとされています。

3.「エコデザイン規則(ESPR)」の誕生とデジタル製品パスポートの役割

こうした流れを受けて、EUで2024年7月に施行されたのが「エコデザイン規則(ESPR:Ecodesign for Sustainable Products Regulation)」です。これは従来の省エネ規制を大幅に強化したもので、EU域内で流通するほぼすべての物理的な製品を対象とする枠組み法です。

■持続可能な製品のためのESPRの概要

ESPRでは、製品の耐久性や再利用性、修理のしやすさに加え、素材のリサイクルの容易性や、ライフサイクル全体でのカーボンフットプリント(CFP)など、多岐にわたるエコデザイン要件が求められます。これらの要件を確実に実行・担保するための仕組みとして、製品にタグ付けを行い、循環性や持続可能性に関する製品データにリンクさせてデジタル上で情報管理・共有するのがDPPの役割です。

(参考:経済産業省『繊維製品における資源循環ロードマップの進捗』)

【参考】EUの経済的な影響力│ルールを輸出し、世界標準を主導する「ブリュッセル効果」

EUがこれほど強力にDPPを推進する背景には、単なる環境保護だけを目指しているわけではありません。「ブリュッセル効果」と呼ばれる、グローバル市場における「ルール形成」の主導権確保という側面があります。これは、EUが先行して厳格な規制を作ることで、そのルールを事実上の世界標準とする現象を指します。

世界中の企業はEU市場から排除されないためにEU基準に合わせるようになり、結果としてEUが世界のルール作りを主導し、域内企業の競争力を高めるという仕組みです。DPPもまた、持続可能な製品のあり方を世界に定義づけるという点から、EUにとって重要な足掛かりの一つと言えるでしょう。

企業はデジタル製品パスポートにどう対応すべきか

「自社ではEUとの取引がないから関係ないだろう」と考えるのは危険です。DPPはEUの規制ですが、サプライチェーンを通じて日本国内の部品メーカーや原材料サプライヤーにも、適切な情報提供や情報開示の要求が届き始めています。対応が遅れれば、グローバルな取引から取り残されるリスクがあります。

まずは「CO2排出量」の見える化から着手する

DPP対応の第一歩として最も重要なのが、データの可視化です。特に製品1個あたりの温室効果ガス排出量を示す「カーボンフットプリント(CFP)」の算出は、今後避けては通れない要件となります。これには自社だけでなく、原材料調達から廃棄までを含めたサプライチェーン排出量の把握、すなわちScope1・2・3の算定が不可欠です。

自社での燃料の燃焼による直接排出(Scope1)や、他社から供給された電気の使用に伴う間接排出(Scope2)など、まずは自社の製造工程における現状を数値で把握することから始めましょう。これが、将来的なDPP対応への土台となります。

国際基準「SBT」で、客観的な信頼を証明する

データの見える化と並行して検討したいのが、国際的な目標設定「SBT(Science Based Targets)」の認定取得です。SBTとは、パリ協定が求める水準に整合した科学的根拠に基づく温室効果ガス削減目標のことです。

SBT認定を受けることは、単なる環境貢献のアピールにとどまらず、「国際基準に準拠した信頼できるサプライヤー」であることの証明になります。DPPに代表される「情報の透明性」が求められる時代において、客観的な認定を取得していることは、大手企業との取引を維持・拡大し、脱炭素社会への貢献を証明するうえで強力な武器になるでしょう。

SBTを取得することのメリットについて、以下の記事で詳しく解説しています。

【中小企業向け】脱炭素経営に関する無料相談会開催中!
脱炭素経営の進め方がわかる資料を無料ダウンロードする

【日本の現在地】経済産業省が掲げる「資源自律経済戦略」

日本政府も、EUのDPPの動きを注視しつつ、独自の環境戦略を推進しています。その中核となるのが、経済産業省が2023年3月に策定した「成長志向型の資源自律経済戦略」です。これは、単に環境負荷を減らすためのコストとして環境対策を捉えるのではなく、資源を循環させること自体を新たなビジネスチャンスとし、中長期的な「経済成長」と両立させることを目指すものです。

主要な取り組みの一つが、これまで「ゴミ」として処理されていた廃棄物を、付加価値を生み出す重要な「資源」として捉え直し、国内で自律的に循環させるというものです。現在、法整備を含めた仕組みづくりが進められています。

■成長志向型の資源自律経済の確立のための政策措置:競争環境整備(規制・ルール)

例として挙げるのが、2026年4月の資源有効利用促進法(資源法)改正です。この法改正では、今後大量廃棄が見込まれるリチウムイオンバッテリーや太陽光電池(パネル)、さらにはベースメタルやレアメタルをはじめとする重要金属などを、国として再資源化を強力に進めるべき対象として明確に位置づけるなど、ルールの整備が加速しています。

日本は、EUのルールを一方的に受け入れる受動的な姿勢にとどまるべきではありません。長年培ってきた高度なリサイクル技術や、高品質なものづくりの強みを最大限に活かした日本独自の循環型モデルを構築することが重要です。それにより、世界に先駆けて新しい市場を創出することが期待されています。

デジタル製品パスポートの今後に注目。「データの見える化」から始めよう

EUで先行して法制化が進むDPPは、単なる欧州域内のルールにとどまらず、将来的に製品の環境価値や循環性を測るグローバルな指標となる可能性を秘めているデジタル証明書です。日本政府もこうした世界的な動きに呼応しており、廃棄物を資源として再活用する資源自律経済の確立に向けて、法整備やデータ連携の仕組みづくりを進めています。

EUでもDPPの本格的な義務化はこれからですが、企業としては「まだ先の話」と傍観するのではなく、今後のサプライチェーンからの情報開示要求に備えておく必要があります。情報の透明性が企業価値を左右する今の時代、まずは自社のCO2排出量を算出し、データの見える化に取り組んでみましょう。

HELLO!GREEN

執筆:HELLO!GREEN編集部

HELLO!GREENでは、これから脱炭素経営に取り組む中小企業の皆さまに向けて、有益な情報を発信しています。環境省認定制度「脱炭素アドバイザー アドバンスト」にも認定されている 「炭素会計アドバイザー」資格を持つ専門スタッフの知見を活かし、わかりやすく信頼できる記事づくりに努めています。

脱炭素経営にご興味のある方、
お気軽にお問い合わせください