【賢く使う】カーボン・クレジットとは?企業が活用する際の留意点
- カーボン・クレジットとは、温室効果ガスの削減量・吸収量を取引する仕組みのこと。
- 取引方法は、「相対取引(当事者間で取引)」「カーボン・クレジット市場へ参加」の2つがあります。
- カーボン・クレジットの種類は多岐に渡り、政府や国際機関が運営するもの、民間団体によるものなどさまざま。公的な報告の際に使用したい場合は、購入前に使える種類か確認を!
カーボン・クレジット(炭素クレジット)とは、温室効果ガスの削減量・吸収量を取引できる仕組みです。「自社の削減量をカーボン・クレジットとして売れる?」「クレジットを買うメリットは?」など、売り手・買い手の双方でさまざまな疑問点があるでしょう。
今回は、カーボン・クレジットの売買を検討している方に向けて、基本的な知識も交えながら失敗しないためのポイントを解説しています。ぜひ取り組みにお役立てください。
カーボン・クレジットとは?
まずはカーボン・クレジットの基礎知識から。カーボン・クレジットの意味や、メリットについて紹介します。
温室効果ガスの削減量・吸収量を取引できる仕組み
カーボン・クレジットとは、温室効果ガスの削減量・吸収量を取引できるようにした仕組みのことです。つまり、温室効果ガスを削減した分をクレジットに変換して他社に売ることや、反対に他社から買うこともできます。
省エネ化や植林などの活動からクレジット創出
カーボン・クレジットを創出できる、温室効果ガスの削減(吸収)効果を生み出すものとして、以下のような活動があります。
■【例】カーボン・クレジットの創出活動
- 省エネ化(設備導入など)
- 太陽光発電の導入
- リサイクルの促進
- 植林
省エネ化の事例では、効率のよいボイラーを導入することによって、従来より燃料の使用量を減らす、といったプロジェクトが挙げられるでしょう。そのプロジェクトによってCO2排出量を削減した分が、クレジットとして創出されます。
カーボン・クレジット発行までの流れ
一般的なカーボン・クレジット発行までの流れとして、まず省エネ化や植林などのプロジェクトを行う企業・団体が、カーボン・クレジットの運営機関に申請を提出します。運営機関によって認証されると、その削減効果に見合ったクレジットが発行され、他社と売買取引ができるようになります。
企業にとってのメリットは「カーボン・オフセット」
カーボン・クレジットの購入メリットは、カーボン・オフセットができることです。
カーボン・オフセットとは、排出量を削減しきれず残ってしまった分を、他社からカーボン・クレジットを購入することなどで埋め合わせするものです。
■活用メリット
買い手 | 削減しきれなかった排出分の埋め合わせができる、企業のイメージアップ |
売り手 | 売却益を獲得できる、PR効果 |
買い手側は、カーボン・オフセットを行うことで、企業イメージを向上し、消費者や投資家にPRすることができるでしょう。
メリットは売り手側にもあり、クレジットの売却益が得られます。自社の取り組みが、カーボン・クレジットとしてさまざまな企業の目に触れるため、PR効果も期待できるでしょう。
以下の記事では、カーボン・オフセットの手順や注意点について詳しく紹介しています。
日本や海外のカーボン・クレジット
日本や海外のカーボン・クレジットには、さまざまな種類があり、どれがよいか決めかねている方もいるのではないでしょうか。代表的なものを分類すると以下のようになります。
■カーボンクレジットの分類と特徴
主導者 | 国連・政府(国際的、日本国内など) | 民間団体(環境保全団体など) |
---|---|---|
特徴 | 国や地域の義務や、排出量報告制度などの規制に基づいている | 運営団体で独自の認証基準を設けている |
クレジットの内容 | 温室効果ガスの排出削減量に関するクレジットが主流 | さまざまな環境問題の改善に関するクレジットがある(生物多様性の保全、海洋の保全など) |
それぞれについて、詳しく見ていきましょう。
国連や政府によるカーボン・クレジット
政府によるカーボン・クレジットは、国や地域の排出削減義務や、排出量報告制度などの規制・制度に基づいて取引されていることが特徴の一つ。このような規制に基づく仕組みは「コンプライアンス市場」とも呼ばれます。国連や政府が主導するカーボン・クレジットを、以下にまとめました。
■国際的なカーボン・クレジット
二国間クレジット制度(Joint Crediting Mechanism:JCM) | 先進国が優れた脱炭素技術や製品をパートナー国(途上国など)に提供し、その削減・吸収量に相当するクレジットを二国間で分け合う |
■国内のカーボン・クレジット
J-クレジット制度 | 環境省、経済産業省、農林水産省によって運営されている日本の認証制度。設立は2013年、省エネ化や農業に関するプロジェクトなどが登録されている |
地域版J-クレジット制度 | 上のJ-クレジット制度の基準に沿って、日本の地方公共団体が運営する制度 |
カーボン・クレジットと、J-クレジットの違いがわかりにくい方もいるかもしれません。カーボン・クレジットは仕組みの総称であり、多種多様な世界のクレジットが含まれます。J-クレジットは、日本において国が認証するカーボン・クレジット制度の一つです。
民間団体によるカーボン・クレジット
民間企業やNGOなどが設立、運営しているカーボン・クレジットもあります。政策的な制約がなく、生物多様性の保全など、排出量削減・吸収以外に、さまざまな環境問題の改善にスポットを当てたプロジェクトがあることも特徴の一つです。
■民間団体によるカーボン・クレジット
Verified Carbon Standard(VCS) | 2005年、WBCSDなど民間企業なども参加する国際的な団体が設立した認証基準・制度。森林、土地活用や、湿地保全などのプロジェクトが実施されている |
Gold Standard(GS) | 2003年、WWF(World Wide Fund for Nature)などの国際的な環境保護団体が設立。再生可能エネルギーや消費側でのエネルギー効率向上に関するプロジェクトを扱う |
Jブルークレジット | ジャパンブルーエコノミー技術研究組合が運営する、日本のクレジット制度。海洋の保全などに関するプロジェクトを扱う |
民間認証のカーボン・クレジットは「ボランタリー・クレジット」と呼ばれます。ボランタリー・クレジットは、環境保護団体などが、プロジェクト審査や認証済みクレジットの紹介を行っています。
Jブルークレジットについては、以下の記事で詳しく紹介していますので、参考にご覧ください。
J-クレジットの売買方法
カーボン・クレジットには多くの種類があることがわかりましたが、日本の代表的なカーボン・クレジットといえばJ-クレジット制度が挙げられるでしょう。クレジットの売買方法の例として、同制度の売買方法を紹介します。
J-クレジットの売買方法には、「相対取引」と「カーボン・クレジット市場」での取引があります。
方法 | 相対取引 | カーボン・クレジット市場 |
---|---|---|
ポイント | 主に当事者間で自由に条件を定めて取引する | 取引所で定めたルールに沿って取引する |
注意点 | 取引相手を見つけるのが難しい、内容が不透明 | 個別にプロジェクトを指定できない |
J-クレジットは、「相対取引」が主流です。この取引において注意しなければならない取引相手や仲介者を探す手間や取引内容の不透明さについては、J-クレジット制度のホームページで、売り出しクレジットの一覧を掲載するなど対策をとっています。売り手買い手ともに活用しやすいよう、売買のマッチングを支援しているのですね。
活性化に向けて東京証券取引所が開設したのが「カーボン・クレジット市場」です。株式取引のように、取引所のシステム上で売り注文・買い注文を出して売買します。
取引はカーボン・クレジットの区分ごとに行われ、スムーズに進められる一方、買い手はどこから捻出されたクレジットなのかを個別に特定できないといった一面も。カーボン・クレジット市場は2023年10月にスタートしたばかりの取り組みで、今後ルールや内容が変更する可能性もあるため最新情報を確認しておきましょう。
参考:J-クレジット制度『クレジット売買』
カーボン・クレジットの平均価格
2019年~2022年における、日本や世界の代表的なカーボン・クレジットの平均価格は、以下の通りです。
■種類別の平均価格(USD/tCO₂)
対象エリア | カーボン・クレジットの種類 | 2019年 | 2020年 | 2021年 | 2022年 |
---|---|---|---|---|---|
日本 | J-クレジット制度(再エネ発電) | 16.8 | 19.8 | 20.8 | 24.8 |
J-クレジット制度(省エネ他) | 13.4 | 13.5 | 13 | 12.1 | |
全世界 | Verified Carbon Standard(VCS) | 3 | 1.6 | 4.2 | 9.1 |
Gold Standard(GS) | 4 | 5.3 | 3.9 | 8.4 |
※主要なボランタリークレジットの取引価格に関する情報が入手可能な2019~2022年のデータを整理
※J-クレジット制度の2019、2022年の取引価格については、該当年の年間平均為替を用いて円のデータをUSDに換算
カーボン・クレジットは「運営機関」「創出プロジェクトの種類」「需要量と供給量のバランス」など、さまざまな要因で価格が決定します。近年、J-クレジット制度は、再生可能エネルギー由来の電力に関するクレジットの需要が高い傾向にあり、価格も上昇しています。
参考:J-クレジット制度事務局『J-クレジット制度について(データ集)』
ベースライン・アンド・クレジット方式とキャップ・アンド・トレード方式の違い
さまざまなクレジットを含むカーボン・クレジットですが、取引の考え方に着目するのが理解を深めるポイントです。この取引の考え方は「ベースライン・アンド・クレジット方式」「キャップ・アンド・トレード方式」の大きく2つに分けられます。それぞれについて詳しく見ていきましょう。
排出削減量に基づくベースライン・アンド・クレジット方式
■ベースライン・アンド・クレジット方式
排出削減に向けたプロジェクトを立案→削減できた分をクレジット化
ベースライン・アンド・クレジット方式は、省エネ設備の導入などによって排出を削減できた分をクレジットとして扱う考え方です。つまり、CO2削減プロジェクトの実行によって排出量を減らせれば、その分をクレジット化できます。
なお、今回の記事で紹介している内容は、主にベースライン・アンド・クレジット方式に該当します。
定められた排出枠に基づくキャップ・アンド・トレード方式
■キャップ・アンド・トレード方式
決められた排出枠より実際の排出量が下回る→余った分をクレジット化
キャップ・アンド・トレード方式は「排出権取引」や「排出量取引」などともいわれます。この制度は、前提として政府などが各企業に対して「この量まで排出してよい」という上限を定めた排出枠(排出権)を割り当てます。企業は削減努力をし、排出量を排出枠に収め、余った分をクレジット化。これを、排出枠を超過した他社に売ることができる考え方です。
実際に、EUや韓国などの海外や、国内では東京都と埼玉県で導入されています。
カーボン・クレジットで失敗しないための3つの留意点
カーボン・クレジットの活用を検討する際、押さえておきたいポイントをまとめました。
カーボン・クレジットと証書は根本的に違う
削減努力をしても減らしきれない排出量を調整したいと考える際、「カーボン・クレジットと証書のどちらがよいか」と迷っている方はいませんか?カーボン・クレジットと証書の用途は似ていますが、根本的な違いがあります。
■カーボン・クレジットと再エネ証書の違い
カーボン・クレジット (ここでは排出量削減に関するカーボン・クレジットを想定) | 再エネ証書 (非化石証書や、民間事業者により管理されるグリーン電力・熱証書) | |
---|---|---|
証明する対象 | 従来方式による排出量(見込み)と比べ、プロジェクトによって削減できた量を認証する | 電気(熱)について「いつ・どこで・どのような方法で」作られた電力(熱)なのかを、証明する |
購入メリット | 削減しきれない自社の排出量を、購入したクレジットで埋め合わせできる | 自社が使用した電力(熱)について、調整後排出量の算定時や、ゼロエミ化に使⽤できる |
カーボン・クレジットは、温室効果ガスの削減量・吸収量に応じて発行され、さまざまな排出のオフセットに使えるものです。
一方、再エネ証書は、再エネ由来などの電気がもつ付加価値を表すものです。もともとは、発電事業者や小売電気事業者が取引していましたが、後から一般企業などの需要家も買えるようになり、購入した電気に付加価値をつけられるようになりました。
公的な報告の際にカーボン・クレジットを使いたい場合は、使用できる種類かどうか確認しておくことが重要です。一例として、温対法での報告書では、「J-クレジット」「国内クレジット」「JCMクレジット」の使⽤を認めています。
流通する量や価格の予見性が低い
カーボン・クレジットは、確保できる量や、「いくらで売れるか」など価格の見通しを立てにくいことがデメリットです。予見性が低く、売り手と買い手の双方にとって計画的に活用しにくい理由の一つになっています。
個人での取引は可能だが、現状は少数
カーボン・クレジットの個人取引は、日本においてまだ少数であるのが現状です。カーボン・クレジットを個人の資産運用に利用したい場合は、まだ発展途上の領域であることに注意しましょう。
ただし、2022年11月21日~2023年6月30日の期間で、個人6名がJ-クレジットを取得したとの発表もあります。個人取引できるプラットフォームも出てきており、今後、個人取引が活発化する可能性もあるでしょう。
参考:PR TIMES『日本で初めて個人がカーボンクレジット「J-クレジット」を個人の資産運用目的で取得・保有しました。』
ビジネスにおける日本企業のカーボン・クレジット活用事例
企業にとっては、カーボン・クレジットが実際にはどのように活用されているのか、気になるところです。日本企業のカーボン・クレジット活用事例を紹介します。
【活用事例】乗客のカーボン・オフセットに使用
・移動時のCO2排出量をカーボン・オフセットできるプログラムを導入
・乗客が自主的に利用できるカーボン・クレジットを用意
全日本空輸株式会社では、乗客が飛行機で移動する際のCO2排出量を計算し、カーボン・オフセットできるプログラムを導入。国内外の植林プロジェクトに関するクレジットを活用しています。
【活用事例】エネルギーの自給によるクレジット創出
・ゴルフ場の整備で出た間伐材を活用
・人感センサー付きエアコンの導入
株式会社ファイブエイトゴルフクラブでは、バイオマスボイラーを導入。間伐材を利用してエネルギーの自給を実践しています。また、センサー付きで高効率のエアコンも導入。これらの取り組みが評価され、カーボン・クレジット創出を実現しました。地域住民や、環境意識の高いゴルファーへのアピールにもなっています。
参考:経済産業省『カーボン・クレジット・レポート』
参考:J-クレジット制度『ゴルフ場がバイオマスボイラーと高効率エアコンの導入でCO2を年間約146t削減』
カーボン・クレジットの取引も検討しながらCO2削減に取り組もう!
削減努力をしても温室効果ガスの排出を避けられない企業にとって、救済措置ともいえるカーボン・クレジット。企業活動と環境保護活動との資金循環を作る仕組みで、日本でも利用するケースが増えてきています。
カーボン・クレジットを利用する際には、再エネ証書との違いや、取引量や価格の変動リスクについても理解しておくことがポイントです。削減目標の達成に向け、クレジットの活用も視野に入れて取り組んでみてはいかがでしょうか。