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【わかりやすく】脱炭素社会とは?意味や日本の動向、企業の取り組みについて解説

目次
記事の要点
  • 脱炭素社会とは、温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする社会を意味します。
  • 脱炭素社会を目指す理由は、地球温暖化の深刻化を防ぐため。2023年の世界平均気温は、統計を開始してから最高値をマークしています。
  • パリ協定をきっかけに、世界で環境への取り組みが加速。日本でも脱炭素社会の実現に向けて法改正などの動きが活発化しています。

温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする脱炭素社会。「2050年カーボンニュートラル」の目標達成に向けて、脱炭素社会に向けた取り組みが日本をはじめ世界各国で進められています。国の政策が企業活動にも大きく影響することが予想されており、脱炭素に関連する情報について知っておきたい方も多いのではないでしょうか。

今回の記事では、「脱炭素社会とはなにか」についてまとめています。世界と日本のこれまでの取り組みを振り返りながら、国内の具体的な動きについても解説しています。ぜひ参考にしてください。

脱炭素社会とは?

脱炭素社会とはどのような社会を指すのでしょうか?まずは、言葉の意味についてご紹介します。

脱炭素社会のイメージ

温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする社会

地球温暖化対策の推進に関する法律(地球温暖化対策推進法・温対法)では、基本理念の条文で、「脱炭素社会」を以下のように定義しています。

地球温暖化対策の推進に関する法律 第2条の2
人の活動に伴って発生する温室効果ガスの排出量と吸収作用の保全及び強化により吸収される温室効果ガスの吸収量との間の均衡が保たれた社会をいう。
引用:e-Gov『平成十年法律第百十七号 地球温暖化対策の推進に関する法律

つまり、脱炭素社会は温室効果ガスの排出量と吸収量をバランスよく保ち、温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする社会を意味します。以前は「低炭素社会」という言葉が使われていましたが、環境問題に対する国際的な動きも後押しとなって、より問題に切り込んだ「脱炭素社会」が提唱されるようになりました。

温室効果ガス排出量の約9割は「CO2」

脱炭素社会という言葉には、「CO2排出量を削減する社会」というイメージを持つ人も多いでしょう。それは、CO2をはじめメタンや一酸化二窒素など7種類ある温室効果ガスのうち、排出量の大部分をCO2が占めているからと考えられます。2022年度のCO2排出量は全体の91.3%を占めています。

温室効果ガスの種類2022年度排出量シェア
二酸化炭素(CO2)1,03791.3%
メタン(CH4)29.92.6%
一酸化二窒素(N2O)17.31.5%
ハイドロフルオロカーボン類(HFCs)46.14.1%
パーフルオロカーボン類(PFCs)3.00.3%
六ふっ化硫黄(SF6)2.10.2%
三ふっ化窒素(NF3)0.30.0%
(単位:百万トンCO2換算)※排出量0.0は5万トン未満、シェア0.0は0.05未満
参考:環境省『2022年度の温室効果ガス排出・吸収量(概要)

CO2が排出される原因は、家庭で使われる電気や車の排気ガス、産業における化石燃料(石油など)の使用などさまざまです。他の温室効果ガスの削減を視野に入れながらも、CO2排出量削減に対して重点的に取り組むことで、脱炭素社会への効果的なアプローチが期待できるでしょう。

カーボンニュートラルは温室効果ガス吸収量でバランスをとる考え方

脱炭素社会と似ている言葉に、「カーボンニュートラル」があります。環境問題のニュースなどで「カーボンニュートラル」という言葉を耳にする方も多いのではないでしょうか。

カーボンニュートラルのイメージ
参考:環境省 脱炭素ポータル『カーボンニュートラルとは』を加工して作成

カーボンニュートラルの意味について、環境省は以下のように紹介しています。

カーボンニュートラルとは温室効果ガスの排出量と吸収量を均衡させることを意味します
引用:環境省 脱炭素ポータル『カーボンニュートラルとは

カーボンニュートラルは、温室効果ガスを減らすだけではなく、吸収量でカバーするための対策も強化する必要があります。全体で見たときにバランスがとれているようにする考え方といえますね。

脱炭素とカーボンニュートラルの違い

「脱炭素」という言葉に明確な定義はありません。また、「カーボンニュートラル」は認証機関や基準によって考え方に違いがあります。一般的な言葉の使われ方として、脱炭素とカーボンニュートラルは、焦点を当てている部分が異なるといえるでしょう

言葉焦点
脱炭素温室効果ガスの排出を社会全体でゼロにするという、ビジョンの大枠。「脱炭素社会」「脱炭素化」のように使われる。温室効果ガスのなかでも、CO2の排出削減に注目している
カーボンニュートラル温室効果ガスの排出量と吸収量を均衡させる具体的な考え方、アプローチ

以下の記事では、脱炭素とカーボンニュートラルの違いについてより詳しく解説しています。

参考:環境省 脱炭素ポータル『カーボンニュートラルとは

なぜ脱炭素社会の実現が求められているか

脱炭素社会を目指す理由は、地球温暖化の深刻化を防ぐためです。以下のグラフは、1891年から2023年まで世界の年平均気温の偏差を表したものです。

世界の年平均気温偏差
参考:気象庁『世界の年平均気温偏差』を加工して作成

グラフからわかるように、世界の年平均気温は上昇傾向にあり、100年あたり0.76℃の割合で上がっています。2023年の世界の平均気温は、基準値(1991〜2020年の平均値)より0.54℃高く、これは1891年の統計開始以降、最も高い値です。

ここ数年、真夏の暑さ、冬の暖かさが気になりますよね。日本の気温も上昇傾向にあり、地球温暖化と関連して以下のような問題が懸念されています。

将来起こりうる気候変動の予測
・海面水温の上昇
・海面水位の上昇
・集中豪雨のような激しい雨の増加
・台風の増加
参考:文部科学省・気象庁『日本の気候変動2020

このような環境問題は、人類の生存を脅かす可能性もあります。人類が地球上で生活していくためには、脱炭素社会の実現が必須なのです。

地球温暖化に対する世界の取り組み

地球温暖化に対し、世界ではどのような取り組みを行っているのでしょうか。世界のこれまでの取り組みや各国の施策をまとめました。

パリ協定で世界共通の長期目標が決定

2015年、第21回国連気候変動枠組条約締約国会議(COP21)において、パリ協定が採択されました。気候変動問題の解決を目指すための国際的な枠組みであるパリ協定では、以下のような世界共通の長期目標が示されています。

パリ協定での長期目標
世界的な平均気温上昇を工業化以前に比べて2℃より十分低く保つ上記に加えて、上昇を1.5℃に抑えられるよう努力する
参考:外務省『2020年以降の枠組み:パリ協定

パリ協定の採択後、2018年10月にIPCC(気候変動に関する政府間パネル)の第48回総会が開催。科学的根拠に基づき「世界の人為的なGHG排出量を、2030年までに2010年比で約45%減少させ、2050年までには実質ゼロにする必要がある」ことが示されました。

こうして、各国は目標達成に向けてさまざまな政策を立てています。

脱炭素化に向けた各国の施策

脱炭素社会に向けて、カーボンプライシングに取り組む国も見られます。カーボンプライシングとは、企業などの排出するCO2(カーボン・炭素)に価格をつけ、それによって排出者の行動を変化させることを狙いとした政策手法です。カーボンプライシングの具体的な施策としては、「排出量取引制度」や「炭素税」などがあります。

排出量取引制度(キャップ・アンド・トレード)

政府などが、各企業の排出量の上限(キャップ)を決める。企業はその枠内に収まるように努力し、余った分は他社と取引(トレード)できる

炭素税

CO2の排出に対して、政府が課税を行う

排出量取引制度は、EU、韓国、中国などですでに導入されています。また、アメリカでは、脱炭素社会の実現に向け、2022年8月にインフレ削減法(Inflation Reduction Act)が成立。太陽光発電や風力発電といったクリーン電力への移行を進めることや、電気自動車の普及を促進するといった方針が決定されています。

参考:資源エネルギー庁『第1節 脱炭素社会への移行に向けた世界の動向

脱炭素社会の実現に向けた日本の取り組み

世界の動きに加え、脱炭素社会に向けた日本の取り組みも気になりますよね。日本のこれまでの動きをご紹介します。

「2050年カーボンニュートラル」を宣言

日本では2020年10月、当時の菅内閣総理大臣が所信表明演説において、以下を宣言(2050年カーボンニュートラル宣言)しました。

我が国は、二〇五〇年までに、温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする、すなわち二〇五〇年カーボンニュートラル、脱炭素社会の実現を目指すことを、ここに宣言いたします。
引用:首相官邸『令和2年10月26日 第二百三回国会における菅内閣総理大臣所信表明演説

これによって、国を挙げて脱炭素社会の実現に取り組む姿勢が表明されました。さらに、2050年カーボンニュートラル実現に向け、2021年4月には、アメリカ主催の気候サミットにて、具体的な削減数値を表明しています。

我が国が、2030年度において、温室効果ガスの2013年度からの46%削減を目指すことを宣言するとともに、さらに、50%の高みに向け、挑戦を続けていく決意を表明しました。
引用:外務省『菅総理大臣の米国主催気候サミットへの出席について(結果概要)

地球温暖化対策の推進に関する法律の改正

地球温暖化に対する政策の指針となるのが、1998年に制定された「地球温暖化対策の推進に関する法律」です。「温対法」という言葉を聞いたことがありませんか。温対法とは、この法律の略称です。

成立後、変化する環境に合わせ、度重なる法改正が行われています。先述した「2050年カーボンニュートラル」など、脱炭素社会に向けた国の新たな方針に基づく法改正も行われています。以下に、近年の改正内容をまとめました。

地球温暖化対策推進法の改正内容

改正年内容
2021年地域の再エネを活用した脱炭素化の施策や、企業の排出量情報のオープンデータ化を進めるための取り組みを定める
2022年株式会社脱炭素化支援機構(脱炭素に資する多様な事業への投融資を行う官民ファンド)の設立や業務内容を定める

地球温暖化対策推進法に基づいた政府の計画である「地球温暖化対策計画」も法改正に伴って2021年、5年ぶりに改定。2030年度の46%削減目標、および2050年のカーボンニュートラル達成に向けた戦略が新たに定められました。

日本における脱炭素社会に向けた具体的な動き

地球温暖化対策計画を受けて進み出した、国内の具体的な動きをご紹介します。

住宅や建築物の省エネ対策を推進

地球温暖化対策計画では、エネルギー政策にも言及しています。具体的な内容は以下になります。

  • 再生可能エネルギーの利用促進(例:太陽光発電など)
  • 省エネルギー化の推進(例:省エネ住宅など)

これらを受け、建築物の省エネ基準の適合範囲を拡大する動きもあります。

法改正の動き施行日
脱炭素社会の実現に資するための建築物のエネルギー消費性能の向上に関する法律等の一部を改正する法律を公布/省エネ対策の加速化を推進するために制定2024年4月1日~
建築物省エネ法を改正/全ての新築住宅(非住宅含む)に省エネ基準適合を義務付け2025年4月~(予定)

その他の建築物にまつわる法改正の動きは以下の通りです。

法改正の動き施行日
脱炭素社会の実現に資する等のための建築物等における木材の利用の促進に関する法律の公布前身の法律である「公共建築物等における木材の利用の促進に関する法律の一部を改正する法律」の題名、および内容を変更。法の対象を、公共建築物から建築物一般に拡大している2021年10月1日~
建築基準法の改正建築確認・検査の対象の見直しなど2025年4月~(予定)

住宅や太陽光発電パネルは、私たちの生活に身近なものでもあります。施行日以降に着工する建築物は、新しいルールに基づいて建築することが求められるので、よく確認しておくことが重要です。

参考:国土交通省『2025年4月(予定)から全ての新築住宅・非住宅に省エネ基準適合が義務付けられます

脱炭素に向けたイノベーション支援

地球温暖化対策計画では、「グリーンイノベーション基金」(2兆円基金)により、脱炭素社会の実現に向けて重点的に取り組む分野の研究開発を支援することも主な施策として掲げています。支援の対象は、次世代型エネルギーとして注目されている「水素」や、再生可能エネルギーの利用の幅を広げる「蓄電池」などが候補に上がっています。

モデルとなる「脱炭素先行地域」を指定

脱炭素化に向けた戦略である「地域脱炭素ロードマップ」では、以下のような取り組みを計画しています。

地域脱炭素ロードマップ
参考:環境省『地域脱炭素ロードマップ【概要】』を加工して作成

地域脱炭素ロードマップ
・2030年度までに100以上の「脱炭素先行地域」を創出
・全国で、重点対策(自家消費型太陽光、省エネ住宅、電動車など)を実行
・3つの基盤的施策(継続的・包括的支援、ライフスタイルイノベーション、制度改革)を実施
・地域の脱炭素モデルを全国に広げ、2050年を待たずに脱炭素達成(脱炭素ドミノ

脱炭素社会のロールモデルを作り、それを全国に広めていくといった内容で、脱炭素化しながら地域課題も解決することを目指しています。もしかしたら、みなさんの企業の所在地が「脱炭素先行地域」になっているかもしれません。気になる方はチェックしてみてください。

脱炭素社会に向けて自社に必要な取り組みを考えてみよう

日本だけではなく、世界中で脱炭素社会の実現に向けた取り組みが推進されています。企業にとっては、業務の見直しや初期投資など短期的な視点だとデメリットが多いと感じるかもしれません。しかし、長期的に見れば、業務を見直すことで新たなイノベーションの創出につながったり、コストダウンを図れたりするチャンスでもあります。脱炭素社会の実現に向けて、まずは自社に必要な取り組みについて考えてみましょう。