【最新知識】Scope4とは?GHG削減につながる新たな指標を解説
- Scope4(削減貢献量)とは、GHG(温室効果ガス)の削減にどれだけ貢献できたかを示す指標です。GHGの排出量に着目した指標であるScope1~3の課題感を解消するものとして生まれました。
- Scope4を算定・開示することにより、企業には「企業イメージの向上」「資金確保の容易化」といったメリットが期待できます。
- 今後は、Scope4の制度化に向けた議論が進む見込みです。Scope4に関する最新情報の収集に努めましょう。
GHG削減につながる新たな指標として注目されている、Scope4。GHG排出量削減に取り組んでおり、「Scope4の定義やScope1~3との違いを知りたい」「実際に、Scope4を算定してみたい」という企業も多いでしょう。
この記事では、Scope4の概要や注目されるようになった背景、算定・開示するメリットなどをわかりやすく解説します。これを読めば、Scope4についての理解が深まるでしょう。
Scope4とは?従来のScope1~3との比較
環境問題に関心の高い企業においても、「Scope4という用語を初めて聞いた」という方は多いのではないでしょうか。Scope4とは、GHG(温室効果ガス)の削減にどれだけ貢献できたかを示す指標のことで、「削減貢献量」とも呼ばれます。
Scope1、Scope2、Scope3の後にScope4と聞くと、同類のものと思いがちですが、着目点が異なります。従来からあるScope1~3が着目しているのは、GHGの「排出量」です。一方、Scope4は、GHGの「削減量」に着目しています。
理解を深めるため、Scope1~3およびScope4について詳しく見ていきましょう。
【Scope1~Scope3】GHGの「排出量」に着目
Scope1~3は、「サプライチェーン排出量」を分類する枠組みです。
サプライチェーン排出量とは、部品調達や製品製造、廃棄といった一連の流れ全体におけるGHG排出量(温室効果ガス排出量)のこと。GHG排出量の算定・報告についての国際的な基準である「GHGプロトコル」に基づき、「Scope1」「Scope2」「Scope3」の3つに区分されます。
それぞれの対象と具体例は、以下の通りです。
Scope | 対象 | 具体例 |
---|---|---|
Scope1 | 自社が直接排出したGHG | 燃料の燃焼、工業プロセスによって排出したGHG |
Scope2 | 自社が間接的に排出したGHG | 他社から供給された電気や熱を使うことによって間接排出したGHG |
Scope3 | Scope1やScope2に該当しない、その他の間接排出されたGHG | 事業者の活動に関連する他社が排出したGHG(自社のサプライチェーンの上流・下流にある他社が排出したGHG) |
なお、GHG排出量の算出方法は複雑なため、自社のみでGHG排出量を正確に算出するのは容易ではありません。専門知識を有する外部企業が提供するGHG排出量算出サービスの活用をおすすめします。
Scope1~3について詳しく知りたい方は、こちらの記事をご覧ください。
【Scope4】GHGの「削減量」に着目
Scope4とは、従来使⽤されていた製品・サービスを、⾃社製品・サービスで代替することで、「サプライチェーンで生じるGHGをどれだけ削減できたか」を示したもの。つまり、サプライチェーンにおける「代替えしなければ発生していたGHG排出量」と「実際のGHG排出量」の差を示す指標ですね。
Scope4の具体例としては、以下のようなケースにおけるGHG排出量削減への貢献があります。
Scope4の具体例
・家電メーカーが製品の省エネ性能を向上⇒従来品に比べ、使⽤者のGHG排出量が減少
・素材メーカーが超軽量材料を航空機に採⽤し、航空機を軽量化したことで燃費が向上⇒航空機の運行で生じるGHGの排出量を削減
・建材メーカーが⾼断熱住宅へのリフォームを行うことで、住宅の冷暖房の使⽤量が削減⇒電⼒消費量の削減分だけ、GHG排出削減
現状、Scope4についてはGHGプロトコルに定められておらず、情報開示も義務化されていません。しかしながら、各企業は、⾃社の製品・サービスによる他者の削減への貢献を「Scope4」として、社外にアピールすることができます。
例えば、食品メーカーから消費者へのアピールとして、パッケージに「CO2排出量を約◯%削減」と記載されている商品もあります。店頭に並んでいることもあるので、実際にご覧になった方もいるかもしれませんね。
参考:環境省『【参考①】削減貢献量について』
Scope4は、従来のScopeへの課題感から生まれた考え方
Scope4は、Scope1~3への課題感から生まれました。
Scope1~3は、あくまで「GHG排出量」に着目したものです。そのため、「省エネ効果の高い製品を生み出しても、製造・販売個数の増加に比例して、GHG排出量も増えてしまう」という状況に陥るケースがあります。実際は、そうしたケースでも社会全体として考えれば「GHG削減に寄与している」ことも少なくないのですが、課題と感じる人がいるという現状は否めません。
また、企業の取り組みによっては、Scope3の範囲外でGHG排出量削減に貢献しているケースも考えられます。
Scope3の範囲外でGHG排出量削減に貢献しているケースの例
【建材メーカーが従来よりも断熱性能の⾼い断熱材を開発し、それがリフォーム住宅に使われた場合】
・建材メーカー:Scope3にリフォーム住宅の排出量は含まれないため、自社のScope3を削減できたことにはならない
・社会全体:リフォーム住宅における冷暖房使用量が減少するため、GHG排出量を削減できる
⇒実質的に、建材メーカーはGHG排出量削減に貢献できていることになる!
このように、Scope1~3には「社会全体におけるGHG排出量の削減にどれだけ貢献できたかまでは、正確に算出・判断できない」という課題があります。そこで、「Scope1~3の課題を解消できる、新たな指標が必要」という考えから、Scope4が生まれたのです。
参考:環境省『【参考①】削減貢献量について』
Scope4(削減貢献量)に関する国内外の動き
Scope4(削減貢献量)に関する動きが顕著に見られるようになったのは、2023年のことです。国内外の動きについて、紹介します。
世界の動き
2023年3月、WBCSD(持続可能な開発のための世界経済人会議)は、削減貢献量についての考え方を整理した指針である「Guidance on Avoided Emissions」を発表。幅広い産業をカバーする初の国際指針として、注目されています。
また、2023年4月に札幌で開催された「G7気候・エネルギー・環境大臣会合コミュニケ」の成果文書においても、削減貢献量についての言及がありました。
「G7気候・エネルギー・環境大臣会合コミュニケ」成果文書における言及内容 ある系における脱炭素ソリューション提供による、ある事業者による他の事業者の排出削減への貢献、すなわち、「削減貢献量」を認識することも価値がある。 |
このような動きがあったことから、削減貢献量への関心が世界的に高まっています。
参考:経済産業省『第3回 官民でトランジション・ファイナンスを推進するためのファイナンスド・エミッションに関するサブワーキング事務局資料 2023年6月7日』
参考:環境省『G7気候・エネルギー・環境大臣会合コミュニケ 日本語訳(暫定仮訳)』
日本国内の動き
日本国内での動きとして特筆すべきなのは、GXリーグの「GX経営促進WG」の成果物における言及です。
「GX経営促進WG」とは、世界全体のカーボンニュートラル実現に向けて、日本企業が持つ気候変動への貢献の機会面(市場に提供する製品・サービスによる排出削減など)が適切に評価される仕組みの構築を目的に設立されたもの。その成果物として、2023年3月に、「気候関連の機会における開示・評価の基本指針」を公表しました。同指針は、気候関連の機会を開示・評価する際に、企業や金融機関などが共通して持つべき基本的な考え方を整理したものです。
「気候関連の機会における開示・評価の基本指針」では気候関連の機会の定義付けがされていますが、機会の項目の一つとして「削減貢献量」が紹介されています。
なお、GXリーグを設立したのは経済産業省です。国として取り組む姿勢が見て取れますね。
参考:GXリーグ『気候関連の機会における開示・評価の基本指針』
Scope4を算定・開示するメリット
Scope4の算定・開示を検討している企業にとっては、「自社にとって、どのようなメリットがあるのか」「算定・開示が義務化されていないのに、取り組む意義があるのか」が気になるところでしょう。Scope4を算定・開示することで、以下のようなメリットが期待できます。
■Scope4を算定・開示するメリット
- 企業イメージの向上につながる
- 資金確保をしやすくなる
- イノベーションの創出につながる
メリット1.企業イメージの向上につながる
現状、Scope4を算定・開示している企業は、ごく少数です。そのため、Scope4を外部に開示することで、「気候変動問題に関心が高く、GHG排出量の削減に意欲的な企業」という印象を与えられ、企業イメージの向上につながります。その結果、「新規顧客の獲得」や「社会貢献意欲の高い人材の獲得」なども期待できるでしょう。
メリット2.資金確保をしやすくなる
資金調達がしやすくなることも、メリットの一つです。
近年、企業のESG(環境・社会・ガバナンス)への取り組みをもとに投資先を選定する「ESG投資」が、国内外の投資家の間で広がっています。会社の経営状況を判断する指標の一つが「環境問題解決への貢献」であるため、Scope4を開示することは、投資家への大きなアピール材料となるでしょう。その結果、投資を受けやすくなる効果が期待できます。また、企業に対する信用が高まり、銀行からの融資を受けやすくなる可能性もあるでしょう。
メリット3.イノベーションの創出につながる
「どのようにすれば、Scope4の実績値を増やせるのだろうか」と考える中で、新しい技術のヒントが見つかったり、新商品・サービスを思いついたりすることもあります。その結果、イノベーションの創出につながるでしょう。
Scope4を算定・開示している企業の事例
Scope4の算定・開示を検討中の企業にとって、参考になるのが他社の事例です。ここでは、Scope4の目標を定めている企業の事例を紹介します。
東レ株式会社
東レ株式会社では、バリューチェーンを通じた製品ライフサイクル全体でのCO2排出量削減効果(バリューチェーンへのCO2削減貢献量)を独自に算出しています。これは、日本化学工業協会やICCA国際化学工業協会協議のガイドラインに従ったものです。
バリューチェーンへのCO2削減貢献量の実績・目標は、以下の通りとなっています。
2013年度実績 (基準年度) | 2022年度実績(2013年度比) | 2025年度目標(2013年度比) | 2030年度目標(2013年度比) | |
---|---|---|---|---|
バリューチェーンへのCO2削減貢献量 | 0.4億トン | 9.5倍 | 15.0倍 | 25.0倍 |
10年弱で実績値が9.5倍になっていることから、「2030年度には2013年度比で25.0倍に」という高い目標の実現に向け、着実に成果が出ていることが伺えます。
参考:東レ株式会社
帝人グループ
帝人グループでは、これまでの事業活動で培ってきた軽量化・効率化の技術を活かし、サプライチェーン全体でCO2削減を目指しています。同グループの掲げる目標は、以下の通りです。
グループ目標
2030年度までにCO2総排出量 < CO2削減貢献量 達成
なお、ここでいうCO2総排出量とは、グループ全体およびサプライチェーン川上におけるCO2総排出量(Scope1+2と上流のScope3における排出量の合計)のことです。
CO2総排出量および削減貢献量は、以下のように推移しています。
年度 | CO2総排出量 | CO2削減貢献量 | CO2削減貢献量の 前年度比 |
---|---|---|---|
2020年度 | 5.18百万トン | 1.65百万トン | - |
2021年度 | 5.07百万トン | 2.46百万トン | +49% |
2022年度 | 5.03百万トン | 3.17百万トン | +29% |
上の表からわかるように、CO2総排出量は減少傾向、CO2削減貢献量は増加傾向にあります。
参考:帝人グループ『気候変動への取り組み(TCFDに基づく開示)』
Scope4には課題もある
Scope4には企業にとってさまざまなメリットがある反面、以下のような課題もあります。
■Scope4の課題
- 自社が生産した製品・サービスによる削減貢献量を測るため、取引先などによる削減量とダブルカウントになってしまうケースがある
- 実際のGHG排出量との比較対象となる基準の設定が難しい(恣意的になるリスクもある)
- 環境保全への配慮を実態以上に見せかける「グリーンウォッシュ」に陥る懸念がある
- Scope1~3のような絶対評価ではなく、Scope4は一定の基準と比べた削減貢献量という相対評価であるため、GHG排出削減効果をかえって実感しにくくなる可能性もある
企業としては、Scope4の課題を認識した上で、国内外の指針を参考にScope4の具体的な算定方法・ルールを考えていくことが重要です。
Scope4をめぐる国内外の動きを注視しよう
「削減貢献量」の指標であるScope4は、従来からあるScope1~3への課題感から生まれたものです。Scope4を算定・開示することで、「企業イメージの向上」「資金確保の容易化」などのメリットが期待できるでしょう。一方で、「取引先などによる削減量とダブルカウントになってしまう」「グリーンウォッシュに陥る」といったリスクも懸念されます。
現状、GHGプロトコルにはScope4についての明確な定めがなく、企業には開示義務もありません。しかし、今後はScope4の制度化に向けた議論が進んでいくと想定されます。他社に遅れを取らないよう、Scope4に関する国内外の動きを注視しましょう。