【事例紹介】環境問題解決に向けた企業の取り組み9選。必要な理由やメリットも
- 環境問題の解決に向けた企業の取り組み事例を、業種別に9つ紹介します。
- 企業が環境問題に取り組む理由としては、日本のCO2排出量は企業の事業活動によるものが大きいことが挙げられます。そのため、企業は主体的に活動しなければなりません。
- 環境問題への取り組みを進めることで、CRSへの寄与やコスト削減、ESG投資への好影響、取引企業の拡大といったメリットが得られます。
地球温暖化が進行する中、企業の環境問題への取り組みは経営上の重要課題ともいえます。しかし、どのような取り組みをすればよいのか模索している企業も多いのではないでしょうか。
この記事では、企業の環境に関する取り組み事例を業種別で紹介します。環境問題に取り組む必要性やメリットなども解説しているので、脱炭素化を目指す企業にとってヒントになる情報が得られるでしょう。最後までご覧ください。
【業種別】企業の環境に関する取り組み事例9選
企業が環境問題に取り組む事例について、自社と同じ業種の例を参考にしてみてはいかがでしょうか。今回は、「製造業」「小売業」「建設業」「その他」に分けて紹介します。太陽光発電施設の新設や森林保全活動といったイメージしやすい事例のほか、啓発活動に絡めた商品開発といったユニークなものもあります。大企業だけでなく中小企業の事例もピックアップしていますので、参考にしてください。
製造業
製造業の取り組み事例として、「太陽光発電設備の新設」「省エネ型機器の導入」を紹介します。
参考:環境省『令和5年度版(2023年度版)活用事例』
フジオーゼックス株式会社|太陽光発電設備の新設
概要 | ・太陽光発電設備の新設 ・パワーコンディショナーの設置 |
CO2削減量 | 約469t-CO2/年 |
エネルギーコスト削減額 | 約1,180万円/年 |
自動車部品メーカーのフジオーゼックス株式会社は、CO2排出量を2020年度と比較して2023年度までに20%、2030年度までに50%低減することを目標に掲げています。太陽光発電設備の新設により電力費が削減でき、製造コストの削減にもつながりました。
また、工場の屋根に太陽光発電設備を設置したため「日陰効果」が生まれ、夏場における工場内の室温上昇抑制も実現。あわせて、自家消費できるようパワーコンディショナーも設置したため、停電時の電力供給も可能となりました。
参考:フジオーゼックス株式会社『中期経営計画』
テーブルマーク株式会社|省エネ型機器の導入
概要 | 省エネ型の冷凍機ユニット2台の導入 |
CO2削減量 | 約2,021t-CO2/年 |
エネルギーコスト削減額 | 約2,182万円/年 |
冷凍食品など食料品の製造を手掛けるテーブルマーク株式会社は、2017年より国内工場の冷凍機のノンフロン化を推進。2022年1月に省エネ型の冷凍機ユニット2台を導入したことで、製品フリーザー用冷凍機は全て自然冷媒となりました。
今回の省エネ型の冷凍機ユニット2台の導入により、代替フロンを用いた一般的な冷蔵冷凍設備と比べて、CO2排出量を約2,021t-CO2削減することに成功。エネルギーコストも比較対象設備から約55%削減できました。
小売業
小売業の取り組み事例として、「不要な洋服の店舗回収」「店舗への高効率空調導入」を紹介します。
株式会社ユニクロ|不要な洋服の店舗回収
概要 | ・着なくなった服を店舗にて回収 (リユース可:難民キャンプや被災地へ届ける、リユース不可:燃料や防音材として加工し、リサイクル) ・リサイクルダウンジャケットの販売 |
実績 | リサイクルダウンジャケットの販売では、回収したダウン商品からリサイクルしたダウンとフェザーを100%使用 |
企画段階から長く使える服づくりに努めている株式会社ユニクロでは、生産や販売での無駄をなくし、廃棄を生み出さない販売戦略を立案し推進。販売後にも責任を果たす意味で、顧客から不要な洋服を店舗回収し、リユース・リサイクルを積極的に行っています。
参考:経済産業省・環境省『サーキュラー・エコノミーに係るサステナブル・ファイナンス促進のための開示・対話ガイダンス』
株式会社カインズ|店舗への高効率空調導入
概要 | 高効率空冷ヒートポンプエアコン(EHP)の導入 |
CO2削減量 | 約277t-CO2/年 |
エネルギーコスト削減額 | 約539万円/年 |
全国でホームセンターを展開している株式会社カインズは、店舗における空調設備として、電力エネルギーを使用する高効率空冷ヒートポンプを導入。ガスからのエネルギー転換により、CO2排出量が494t-CO2/年から217t-CO2/年に。導入前と比べ50%以上を減らすことに成功しました。
建設業
建設業の取り組み事例として、「燃料電池・エネルギー貯蔵装置などの導入」「低燃費建設機械の導入」を紹介します。
株式会社トーエネック|燃料電池・エネルギー貯蔵装置などの導入
概要 | 以下の装置を導入 ・燃料電池 ・水電解式水素発生装置(水電解装置) ・水素貯蔵タンク(水素タンク) |
CO2削減量 | 約2t-CO2/年 |
エネルギーコスト削減額 | 約5万円/年 |
電力の総合設備企業である株式会社トーエネックは、太陽光発電による余剰電力を水電解装置で水素に変換し、燃料電池から照明や自動販売機へ電力を供給しています。また、水素貯蔵タンクでエネルギーを蓄えられるため、停電時や災害時の電力利用が可能となりました。これらの装置の導入により、CO2排出量は導入前に比べ100%削減に成功。電力としては、年間で約3,200kWh削減できました。
株式会社エンジン|低燃費建設機械の導入
概要 | 低燃費型建設機械の導入(従来型からの更新) |
CO2削減量 | 約21t-CO2/年 |
エネルギーコスト削減額 | 約76万円/年 |
福島県に本社を置く株式会社エンジンは、従来型建設機械を更新する形で、低燃費型建設機械を導入しました。CO2削減量を、導入前の67t-CO2/年から約2/3の21t-CO2/年にまで減少。低燃費型建設機械の導入により、運転時の騒音軽減というメリットも得られました。
また、この導入により、工事受注において他社との差別化を図ることが可能に。企業の競争力アップにも寄与しました。
その他
これまでに紹介した業種以外の取り組み事例として、「EVトラックの導入」「森林保全活動」「啓発活動を目的とした商品開発」を紹介します。
株式会社東洋食品|EVトラックの導入
概要 | EVトラック1台(8トン未満)の導入 |
CO2削減量 | 約1t-CO2/年 |
エネルギーコスト削減額 | 約10万円/年 |
給食センターを運営する株式会社東洋食品は、埼玉県久喜市の要請により、給食センターの配送用車両をEV化。従来のディーゼルトラックに代わり、EVトラックを導入しました。これにより、導入前と比較してCO2排出量を約30%削減することに成功。エネルギーコストは、軽油から電力へのエネルギー転換により、約60%削減できました。
JTグループ|森林保全活動
概要 | ・社員ボランティアによる森林保全活動 ・一般向けセミナーの実施 |
JTグループは、霧島錦江湾国立公園内にある社有林「JTの森 重富」において、森林に触れ、自然環境保全の意識を高めることを目的とした森林保全活動を実施しています。
森林保全活動は、年に1~2回開催。内容は、樹名板の設置や歩道の整備、生態系フィールド調査などです。一般向けセミナーでは、地元の専門家を招いた講座を行うなど、地域密着型の活動を展開しています。
参考:環境省『JTの森 重富 森林保全活動及び自然観察会』
モリカワペーパー株式会社|啓発活動を目的とした商品開発
概要 | 脱炭素アクションを題材としたボードゲームの開発・製造 |
紙製品の製造や加工などを手掛けるモリカワペーパー株式会社(旧社名:株式会社丸義モリカワ)は、暮らしの中の脱炭素アクションを題材とした協力型ボードゲーム「CN2050」を開発・製造しました。
脱炭素にまつわるアクションの内容やCO2削減量・排出量などのエビデンスは法政大学川久保研究室との協働によるもの。同研究室による「CN2050解説書」も添付されており、ゲームを楽しみながら、脱炭素化について学べます。
業種別に紹介してきましたが、「太陽光発電設備の新設」や「省エネ型機器の導入」「燃料電池・エネルギー貯蔵装置などの導入」などは、業種の枠にとらわれずに実践できるものです。こうした取り組みを積極的に進めていくとよいでしょう。
なぜ、企業は環境問題に取り組む必要があるのか?
「なぜ、環境問題に取り組むべきなのか」を知ることで、より貢献度の高い活動ができます。企業が環境問題に取り組むべき理由について、詳しくみていきましょう。
地球温暖化ストップに向け、国・企業の関わりが必須
企業が環境問題に取り組むべき背景としては、深刻化が増す地球温暖化が挙げられます。地球温暖化による気候変動によって、以下の図にあるようなさまざまな問題が引き起こされており、日本をはじめとした世界各国で地球温暖化ストップの動きが広がっています。
具体的な動きとして押さえておきたいのが、パリ協定とIPCC1.5℃特別報告書です。
2015年に採択されたパリ協定では、世界共通の長期目標として、世界の気温上昇を産業革命前より2℃を十分に下回る水準に保持し、また1.5℃に抑えることを目指すとしています。
また、パリ協定の合意内容に関する科学的根拠として、IPCC(気候変動に関する政府間パネル)は2018年10月に「IPCC1.5℃特別報告書」を発表。この報告書では、「世界の人為的なGHG排出量を、2030年までに2010年比で約45%減少させ、2050年までには実質ゼロにする必要がある」ことが示されました。
こうした動きを受け、地球温暖化をストップすべく、世界各国は2050年までのカーボンニュートラル実現を目指しています。
環境省が発表した日本におけるエネルギー起源CO2排出量(電気・熱配分後排出量)の部門別内訳(以下の円グラフ)を見てみましょう。家庭部門は全体の16%にすぎず、企業の事業活動による排出が多いことがわかります。
このような状況を踏まえ、国はもちろん、企業も積極的に脱炭素化を進める必要があるのです。
企業が環境に関する取り組みを推進するメリット
企業が環境に関する取り組みを推進するメリットについても紹介します。
■メリット
- CSRに寄与
- ESG投資に有効
- コストの削減
- 取引企業の拡大
メリット1.CSRに寄与
1990代以降、地球温暖化をはじめとした地球環境問題への取り組みが企業に求められるようになり、CSR(企業の社会的責任)が一般化しました。今では、環境問題への取り組みは企業における経営上の重要課題と捉えられています。
自社で環境問題に取り組むことは、CSRを果たすことになります。その結果、社会的な信用を得られ、企業の成長につながるでしょう。
メリット2.ESG投資に有効
ESG投資とは、環境(Environment)、社会(Social)、企業統治(Governance)という非財務情報を考慮した投資方法です。地球温暖化が深刻さを増す中、国内外の投資家の間でESG投資は拡大傾向にあります。そのため、自社にESG投資をしてもらえるかどうかは、今後の企業活動に大きく関わってくる事柄といえます。
企業は環境問題に積極的に取り組み、それをアピールすることで、投資家の信頼を得ることができるでしょう。その結果、投資してもらいやすくなるといえます。
メリット3.コストの削減
先述した事例のように、脱炭素化への取り組みはCO2をはじめとした温室効果ガスの削減だけでなく、光熱費や燃料費といったエネルギーコストの削減にもつながります。また、無駄な設備や機器を見直すことで、設備コストも削減できるでしょう。
メリット4.取引企業の拡大
企業が率先して環境問題の改善に取り組むことは、取引企業の拡大にも貢献します。
企業がサプライチェーン排出量を算出する場合、取引先に排出量のデータ開示を求めることがあります。求められた企業が算出できずデータ開示要求に応えられないとなると、最悪の場合、取引停止という恐れもあります。
逆に、日頃から環境対策に取り組み、取引先からのデータ開示要求に速やかに対応できれば、新規取引先を得られるビジネスチャンスにもなり得ます。
【最新2024年度】企業の環境対策に活用できる補助金制度
自社で環境対策を進めるとなると、省エネ型機器や太陽光発電設備の導入、システム開発など、どうしても相当の費用がかかります。予算確保が課題となっている場合に活用したいのが、国や自治体が実施する補助金制度です。
補助金制度によって、目的や概要、対象となる企業、補助率、補助額などは異なります。自社の取り組みに合った補助金を受給できれば、費用面での大きな援助となるでしょう。
以下のページで、最新の補助金制度を紹介していますので、参考にご覧ください。
企業でできる環境への取り組みを進めよう
地球温暖化が進む中、環境問題への取り組みは全ての企業に求められているといっても過言ではありません。取り組みを推進することで、CSRに寄与したり、ESG投資に有効だったりといったメリットも得られます。
企業としてできる脱炭素化対策は、業種や事業活動、企業規模、立地条件などによって、変わってきます。今回紹介した事例を参考にしながら、機器の新規導入や入れ替え、環境保全活動の実施など自社として何ができるかを検討し、取り組みやすいこと・優先度の高いことから確実に実行していきましょう。