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非化石証書の仕組みや価格をわかりやすく解説!他の手段との比較付き

目次
記事の要点
  • 非化石証書とは、化石燃料(石油など)を使わずに発電した電気の、環境価値を証書化したもの。
  • 年4回、日本卸電力取引所(JEPX)によるオークション形式で取引されています。
  • 非化石証書の購入は、RE100の目標達成や温対法の遵守にも有効。企業にとって手軽な再エネの導入手段といえます。

非化石証書とは、化石燃料(石油など)を使わずに発電した電気の、環境価値を証書化したものです。RE100などへの参加や、日本の温対法の報告書などで「電気のCO2排出量を調整したい」と考える企業にとって、非化石証書の購入は有効な手段の一つでしょう。

今回は、非化石証書を初めて利用する企業の方に向けて、非化石証書とはどのようなものか、制度の全体像をわかりやすく解説します。他の手段と比較検討した内容も載せていますので、自社の状況にあった最適な方法を選ぶためにお役立てください。

非化石証書とは?

非化石証書とはどのようなものか、意味や役割を解説します。

再生可能エネルギーなどの「環境価値」を証書化したもの

非化石証書は、再生可能エネルギーなどのCO2を排出しない「非化石電源」から作られた電気が持つ、環境的な付加価値を証書化したものです。

非化石証書の仕組み

ポイントは、実際に作った電気と切り離して、環境価値だけ証書化し、取引することです。温対法での報告書のほか、CDP、SBTなどにおいては、化石燃料由来の電気を使っていても、太陽光発電の非化石証書を購入すれば、制度上は太陽光で発電した電気を利用していると見なします。

このような仕組みを利用して、電気小売事業者は販売する電気に購入した証書の価値をのせて、環境にやさしいエコ電気メニューなどとして売っています。

非化石証書と「グリーン電力証書」「J-クレジット」の違い

非化石証書と似た役割をもつものとして、「グリーン電力証書」「J-クレジット」があります。これら3つの「なにが違うのか?」が気になっている方もいるでしょう。それぞれの違いを比較すると以下のようになります。

種類非化石証書グリーン電力証書J-クレジット(再生可能エネルギー)
環境価値の由来非化石電源の電力再生可能エネルギー由来の電力CO2排出量を削減した分
認証主体一般財団法人日本品質保証機構(JQA)
購入者・小売電気事業者
・需要家
・需要家・小売電気事業者
・J-クレジットの売買を仲介している事業者
・需要家

※需要家=電力会社と契約して電気を購入・使用している一般企業

グリーン電力証書との違い

グリーン電力証書の対象となるのは、太陽光や風力など再生可能エネルギーによって発電された電力のみです。一方、非化石証書は化石燃料を使っていない全ての電力を対象とします。

つまり、再エネ電力は非化石証書とグリーン電力証書のどちらでも証書を発行できます。一方で、原子力発電による電力は非化石証書のみの発行となります。

J-クレジット(再生可能エネルギー)との違い

J-クレジットには、植林や省エネ由来などもありますが、なかでも非化石証書との違いがわかりにくいのが、再生可能エネルギーのプロジェクトから創出されたJ-クレジットでしょう。

非化石証書とJ-クレジットの違い
参考:経済産業省『カーボン・クレジット・レポート』を加工して作成

J-クレジットの場合は、再生可能エネルギーを使って発電することで、従来よりCO2排出量を減らせた分がクレジットとして発行されます。一方、非化石証書は、非化石電源による発電量そのものに対して証書が発行されます

トラッキング付き非化石証書について

「トラッキング付き」という言葉を聞いたことはありませんか。トラッキング付き非化石証書とは、どこでどのように作られたかという電力の属性情報が付いている非化石証書です。2024年度から、全非化石証書においてトラッキングの付与が可能になっています。

もともと非化石証書のトラッキング情報は、公開されていなかった!?

当初、非化石証書は小売事業者が購入するもので、高度化法の義務履行を後押しする仕組みとして作られました。その際「どこの発電所で作ったのか」など、非化石証書のトラッキング情報は公開されずに売られることが一般的でした。

しかし、電気を使用している一般企業も非化石証書を直接購入できるようになると、トラッキング化(トラッキング情報を付けること)が要求されるように。このような流れから制度の見直しが行われ、2021年にFIT非化石証書を全量トラッキング化。2024年度分から、非FIT非化石証書もトラッキング付与を希望できるようになっています。

※高度化法=「エネルギー供給構造高度化法」のこと。電気事業者に対して、非化石エネルギー源の利用の促進を義務付けている。2009年制定

※FIT=「再生可能エネルギーの固定価格買取制度」のこと。再生可能エネルギーで発電した電気を、国が決めた価格で買い取ることを電力会社に義務付けている。非化石証書の種類については、次章に詳細あり

非化石証書の種類

非化石証書は、発電の方法などによって大きく3つに分かれます。各分類の違いを表にまとめました。

各証書の対象

再エネ指定指定無し
FIT非化石証書非FIT非化石証書非FIT非化石証書
FIT電源(太陽光、風力、小水力、バイオマスなど)非FIT再エネ電源(大型水力、卒FITなど)非FIT非化石電源(原子力など)

このうち、電気を使用している一般企業が購入できるのは、FIT電源による「FIT非化石証書」のみです。そのほかは、小売電気事業者の購入対象となります。

非化石証書の取引市場の仕組み

取引市場は、非化石証書のFIT・非FITの種類によって、「再エネ価値取引市場」と「高度化法義務達成市場」の2つに分けられています。

取引市場取引対象購入者
再エネ価値取引市場FIT小売電気事業者、需要家
高度化法義務達成市場非FIT小売電気事業者

需要家である一般企業は、再エネ価値取引市場で取引できます。以下は、取引の仕組みを示したものです。

再エネ価値取引市場の仕組み

FIT電気事業者から対象となる電気の買い取り量について報告を受けたものは、低炭素投資促進機構(GIO)を介し、JEPXで非化石証書が売りに出されます。

非化石証書の購入方法

非化石証書は、日本卸電力取引所(JEPX)によるオークション形式で取引されます。取引はマルチオークション方式のため、市場の状況によって価格が変動することが特徴です。

ただし、FIT非化石証書は、国によって最低入札価格が決められており、それ以下の価格では購入できない仕組みです。

※マルチオークション方式=売り手が値段を決めず、買い手が欲しい値段を提示して取引する方法

オークション実施は年4回

オークションは、年4回実施されています。以下は2023年~2024年のスケジュールです。

FIT・非FIT非化石証書のオークション・スケジュール

第1回第2回第3回第4回
2023年8月2023年11月2024年2月2024年5月
参考:経済産業省『非化石価値取引について

例年、上記の月にオークションが開催されています。日時など詳細は一般社団法人日本卸電力取引所のホームページで確認しましょう。

非化石証書の価格

再エネ価値取引市場で取引されているFIT非化石証書の、2021年~2024年の価格推移をみてみましょう。

再エネ価値取引市場での価格と約定量の推移
参考:経済産業省『非化石価値取引について』を加工して作成

2021年~2024年の約定加重平均価格は横ばいで、最低価格水準(0.4円/kWh)となっています。

※加重平均価格=項目別に重みも加味して計算した平均値

【対策一覧】企業の再エネ導入手段

証書を購入する以外にも、企業が再生可能エネルギーの価値を得る手段はさまざまあります。以下の表にまとめました。

■企業の再エネ導入手段

1証書などの購入・非化石証書
・グリーン電力証書
・J-クレジット(再エネ由来)
2敷地内での太陽光発電の導入建物屋根への導入(購入・リース・オンサイトPPAなど)
3敷地外での太陽光発電間接型オフサイトコーポレートPPAなど
4再エネ電力メニューへの切り替え太陽光発電、水力発電由来の電力メニュー

近年では、環境に配慮した電気を安定的に調達するために、コーポレートPPAという契約方式が注目されています。上の表3にある、間接型オフサイトコーポレートPPAもその一つです。

この方式には、再生可能エネルギーで作られた電気を直接購入する「フィジカルPPA」と、通常の電力との価格差を支払って再生可能エネルギーの価値を購入する「バーチャルPPA(VPPA)」という2つの種類があります。

※PPA=電力会社と電気の需要家(企業や事業所など)との間で結ばれる「電力購入契約」のこと

※オンサイトPPA= 電力会社が需要家の屋根を借りて、そこに太陽光発電パネルを設置し、発電した電気を需要家に直接供給する方法

※間接型オフサイトコーポレートPPA=企業が、発電事業者と直接、電力契約を結ぶ仕組み。種類によっては電力のやりとりはなく、環境価値のみが取引される場合もある

非化石証書を購入するメリットは?

非化石証書には、社会全体のメリットとして、以下のようなものがあります。

非化石証書の社会的メリット

  • 再生可能エネルギーなど「非化石電源による電力の普及・拡大」
  • FIT制度における「再エネ賦課金の国民負担軽減」

再エネ賦課金とは?
再生可能エネルギー発電促進賦課金の略称。太陽光発電など、再生可能エネルギーで発電された電気を一定価格で買い取る「固定価格買取制度(FIT制度)」の費用を賄うためのお金です。電気料金に含まれるため、電気を使用する全ての人が負担しているものです。再エネ賦課金にFIT非化石証書の売り上げを活用することで、国民負担の軽減につながります。

この社会的メリットに加えて、非化石証書を購入する企業にもメリットがあります。ここからは、一般企業が非化石証書を購入するメリットを3つ紹介します。

メリット1.RE100の目標達成や温対法の遵守に有効

各種イニシアティブや制度のなかには、非化石証書を排出量の報告で使用できるものがあります。例えば、RE100や温対法では以下のように使えます。

非化石証書の活用法

RE100報告書で実質再エネの主張ができる
温対法CO2排出量の調整に使用できる

※RE100=2014年に結成された、事業を100%再エネ電力で賄うことを目標とする企業連合。非化石証書をRE100で活用するためには、トラッキングが付与されている必要がある

メリット2.短期的に再エネを取り入れる手段として有効

長期的な計画のもと、コストをかけて土地や発電設備などを準備する方法と比べると、非化石証書は短期的に再エネを取り入れられるメリットがあります。

非化石証書と同じく、再エネ電力メニューへの切り替えも手軽な方法ですが、電気を使用する事業所や工場が全国、または海外に複数ある場合、拠点毎に契約を変更する手間がかかるでしょう。

将来的に再生可能エネルギーを使う準備を進めつつ、実際に電力を賄えるようになるまでは非化石証書の購入によって補うのも一案です。

メリット3.環境に配慮する企業としてのブランド価値を高められる

非化石証書を購入し、カーボンニュートラルやCO2削減をアピールすることで、企業のブランド価値を高められることもメリットでしょう。近年、ESG投資が注目されており、企業が環境に取り組むことの重要性も増しています。

投資家や消費者からの評価につなげるためにも、中長期・短期の対策を組み合わせながら、脱炭素経営を推進していくことが必要です。

※ESG投資=企業の業績だけでなく、環境(Environment)、社会(Social)、企業統治(Governance)への取り組みを評価して投資を判断すること。2006年、国連が投資家に対し、ESGの要素を考慮した投資を求める「責任投資原則(PRI)」を提唱したことで、欧米を中心に関心が高まっている

参考:環境省『エコジン

【Q&A】非化石証書のよくある質問

ここからは、非化石証書の購入に関してよくある質問にお答えしていきます。

会計処理は?非化石証書の税務上の取り扱いが知りたい

経済産業省の『非化石価値取引市場について』によると、電気小売事業者の場合の非化石証書の会計処理は以下のようなものです。

会計処理の方法(FIT非化石証書を電気小売事業者が購入する場合)

非化石証書の取得資産(流動資産)に計上する
非化石証書の償却電気販売のタイミングで費用化する

同資料で、電気を購入・使用している一般企業の場合も、非化石証書の税務上の扱いは「大きく変わるものではない」と述べています。

参考:経済産業省「非化石価値取引市場について

非化石証書に有効期限はある?

非化石証書は、年度毎の価値となります。その年度以外は使えません。各種報告書などで使いたい場合は注意しましょう。

非化石証書は転売禁止?

非化石証書の転売は禁止となっています。小売電気事業者におけるバランシンググループ(代表契約者制度)の親が購入したものを、同じバランシンググループの子に分配することも認められていません。

本当に再エネ電力の普及に貢献している?制度見直しを求める声も

非化石証書の本来の役割は、太陽光や風力といった再生可能エネルギーで発電された電力の環境価値を証明し、企業の脱炭素化目標達成に貢献することです。

しかし、日本では再生可能エネルギーのほかに、放射性廃棄物などの問題が指摘されている原子力発電もまとめて非化石電源とし、証書を発行しています。国際的に通用する証書として機能するためにも、制度の刷新が求められています。

非化石証書も活用しながらカーボンニュートラルを実現しよう

電気小売事業者だけでなく、一般企業も購入できるようになった非化石証書。再エネ導入手段のなかでも手軽で、短期的な目標の達成や排出量の調整に有効です。長期的なエネルギー移行計画を見据えつつ、非化石証書などの手段も組み合わせて脱炭素経営を着実に実現していきましょう。