【入門編】カーボン・オフセットとは?5つの取り組みや進め方などを解説
- カーボン・オフセットとは、自らの活動に伴い排出するCO2などの温室効果ガスを認識・削減した上で、それでもなお発生してしまう排出量を埋め合わせる取り組みのこと。
- カーボン・オフセットの取り組みは、「製品・サービスオフセット」「会議・イベントオフセット」「組織活動(自己活動)オフセット」「クレジット付製品・サービス」「寄付型オフセット」の5つ。
- 企業として活用するポイントは、カーボン・オフセットありきで考えず、まずは温室効果ガス削減に向けたさまざまな対応・取り組みを確実に進めることです。
CO2をはじめとする温室効果ガスの排出削減活動をしてもなお生じてしまう排出量を埋め合わせるための取り組みである、カーボン・オフセット。「聞いたことはあるが、内容までは詳しく知らない」「理解を深めた上で、実施や活用を検討したい」という企業も多いでしょう。
そこで今回は、カーボン・オフセットの概要や5つの取り組み、進め方などをわかりやすく解説します。これを読めば、カーボン・オフセットについての理解が深まり、自社で実施・活用する際の参考になるでしょう。
カーボン・オフセットとは?
カーボン・オフセットとは、自らの活動に伴い排出するCO2などの温室効果ガスを認識・削減した上で、それでもなお発生してしまう排出量を埋め合わせる取り組みのこと。具体的には、「製造時の温室効果ガス排出をオフセットするために、植林プロジェクトに資金提供をする」「製造時の温室効果ガス排出をオフセットするために、クレジットを購入する」などの方法があります。
温室効果ガスの排出削減を進める日本政府はカーボン・オフセットを推奨。省エネルギー設備の導入や再生可能エネルギーの利用によるCO2排出削減量、適切な森林管理によるCO2吸収量を「クレジット」として国が認証する制度である「J-クレジット制度」を導入しています。
カーボン・オフセットへの理解を深めるため、目的や対象となる温室効果ガスの種類について、見ていきましょう。
参考:環境省『カーボン・オフセット ガイドライン Ver.3.0』
参考:J-クレジット制度ホームページ『J-クレジット制度について』
地球全体での温室効果ガス削減が目的
カーボン・オフセットは、地球全体における温室効果ガスを削減することを目的としています。
温室効果ガスは、事業活動のほぼ全てにおいて、程度の差こそあれど発生するものです。そのため、いくら削減努力したとしても、1社のみで削減できる量には限度があります。
そうした中、自社がどうしても排出してしまう温室効果ガスをカーボン・オフセットで埋め合わせることで、総合的に見て地球全体での温室効果ガス削減に貢献できます。地球温暖化の抑制にもつながっていくでしょう。
なお、カーボン・オフセットの活用を外部に情報公開することで、「環境問題に配慮している企業」という印象を与えられます。それにより、事業活動や人材採用への好影響が期待できるでしょう。
また、カーボン・オフセットの主体となる企業(取り組みの実施主体となる企業)にとっては、「企業イメージの向上」や「資金調達の容易化」といったメリットがあります。
対象となる温室効果ガスの種類
対象となる温室効果ガスは、国が1年間に排出・吸収する温室効果ガスの量を取りまとめたデータである「温室効果ガスインベントリ」に計上されている以下の7種類です。この7種類は、温対法(地球温暖化対策の推進に関する法律)において、温室効果ガスの物質として定義されています。
■対象となる7種類の温室効果ガス
- 二酸化炭素(CO2)
- メタン(CH4)
- 一酸化二窒素(N2O)
- ハイドロフルオロカーボン類(HFCs)
- パーフルオロカーボン類(PFCs)
- 六ふっ化硫黄(SF6)
- 三ふっ化窒素(NF3)
環境省の資料によると、2022年度時点の日本における温室効果ガス排出量の91.3%をCO2が占めています。そのため、まずはCO2の排出量を把握し、排出削減に向けた取り組みを実施した上で、カーボン・オフセットの活用を検討することが重要です。
参考:環境省『カーボン・オフセット ガイドライン Ver.3.0』『2022年度の温室効果ガス排出・吸収量(概要)』
参考:e-Gov『地球温暖化対策の推進に関する法律』
なお、温室効果ガスについて詳しく知りたい場合には、こちらの記事が参考になります。
カーボン・オフセットと「カーボンニュートラル」の違い・関係性
カーボン・オフセットと関わりが深いのが、「カーボンニュートラル」です。
カーボンニュートラルとは、CO2をはじめとする温室効果ガスの人為的な「排出量」と「吸収量」を均衡させること。カーボンニュートラルの実現に向けた手段としては、「省エネ・節エネの徹底」「再生可能エネルギーの活用」などがありますが、カーボン・オフセットもその一つです。
ただし、カーボン・オフセットは温室効果ガス削減努力をした上で初めて活用することが可能となります。つまり、カーボンニュートラルという「目標」を達成するための補助的な「手段」がカーボン・オフセットであるということですね。
カーボン・オフセットの5つの取り組み
カーボン・オフセットを活用したい場合にも、主体として取り組みたい場合にも、まずはどのような取り組みがカーボン・オフセットに該当するのかを理解することが大切です。
カーボン・オフセットの取り組みは、大きく以下の5つに分けられます。
■カーボン・オフセットの取り組み
- 製品・サービスオフセット
- 会議・イベントオフセット
- 組織活動(自己活動)オフセット
- クレジット付製品・サービス
- 寄付型オフセット
それぞれについて、見ていきましょう。
参考:環境省『カーボン・オフセット ガイドライン Ver.3.0』
参考:農林水産省『カーボン・オフセット』
1.製品・サービスオフセット
製品・サービスオフセットとは、製品を製造または販売する者やサービスを提供する者などが、製品やサービスのライフサイクルを通じて排出される温室効果ガス排出量を埋め合わせる取り組みのこと。
「製品の製造・販売者やサービス提供者などが自らオフセットを主張するケース」と、「製品・サービスの利用者などがオフセットを主張するケース」があります。実際に活用する際は、一つのオフセットが提供側と利用側でダブルカウントされないように注意しましょう。
具体例
・製造時の温室効果ガス排出をオフセットした衣服の販売
・印刷時の電力消費に伴う温室効果ガス排出をオフセットしたプリンターの販売
・発電時のエネルギー消費に伴う温室効果ガス排出をオフセットした電力の販売
2.会議・イベントオフセット
会議・イベントオフセットとは、コンサートやスポーツ大会、国際会議といったイベントの主催者などが、その開催に伴って排出される温室効果ガス排出量を埋め合わせる取り組みのことです。
具体例
・チャリティーコンサートの主催者が、会場内の消費電力に伴う温室効果ガス排出をオフセット
・国際会議の主催者が、会場運営や出席者の移動・宿泊に伴う温室効果ガス排出をオフセット
3.組織活動(自己活動)オフセット
組織活動(自己活動)オフセットとは、企業や自治体、NGOなどの組織が自らの活動によって排出される温室効果ガスを埋め合わせる取り組みのことです。
具体例
・自社オフィスにおける電力使用に伴う温室効果ガス排出のオフセット
・自社工場における電力やガスなどのエネルギー使用に伴う温室効果ガス排出のオフセット
4.クレジット付製品・サービス
クレジット付製品・サービスとは、製品・サービスを介して埋め合わせる取り組みです。製品の製造・販売者やサービス提供者、イベント主催者などが製品・サービス・チケットにクレジットを付与し、購入者や来場者の日常生活における温室効果ガス排出の埋め合わせを支援します。
具体例
・クレジットが付与された家具販売を通じて、購入者の日常生活における温室効果ガス排出のオフセットを支援する
・クレジットが付与されたチケット販売を通じて、コンサート来場者の日常生活における温室効果ガス排出のオフセットを支援する
5.寄付型オフセット
寄付型オフセットとは、クレジットの活用による地球温暖化防止活動への貢献・資金提供などを目的として参加者を募り、クレジットを購入・無効化する取り組みのこと。無効化とは、一度使われたクレジットの再利用・再販売を防ぐ手続きを意味します。
製品の製造・販売者やサービス提供者、イベント主催者などは、一般を対象に広く参加を呼びかけます。
イベント主催者が直接オフセットする「会議・イベントオフセット」と類似していますが、それと比較すると、より間接的なオフセットであるといえるでしょう。
具体例
・「来場者1人につき1kg-CO2」といった形で森林クレジットを購入し、森林保全に寄与する環境保護イベントの開催
・「10,000円あたり100円」といったように、販売額の一部をクレジット購入に用いる衣類の販売
カーボン・オフセットを活用したい場合の進め方
実際に企業がカーボン・オフセットを活用するためには、どのような段取りが必要となるのでしょうか。カーボン・オフセットを活用したい場合には、以下の5ステップで進めます。
環境省が発表しているガイドラインを参考に、各ステップについて解説します。
参考:環境省『カーボン・オフセット ガイドライン Ver.3.0』
ステップ1.取り組み実施に向けた事前準備
まずは事前準備をします。「カーボン・オフセットの活用目的の設定」や「活用するクレジット・プロジェクトの検討」「社内体制の構築」に取り組みましょう。
事前準備 | 内容 |
---|---|
カーボン・オフセットの活用目的の設定 | 「なぜカーボン・オフセットを活用するのか」を明確化する。 【目的の具体例】 ・企業の社会的責任(CSR)を果たすため ・日本政府の掲げる温室効果ガス削減目標達成に貢献するため ・地域社会における温室効果ガス削減に向けた動きを推進するため |
活用するクレジット・プロジェクトの検討 | クレジット・プロジェクトの特徴を把握し、自社に適したものを選ぶ。 【選び方の例】 ・自社にゆかりのある土地で創出されたクレジットを選ぶ ・自社の事業活動との関連性があるプロジェクトを選ぶ |
社内体制の構築 | どの部署の誰が担当者となるのかを明確にする。 |
ステップ2.温室効果ガス排出量の現状把握
事前準備が完了したら、温室効果ガス排出量の現状を把握します。算定に際しては、「排出活動の把握」や「算定対象範囲の設定」を行い、進めていきます。
温室効果ガス排出量の算定方法の詳細については、環境省の『カーボン・オフセット ガイドライン Ver.3.0』および下記の記事を参考にしてください。
ステップ3.排出量削減に向けた取り組みの実施
次に、温室効果ガス排出量削減に向けた取り組みを実施します。
■取り組みの具体例
- 省エネ機器の利用を推進する
- 節電を徹底する
- 太陽光をはじめとする再生可能エネルギーを活用する
- 社用車をガソリン車からEV車に買い替える
- オフィス緑化を実施する など
あわせて、「自社製品をエネルギー効率よく使える方法を広報する」「自社主催の会議やイベントなどの参加者に、公共交通機関の利用を推奨する」など、排出削減を促す取り組みも実施できるとよいですね。
取り組みについて詳しく知りたい方は、こちらの記事を参考にしてください。
ステップ4.カーボン・オフセットの実施
温室効果ガス排出削減に向けた取り組みを行ってもなお排出されてしまう分について、カーボン・オフセットを実施します。その際、「オフセット量の決定」や「クレジットの調達と無効化」が必要です。
詳細については、環境省の『カーボン・オフセット ガイドライン Ver.3.0』を参考にしてください。
ステップ5.実施内容の情報公開
カーボン・オフセットの透明性・信頼性を高めるため、できる限り多くの情報を外部に情報公開しましょう。情報公開すべき項目は、以下の通りです。
カテゴリ | 情報公開すべき項目 |
---|---|
全般 | カーボン・オフセットの対象活動の内容 |
オフセット主体 | |
排出量の認識 | カーボン・オフセットの対象とする活動の範囲・期間 |
対象活動内の温室効果ガス排出源 | |
算定対象範囲 | |
算定方法(算定式および算定方法の根拠とした文書) | |
算定排出量 | |
排出削減 | 温室効果ガス排出削減の取り組み内容 |
温室効果ガス排出削減を促す取り組み | |
埋め合わせ | オフセット量または算定排出量に対するオフセット比率 |
クレジットを認証した認証制度名とクレジットの種類 | |
クレジットのプロジェクト名(プロジェクト実施国・実施地域などの属地的情報を含む) | |
クレジットのプロジェクトタイプ(太陽光発電、木質バイオマス燃料転換、森林管理など) | |
クレジットの発行年と排出削減・除去が行われた年 | |
クレジットの無効化(予定)日・無効化方法 | |
その他必要事項 | 商品・サービスまたは会議・イベントのチケットなどの販売価格 |
消費者の価格負担(料金への上乗せ)の有無 | |
その他支払いに関する事項(申込みの有効期限、不良品のキャンセル対応、販売 数量、引渡し時期、送料、支払い方法、返品期限、返品送料など) | |
販売事業者情報(販売事業者名、運営統括責任者名、連絡先、ホームページのURL) |
各項目の詳細については、環境省の『カーボン・オフセット ガイドライン Ver.3.0』をご確認ください。
カーボン・オフセットに関する注意点
カーボン・オフセットの実施・活用に先立ち押さえておきたい注意点について、紹介します。
カーボン・オフセットありきで考えない
活用したい企業にとって忘れてはならないのは、カーボン・オフセットはあくまでカーボンニュートラル実現に向けた「補助的な手段」であるということです。
カーボン・オフセットありきで考えず、まずは温室効果ガス削減に向けたさまざまな対応・取り組みを確実に進めましょう。
仕組みをしっかり理解する
主体としてカーボン・オフセットを初めて実施する場合、「自社に適しているのは、どの取り組みなのか」「どのような段取りで取り組んでいくとよいのか」と迷うケースが少なくありません。また活用する側は、「どのカーボン・オフセットを活用すべきか」「どういう手続きが必要なのか」などに悩むこともあるでしょう。
実施や活用を滞りなく進められるよう、環境省のホームページやガイドラインなどを読み込み、内容をしっかり理解した上で必要な対応をしていくことが大切です。
とはいえ、仕組みや実際の活用法は難しい部分もあります。少しでもわからないことがある場合には、自己判断で進めるのではなく、専門知識を有する外部企業への相談を検討しましょう。
温室効果ガスの排出量を正確に算定する
カーボン・オフセットやそれに付随するさまざまな取り組みを進める上でも、カーボン・オフセット後の情報を公開する上でも重要なのが、温室効果ガス排出量の正確な算定です。「排出活動の把握」「算定対象範囲の設定」などのステップに加え、温室効果ガス排出量の計算方法についても正しく理解しておきましょう。
しかしながら、温室効果ガスの計算方法は複雑なため、社内の担当者のみでは対応が困難なケースも少なくありません。そうした場合には、専門知識を有する外部企業の活用をおすすめします。
【事例】企業はどのようにカーボン・オフセットを実施している?
注意点を踏まえた上で、気になるのが実際の活用方法です。ここでは、カーボン・オフセットを実施する上で参考になる企業事例を簡単に紹介します。
住友林業グループは、2023年6月に日本企業10社も参加するグローバルな森林ファンドを組成。参画企業の出資金をもとに2027年までに北米を中心に約13万haの森林を購入・管理し、カーボン・オフセットに貢献する予定です。
オフィス家具の製造販売などの「ワークプレイス事業」と、物流施設や公共施設などの発展に貢献する「設備機器・パブリック事業」を展開している株式会社イトーキも、カーボン・オフセットを実施。「J-クレジット再エネ設備型」「J-クレジット省エネ設備型」「J-クレジット森林整備型」「海外クレジット」の4種類のクレジットを提供しています。
なお、カーボン・オフセットの企業事例についてさらに知りたい方は、こちらの記事を参考にしてください。
参考:住友林業
参考:株式会社イトーキ社『イトーキのカーボン・オフセットサービス』
温室効果ガスの削減努力をした上で、カーボン・オフセットを活用しよう
カーボン・オフセットの取り組みは、「製品・サービスオフセット」や「会議・イベントオフセット」「組織活動(自己活動)オフセット」など5つに分類されます。
カーボン・オフセットの活用に先立ち、まずは温室効果ガス排出量削減に向けた取り組みを実施する必要があります。削減努力をしてもなお排出される分については、この記事で紹介した手順に従って、カーボン・オフセットを進めていきましょう。