ライフサイクルアセスメント(LCA)とは?企業事例や問題点も
- ライフサイクルアセスメント(LCA)とは、製品を作る材料の調達段階から廃棄されるまでの全プロセスで環境に与える影響を調べて、評価する手法です。
- LCAの実施方法は、目的設定、インベントリ分析、環境影響評価、評価結果の解釈の4段階で実施されます。
- LCAのメリットは、環境負荷の数値化によって企業の環境対策をより効果的に進められることや、ブランドイメージ向上です。
製品のライフサイクルを通して環境に与えている影響を評価する、ライフサイクルアセスメント(LCA)。近年、カーボンニュートラルに向けた国際的な動きや環境意識の高まりの流れを受けて、さまざまな業界でLCAが注目されています。
この記事では、「LCAは実際にどのようにして実施するのか」を、初めて取り組む企業にも分かりやすく解説します。各業界の具体例も紹介しますので、自社の取り組みイメージの参考にしてください。
ライフサイクルアセスメント(LCA)とは?
LCAとはどのようなものかについて紹介します。
製品の「ゆりかごから墓場まで」の環境負荷を見える化する手法
ライフサイクルアセスメント(LCA)とは、製品を作るための材料を調達する段階から、使い終わって廃棄されるまでの間、環境にどのような影響を与えているのかを詳しく調べて、数値を使って評価する手法です。
これにより、製品やサービスが「ライフサイクル全体を通して環境にどのような負荷をかけているのか」が明確になり、その情報をベースに環境負荷を減らす策を講じることが可能になります。
LCAの重要性
LCAが注目される背景には、環境負荷を正しく把握するために、製品のライフサイクル全体で捉える考え方が広まっていることが挙げられます。
例えば、レジ袋とエコバックのどちらが環境に優しいのかを比較する場合で考えてみましょう。「エコバックの原材料調達段階における環境への影響」「使用後のレジ袋を使い回す回数」など、ライフサイクル全体におけるさまざまな条件によって結果は異なります。一部分だけを切り取って「どちらがエコか?」と比較すると、偏った判断につながりかねません。
国際的イニシアティブでも、企業に対してライフサイクル全般での影響を把握し、環境負荷を減らす努力を求めています。このようなLCAのニーズの高まりから、国際標準化機構(ISO)によって一定のルールが定められました(ISO14040、ISO14044)。
【4段階】LCAの実施方法
LCAを実施するには、大きく4段階に分けられます。実施の流れをみていきましょう。
1.実施目的と対象範囲の設定
LCAを実施するには、まず以下の5点を明確にする必要があります。
評価の目的 | なんのために? |
評価対象 | どの製品を? |
評価範囲 | ライフサイクルの範囲はどこまで? |
機能単位(評価を行う単位) | 何を基準に? (製品1個あたり、電力の供給1kWhあたりなど) |
システム境界(評価の範囲) | 評価の範囲をどこで区切るのか? |
LCAは、資源採取を含めた原料の調達から、製造、流通、使用、廃棄、リサイクルの全プロセスを対象とするのが基本です。ただし、 製品やサービスによっては、目的を決め、その達成に向けて調査範囲を絞り込む方法を採る場合もあるでしょう。
2.インベントリ分析
実施目的などが整理できたら、「どれだけの資源を投入したか」「どれだけの汚染物質を排出したか」など環境への影響を、工程ごとに算定して一覧表にします。この方法を、インベントリ分析といいます。
インベントリ分析の手法は以下の2つです。
積み上げ法 | 各プロセスにおける資源消費や環境排出物を算定し、項目ごとに合計値を求める方法。LCAの標準化に取り組むISO規格では、積み上げ法がベースとなっている |
産業連関法(3EID法) | 産業連関表を用いて、排出量を推計する方法 |
積み上げ法は精度の高い結果が得られます。しかし、データ入手が困難なプロセスなどは産業連関法を組み合わせるのもよいでしょう。
参考:総務省『産業連関表』
3.環境影響評価
インベントリ分析で得られた排出物のデータを、物質の種類ごとにまとめます。そのうえでそれぞれの排出物がどの環境問題にどのくらい影響を与えているかを数値で示し、評価しましょう。
この評価方法は「ライフサイクルインパクトアセスメント」とも呼ばれ、頭文字をとって「LCIA」と表すこともあります。
4.評価結果の解釈
インベントリ分析の結果を一つひとつ詳しくみたり、複数の分析結果を総合的に判断したりして、結論づけます。環境への影響度が大きいプロセスを特定するのも、今後の対策に向けて重要でしょう。
参考:環境省『再生可能エネルギー等の温室効果ガス削減効果に関するLCAガイドライン』
参考:農研機構『Ⅷ.食糧供給とライフサイクルアセスメント』
【業界別】LCAの具体例。食品、自動車など
LCAを実施する際、具体的にどのように考えればよいのでしょうか。具体例として、食品、自動車、建築におけるLCAの対象や考え方を紹介します。
食品のLCA
食品産業で加工食品のLCAを実施する場合、以下のようなライフサイクルが想定できます。
【例】加工食品のライフサイクル
プロセス | 内容 |
---|---|
原材料調達 | 野菜を栽培する、家畜を飼育する |
生産 | 食品工場で加工などを行う |
流通 | 商品を発送する |
使用 | 食品を保管する(冷蔵庫)、調理する |
廃棄 | パッケージなどを捨てる |
食品における原材料調達のプロセスでは、野菜を使っているなら栽培方法についても調べる必要があるでしょう。露地栽培(自然環境の中にある畑)か施設栽培(温室栽培)かによって、環境負荷は異なります。
自動車のLCA
自動車産業でLCAを実施する際は、以下のようなライフサイクルが想定されます。
【例】自動車のライフサイクル
プロセス | 内容 |
---|---|
原材料調達 | 資源を採掘する、素材を作る |
生産 | 素材から部品を作る、自動車を組み立てる |
流通 | 販売店で売る |
使用 | 自動車を走行させる、メンテナンスする |
廃棄 | 廃棄する、リサイクルする |
自動車の場合、食品と違ってライフサイクルの範囲が非常に広いことが特徴です。そのため、対象範囲を区切ることも考えられます。「生涯走行距離10万kmにおけるライフサイクル」などと設定するのも一案でしょう。これに基づき、使用プロセスでは「自動車の燃料消費量」と「生涯走行距離」を参考に、環境への影響度合いを算定できます。
建築のLCA
建築業において建物のLCAを実施する際は、以下のようなライフサイクルが想定できます。
【例】建物のライフサイクル
プロセス | 内容 |
---|---|
原材料調達 | 木材など資材を調達する |
生産 | 施工する |
使用 | 運用する、改修する |
廃棄 | 解体する |
建物のライフサイクルは、建物の寿命によって、使用プロセスの環境負荷の比重が大きくなることが予想されます。どのような照明、空調設備を使っているかなど、関連設備も加味して算定する必要があるでしょう。
近年、注目を集めている「ZEB」「ZEH」「LCCM住宅」は、このような運用によって環境に与える影響にも配慮した建物です。
※ZEB(ゼブ)=一次エネルギーの年間消費量が正味ゼロまたはマイナスの建築物
※ZEH(ゼッチ)=省エネ設計や再生可能エネルギー活用によって、一次エネルギー消費量の年間収支がゼロになるよう目指した住宅
※LCCM住宅=ライフサイクルを通じてCO2収支をマイナスにする住宅
LCAの3つのメリット
社会的に重要性を増しているLCAですが、実施する企業にとってどのようなメリットがあるのでしょうか。3つのメリットを紹介します。
メリット1.数値に基づいて分析できる
LCAは「環境にやさしい」という漠然とした事柄を、「CO2排出量を30%削減」などと明確な数値で表せます。比較や効果検証など、数値を使って分析できることが、LCAのメリットです。
株主や取引企業、消費者など、ステークホルダーに説明する際の根拠としても、数値を活用できるでしょう。
メリット2.自社の環境負荷を多面的に測れる
LCAを取り入れることによって、的確な環境対策につなげられることもメリットです。LCAでは、さまざまな角度から自社製品の環境負荷を可視化できます。影響の大きいプロセスを洗い出し、課題解決への適切なアプローチにつなげられるでしょう。
メリット3.企業のブランドイメージを向上できる
LCAを実施し、環境対策に積極的に取り組むことで企業イメージの向上につながるでしょう。
2023年10月5日~10月8日に、消費者庁が全国の5000人に対して行った「消費生活意識調査」では、気候変動について「非常に関心がある」「ある程度関心がある」と答えた割合が全体の71%を占めています。
また、エシカル消費(地域の活性化や雇用などを含む、人・社会・地域・環境に配慮した消費行動)に取り組む理由としては、「同じようなものを購入するなら環境や社会に貢献できるものを選びたい」と回答した割合が53.7%となっており、消費者における環境意識の高さが伺えます。
消費者によいブランドイメージをもってもらうためには、環境対策が必須といえるでしょう。
参考:消費者庁『令和5年度第3回消費生活意識調査』
【事例】企業のLCAの活用
LCAを活用している3社の企業事例を紹介します。
ばれいしょの植え付けから環境負荷を見える化|カルビー株式会社
取り組み事項
・主原料であるばれいしょの環境負荷を見える化
・自工場からの廃食油をボイラーの燃料にリサイクル
食品を手掛けるカルビー株式会社では、LCAに基づき各プロセスで環境負荷を削減することを行動指針に掲げています。
廃油をリサイクルする仕組みやエネルギー転換など生産プロセスへのアプローチのほか、主原料であるばれいしょの栽培中の肥料や農薬、資材などにも着目し、温室効果ガス排出量の見える化を推進しています。
参考:カルビー株式会社『カーボンニュートラルの達成』
電気自動車とガソリン車の環境負荷を比較|マツダ株式会社
取り組み事項
・環境性能に関わる新技術を搭載した製品の評価などにLCAを活用
・製品のタイプ別にライフサイクル全体のCO2を比較
マツダ株式会社では、2009年からLCAを採用し、自動車の環境負荷削減に取り組んでいます。2018年度に取り組んだのは、ガソリン車や電気自動車など種類別でのライフサイクルにおけるCO2排出量の評価、比較です。
世界5地域のデータを基に調査・分析したところ、地域の電力状況、燃費、生涯走行距離によってCO2排出量が大きく変わることが分かりました。こうしたLCAを用いた分析をさらなる技術開発につなげています。
参考:マツダ株式会社『気候変動(2050年カーボンニュートラルへの挑戦)』
タンパク質から作られた素材の環境価値を実証|Spiber株式会社
取り組み事項
・サステナビリティチームを設け、持続可能な原料調達や事業体制の構築を推進
・自社開発の素材とカシミヤなどの従来品が環境に与える影響を比較
タンパク質の粉末から製造される繊維など、新世代バイオ素材開発に取り組むSpiber株式会社。LCAを活用して、植物由来の原料から作られた素材と、動物性繊維のカシミヤなどとの環境負荷の比較分析を行いました。再生可能エネルギーの導入など一定条件の下では、製造時の温室効果ガス排出量の排出量を79%削減できることなどを実証しています。
参考:経済産業省『繊維製品の環境配慮設計に関する事例集』
LCAの問題点
さまざまな企業で取り入れられているLCAですが、インベントリ分析のデータと特定の影響とを正確に関連づける方法は確立されていません。算出方法やその目的も考慮し、評価の客観性を担保することが重要です。データ収集が困難なプロセスなど、数値の正確性にばらつきが生じることもあり、データの不確実性を問題点として指摘する声もあります。
また、国や地域ごとにエネルギーバランスやリサイクルの範囲、排出規制など条件は異なります。条件の違いによる影響範囲を整理し、適正に評価する必要があるでしょう。
【関連用語】LCAと混同しやすい言葉の意味や違い
LCAと混同しやすい、関連用語の意味を紹介します。
カーボンフットプリント(CFP)
【意味】原材料の調達~生産~流通・販売~廃棄といった、商品のライフサイクルで排出された温室効果ガスの排出量を、CO2排出量相当に換算したもの。また、それを表示する仕組み
LCAとカーボンフットプリント(CFP)は、どちらも環境への影響を評価するものですが、調べる範囲が違います。
■評価する範囲
LCA | CFP |
---|---|
地球温暖化(温室効果ガス)、オゾン層破壊、酸性化、生態系破壊、大気汚染、水質汚染など ※評価項目は任意で選択可能 | 温室効果ガス(CO2排出量)のみ |
例えば、ある製品を作るために原材料を調達したり、工場で加工をしたりと、各プロセスで環境に影響を与えているとしましょう。LCAはその全プロセスにおける環境全体への影響を広く調べるものです。一方、CFPは環境負荷の中でも地球温暖化に注目して評価します。
またCFPは、消費者にも分かりやすくするため、商品が環境に与えている影響を商品に表示する仕組みも含めて考案されています。
ライフサイクルGHG
【意味】原料の栽培から最終的な燃料利用に至るまでのGHG排出量の総量
※GHG(Greenhouse Gas)=温室効果ガス
ライフサイクルGHGは、再生可能エネルギーのひとつとして注目されている、木質ペレットやチップを使った「バイオマス発電」に関連した用語です。
バイオマス発電の燃料に使われるものの中には、森林減少・生物多様性への悪影響、バイオマスの収集・加工・輸送プロセスで温室効果ガスの大量排出が懸念されるものがあります。このため、2023年度から農産物の収穫に伴うバイオマスや木質バイオマスについて、ライフサイクルGHG基準の適用制度が始まっています(一定の条件の下で行うバイオマス発電のみ対象)。
参考:経済産業省『バイオマス発電におけるライフサイクルGHG排出削減に係る自主的取組』
環境アセスメント
【意味】開発事業を始めようとする企業が、環境に及ぼす影響を調査・予測・評価する。地域住民や関係機関に評価内容を公開し、集まった意見も踏まえて、環境保全を考慮しながらよりよい事業計画へと作り上げる制度
環境アセスメントは、発電施設を建てる場合など、大規模な工事が環境に与える影響を評価し、よりよい事業計画へと作り上げる制度です。製品やサービスのライフサイクルを対象とするLCAとは、活用される場面が異なるでしょう。
参考:経済産業省『洋上風力発電の環境影響評価について』
Scope3(スコープ3)
【意味】事業者が間接的に排出に関わっている、他社による温室効果ガスの排出量
(例:調達した原材料の生産段階での排出量、委託した輸送業者による排出量など)
Scope3は、サプライチェーン排出量の算定における国際基準「GHGプロトコル」の中で出てくる枠組みの名前の一つです。GHGプロトコルでは、温室効果ガスの排出に関わる幅広い範囲を、Scope1・2・3に分類し、それぞれ対象を定めています。
中でもScope3は、原材料に関わる排出や、製品が使用者の手に渡った後の使用・廃棄に伴う排出などを対象としており、ライフサイクルアセスメントとの違いが分かりにくいかもしれません。
LCAでは「製品」を評価対象としているのに対して、Scope3では「事業の組織全体」を評価対象とします。
■評価する対象
LCA | Scope3 |
---|---|
製品、サービス | 企業全体 |
Scope3は、主に温室効果ガス排出量の算定・報告に関する各種制度で活用され、サプライヤーの間接排出も含めた企業の「温室効果ガスの排出量」を算定します。一方、LCAは製品が環境に与える影響を分析するために、温室効果ガスの排出量以外にも、生態系への影響などさまざまな角度から調べるものです。
以下の記事では、Scope3の各対象について詳しく紹介しています。
環境対策に向けてLCAを活用しよう
企業の環境対策をより広い視野で考えられるLCA。環境負荷を数値化し客観的に分析することで、意外な問題点や改善策が見えてくることもあるでしょう。取り組み事例では、複数の製品の環境負荷を比較するほか、新製品の環境価値を実証するなど、それぞれの目的に沿ってLCAを活用しています。他社の事例も参考にしながら、自社での取り組み方を検討してみてはいかがでしょうか。