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【わかりやすく】GHGとは?排出量の現状や削減目標、算定方法などを解説

目次
記事の要点
  • GHGとは、温室効果ガスのこと。全部で7種類あり、排出量が最も多いのはCO2です。
  • 日本政府はGHG排出量を2030年度に2013年度比で46%削減し、さらに50%の高みに向けて挑戦を続けることを目標としています。その実現に向け、各企業がGHG排出量削減に取り組む必要があります。
  • GHG排出量の算定は、「算定目的の設定」「算定対象範囲の設定」など5ステップからなります。

GHGとは、温室効果ガスの別称です。地球温暖化対策として、企業にはGHG削減に向けた取り組みを進めることが求められています。とはいえ、「GHGの種類や排出量の算出方法がわからない」という企業も多いでしょう。

そこで、この記事では、GHGの概要や国内外のGHG排出量の現状、日本の削減目標、算定方法などをわかりやすく解説します。これを読めば、GHGについての理解が深まるでしょう。企業の取り組み例も紹介していますので、参考にしてください。

GHGとは、温室効果ガスのこと

「GHG」という言葉に聞きなじみがない方も多いでしょう。GHG(greenhouse gas)とは、温室効果ガスのことです。

また、「GHGとCO2の違いが気になる」という方もいるかもしれませんが、CO2はGHGの一種です。

GHGの種類

GHGには、以下の7種類があります。日本では、「地球温暖化対策の推進に関する法律(地球温暖化対策推進法・温対法)」において、7種類の物質が定義されています。

GHGの種類

  • 二酸化炭素(CO2)
  • メタン(CH4)
  • 一酸化二窒素(N2O)
  • ハイドロフルオロカーボン類(HFCs)
  • パーフルオロカーボン類(PFCs)
  • 六ふっ化硫黄(SF6)
  • 三ふっ化窒素(NF3)

このうち、排出量の割合がもっとも多いのが、CO2です。環境省の資料によると、2022年度時点の日本におけるGHGの91.3%をCO2が占めています。

参考:環境省『2022年度の温室効果ガス排出・吸収量(概要)
参考:e-Gov『地球温暖化対策の推進に関する法律

GHG排出量の現状

GHGはどのくらい排出されているのでしょうか。世界と日本のGHG排出量の現状について、環境省の資料に基づき紹介します。

世界のGHG排出量

環境省の資料によると、世界のエネルギー起源CO2(燃料の燃焼や、他者から供給された電気・熱の使用に伴い排出されるCO2)の排出量は、2021年時点で336億トン。国・統合体別で最も排出量が多かったのは中国の106.5億トンで、全体の31.7%を占めています。

次いで、アメリカ、EUの順に排出量が多く、日本は世界で第6位のCO2排出国でした。具体的な日本のCO2排出量は約10億トンあり、これは世界における排出量の3%に相当します。

世界のエネルギー期限CO2排出量
参考:環境省『世界のエネルギー起源CO2排出量(2021年)』を加工して作成

なお、2030年には、世界のエネルギー起源CO排出量は362億トンになると予測されています。言い換えると、2021年より約8%増加する予想だということ。背景には、発展途上国において人口増加や経済発展に伴うエネルギー需要の拡大が見込まれていることがあるでしょう。

参考:環境省『国内外の最近の動向について(報告)2024年2月14日

日本のGHG排出量

環境省の資料によると、2022年度の日本のGHG排出量は約11億3,500万トンで、2021年度比で2.5%、2013年度比で19.3%の減少となっています。GHG排出量のうち、CO2排出量は、約10億3,700万トンで、2021年度比で2.5%、2013年度比で21.3%減少しました。

2022年度排出量
(単位:百万トン)
変化量(変化率)
2013年度比
変化量(変化率)
2021年度比
GHG1,135-271.9(-19.3%)-28.6(-2.5%)
CO21,037-280.9(-21.3%)-27.0(-2.5%)
参考:環境省『2022年度の温室効果ガス排出・吸収量(概要)』を加工して作成

前年度からのCO2排出量の変化を部門別に見ると、最も排出量の多い「産業部門」は5.3%減少(▲約1,970万トン)でした。また、「業務その他部門(商業・サービス・事業所など)」は4.2%減少(▲約790万トン)、「家庭部門」は1.4%減少(▲約220万トン)となっています。節電や省エネ努力などが功を奏したと考えられるでしょう。

一方で、「運輸部門」は3.9%の増加(+約720万トン)でした。ポストコロナによる経済回復で輸送量が増加し、運輸部門の排出量が増えたと考えられます。

部門別のCO2排出量の推移
参考:環境省『2022年度の温室効果ガス排出・吸収量(概要)』を加工して作成

日本のGHG排出量削減目標

2021年4月に日本政府は、GHG排出量を2030年度に2013年度比で46%削減し、さらに50%の高みに向けて挑戦を続けることを表明しました。なお、削減目標の詳細は、地球温暖化対策推進法に基づく政府の総合計画である「地球温暖化対策計画」で、以下のように定められています。

地球温暖化計画におけるGHG排出量削減目標
参考:環境省『地球温暖化対策計画の改定について』を加工して作成

なお、二国間クレジット制度(JCM)とは、先進国が優れた脱炭素技術や製品をパートナー国(途上国)に提供し、その削減・吸収量に相当するクレジットを二国間で分け合う制度のこと。

企業としては、日本政府の削減目標を参考に、自社のGHG排出量を「いつまでに」「何%削減するのか」目標を定めることが大切ですね。

カーボン・クレジットについて詳しく知りたい方はこちらの記事を参考にしてください。

企業がGHG排出量を算定・削減する重要性

現在、日本を含め世界各国がGHG排出量を減らすことを目指しており、企業に対してGHG排出量の算定・削減が求められています。その背景には、地球温暖化があります。

近年、地球温暖化の影響により、異常気象や海面上昇といった問題が起こっています。このままの状態が続けば、人々の生活に影響が出るだけでなく、「工場の操業停止」や「サプライチェーンの寸断」などによって企業の事業活動に影響が及ぶ可能性もあります。皆さんご存じかとは思いますが、地球温暖化の主な要因はGHGです。そのため、全ての国・企業がGHG排出量の削減に取り組んでいく必要があります。

また、GHG削減に向けた取り組みを社外にアピールできれば、企業イメージが向上し、「新規顧客の獲得」や「外部からの人材獲得」が期待できます。その結果、企業の中長期的な成長にもつながっていくでしょう。

とはいえ、GHG排出量を削減しようにも、現状を把握していなければ「どこで・なにで」「どれくらいの」GHGを削減できるか・すべきかがわかりません。そのため、まずはGHG排出量を正確に算定することが重要です。

GHG排出量の算定に関わるGHGプロトコルとは

GHGプロトコルとは、温室効果ガス排出量を算定・報告する際に用いられる国際的な基準のこと。GHGプロトコルでは、GHG排出量を「Scope1」「Scope2」「Scope3」の3つに区分しています。

サプライチェーン排出量
参考:環境省『サプライチェーン排出量算定について|サプライチェーン排出量全般』を加工して作成

なお、「Scope1」「Scope2」「Scope3」のGHG排出量の合計を、「サプライチェーン排出量」と呼びます。サプライチェーン排出量とは、原材料調達・製造・物流・販売・廃棄など、一連の流れ全体を考慮したGHG排出量のことです。

ここでは、「Scope1」「Scope2」「Scope3」について、それぞれ見ていきましょう。

参考:環境省『温室効果ガス(GHG)プロトコル

Scope1:自社が直接排出するGHG

Scope1は、自社が直接排出するGHGです。具体的には、以下のようなものが該当します。

Scope1の具体例

  • 燃料を燃やす際に排出されるGHG(灯油ストーブやガスコンロを使った調理などで排出されるGHG)
  • 工業プロセスで排出されるGHG(鉄やセメントの製造過程における化学反応で放出されるCO2、石油・ガスの採掘で放出されるメタンガスなど)
  • 社用車から排出されるGHG
  • 発電プロセスで排出されるGHG(自社発電で排出されるGHGが対象)

Scope2:自社が間接的に排出するGHG

Scope2は、自社が間接的に排出するGHGです。他社から供給された電力などを使用することによって排出されるGHGともいえますね。

具体的には、以下のようなものが該当します。

Scope2の具体例

  • 他社から供給された電力の使用により排出されるGHG(自社のオフィスや工場などにおける機械運転、照明、冷暖房など)
  • 他社から供給された蒸気の使用により排出されるGHG(機械運転や加工媒体など)
  • 他社から供給された温熱・冷熱の使用により排出されるGHG(建物の内部環境コントロール)

なお、蒸気や温熱・冷熱を使用しているケースは少ないため、実際には、Scope2の大半が他社から供給された電力の使用により排出されるGHGとなります。

Scope3:自社の活動に関連して他社が排出するGHG

自社の活動に関連して他社が排出するGHGは、Scope3に該当します。原材料調達や輸送、廃棄で発生するGHGなどが思い浮かべやすいでしょう。その他にも「資本財(生産設備の増設)」や「出張(従業員の出張)」「リース資産(リース機器・自動車など)」など、計15のカテゴリに分けられています。

算定対象となる範囲が広いため、Scope3のGHG排出量算定に先立ち、「何がどのカテゴリに該当するのか」を確認することが重要です。

15のカテゴリの詳細については、こちらの記事を参考にしてください。

GHG排出量の算定方法・手順

GHG排出量の算定方法・手順は以下の通りです。

GHG排出量の算定方法・手順

環境省と経済産業省が発表したガイドラインを参考に、各ステップについて解説します。

参考:環境省・経済産業省『サプライチェーンを通じた温室効果ガス排出量算定に関する基本ガイドライン (ver.2.6)

ステップ1.算定目的を設定する

算定目的ごとに必要となる算定精度や算定範囲が異なるため、まずは算定目的を設定する必要があります。算定目的の設定にあたっては、「どのような事業目的を達成するために、GHG算定に取り組むのか」を踏まえた上で、算定目的の達成に必要な算定精度などを明確にすることが重要です。

算定目的の例としては、以下のようなものが挙げられます。

算定目的の例

  • サプライチェーン排出量の全体像把握
  • 削減対象の詳細評価
  • 削減対策の経年評価
  • ステークホルダーへの情報開示
  • 多様な事業者による連携取り組みの推進
  • 削減貢献量のPR
  • 国際認証取得のための把握

参考:環境省『サプライチェーン排出量算定の考え方

ステップ2.算定対象範囲(全体像)を設定する

次に、サプライチェーン排出量の算定対象範囲の全体像を設定します。カテゴリごとにサプライチェーン排出量を算定するにあたり、算定対象とする範囲は、原則として以下の表の通りです。

サプライチェーン排出量の算定対象範囲

区分算定対象に含める範囲(原則)
温室効果ガス・エネルギー起源CO2
・非エネルギー起源CO2
・メタン(CH4)
・一酸化二窒素(N2O)
・ハイドロフルオロカーボン類(HFCs)
・パーフルオロカーボン類(PFCs)
・六ふっ化硫黄(SF6)
・三ふっ化窒素(NF3)
組織的範囲(数字はScope3のカテゴリ区分)
【自社】
・自社の全ての部門、全ての事業所
・自社の関連会社(連結対象事業者)

【上流】
1.原材料、製品などの採掘から製造に至るまでの事業者
2.自社施設の建設事業者、自社設備の製造事業者
3.自社に電気・熱を供給する電気事業者、熱供給事業者のサプライチェーンのうち、カテゴリ1、4、5に該当する事業者
4.原材料、製品などの輸送事業者
5.自社の廃棄物の輸送・処理を行う事業者
6.出張で利用する交通事業者
7.通勤で利用する交通事業者
8.自社(賃借しているリース資産の使用者)

【下流】
9.製造・販売した製品の輸送事業者
10.販売した製品の加工者
11.販売した製品の使用者
12.販売した製品の廃棄時の処理を行う事業者
13.リースした資産の使用者
14.フランチャイズの加盟者
15.投資先の事業者
地理的範囲国内および海外
活動の種類サプライチェーンにおいて、温室効果ガスの排出に関連する全ての活動
時間的範囲1年間の事業活動に係るサプライチェーン排出量
参考:環境省・経済産業省『サプライチェーンを通じた温室効果ガス排出量算定に関する基本ガイドライン (ver.2.6)』を加工して作成

なお、自社として算定すべきなのは、自社およびグループ会社など、自社が所有または支配する全ての事業活動の範囲となります。

ステップ3.カテゴリを特定し、算定対象範囲を定める

続いて、サプライチェーン排出量全体のうち算定するカテゴリを特定し、カテゴリごとに算定対象とする範囲を定めます

算定するカテゴリ

算定するカテゴリについては、全てを対象とするのが望ましいです。しかしながら、算定の目的や排出量全体に対する影響度、データ収集に要する負荷などを踏まえて、算定するカテゴリを限定することもできます。一部のカテゴリを算定対象範囲から除外する際の基準としては、以下が挙げられます。

一部のカテゴリを算定対象範囲から除外する際の基準

  • 該当する活動がないもの
  • 排出量が小さく、サプライチェーン排出量全体に与える影響が小さいもの
  • 事業者が排出や排出削減に影響力を及ぼすことが難しいもの
  • 排出量の算定に必要なデータの収集などが困難なもの
  • 自ら設定した排出量算定の目的から見て不要なもの

カテゴリごとに算定対象とする範囲

カテゴリごとに算定対象とする範囲についても、算定の目的や排出量全体に対する影響度、データ収集に要する負荷などを踏まえて、限定することが可能です。一部の算定対象範囲を除外する際の基準については、先ほど紹介した「一部のカテゴリを算定対象範囲から除外する際の基準」とほぼ同様となっています。

ステップ4.ScopeごとにGHGを計算する

次に、ScopeごとにGHGを計算します。GHG排出量の計算式は、以下の通りです。

GHG排出量(tガス)=活動量×排出係数(活動量当たりの排出量) 

「活動量」とは、GHGの排出量と相関関係にある排出活動の規模を表す指標のこと。具体的には、生産量や使用量、焼却量などが該当します。

「排出係数」とは、活動量当たりの排出量のこと。排出原単位とも呼ばれます。排出活動ごとに、排出係数が定められています。

活動量や排出係数の前提となる「排出活動」は多岐にわたるため、まずは「自社におけるこの活動は、どの排出活動に該当するのか」の特定が必要です。また、排出活動によっては、排出係数が細分化されているケースもあります。

なお、GHG排出量をCO2に換算する際には、以下の計算が必要です。

GHG算定排出量(tCO2)=GHG排出量(tガス)×地球温暖化係数

「地球温暖化係数」とは、CO2を基準とした場合に他の温室効果ガスがどれだけ温暖化する能力があるかを表した係数のことで、温室効果ガスの種類ごとに定めています。2024年4月時点での「温室効果ガス排出量算定・報告・公表制度」で採用されている地球温暖化係数は、以下の通りです。

GHGの種類地球温暖化係数
二酸化炭素(CO2)1
メタン(CH4)28
一酸化二窒素(N2O)265
ハイドロフルオロカーボン類(HFCs)4~12,400
パーフルオロカーボン類(PFCs)6,630~11,100
六ふっ化硫黄(SF6)23,500
三ふっ化窒素(NF3)16,100
参考:環境省『温室効果ガス排出量 算定・報告・公表制度 算定方法・排出係数一覧

上記の表からわかるように、温暖化する能力がメタンはCO2の28倍、六ふっ化硫黄においては23,500倍ということになります。

なお、「ハイドロフルオロカーボン類(HFCs)」および「パーフルオロカーボン類(PFCs)」については、地球温暖化係数が細分化されています。

地球温暖化係数やGHG排出量計算の詳細については、環境省の『温室効果ガス排出量算定・報告マニュアル(Ver5.0)(令和6年2月) 第Ⅱ編 温室効果ガス排出量の算定方法』を確認してください。

ステップ5.サプライチェーン排出量を出す

最後に、「Scope1」「Scope2」「Scope3」のGHG排出量を合計し、サプライチェーン排出量を出しましょう

なお、GHG排出量が一定以上ある事業者(特定排出社)の場合、事業所管大臣への報告が義務付けられています。日本社会全体で環境問題への関心が高まっていることから、報告義務の有無にかかわらず、自社のホームページなどで情報開示するのが望ましいでしょう。

ステップ3で算定対象範囲を限定した場合、情報開示に際しては、「どういう理由でどの範囲を算定対象としたか(どの範囲を算定対象外としたか)」を明確にするため、算定範囲およびその理由についても開示が必要です。

効率的にGHG排出量を算定できるサービス

GHG排出量を効率的に算定したい場合におすすめなのが、算定サービスの活用です。専門知識を有する外部企業が提供しているGHG排出量の算定サービスを活用すれば、外部に作業を一任できます。利用しやすさや費用対効果などを比較検討し、自社に適した算定サービスを選びましょう。

GHG削減に向けた企業の取り組み例

企業のGHG排出量を削減するには、どのような対策が必要となるのでしょうか。GHG削減に向けた企業の取り組み例としては、以下のようなものがあります。

GHG削減に向けた企業の取り組み例

  • エネルギー効率の向上(建築物や機器の断熱化、LED照明の使用など)
  • オフィス緑化の実施
  • 太陽光発電をはじめとする再生可能エネルギーの活用
  • 社用車のEV車への切り替え
  • サプライチェーン全体でのGHG削減推進 など

自社の現状を把握した上で、企業としてすべきこと・できることを確実に実行することが大切ですね。

GHGを正確に算定した上で、排出量削減に取り組もう

GHGとは、CO2をはじめとする温室効果ガスのことです。地球温暖化の原因がGHGであり、部門別にGHG排出量を見た時に最も多いのが工場などを含む「産業部門」であることから、企業にはGHG削減が求められています。とはいえ、「現状、どこでどれくらいのGHGが排出されているのか」がわからなければ、対策のしようがありません。そのため、まずはGHG排出量の正確な算定が必要です。

GHG排出量の算定は、「算定目的の設定」「算定対象範囲(全体像)の設定」「カテゴリや算定対象範囲の特定」といったステップからなります。GHG排出量を効率的に算定したい方には、算定サービスの活用がおすすめです。

GHG排出量を正確に算定した上で、自社で「どのような取り組みを実施すべきか・できるか」を考え、実行に移しましょう。