【ポイント解説】SBTiとは。背景や運営機関、参加メリット、SBT認定について
- SBTiとは、企業などの温室効果ガス削減目標の設定を支援する団体のこと。
- SBTiは、「SBT認定」と「中小企業版SBT認定」の取りまとめをしています。
- SBTiに参加する=SBT認定を取得することにより、企業は「科学的根拠に基づいた脱炭素経営につながる」「取引企業が拡大する」などのメリットを得られます。
企業などの温室効果ガス削減目標の設定を支援する団体である、SBTi。科学的根拠に基づいた目標を明確にし、整合した設定ができるよう支援し、認定を行っています。
この記事では設立の背景をはじめ、SBTiとSBTの違い、認定している認証などを紹介します。SBT認定を目指す企業の担当者が押さえるべきポイントを解説していますので、最後までご覧ください。
SBTi(SBTイニシアチブ)とは
SBTi(SBTイニシアチブ、Science Based Targets Initiative)とは、科学的根拠に基づく温室効果ガス削減目標を企業が設定する際の支援をしている団体です。設立の背景と運営機関について、みていきましょう。
参考:環境省『SBT(Science Based Targets)について』
SBTi設立の背景
SBTi設立の背景には、2015年にCOP21(第21回国連気候変動枠組条約締約国会議)で採択されたパリ協定があります。パリ協定とは、世界共通の長期目標として、産業革命が始まる前の時代と比べて、地球の気温上昇を2℃より十分低く、できれば1.5℃以下にすることを目指す国際的な枠組みです。
また、パリ協定の合意内容に関する科学的根拠として、IPCC(気候変動に関する政府間パネル)は2018年10月に「IPCC1.5℃特別報告書」を発表。この報告書では、「世界の人為的なGHG排出量を、2030年までに2010年比で約45%減少させ、2050年までには実質ゼロにする必要がある」ことが示されました。
このような流れから、「2030年までに世界における温室効果ガス排出量を半減させ、2050年までにカーボンニュートラルを実現することが必要」と、世界各国は認識することに。とはいえ、企業が具体的な目標を適切に設定することは難しく、世界共通の基準もありませんでした。
そこで、科学的知見に基づいた目標を明確にし、整合した設定ができるよう支援、認定する団体として、SBTiが設立されました。
SBTiは4機関の共同運営
SBTiは、CDP、UNGC、WRI、WWFの4機関が共同で運営しています。それぞれの機関の概要は以下の通りです。
1.CDP
CDPは、英国で設立された国際NGOです。企業の気候変動、水、森林に関する世界最大の情報開示プログラムを運営しています。世界中の投資家や企業が、CDPが有する世界約23,000社の環境データに注目。740を超える機関投資家のESG投資(環境、社会、企業統治への取り組みという非財務情報を考慮して行う投資)の基礎データとして活用されています(2024年3月時点)。
2.UNGC(国連グローバル・コンパクト)
UNGC(国連グローバル・コンパクト)は、参加企業や団体に「人権」「労働」「環境」「腐敗防止」の4分野で、本質的な価値観を容認し、支持し、実行に移すことを求めているイニシアチブです。世界で約2万4000の企業・団体が加盟しており、日本の加盟企業・団体は597にのぼります(2024年3月時点)。
3.WRI(世界資源研究所)
WRI(世界資源研究所)とは、自然資源の持続可能性について調査・研究を行う国際的なシンクタンクのこと。調査・研究対象は、気候やエネルギー、食料、森林、水などです。温室効果ガス排出量の算定・報告に関する国際的な規準である「GHGプロトコル」の共催団体の一つです。
4.WWF(世界自然保護基金)
WWF(世界自然保護基金)は、世界約100カ国以上で活動する環境保全団体です。生物多様性の保全をはじめ、再生可能な資源の利用、環境汚染や無益な消費の削減を目指しています。
We Mean Business(WMB)の取り組みの一つとして実施
SBTiは、We Mean Business(WMB)の取り組みの一つとして実施されています。WMBとは、企業や投資家の温暖化対策を推進している国際機関やシンクタンク、NGOなどが構成機関となって運営しているプラットフォームのこと。
構成機関はこのプラットフォームを通じて連携しながら、「経済」「⾦融」「エネルギー」「輸送」「構築環境」「産業」「⼟地と環境」の7領域において、それぞれの取り組みを進めています。
参考:環境省『We Mean Businessの概要』
SBTiとSBTの違い
「SBTという言葉を聞いたことがあるけれど、SBTiとは違うの?」と疑問に思っている方もいるかもしれません。SBTiとSBT(Science Based Targets)の違いは以下になります。
SBTi | 企業などが科学的な根拠に基づく温室効果ガス削減目標の設定を支援する団体 |
SBT | SBTiが推奨する温室効果ガス排出削減目標 |
上で示したように厳密な意味は異なります。しかし、SBTiとSBTはそれぞれの意味を含めて、同じように使われることもあります。SBTiやSBTが使われている文章では、前後や全体の内容からどちらを意味しているのか判断するのが妥当といえるでしょう。
SBTについて補足すると、下のグラフはSBTの要件(最新版のバージョン5.0)に基づく温室効果ガス排出量削減の目標を示したものです。
SBT認定の申請において、申請時から5~10年先を目標年とし、サプライチェーン排出量は1.5℃水準を達成するために、平均すると1年に4.2%削減を目指していくことが必要です。
サプライチェーン排出量とは、部品の仕入れや、製品の製造、廃棄といった、一連の流れ全体における温室効果ガスのこと。計算は以下のとおりです。
サプライチェーン排出量=Scope1排出量+Scope2排出量+Scope3排出量
Scopeとは、サプライチェーン排出量を分類する3つの枠組みです。内容によってScope1、Scope2、Scope3に分けられます。
- Scope1:事業者自らによる温室効果ガスの直接排出(燃料の燃焼、工業プロセス)
- Scope2:他社から供給された電気、熱・蒸気の使用に伴う間接排出
- Scope3:Scope1、Scope2以外の間接排出(15カテゴリに分類)
SBTiが認定している認証
SBTiが認定している国際認証は、「SBT認定」「中小企業版SBT認定」の2つです。ここからは、それぞれについて、詳しく説明します。
参考:環境省『SBT(Science Based Targets)について』
1.SBT認定
SBT認定は、SBTiの認定基準を満たすように目標を定め、申請して目標が妥当と認定されれば取得できるものです。通常版SBTとも呼ばれます。
主な認定基準は、以下の通りです。
主な認定条件・基準
・企業全体の温室効果ガスが対象(子会社を含む)
・目標年は申請時から5〜10年以内
・Scope3排出量がサプライチェーン排出量の40%以上の場合、Scope3の削減目標の設定が必須
・Scope1とScope2では、産業革命前と比較して1.5℃以内に抑える削減目標(毎年4.2%の削減)が必要
・Scope3では、Scope3の排出量の2/3をカバーしたうえで、WB2℃の基準に合致した目標設定などが必要
申請費用は、USD9,500(外税)が必要です。また、承認には審査があり、場合によっては内容に関する質問が送られてくることもあります。
SBT認定の詳細については以下の記事で解説しています。サプライチェーン排出量についても述べていますので、参考にご覧ください。
2.中小企業版SBT認定
中小企業版SBT認定(中小企業向けSBT)とは、中小企業が取得できる温室効果ガス削減に向けた認定です。
主な認定条件・基準
・対象に条件がある
・目標年は2030年
・基準年は2018~2023年から選択
・削減対象範囲はScope1、Scope2排出量(初期段階)
・Scope1とScope2では、産業革命前と比較して1.5℃以内に抑える削減目標(毎年4.2%の削減)が必要
・Scope3:特定の基準値なし
申請費用は、USD1,250(外税)がかかります。承認にあたっては、デューデリジェンス(提出資料の精査)があります。
削減対象範囲や目標レベル、費用などを鑑みると、先ほど紹介した通常版SBTよりも、中小企業版SBTの方が申請・取得しやすいといえるでしょう。
中小企業版SBTについては、以下の記事で詳しく紹介しています。
SBTiに参加する企業のメリット
SBTiに参加する、つまり「SBT認定」「中小企業版SBT認定」を取得するためには、野心的な温室効果ガス削減目標を立てなければなりません。そのためには、排出量の算出が複雑だったり、工数が必要だったりといった課題もあります。
しかし、以下のようなメリットがあるため、SBTへの参加をおすすめします。
■SBTiに参加する主なメリット
- 科学的根拠に基づいた脱炭素経営に取り組みやすくなる
- ESG投資に有効
- 取引企業の拡大
- コストの削減
- イノベーションの創出に貢献
それぞれ詳しくみていきましょう。
メリット1.科学的根拠に基づいた脱炭素経営に取り組みやすくなる
SBT認定を取得することは科学的根拠に基づいた温室効果ガスの削減を目指すことになります。この動きは、企業が脱炭素経営を実現するのに役立ちます。脱炭素経営とは、気候変動問題に積極的に取り組み、温室効果ガスの削減などの対策を企業活動の一環として推進することです。
企業が環境問題改善に取り組むことは、これまでの認識ではCSR(企業の社会的責任)として重視されてきました。しかし、現在では環境の悪化が深刻な問題であり、企業にとって重要な経営課題となっています。SBT認定の取得は、脱炭素経営への取り組みを自ずと促進させ、企業の持続可能な成長につながります。
メリット2.ESG投資に有効
国内外で、ESG投資は拡大傾向にあります。環境問題が深刻化してきていることから、ESG投資は今後ますます注目されるでしょう。パリ協定に整合する目標へのコミットを求める投資家も多いため、SBTiに参加することで投資家からの信頼を得やすくなり、投資してもらいやすくなると考えられます。
メリット3.取引企業の拡大
温室効果ガス削減は、自社だけで完結できる取り組みではありません。対象となる排出量には、自社による直接排出だけでなく、原材料の調達や、従業員の出張や通勤、製品の使用や廃棄などの間接排出も含まれるためです。
気候変動リスクに高い関心を寄せる企業は、取引先企業にも具体的な取り組みを求める傾向があります。SBTiに参加することは、取引先企業の期待に応えることになり、ひいては取引企業の拡大につながるでしょう。
メリット4.コストの削減
SBTの各種認定取得は、コスト削減にも寄与します。例えば、SBT認定で掲げた目標を達成するために自社の省エネ対策に取り組めば、エネルギーコストの削減につながるでしょう。また、再生可能エネルギー調達のための太陽光パネルの設置には初期費用がかかるものの、数年単位でみればコストの削減になるというように、長期的な視点でのコスト削減につながることもあります。
メリット5.イノベーションの創出に貢献
SBTの削減目標は、「Scope1、Scope2/1.5℃、少なくとも年4.2%削減」と一筋縄ではいかない数値です。目標達成のためには、これまでにない技術やアイデアが必須であり、取り組みを進める中で、イノベーションが創出される可能性が大いに期待できます。
【Q&A】SBTi・SBTに関する質問についてお答えします
SBTi・SBTについて、基本的な項目を押さえながらひと通り説明してきました。ここでは、よくある質問にお答えします。
Q1.「FLAG」とは何ですか?
「FLAG」とは「Forest, Land and Agriculture」の頭文字をとったもので、森林、土地および農業を意味するSBTセクター(業種、グループ)です。
このセクターは気候変動の影響を最も受けているものの一つです。また、FLAG排出量は世界の温室効果ガス排出量のほぼ1/4 を占め、エネルギー部門に次ぐ排出部門でもあります。
SBTiでは、以下のセクターに対して、セクター別ガイダンスを用意しています。FLAGセクターは、2022年9月にガイダンスが公開されました。
セクター別ガイダンス公開後、遅くとも6か月経過しているものについては、該当するセクター別手法やガイダンスに示された目標設定の際の要求事項、最低限の削減水準を遵守する必要があります。
FLAG以外には、以下のセクターがあります(開発中のセクターもあり)。
- アルミニウム
- アパレル・履物
- 空運
- 建設
- 化学
- セメント
- 金融機関
- 通信
- 海運
- 電力会社
- 鉄鋼
- 陸運
Q2.SBT認定取得の準備が大変です。効率的な方法はありますか?
SBT認定取得に向けて、温室効果ガス排出量の算定が必須となります。場合によっては、間接的な排出量の算定も行わなければならず、作業には相当の工数がかかります。
自社だけで対応するのが難しい場合は、専門知識を有したサービス会社への相談をおすすめします。サービス会社によってサポート内容はさまざまですが、排出量算定のコンサルティングや申請代行などを行っているところもあります。
準備が大変だからと認定取得を諦める前に、サービス会社に相談してみましょう。
SBTiを理解し、地球と企業の持続可能な未来への一歩を踏み出しましょう
SBTiは、企業などの温室効果ガス削減目標の設定を支援する団体です。SBTiが認定している国際認証には、「SBT認定」「中小企業版SBT認定」の2つがあります。国際認証を取得することで、「脱炭素経営の実現」「取引企業の拡大」「コスト削減」などのメリットが期待できます。
取得準備を自社のみで進めるのが難しい場合は、専門サービスを利用するのも一案です。SBTiの取り組みを理解し、認定取得に向け準備を始めてみましょう。