【実践的】カーボン・オフセットの企業事例。メリットや活用時の注意点も解説
- カーボン・オフセットの取り組みは、「製品・サービスオフセット」「会議・イベントオフセット」「組織活動(自己活動)オフセット」「クレジット付製品・サービス」「寄付型オフセット」に大別されます。
- 国内のさまざまな企業が、カーボン・オフセットを実施・活用しています。
- 企業事例を参考に、自社としてどのようにカーボン・オフセットを実施・活用するかを検討しましょう。
カーボンニュートラル実現に向けた手段の一つとして注目されている、カーボン・オフセット。カーボン・オフセットの企業事例を参考に、自社での実施・活用を検討していきたい企業も多いでしょう。
そこで今回は、カーボン・オフセットの概要や企業事例、企業にとってのメリット、活用する際の注意点などを解説します。これを読めば、カーボン・オフセットの企業事例を把握でき、自社としてどのように実施・活用していけばよいかのヒントが得られるでしょう。
そもそも、カーボン・オフセットとは?
カーボン・オフセットとは、自らの活動に伴い排出する二酸化炭素(CO2)などの温室効果ガスを認識・削減した上で、それでもなお発生してしまう排出量を埋め合わせる取り組みのことです。
この定義からもわかるように、カーボン・オフセットの活用に先立ち、まずは温室効果ガス排出量削減に向けた取り組みを実施する必要があります。とても重要なポイントですので、覚えておきましょう。
対象となる温室効果ガスは、CO2やメタンなど計7種類。これらは、国が1年間に排出・吸収する温室効果ガスの量を取りまとめたデータである「温室効果ガスインベントリ」に計上されているガスになります。
カーボン・オフセットについて詳しく知りたい方は、こちらの記事を参考にしてください。
カーボン・オフセットの5つの取り組み
カーボン・オフセットの取り組みは、「製品・サービスオフセット」「会議・イベントオフセット」「組織活動(自己活動)オフセット」「クレジット付製品・サービス」「寄付型オフセット」の5つに大別されます。
取り組み | 概要 |
---|---|
製品・サービスオフセット | 製品を製造または販売する者やサービスを提供する者などが、製品やサービスのライフサイクルを通じて排出される温室効果ガス排出量を埋め合わせる取り組み |
会議・イベントオフセット | コンサートやスポーツ大会、国際会議といったイベントの主催者などが、その開催に伴って排出される温室効果ガス排出量を埋め合わせる取り組み |
組織活動(自己活動)オフセット | 企業や自治体、NGOなどの組織が自らの活動によって排出される温室効果ガスを埋め合わせる取り組み |
クレジット付製品・サービス | 製品の製造・販売者やサービス提供者、イベント主催者などが製品・サービス・チケットにクレジットを付与し、購入者や来場者の日常生活における温室効果ガス排出の埋め合わせを支援する取り組み |
寄付型オフセット | クレジットの活用による地球温暖化防止活動への貢献・資金提供などを目的として参加者を募り、クレジットを購入・無効化する取り組み |
カーボン・オフセットの重要性
企業としてカーボン・オフセットを実施・活用する際にあらかじめ知っておきたいのが、カーボン・オフセットの重要性です。カーボン・オフセットは、「地球全体における温室効果ガスを削減する」という観点から、とても重要といわれています。
温室効果ガスは、事業活動のほぼ全てにおいて、程度の差こそあれど発生します。そのため、いくら削減努力をしたとしても、1社のみで削減できる量には限度があるのが実情です。
カーボン・オフセットは、こうした状況を打破するために有効なものとして注目されています。自社がどうしても排出してしまう温室効果ガスをカーボン・オフセットで埋め合わせることで、総合的に見て地球全体での温室効果ガス削減や地球温暖化の抑制に貢献できるためです。
また、カーボン・オフセットは、「カーボンニュートラル」の実現に向けた補助的な手段でもあります。カーボンニュートラルとは、CO2をはじめとする温室効果ガスの人為的な「排出量」と「吸収量」を均衡させること。実現に向けては、「省エネ・節エネの徹底」や「再生可能エネルギーの活用」などと並んで、カーボン・オフセットも有効であるといわれています。
こうしたことから、「カーボン・オフセットはとても重要である」といえますね。
日本企業のカーボン・オフセット取り組み事例
実際、各企業はどのような取り組みを実施しているのでしょうか。日本企業6社のカーボン・オフセット取り組み事例を紹介します。
なお、以下の事例紹介の中で出てくるJ-クレジットとは、省エネルギー設備の導入などによるCO2などの排出削減量や、適切な森林管理によるCO2などの吸収量を「クレジット」として国が認証する制度のことです。詳しくは以下の記事をご覧ください。
住友林業グループ|グローバルな森林ファンドを組成
住友林業グループは、2023年6月に日本企業10社が参画するグローバルな森林ファンドを組成しました。
■グローバルファンドの参画企業
- 住友林業グループ
- ENEOS株式会社
- 大阪ガス株式会社
- 東京センチュリー株式会社
- 日本郵政株式会社
- 日本郵船株式会社
- 芙蓉総合リース株式会社
- 株式会社三井住友銀行
- 三井住友信託銀行株式会社
- ユニ・チャーム株式会社
資産規模は約600億円で、運用期間は15年間を予定しています。参画企業の出資金をもとに2027年までに北米を中心に約13万haの森林を購入・管理し、カーボン・オフセットに貢献していく方針です。この取り組みは、「組織活動(自己活動)オフセット」に該当します。
グローバルな森林ファンドを通じて、森林が持つCO2吸収・炭素固定機能や生物多様性、水資源の保全などの多面的機能が十分発揮できる持続可能な森林経営を実践し、質の高いカーボンクレジットの創出を目指しています。
参考:住友林業
キヤノン株式会社|オフィス向け複合機などをカーボン・オフセット
キヤノン株式会社では、「地球温暖化防止への貢献」と「自社の製品・サービスの更なる環境付加価値の向上」を目的に、カーボン・オフセットを実施。オフィス向け複合機と一部のプロダクションプリンターの製品ライフサイクル全体で排出されるCO2について、カーボン・オフセットできる仕組みとなっています。この取り組みは、「製品・サービスオフセット」に該当します。
また、製品ライフサイクル全体における環境に及ぼす影響を定量的に「見える化」する仕組みとして、カーボンフットプリント(CFP)も導入。カーボン・オフセットの対象製品の認証では、経済産業省が推進している「CFPを活用したカーボン・オフセット制度」を活用しています。
参考:キヤノン株式会社『キヤノンのカーボン・オフセットの取り組み』
株式会社イトーキ|4種類のクレジットを提供
オフィス家具の製造販売などの「ワークプレイス事業」と、物流施設や公共施設などの発展に貢献する「設備機器・パブリック事業」を展開している株式会社イトーキでは、J‐クレジットする方法に合わせ、下記4種類のクレジットを提供しています。この取り組みは、「組織活動(自己活動)オフセット」に該当します。
クレジットの種類 | 特徴 |
---|---|
J-クレジット再エネ設備型 | ・太陽光発電設備やバイオマス燃料の導入などによって創出される ・各種国際認証への活用が可能 |
J-クレジット省エネ設備型 | ・中小企業などにおける省エネ設備の導入によって創出される ・他の方法によるクレジットよりも、比較的安価 |
J-クレジット森林整備型 | ・間伐や植林などの森林管理により、森林の温室効果ガスの吸収を確保することで創出される ・生物多様性の保全に、間接的に貢献することが可能 |
海外クレジット | ・「VCS(温室効果ガス削減のプロジェクトから発行されるクレジットの認証基準)」や「Gold Standard(温室効果ガス削減プロジェクトの質の高さに関する認証基準)」などの海外ボランタリークレジットにも対応したものを提供 |
参考:株式会社イトーキ『イトーキのカーボン・オフセットサービス』
ミドリ安全株式会社|「カーボンオフセット・ユニフォーム」の販売
安全靴やヘルメット、オフィス・ワーキングユニフォームなどの製造販売を行っているミドリ安全株式会社は、「カーボンオフセット・ユニフォーム」を販売。ユニフォームの製造工程で発生するCO2排出量について、1点あたり3kgのCO2(自家用車で12km走行した際の排出量に相当)をカーボン・オフセットしています。この取り組みは、「クレジット付製品・サービス」に該当します。
なお、ユニフォームにはカーボン・オフセット製品であることを示すオリジナル・ネームが縫い付けられるため、導入企業にとっては企業イメージの向上が期待できます。
参考:ミドリ安全株式会社『環境への取り組み|地球温暖化を防ぐための、カーボンオフセット。』
株式会社JTBコミュニケーションデザイン|カーボン・オフセットに対応した宿泊サービスの提供
MICE事業(ミーティングやコンベンション、各種イベントなどの主催・企画・運営)などを展開している株式会社JTBコミュニケーションデザインでは、ホテルや旅館などへの宿泊で生じたCO2排出相当量をカーボン・オフセットできる宿泊サービス「CO₂ゼロSTAY®」を提供。この取り組みは、「クレジット付製品・サービス」に該当します。
「CO₂ゼロSTAY®」により、宿泊施設は環境配慮型オフセットプランを設定できるようになりました。「東京ステーションホテル」や「株式会社ジェイアール西日本ホテル開発」「箱根小涌園 天悠」といった宿泊施設で導入されています。
参考:株式会社JTBコミュニケーションデザイン『CO₂ゼロSTAY®』
株式会社山櫻|カーボンニュートラル封筒などの提供
名刺や封筒、挨拶状といった紙製品の製造・販売をしている株式会社山櫻では、製造過程におけるCO2排出量を実質ゼロにした、「カーボンニュートラル封筒」を作成。原材料調達と輸送においては、J-クレジット制度を使ってオフセットしています。この取り組みは、「クレジット付製品・サービス」に該当します。
また、原材料調達から廃棄リサイクルまで封筒印刷に関わるCO2排出量を実質ゼロにできる封筒プリントサービス「カーボンニュートラルプリントサービス」も提供。封筒には、算定した排出量またはカーボン・オフセットした量の数字を表示したマークを付けられるようになっています。
参考:株式会社山櫻『カーボンニュートラル製品』
カーボン・オフセットの活用事例
カーボン・オフセットの活用を検討している企業にとっては、「実際に他社がどのように活用しているのか」がヒントとなるでしょう。ここでは、Jクレジット制度のホームページをもとに、カーボン・オフセットを活用している企業2社の事例を紹介します。
なお、どちらの事例も企業の所在地と同一地域内で創出されるクレジットを活用したものです。
参考:J-クレジット制度『クレジット活用事例一覧』
季の庭ヤエール|ソフトクリームの生産・販売時のCO2排出にカーボン・オフセットを活用
北海道砂川市の喫茶店季の庭ヤエールでは、未来の子ども・孫たちのために今できる地球温暖化防止対策として、カーボン・オフセットを活用しています。自社製ソフトクリームの生産・販売時における使用電気のCO2排出量の一部をカーボン・オフセット。なお、カーボン・オフセットには、北海道道有林と石狩市有林により創出されたクレジットを用いています。
出雲ガス株式会社|ガス事業に伴うCO2排出にカーボン・オフセットを活用
島根県の出雲ガス株式会社では、2021年度から2025年度の5年間、カーボン・オフセットを活用しています。地球温暖化対策の一環として、ガス事業に伴う保安業務、営業・修理・工事業務で発生するCO2排出量の一部をカーボン・オフセット。なお、カーボン・オフセットには、「神話の國出雲さんさん倶楽部(出雲市・住宅への太陽光発電設備導入によるCO2削減事業)」が創出したJ‐クレジットを用いています。
企業がカーボン・オフセットを活用・取り組むメリット
企業事例について紹介してきましたが、「カーボン・オフセットのメリットを知りたい」という方も多いでしょう。ここで簡単に紹介します。
カーボン・オフセットを活用する企業は、外部に情報公開することで、「環境問題に配慮している企業」という印象を与えられます。事業活動や人材採用への好影響も期待できるでしょう。
一方、取り組みの実施主体となる企業にとっては以下のようなメリットが期待できます。
■カーボン・オフセットに取り組むメリット
- 実施主体となっている企業はそう多くはないため、「環境問題への意識がとても高い企業」との印象を与えることができ、企業イメージが大きく向上する
- 他社との差別化を図りやすくなり、競争力の向上や新規顧客の獲得、人材採用の容易化などが期待できる
- 投資家や銀行から信用されやすくなり、投資や融資をしてもらいやすくなる など
このように、カーボン・オフセットに取り組むメリットはとても大きいため、企業によってはカーボン・オフセットの実施主体となることを検討してみてもよいでしょう。
カーボン・オフセットを活用する上での注意点
カーボン・オフセットの活用にあたっては、どのようなことを意識する必要があるのでしょうか。カーボン・オフセットを活用する上での注意点は、以下の3点です。
■注意点
- カーボン・オフセットありきで考えない:カーボン・オフセットはあくまでカーボンニュートラル実現に向けた「補助的な手段」であるため。まずは、温室効果ガス排出量の削減に取り組む必要がある。
- 仕組みをしっかり理解する:滞りなく進められるよう、環境省の「カーボン・オフセットガイドライン」などを読み込み、内容をしっかり理解した上で必要な対応をしていくことが大切。
- 温室効果ガスの排出量を正確に算定する:カーボン・オフセットやそれに付随するさまざまな取り組みを進める上で、正確な算定が不可欠なため。
なお、注意点2、3について不明点があったり、算定作業に人手が必要だったりする場合には、専門知識を有する外部企業に相談しましょう。
企業事例を参考に、カーボン・オフセットの実施・活用を検討しよう
今回は、カーボン・オフセットの企業事例を紹介しました。
カーボン・オフセットの実施主体となりたい場合、企業の事業内容や立地などによって、具体的にどのような取り組みが可能なのかが変わってきます。取り組み事例を参考に、「どういったことであれば、無理なく実行できるか」を考えることから始めてみるとよいでしょう。
カーボン・オフセットの活用に際しては、まずは自社の実情を把握した上で、温室効果ガスの排出削減に努める必要があります。その上で、どうしても発生してしまう分については、カーボン・オフセットの活用を検討しましょう。