【わかりやすく】ブルーカーボンとは?メカニズムや生態系などを解説
- ブルーカーボンとは、海洋生物によって取り込まれ、そのバイオマスやその下の土壌、海中に蓄積された炭素のこと。
- ブルーカーボン生態系は、「海草(うみくさ)」「海藻(うみも)」「干潟」「マングローブ林」の4つ。
- ブルーカーボンをクレジット化したJブルークレジットにも注目。日本の省庁も、ブルーカーボンに特化した動きを見せています。
ブルーカーボンとは、海洋生物によって取り込まれ、そのバイオマスやその下の土壌、海中に蓄積された炭素のこと。CO2吸収源となるブルーカーボン生態系を保全することが今後の地球温暖化防止に大きく寄与すると期待されています。とはいえ、陸上の植物が隔離する炭素であるグリーンカーボンに比べると認知度が低く、概要などを知りたい企業も多いのではないでしょうか。
今回は、ブルーカーボンの概要やメカニズム、メリット・デメリット、クレジット制度などについて紹介します。初心者向けにわかりやすく説明していますので、これを読めばブルーカーボンの基礎知識が身につくでしょう。最後までご覧ください。
ブルーカーボンとは
ブルーカーボンとはどのようなものでしょうか?国土交通省・環境省の情報をもとに、ブルーカーボンの概要について解説します。
参考:国土交通省『ブルーカーボンとは』『海の森 ブルーカーボン』
参考:環境省『BLUE CARBON』
沿岸や海洋生態系によって吸収・蓄積された炭素のこと
ブルーカーボンとは、藻場・浅場などの海洋生物によって二酸化炭素(CO2)が取り込まれ、そのバイオマスやその下の土壌、海中に蓄積された炭素のこと。2009年10月、国連環境計画(UNEP)の報告書において命名され、CO2吸収源対策の新しい選択肢として提示されました。
2019年、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)は、「ブルーカーボンにより(CO2の)年間総排出量のおよそ0.5%を吸収・隔離できる」と発表。同じく2019年、持続可能な海洋経済の構築に向けたハイレベルパネルでも、「地球温暖化を1.5℃に抑えるために必要な(CO2)削減量の2.5%は、ブルーカーボン生態系による吸収源対策で達成可能」との見解を示しています。
国土交通省の資料を参考に作成した以下のグラフは、日本における吸収源別のCO2吸収量を示したものです。
CO2吸収量の総量は、2019年時点では6,437万t‐CO2/年でした。人工林が成熟期を迎え、森林のCO2吸収量が急速に減少しつつある中、2030年では4,215万t‐CO2/年にまで減少すると試算されています。つまり、CO2吸収量が約34.5%削減する見込みです。
一方で、ブルーカーボンによるCO2の年間吸収量については、2019年時点では既存の吸収源対策による吸収量の最大6%に留まっていましたが、2030年には最大12%に相当すると試算。このことから、地球温暖化防止に向け、ブルーカーボンは今後ますます重要なCO2吸収源になると考えられます。
CO2吸収源以外の価値もある
ブルーカーボン生態系の価値は、CO2を吸収し炭素として貯留することだけではありません。CO2吸収源以外に、水質浄化機能や水産資源、漁場の活性化、水産教育およびレジャーの場の提供などをもたらしてくれます。ブルーカーボン生態系を保全することは、地球温暖化の防止はもちろん、海洋における生物多様性を育み、人々の生活の豊かさにもつながるでしょう。
ブルーカーボンとグリーンカーボンの違い
ブルーカーボンと似た言葉として、グリーンカーボンがあります。グリーンカーボンとは、陸の植物によってCO2を吸収し、貯蔵された炭素のこと。ふたつの主な違いは以下になります。
ブルーカーボン | グリーンカーボン | |
---|---|---|
CO2吸収源種類 | ブルーカーボン生態系(海草、海藻、干潟、マングローブ林) | 多種(森林、山林、熱帯雨林、草原など) |
炭素貯留場所 | 沿岸・海洋生態系のバイオマス、海底の土壌、海中 | 陸上の幹、枝葉、根などの樹木バイオマス |
炭素の貯蓄期間 | 数百~数千年 | 数十年 |
炭素吸収量(地球規模) | 29億t‐C/年 | 19億t‐C/年 |
CO2回帰リスク※ | 低い(土壌のかく乱があっても、CO2回帰は限定的) | 高い(山火事、土砂崩れ、土地転用、不適切な伐採など) |
また、CO2は水に溶けやすい性質があり、海洋全体のCO2の量は大気中の50倍です。ブルーカーボンとして蓄積された炭素は、貯蓄期間や吸収量においてグリーンカーボンを上回っており、ポテンシャルの高さが伺えます。
参考:ジャパンブルーエコノミー技術研究組合『Jブルークレジット®認証申請の手引き』
ネガティブエミッション技術という評価も受けつつある
ネガティブエミッション技術(NETs)とは、大気中のCO2を回収・吸収し、貯留・固定化することで大気中のCO2除去(CDR:Carbon Dioxide Removal)する技術のこと。カーボンニュートラルの実現に向け、CO2排出を抑える技術とともに、注目されています。
国土交通省によると、沿岸生態系のブルーカーボン管理は、「大型海藻類(例えば、コンブ)など沿岸における他の炭素隔離の可能性を議論中」との考えが示されています。ネガティブエミッション技術の一つとして、今後の進展が期待されます。
参考:国土交通省『ネガティブエミッション技術について(風化促進/バイオ炭/ブルーカーボン)』
ブルーカーボンのメカニズム
ブルーカーボン生態系によるCO2吸収および貯留の仕組みをみていきましょう。
大気中のCO2は、光合成により浅海域に生息するブルーカーボン生態系(詳細は次章にて説明)に取り込まれ、有機物として隔離・貯留されます。枯死したブルーカーボン生態系が海底に堆積し、底泥へ埋没し続けることにより、ブルーカーボンとしての炭素が蓄積される仕組みです。
また、岩礁に生育するコンブやワカメなどの海藻のように、葉状部が潮流の影響により外洋に流され、水深が深い海洋の底にとどまることによって、ブルーカーボンとしての炭素が隔離・貯留されるものもあります。
ブルーカーボン生態系とそれぞれの特徴
ブルーカーボン生態系には、「海草(うみくさ)」「海藻(うみも)」「干潟」「マングローブ林」の4つがあります。それぞれの特徴をみていきましょう。
参考:環境省『BLUE CARBON』
参考:国土交通省『ブルーカーボンとは』
海草(うみくさ)|アマモ、スガモなど
海草(うみくさ)は、根・茎・葉が分かれており、海中の砂泥底に根を張り、花を咲かせ種子によって繁殖し、海中で一生を過ごす海産種子植物です。
主に温帯~熱帯の静穏な比較的浅いところに多くみられ、海底深くに生育することはありません。代表的なものとしては、アマモ、コアマモ、スガモなどが挙げられます。
海藻(うみも)|コンブ、ワカメなど
海藻(うみも)は、根・茎・葉の区分がなく、岩などに固着する藻類で、胞子によって繁殖します。海葉色によって緑藻・褐藻・紅藻の3種類に分けられます。
主に寒帯~沿岸域の潮間帯から水深数10mまでの岩礁海岸に多く分布。代表的なものとしては、緑藻はアオサ、褐藻はコンブやワカメ、紅藻はテングサなどが挙げられます。
干潟
干潟は、干潮時に干上がり(干出幅100m以上、干出面積1ha以上)、満潮時には海面下に没する場所を指します。河川や沿岸流によって運ばれてきた土砂が、海岸や河口部などに堆積し、砂質または砂泥質の浅場が広がります。
マングローブ林
マングローブ林は、熱帯や亜熱帯の河口付近など、河川水と海水が混じりあう汽水域で、砂や泥質の環境に生息する樹木を指します。
国内では鹿児島県以南の海岸に分布。代表的なマングローブ植物としては、オヒルギ、メヒルギ、ヤエヤマヒルギが挙げられます。
ブルーカーボンのメリット・活用によるデメリット
ブルーカーボンへの理解を深めるため、ブルーカーボンのメリットと、ブルーカーボンを活用することによるデメリットについて見ていきましょう。
■ブルーカーボンのメリット
- グリーンカーボンよりもCO2の吸収率が高い
- グリーンカーボンよりも炭素の貯蓄期間が長い
- ブルーカーボン生態系を活用することで、漁業や食料生産の環境の改善につながる
■ブルーカーボンを活用することによるデメリット
- 生息地の開発などによりブルーカーボン生態系が壊れやすい
- ブルーカーボン生態系の崩壊により、CO2吸収能力が低下し、吸収量が減少してしまう
- 未解明な部分があり、正確な測定が難しい
正しく活用するために、メリット・デメリットはしっかり押さえておきたいですね。
ブルーカーボンの現状と課題
ブルーカーボンが多く生息する湿地は年々減少しています。明治・大正時代には全国で2110.62km2の湿地が存在していましたが、1999年の時点では820.99km2にまで減少。明治・大正時代に存在した湿地面積の61.1%に当たる1289.62km2(琵琶湖の約2倍の広さに相当)が消失しています。
湿地面積が減少した要因としては、高度成長期の沿岸域の開発が挙げられます。沿岸域の藻場は、埋立てられただけでなく、開発による透明度の低下が原因で光合成が妨げられたり、農薬などの化学物質の流入によって藻場の生育や維持が困難になったりしました。
加えて、海水の水温変化や栄養塩類濃度の低下により岩礁域の藻場では磯焼け(藻場が著しく減少・消失し、繁茂しなくなる現象)も発生。このような要因から、瀬戸内海におけるアマモ場は、1990年には1960年に比べ約70%も減少しました。
環境の変化による影響を受けやすいブルーカーボン生態系をどのように維持していくか、海洋環境の保全が早急の課題と言えます。
参考:国土交通省 国土地理院『日本全国の湿地面積変化の調査結果』
参考:水産庁『藻場の働きと現状』
【クレジット紹介】Jブルークレジット
ここからは、ブルーカーボンを活用したクレジット制度であるJブルークレジットについて紹介します。
Jブルークレジットは、2020年にジャパンブルーエコノミー技術研究組合(JBE)が創設したカーボンクレジット制度のこと。 独立した第三者委員会による審査・意見を経て、認証・発行・管理する独自のクレジットです。
なお、ジャパンブルーエコノミー技術研究組合は、2020年7月に国土交通省の認可を受け設立されました。沿岸域における気候変動対策を促進すべく、ブルーカーボンの定量的評価、技術開発および資金メカニズムの導入などの試験や研究を行っています。
参考:国土交通省『ジャパンブルーエコノミー(JBE)技術研究組合の設立を認可しました 』
Jブルークレジットの仕組み~カーボン・オフセット~
Jブルークレジットは、ブルーカーボンを定量化して取引可能なクレジットにすることで、カーボン・オフセット(自社ではどうしてもゼロにできない排出量について、他者による CO2の削減・吸収量の購入によって埋め合わせること)ができる仕組みとなっています。
Jブルークレジットの申請者(ブルーカーボン活動の主体)と購入者(企業など)、それぞれの利点と効果を表にしました。
利点 | 効果 | |
---|---|---|
申請者 | ・クレジットの売却により資金調達ができる ・環境に配慮した企業としての認知度が向上する | 企業として環境保全に寄与できる |
購入者 | ・温室効果ガスを間接的に削減できる ・環境保全の取り組みを支援できる | 環境保全の取り組みをアピールすることで企業価値が向上する |
申請者・購入者ともに利益と効果があることがわかりますね。このウィン・ウィンな関係を築けることが、ブルーカーボンやJブルークレジットが注目される理由の一つといえるでしょう。
参考:ジャパンブルーエコノミー技術研究組合『Jブルークレジット ®認証申請の手引き』
【最新】Jブルークレジット認証・発行状況(2023年度第2回)
Jブルークレジットの認証と発行状況について、2024年7月時点での最新情報をお届けします。
2023年度第2回のJブルークレジットについては、2024年2月27日に、16プロジェクトについて、いずれもその全量が認証・発行されました。総量は996.4t-CO2になります。
2023年度第4回 Jブルークレジット購入申込者公募では、17プロジェクト、総量1,444t-CO2の申請があり、現在、審査が行われています。
Jブルークレジットについては、以下の記事で詳しく紹介していますので、参考にご覧ください。
参考:ジャパンブルーエコノミー技術研究組合『Jブルークレジットに関する情報』
ブルーカーボンに関する日本の動き
日本では、ブルーカーボンに関する動きが、環境省、国土交通省、農林水産省の3省で見られます。各省の動向について、紹介します。
【環境省】世界初・海草藻場と海藻藻場の吸収量の報告
環境省の資料によると、2024年4月に世界で初めてブルーカーボン生態系における吸収量が算定・報告に使われたとのこと。具体的には、毎年行われている国連気候変動枠組条約(UNFCCC)事務局への温室効果ガスインベントリ(温室効果ガス排出・吸収量)の提出において、世界で初めてブルーカーボン生態系の海草藻場および海藻藻場における吸収量を合わせて算定しました。報告値は、約35万トン(2022年度実績)でした。
なお、前年度はマングローブ林のブルーカーボンを算定・報告していました。今回は国土交通省(面積データ)、農林水産省(藻場タイプ別の吸収係数)との連携により海草藻場・海藻藻場のブルーカーボンが算定可能に。今後は干潟についても、算定を検討していくとの考えを示しています。
参考:環境省『2022年度の我が国の温室効果ガス排出・吸収量について』
【国土交通省】ブルーインフラ拡大プロジェクトの実施
国土交通省では、2022年度より、「命を育むみなとのブルーインフラ拡大プロジェクト」を開始しました。ブルーインフラとは、藻場や干潟、生物共生型港湾構造物などのこと。同プロジェクトは、ブルーカーボン生態系を活用したCO2吸収源の拡大によるカーボンニュートラルの実現への貢献、豊かな海の実現を目指すものです。
全国の港湾区域内で藻場・干潟などの保全・再生・創出に関する先導的な取り組みを推進し、市民団体や企業の参加を促進するためのマッチング支援および普及啓発を目指しています。
参考:国土交通省『「命を育むみなとのブルーインフラ拡大プロジェクト」を進めます~ブルーカーボン生態系を活用した豊かな海の実現、地球温暖化対策への貢献~』
取り組み例|北海道開発局_釧路港島防波堤でのプロジェクト
国土交通省 北海道開発局では、国立研究開発法人土木研究所の寒地土木研究所と連携し、釧路港の沖合の防波堤に浚渫(しゅんせつ)した土砂の有効活用により浅場を設け、藻類などを生息させるプロジェクトを実施しています。
2022年3月の報告では、試験区間全体で約1.9t程度の CO2貯留効果があり、森林と比べ、2.4倍の効果があると試算。浅場の整備はまだ途中段階にあるため、CO2吸収量は今後増えていく見込みです。
参考:国土交通省『釧路港島防波堤での藻場の創出による CO2貯留効果を確認!』
【農林水産省】海藻類の増養殖技術の開発
農林水産省では、ブルーカーボンを創出するため、海藻類の増養殖技術の開発に取り組んでいます。また、海草・海藻類の藻場のCO2吸収源評価⼿法の開発と普及、増養殖の拡⼤によるブルーカーボン利活⽤の促進にも努めています。
参考:農林水産省『(参考)各⽬標の達成に向けた技術の内容』『課題解決に向けた取組の現状』
企業注目|ブルーカーボン取り組み事例
ブルーカーボンに対して、企業はどのような取り組みができるのでしょうか。2社の事例を紹介します。
東京ガス株式会社
東京ガス株式会社は、グループ全体での環境・社会貢献活動として「森里海つなぐプロジェクト」を実施。同プロジェクトの柱として、2017年度から「アマモ場再生活動」に取り組んでいます。
具体的な内容としては、6月頃に海産種子植物であるアマモの種のついた枝を採取します。その後、水槽の中で数カ月間、種子が放出されるまで熟成。11月頃、放出された種子を海中に蒔きます。この循環を繰り返すことで、アマモ場の再生を促進しています。
参考:東京ガス株式会社『CO2を吸収する「ブルーカーボン」に注目◆アマモ場再生活動を日本テレビグループさまと共同実施』
株式会社マリン観光開発
沖縄県で海事観光を展開する株式会社マリン観光開発は、「ブルーカーボンクルーズ」を実施しています。このクルーズでは、海中CO2濃度測定器を搭載した水中観光船内で、モニターに映し出される海中CO2濃度の変化をリアルタイムで確認できます。サンゴ礁の観光とブルーカーボンの啓蒙活動を両立する仕組みとなっています。
参考:マリン観光開発『ブルーカーボンについて』
ブルーカーボン創出を支援する自治体の補助金・助成金制度
社会貢献と自社の収益拡大を両立すべく、ブルーカーボンの創出事業を展開したいと考える企業もあるのではないでしょうか。とはいえ、設備投資などにある程度の費用がかかることもあるため、予算確保が課題となることも考えられます。そのような場合は、自治体によるブルーカーボンを対象とした補助金や助成金制度を利用するのも一案です。
また、ブルーカーボンに特化した支援以外に、カーボンニュートラルや環境保全に関する補助金・助成金制度において、ブルーカーボン事業が対象になる場合もあります。申請を見込める制度があれば、詳細について確認してみてください。
ブルーカーボンを理解し、活用できる企業は取り組みを推進しよう
沿岸や海洋生態系によって吸収・貯留された炭素を意味するブルーカーボン。陸の植物によって吸収・貯留された炭素であるグリーンカーボンより炭素の貯蓄期間が長く、炭素吸収量も多いというメリットがあります。その一方で、ブルーカーボン生態系が壊れやすいなどのデメリットがあることも覚えておきましょう。
ブルーカーボンは、国連への温室効果ガス排出・吸収量の報告に算出されるなど、今後の動向が注目される分野です。企業の立地や業種によって、自ら活動主体となれるケースもあれば、Jブルークレジットの活用が現実的なケースもあるでしょう。予算確保が課題となる場合には、自社が対象となり得る補助金制度があるか確認することをおすすめします。自社として無理なく実現できる形で、ブルーカーボン活用を推進してみてはいかがでしょうか。