【わかりやすく解説】ボランタリークレジットとは?価格や注意点
- ボランタリークレジットとは、民間団体が独自に認証や発行などの運営をしているカーボン・クレジットのこと。
- VCS、GS、ACR、CAR、Jブルークレジットなどさまざまな種類があり、対象分野や認証基準が異なります。
- 各種制度やイニシアティブによって、ボランタリークレジットの扱いが異なる点に注意しましょう。
カーボン・クレジットにおける分類の一つであるボランタリークレジットは、NGOや民間企業など民間団体の主導のもと、認証・発行されています。カーボン・オフセットや、CO2排出量を報告する際に、利用を検討している企業も多いのではないでしょうか。
今回は、ボランタリークレジットの代表的な種類や特徴、価格について紹介します。グリーン電力証書やJ-クレジットなどとの違いについても詳しく解説しますので、自社で利用するとしたらどの手段がよいかを検討する際にお役立てください。
ボランタリークレジットとは?
ボランタリークレジットとはどのようなものでしょうか。他のクレジットとの違いも含め、概要を紹介します。
NGOや企業など民間が認証・販売する、カーボン・クレジットの一つ
ボランタリークレジットとは、カーボン・クレジット全体における分類の一つです。カーボン・クレジットとは、温室効果ガスの排出削減量(吸収量)をクレジット化して、取引できるようにしたものです。
カーボン・クレジットのうち、民間団体が独自に認証や発行などの運営をしているものをボランタリークレジットと呼びます。
「コンプライアンスクレジット」との違い
ボランタリークレジットに対して、コンプライアンスクレジットという言葉があります。上の図からもわかるように、コンプライアンスクレジットもカーボン・クレジットに含まれます。
この2つの違いを以下にまとめました。
■ボランタリークレジットとコンプライアンスクレジットの違い
分類名 | ボランタリークレジット | コンプライアンスクレジット |
---|---|---|
主導している機関 | 民間団体 | 国連、国の政府など |
主な制度名 | ・VCS(Verified Carbon Standard) ・GS(Gold Standard) ・ACR(American Carbon Registry) ・CAR(Climate Action Reserve) ・Jブルークレジット など | ・二国間クレジット制度(JCM) ・J-クレジット制度 など |
コンプライアンスクレジットとボランタリークレジットの大きな違いは、主導機関が異なることです。国連や政府が主導しているコンプライアンスクレジットは、規定や政策など、一定の規制のもとに運営されています。
これに対して、ボランタリークレジットは、各団体における独自の基準に基づいて運営されています。
参考:経済産業省『カーボン・クレジット・レポートの概要』
参考:みずほリサーチ&テクノロジーズ『今、注目を集める、ボランタリー・クレジット~4 つのメガトレンドと、今後の行方を解説~』
「グリーン電力証書」「非化石証書」との違い
自社のCO2排出の埋め合わせを行いたい場合、「グリーン電力証書」や「非化石証書」を検討している企業もあるでしょう。ボランタリークレジットとの違いや適切な使用法について説明します。
種類 | ボランタリークレジット | グリーン電力証書、非化石証書 |
---|---|---|
環境価値の由来 | CO2を削減(吸収)した分など | 再生可能エネルギーなどによって発電された電気の量 |
温対法の報告(排出量の調整)での使用 | 不可 | 可 |
「グリーン電力証書」や「非化石証書」は、主に太陽光や風力などの再生可能エネルギーで作った電気の環境的な価値を証明するものです。非化石証書は日本卸電力取引所が、グリーン電力証書は証書発行事業者が発行しており、実際に作った電気とは切り離して売却される仕組みです。例えば、化石由来の電源で作った電気を使用していても、非化石証書などを購入すれば環境価値を得られ、温対法の報告でも使用できます。
一方、ボランタリークレジットは、主に植林や技術革新などのプロジェクトのCO2削減効果によって創出されます。ボランタリークレジットの購入は、現時点で日本では企業の自主的な取り組みという位置づけです。温対法の報告では排出量の調整に使えず、別枠でボランタリークレジットの取得を報告する形になります。
ボランタリークレジットはこんな企業におすすめ!
企業のボランタリークレジットの購入目的とはどのようなものでしょうか。自社のニーズとマッチしているか、確認しておきましょう。
グローバルな環境への取り組みをアピールしたい
ボランタリークレジットには、国際的な排出削減プロジェクトから創出したクレジットを扱っているものがあります。これらを購入・支援することで、グローバルな企業イメージや国際的な貢献をアピールすることもできるでしょう。
広い視野で環境保全を支援できるクレジットを選びたい
J-クレジットなど、国が運営するクレジットは国が決めたルールに基づいて認証を行っています。一方、ボランタリークレジットには、より多様な環境問題に目を向けたものがあります。
ボランタリークレジットは、幅広い分野から、自社の事業や理念にマッチした環境保全プロジェクトを選べることがメリットといえるでしょう。
ボランタリークレジットの種類
代表的なボランタリークレジットを5つ紹介します。
種類 | 概要 |
---|---|
VCS(Verified Carbon Standard) | 主導する団体はVerra。対象は、再エネ、農林業、土地利用など。5つのなかで取引量トップ(2021年8月までのデータに基づく) |
GS(Gold Standard) | WWFなどの国際的な環境NGOによって設立。対象は、再エネ、植林、浄水プロジェクトなど |
ACR(American Carbon Registry) | 世界初の民間ボランタリーオフセットプログラムとして設立された、NPO法人 Winrock Internationalが運営。対象は、森林、フロン破壊、工業プロセス改善、運輸など |
CAR(Climate Action Reserve) | 前身はCalifornia Climate Action Registry。対象は、林業、家畜管理、廃棄物処分場、フロン破壊など |
Jブルークレジット | 日本のジャパンブルーエコノミー技術研究組合(JBE)が運営。対象は、海洋生態系によるCO2の吸収・貯留など |
それぞれ詳細をみていきましょう。
VCS(Verified Carbon Standard)
主導団体 | Verra(WBCSDやIETAなどの民間企業が参加する団体が中心となり設立) |
設立 | 2005年 |
対象地域 | 全世界 |
アメリカに拠点を置く大手プロバイダー・Verraが主導する、VCS。今回紹介する5つのボランタリークレジットのなかでトップの取引量です(2021年8月までのデータに基づく)。森林や土地利用に関連するプロジェクトのほか、湿地の保全プロジェクトなど、多面的な貢献をクレジットとして認証しています。
※WBCSD=持続可能な開発のための世界経済人会議(World Business Council for Sustainable Development)
※IETA=国際排出量取引協会(International Emissions Trading Association
GS(Gold Standard)
主導団体 | Gold Standard事務局(WWFなどの国際的な環境NGOが設立) |
設立 | 2003年 |
対象地域 | 全世界 |
GSは、再エネ、植林、浄水プロジェクトなどによるクレジットを扱っています。独自にクレジットを認証・発行するだけでなく、国連主導のカーボン・クレジット制度「CDM」においては、一部のプロジェクトの認証を任されており、信頼できる機関といえるでしょう。今後、需要が高まる可能性もあります。
※WWF=世界自然保護基金(World Wide Fund for Nature)
※CDM=クリーン開発メカニズム(京都議定書で定められた国連主導のカーボン・クレジット制度)
ACR(American Carbon Registry)
主導団体 | NPO法人 Winrock International |
設立 | 1996年 |
対象地域 | 全世界 |
世界初の民間ボランタリーオフセットプログラムとして設立されたのが、ACR。アメリカやヨーロッパ、アジア、アフリカなどで活動しているNPO法人が運営しており、森林、フロン破壊、工業プロセス改善、運輸などのプロジェクトによるクレジットを取り扱っています。
CAR(Climate Action Reserve)
主導団体 | Climate Action Reserve |
設立 | 前身のCalifornia Climate Action Registryは2001年に設立 |
対象地域 | アメリカ・一部メキシコ |
CARは、気候変動への対策として、アメリカで自主的な排出量の算定・報告を行う取り組みの一環で設立されたCalifornia Climate Action Registryに起源を持つ団体が運営しています。現在は、林業、家畜管理、廃棄物処分場、フロン破壊などの分野を対象にクレジットを認証しています。
Jブルークレジット
主導団体 | ジャパンブルーエコノミー技術研究組合(JBE) |
設立 | 2020年 |
対象地域 | 日本 |
Jブルークレジットは、海中におけるCO2の吸収・貯留に着目した、日本のボランタリークレジットです。海洋生態系内に吸収・貯留された炭素(ブルーカーボン)を定量化し、クレジットを認証・発行しています。主導団体であるジャパンブルーエコノミー技術研究組合は、国土交通省の認可を受けて設立されており、信頼性も高いでしょう。
以下の記事では、Jブルークレジットの購入方法など、詳しい内容を紹介しています。
参考:経済産業省『カーボン・クレジット・レポートを踏まえた政策動向』
参考:環境省『COP27を踏まえたパリ協定6条(市場メカニズム)解説資料』
参考:ジャパンブルーエコノミー技術研究組合『Jブルークレジット®認証申請の手引き』
ボランタリークレジットの価格
これまで紹介したボランタリークレジットの一部と、J-クレジットについて、2018年~2022年の平均価格をグラフに表しました。
海外の主要なボランタリークレジットは、J-クレジットと比べると価格が低い傾向にあるようです。ただし、徐々に価格が上昇しており、2022年においてはACRがJ-クレジット(省エネ)を上回っています。
種類のほか、分野によって価格相場が異なる点にも注意しましょう。「除去・吸収系クレジット」と呼ばれる、CO2を吸収するプロジェクト(植林など)から創出されたカーボン・クレジットは、他分野と比べて高値で売買される傾向があります。
参考:農林水産省『農業分野のカーボン・クレジットの取組推進に係る最終調査結果』
ボランタリークレジットの購入方法
「ボランタリークレジットはどうやったら買える?」と、気になっている方もいるでしょう。購入方法は主に以下の2つです。
購入方法
・直接購入する
・取引所を通じて購入する
世界ではさまざまなボランタリークレジットが発行されていますが、直接取引する場合は語学力や専門知識が必要です。
直接購入するのが難しい場合、ボランタリークレジットなどを扱う取引所を通じて購入する方法もあります。国内にもあり、自社に適したクレジットの購入をサポートしてくれます。
ボランタリークレジットを購入する際の注意点4つ
ボランタリークレジットにどのようなデメリットがあるか、事前に知っておきたい方もいるでしょう。購入する際の注意点を4つ紹介します。
注意点1.日本の排出量報告制度での直接使用は不可
購入目的が、「排出量の報告書に使いたい」など、各制度やイニシアティブへの報告での使用を目的とする場合、使用ルールに注意しましょう。報告先の制度やイニシアティブによって、ボランタリークレジットの扱いは異なります。
事前に「排出量を調整できるか」「どのクレジットの種類が使えるか」など、確認しておくことが重要です。前述した通り、日本の温対法における報告では、排出量の調整手段としてJ-クレジットなどは使用できますが、ボランタリークレジットは対象外です。
その他の例として、「SBT※」での報告では、クレジット購入による削減目標の達成を認めていません。
※SBT=Science Based Targetsの略。企業が自社の温室効果ガス排出量を削減する取り組みを推進する、国際的イニシアティブ
参考:環境省『カーボン・クレジット・レポート』『SBT(Science Based Targets)について』
注意点2.カーボン・クレジット市場では取り扱いの対象外
カーボン・クレジット市場は、東京証券取引所が運営しており、株式取引のようにクレジットを売買できます。ただし、取引の対象はJ-クレジットのみで、ボランタリークレジットは取り扱っていません(2024年9月時点)。
取引の安全性や利便性などのメリットを優先したい場合は、カーボン・クレジット市場を活用することも一案です。自社にとってどの方法が最適解か、検討しましょう。
注意点3.クレジット購入に依存しない
各制度やイニシアティブの考え方では、まず社内での削減が大前提です。カーボン・オフセットに頼りすぎると、グリーンウォッシュ(環境に配慮しているように見せかけること)と批判を受けるリスクもあるでしょう。クレジット購入は、あくまでも自社が削減努力をしても減らしきれなかった場合の手段ということをしっかりと心得ましょう。
注意点4.カーボン・クレジットの「質」が重要
CO2削減の根拠など、クレジットの実態をよく調べることも買い手企業の責任として覚えておきたい点です。カーボン・クレジットはどれも同じではなく、それぞれに「どのようなプロジェクトによって環境保全に貢献しているか」という背景や価値がついてきます。
クレジットの内容を精査し、自社が購入・支援するにふさわしいものを選ぶことが重要といえますね。
カーボンニュートラル実現に向け、ボランタリークレジットの活用も検討を!
民間団体が運営し、多種多様なプロジェクトから創出されているボランタリークレジット。企業にとって、自社の事業や理念にあったクレジットを選んだり、グローバルな環境への貢献をアピールしたりといったメリットがあります。他手段とのメリット・デメリットも比べながら、ボランタリークレジットの活用を検討してみてはいかがでしょうか。