脱炭素の鍵「グリーンスチール」とは?意味や動向・課題を解説

グリーンスチールとは、鉄鋼の製造過程で排出される温室効果ガス(CO2)を大幅に削減した環境配慮型の鉄鋼です。気候変動問題への対応が急速に求められる中、鉄鋼製造における脱炭素化はサプライチェーン全体の製造業や建設業において避けて通れないテーマとなっています。
これを読めば、グリーンスチールへの理解が深まり、社内での取り組みが進めやすくなるでしょう。
製造コストや原料確保といった普及に向けた課題、国内外の市場・政策動向についても解説していますので、ぜひご一読ください。
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- グリーンスチールは製造時のCO2排出量を大幅に抑えた革新的な環境配慮型鉄鋼材料です
- 本格的な普及に向け水素還元製鉄技術の開発や再生可能エネルギーのコスト低減が急務となっています
- 自社製品へ採用することでScope3排出量を大幅に削減し、企業の信頼性や価値を高められます
グリーンスチールとは?日本における定義と注目される背景
脱炭素社会の実現に向けて、あらゆる産業で温室効果ガスの削減が急務となっています。中でも「産業のコメ」と称される鉄鋼分野の脱炭素化は、日本全体のCO2排出量削減において極めて重要な鍵を握っています。
グリーンスチールの定義
グリーンスチールとは、鉄鋼製品を製造する過程で発生する温室効果ガス(CO2)の排出量を、大幅に削減して作られた鉄鋼材料の総称です。ビジネスの現場では別名「グリーン鉄」などと呼ばれることもあります。
また、日本では脱炭素に向けた経済社会システムの変革(GX:グリーントランスフォーメーション)を推進するための素材として「GXスチール」という言葉も登場しています。厳密な定義の違いはあるものの、これらは同義で使われる場面が多く見られます。
現時点では、国際的に統一された明確な法的定義は存在していませんが、環境負荷を低減させた次世代の素材として世界中で認知と期待が進んでいます。
従来の鉄鋼製造とグリーンスチールの違い
通常、鉄は自然界に存在する鉄鉱石(酸化鉄)から酸素を取り除く(還元する)ことで作られます。従来の鉄鋼製造では、この還元剤として石炭(コークス)を大量に使用する「高炉法」が主流でした。
しかし高炉法では、鉄鉱石を還元する際の化学反応によって大量のCO2が発生します。具体的には、1トンの鉄鋼を製造するために約2トンものCO2が排出されるといわれています。
一方、グリーンスチールでは、以下のような新たな技術を用いてCO2の排出を抑制、あるいは発生をなくすことを目指しています。
■CO2排出を抑制する主な製法技術
水素還元製鉄・カーボンリサイクル
直接還元製鉄(DRI)
電炉化(再生可能エネルギーの使用)
水素還元製鉄・カーボンリサイクルは、コークスの代わりに水素で還元し排出CO2を回収・再利用する技術です。直接還元製鉄(DRI)は、水素などで鉄鉱石を直接還元して電炉で溶かす製法で、抜本的な脱炭素を可能にします。電炉化は、鉄スクラップを再生可能エネルギー由来の電力で溶かして再資源化する手法です。いずれもCO2排出を抑える革新技術として期待されています。
■鉄鋼製造とグリーンスチールの比較表
| 項目 | 従来の鉄鋼製造(高炉法) | グリーンスチール(還元法・電炉など) |
|---|---|---|
| 主な還元剤・熱源 | 石炭(コークス) | 水素、再生可能エネルギー電力 |
| CO2排出量 | 非常に多い | 大幅削減 |
| 主な原料 | 鉄鉱石・石炭 | 鉄鉱石・水素・鉄スクラップ |
製造プロセスの転換は環境負荷を低減し、サプライチェーン全体の脱炭素化を強力に推進するための重要なステップとなります。
(参考:経済産業省『グリーンスチールに関する検討会』)
なぜ鉄鋼業界の脱炭素が注目されるのか
日本国内において産業部門はCO2排出量が大きく、日本国内の部門別排出量の3分の1を占めています。さらに産業部門のCO2排出量のうち、約4割を鉄鋼業が占めています。つまり、鉄鋼業界の脱炭素化が進まなければ、国全体の「2050年カーボンニュートラル」目標の達成は極めて困難です。
■産業部門からのエネルギー起源CO2排出量の業種別内訳

さらに、自動車や建設、家電など、鉄鋼を使用するあらゆる製造業の製品におけるサプライチェーン全体の排出量(Scope3)削減にも、グリーンスチールの活用が不可欠となっています。
(参考:環境省『温室効果ガス排出量及び吸収量算定結果』)
日本でのグリーンスチールの基準
前述の通り、グリーンスチールに関する基準は現在、国内外で統一されておらずバラバラな状況です。こうした中、日本においては経済産業省などが中心となり、評価や標準化に向けた議論が進められています。
現状、公的な基準の一つとして参考にされるのが、環境省が定める「グリーン購入法」における基準です。ただし、これは厳密にはグリーンスチール全般の普遍的な定義ではなく、公共調達において環境配慮型製品を選ぶための「GXスチール」に関する基準として位置づけられています。
製品ごとのCO2削減効果を適切に評価し、民間市場でも公正な価値が認められるような統一ガイドラインの策定が急がれています。
グリーンスチール普及に向けた課題【技術と費用の壁】
グリーンスチールは脱炭素化の強力な切り札である一方、本格的な社会実装に向けては解決すべき高いハードルが存在します。特に技術開発の難易度と経済性の両立が大きな壁となっています。
1.CCUS│産業レベルの技術確立が未到達
高炉から排出されるCO2を回収し、地中深くに貯留したり、化学製品の原料として再利用したりする技術を「CCUS(Carbon dioxide Capture, Utilization and Storage)」と呼びます。
既存の製鉄設備を活かしながら脱炭素を目指す上で大きな期待が寄せられていますが、まだ技術が産業レベルで確立されていないのが現状です。
大規模なプラントで安定運用するための実証実験や、回収・貯留にかかる巨大なインフラ設備の建設、さらには適切なCO2貯留地の確保など、本格稼働までには多くの課題が山積しています。
CCUSを含むカーボンリサイクルについては、以下の記事が参考になります。
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2.直接還元法(DRI)と電炉│グリーン水素と高品位の鉄鉱石の確保
コークス(炭素)の代わりに水素を利用して鉄鉱石を還元する「直接還元法(DRI)」は、CO2排出を抜本的に減らす製法として注目されています。還元された鉄はその後、電炉で溶かされて製品化されます。
しかし、この手法もCCUSと同様に、まだ技術が産業レベルで確立されていません。
さらに、水素には製造工程が複数あり、製造工程でCO2を出さない「グリーン水素」を使うことが望ましいのですが、グリーン水素は大量かつ安価に確保することが極めて困難です。加えて、この製法で高品質な鉄をつくるには、不純物の少ない「高品位の鉄鉱石」が必要不可欠であり、将来的な資源の争奪戦が懸念されています。
3.鉄スクラップ│スクラップ量不足と品質問題
電炉を用いて鉄スクラップ(鉄の廃材)を溶かし、リサイクルして鉄鋼を製造する方法は、高炉法に比べてCO2排出量を大幅に抑えることができます。
しかし、将来的に世界中で電炉への移行が進むと、原料となる鉄スクラップの絶対量が不足すると予測されています。
また、集められたスクラップには銅などの不純物が混入しやすく、製品の品質が下がってしまうという問題もあります。自動車のボディ向けなどの高級鋼を製造するためには、高度な不純物除去技術が求められます。
4.製造コスト│CO2を減らす工夫分がコストに上乗せ
グリーンスチール最大の課題ともいえるのが、製造コストの高さです。
高価なグリーン水素の調達、再生可能エネルギー由来の電力使用、そして新たな製鉄設備の導入など、CO2を減らす工夫分がそのままコストとして上乗せされてしまいます。
その結果、出来上がる鉄鋼製品の機能や品質は従来の鉄鋼と全く変わらないのに、価格だけが数十%以上高くなってしまうのです。激しい価格競争が繰り広げられる市場において、このコスト増加分を社会全体でどのように負担していくかが、普及に向けた大きな議論の的となっています。
グリーンスチール普及に向けた日本の対応
コストや供給面の制約に対処するため、政府および産業界は画期的な制度の導入や需要の意図的な創出を通じて、グリーンスチールの普及を強力に支援しています。
1.マスバランス方式・CFPの導入
完全な脱炭素鉄鋼を大量生産できるようになるまでの過渡的措置として、「マスバランス方式」が導入されています。これは、製造工程全体で削減したCO2排出量を特定の製品に集中的に割り当て、部分的に「CO2排出実質ゼロ」とみなす手法です。
■マスバランス方式のポイント
- 製造プロセスの切り替え途中でも環境価値を製品化可能
- 第三者認証を受けることで信頼性の高いグリーンスチールとして提供
また、製品のライフサイクル全体でのCO2排出量を示すCFP(カーボンフットプリント)を算出・開示することで、調達企業が環境価値を適切に評価できる環境が整えられています。
(参考:経済産業省『ライフサイクルアセスメント/カーボンフットプリント』)
2.GX率先実行宣言による需要創出
グリーンスチールの供給を増やすには、確実に購入してくれる市場(需要)が存在することが不可欠です。そこで政府は、「GX率先実行宣言」などの取り組みを通じて、公共工事や公的調達において環境配慮型素材を優先的に採用する方針を打ち出しています。
これにより初期の需要を担保し、企業が安心してグリーンスチール製造への投資を行えるエコシステムを構築しようとしています。
(参考:環境省『グリーン購入について』)
【参考】世界の市場・政策動向
グリーンスチールへの移行は、日本国内にとどまらず世界的な潮流となっています。特に欧州(EU)の動きが国際市場のルール作りに大きな影響を与えています。
EUでは、気候変動対策が不十分な国からの輸入製品に対して、事実上の関税を課す「炭素国境調整措置(CBAM)」の導入が進められています。鉄鋼もこの対象となっており、CO2排出量の多い従来の鉄鋼製品は、輸出時に高額なコストが課されるリスクが高まっています。
さらに、世界共通の基準が存在しない課題を解決するため、国際的な枠組みの中で「温室効果ガス排出量の測定手法の共通化」を目指す議論も活発に行われています。
企業がグリーンスチールを導入するメリット
高コストが最大の課題とされるグリーンスチールですが、早期に導入を進める企業にとっては単なるコスト増にとどまらない大きな経営上のメリットが存在します。
サプライチェーン全体の脱炭素化(Scope3削減)への貢献
自社の事業活動による直接的・間接的な排出(Scope1・2)の削減が進んだ企業にとって、次の大きな課題となるのが、原材料の調達や製品の使用・廃棄段階における排出量(Scope3)の削減です。
製品の主要部材である鉄鋼をグリーンスチールへと切り替えることで、このScope3の排出量を劇的に削減でき、サプライチェーン全体の脱炭素化に大きく貢献できます。これにより、顧客や取引先から求められる厳しい脱炭素基準をクリアすることが可能になります。
取引先から排出量の報告を求められた際の対応やリスクは、以下の記事で詳しく解説しています。
環境配慮型製品としての価値向上と信頼獲得
グリーンスチールを採用した製品は、「環境に配慮された持続可能な製品」としての付加価値を持ち、信頼獲得へとつながります。
■信頼獲得に向けたメリット
- 環境意識の高い購買層や取引先に対する強力なアピール
- ESG投資家からの高い評価獲得による資金調達面での有利化
競合他社に先駆けてグリーンな素材調達(グリーン調達)を実現することは、将来的な環境規制に対するリスクヘッジとなるだけでなく、ブランド価値の飛躍的な向上に貢献します。
関連する取り組みについては、以下の記事もあわせてご覧ください。
次世代の素材「グリーンスチール」と共に描く、脱炭素社会へのロードマップ
グリーンスチールは、単なる新しい鉄鋼材料ではなく、製造業や建設業の未来を左右する持続可能な社会実現のキーテクノロジーです。
製造コストや原料確保など普及への課題は残されているものの、政府の支援策や世界の潮流は確実にグリーンスチールの普及を後押ししています。自社のサプライチェーンの脱炭素化を進め、市場での優位性を確保するためにも、今からグリーンスチールの活用に向けた情報収集や調達戦略の検討を始めてみてはいかがでしょうか。
HELLO!GREENでは、これから脱炭素経営に取り組む中小企業の皆さまに向けて、有益な情報を発信しています。環境省認定制度「脱炭素アドバイザー アドバンスト」にも認定されている 「炭素会計アドバイザー」資格を持つ専門スタッフの知見を活かし、わかりやすく信頼できる記事づくりに努めています。