中小企業版SBT取得に向けた「目標設定」完全ガイド|事例付き

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近年、サプライチェーン全体での脱炭素化が加速し、取引先である中小企業にもSBT(科学的根拠に基づいた削減目標)への取り組みが不可欠となっています。「SBTに興味はあるけれど、通常版(企業ルート)との違いは?」「目標設定の選択肢が多すぎる」「複雑なルールを遵守できるか不安だ」と感じている経営者・担当者の方も多いのではないでしょうか。
この記事では、中小企業版SBT(SMEルート)の基本、3つの目標設定オプションの具体的な内容、自社に最適な目標を選ぶための3つのポイントを、プロの視点から解説します。さらに、取り組みを進める上で注意すべき4つのポイントを深掘りします。
この記事を読めば、SBTの目標設定で抱える疑問が解消され、環境経営を推進するための第一歩を踏み出すために、次に何をすべきかが明確になります。貴社の脱炭素戦略にお役立てください。
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- 中小企業版SBT(SMEルート)は、一般的には大企業が該当する企業向けルートと比べて手続きや要件が簡略化されており、短期目標、ネットゼロ目標など3つのオプションから選択できる。
- 目標設定オプションを選ぶ際は、GHG排出量の現状把握、削減余地の程度、中長期ビジョンとの整合性の3点を事前に確認することが重要である。
- SBT認定取得後も年次の進捗報告、5年ごとの目標見直しといった継続的な管理と、カーボン・クレジットの原則利用不可など厳格なルール遵守が求められるため、専門家のサポートが近道となる。
中小企業版SBTの目標設定とは?
中小企業がSBT(Science Based Targets:科学的根拠に基づいた削減目標)に取り組むことは、企業価値の向上と持続可能な社会の実現に欠かせない、重要な経営戦略の一つとなっています。まずは、SBTの基本的な定義と、なぜ中小企業が今、目標設定を行うべきなのかについて解説します。
SBTとは、地球温暖化の進行を抑えるための国際的な枠組みである「パリ協定」に沿った、企業が排出する温室効果ガス(GHG)の削減目標です。
一般的には大企業が該当する通常版(企業ルート)のほか、中小企業版SBTがあります(相違点の詳細については後述)。どちらも世界共通の科学的な基準(世界の気温上昇を産業革命前と比べて1.5℃に抑えるという基準)に基づいて、自社の排出量を具体的に減らしていくという、明確で信頼できる意思を示すものとなります。
企業はこの目標を設定し検証を受けることで、顧客や投資家に対して、気候変動対策への最低限の要件を満たしていることを証明できます。近年、大手企業はサプライチェーン全体でのGHG排出量削減を強く求めており、取引先である中小企業にもSBTへの取り組みや目標設定を求める動きが加速しています。
目標を設定し、審査・検証サービスを受けることは、この要請に応えるだけでなく、環境意識の高い顧客や投資家からの評価を高めることにも直結します。
SBTiと中小企業版SBTの関係性
SBTiは、CDP、国連グローバル・コンパクト(UNGC)、世界資源研究所(WRI)、世界自然保護基金(WWF)の4つの国際機関が共同で設立した国際的なイニシアチブです。中小企業版SBTは、SBTiが中小企業の実情に合わせて手続きや要件を簡略化した、脱炭素目標設定のためのフレームワークです。基本の考え方は企業と同じですが、目標設定の方法や提出書類がシンプルに整理されており、より取り組みやすく設計されています。
SBTiは、中小企業が持続可能な経済への移行を進める上で重要な役割を果たすと考え、その目標設定を支援しています。
大企業が取得を目指すSBTとの違い
SBTiには、中小企業向けに「SMEルート」という専用の簡略化された目標設定プロセスが用意されていて、これを一般的に「中小企業版SBT」と呼んでいます。一般的に大企業向けの企業ルートの場合は、「コミットメント(目標設定の意思表明)」と呼ばれる段階を経るオプションがあります。表明を行った組織は提出日から一定期間内に目標を提出する必要がありますが、このオプションを利用せずに直接目標を提出することも可能です。一方、中小企業にはこの段階がなく、短期目標やネットゼロ目標の設定に直接進むことになります。
また、企業が設定した目標が科学的根拠に基づいているかを確認する検証方法や結果が通知されるまでの審査期間にも違いがあります。中小企業版SBTは、結果が出るまでの明確な期限を設けてはいませんが、一般的に通常版より短期間です。検証からSBTiのウェブサイト公開までを含めておよそ60日ほどです。
さらに、スコープ3(取引先などの間接排出)については、通常版では短期目標を立てることが求められるのに対し、中小企業版は必須ではなく自社の排出量の把握と削減に取り組むことが求められるに留まります。
SBTiが定める3つの中小企業版SBT目標設定オプション
中小企業が提出できる目標設定オプションは、以下の3つに分けられます。自社の状況や将来的なビジョンに合わせて選択しなければなりません。まずは、それぞれのオプションの特徴について確認しましょう。
(参考:環境省『排出量削減目標の設定』)
1.短期目標(Near-term targets)
これは、SBTi検証を受けるための最初の、そして最も重要なステップとなる目標で「短期削減目標」とも言われます。目標年は、提出日から5~10年の範囲内で設定しなければなりません。中小企業版の短期目標はスコープ1・スコープ2が対象となり、スコープ3については目標設定の義務はありませんが、排出量測定と削減に取り組むことの意思表示が求められます。
2.ネットゼロ目標(Net-zero targets)
新たにネットゼロ目標を設定する目標です。ネットゼロ目標とは、温室効果ガスの排出量を「実質ゼロ」にすることを目指した目標です。ネットゼロ目標には、この達成期限を定めた長期目標が含まれます。
ネットゼロ目標は、企業が温室効果ガス排出量を実質ゼロにすることを目指す、最終的なゴールを定めたものです。この目標は、企業の戦略に応じて少なくとも10年間を対象とする必要があり、排出量を実質ゼロにする達成期限は遅くとも2050年以前に設定しなければなりません。
上記で説明した1.短期目標と2.ネットゼロ目標をまとめて設定する場合に選択可能なパッケージタイプがあります。短期目標を立てておらず、ネットゼロ目標を立てたい場合はこのパッケージを選択する必要があります。
3.短期的な維持目標(Near-term maintenance targets)
短期的な維持目標(Near-term maintenance targets)とは、Scope1またはScope2、あるいはその両方において排出量ゼロを達成した企業が、その状態を保ちながらさらに改善していくための目標です。この目標はすでに排出量を削減するための施策を実施している企業向けのサービスです。自社のスコープ1・スコープ2の排出量がゼロである企業は、排出量ゼロを維持することを約束する目標を設定できます。排出量がゼロである根拠を示しながら、それを維持する計画を説明する必要があります。
上記のうち、どれを選択する場合でも、カーボン・クレジットの利用不可のルールやGHGプロトコルに準拠した排出量算定を行うことなどの厳格なルールのもと、目標を提出する必要があります。
自社にあった目標を選ぶには?
SBTiが提供する3つの目標設定オプションは、自社の経営状況や事業の特性、そして将来的なビジョンに合致した目標を選択することが非常に重要です。また、自社がどのオプションを選択できるのか、しっかりと確認を行ってから目標申請を行わなければなりません。
オプション選択の前に確認すべき3つのポイント
中小企業版SBT(SMEルート)の目標設定オプション(短期、ネットゼロ、短期的な維持目標)を選択する前に、厳格な検証プロセスを円滑に進めるため、企業は自社の排出状況と戦略を正確に把握しておく必要があります。
1.現状の把握
目標設定をする前の最も重要な準備は、自社の温室効果ガス(GHG)排出量の現状を正確かつ包括的に把握することです。SBTiに目標を提出する企業は、GHGプロトコル基準に準拠したGHGインベントリを作成し、審査を行うSBTi Servicesに提出する必要があります。以下の記事では、中小製造業向けにGHG排出量の具体的な算定方法を解説しています。
2.削減余地の程度
現状のGHG排出量を把握したら、次に、その排出量を科学的根拠に基づきどの程度削減できるか、そしてその削減をどのように実行するかという計画の「野心度」を確認する必要があります。野心度とは、企業が設定する温室効果ガス削減目標が、気候科学が求める水準(気温上昇抑制目標)に対してどの程度真剣に、かつ高いレベルで整合しているかを表す度合いことです。
スコープ1とスコープ2の目標は少なくとも、産業革命以前と比較して地球の気温上昇を1.5°Cに抑えるために必要な脱炭素化のレベルと一致している必要があります。また、目標達成に向けてどのような取り組みを行うかについて、詳細な回答を提供することが求められます。なお、ネットゼロ目標や短期的な維持目標を選択する場合にはさらに詳細な説明が求められます。
3.中長期ビジョン(経営戦略との整合性)
SBTiの目標は、単なる環境目標ではなく、企業の事業活動全体にわたる構造的な変革を要求します。そのため、選択する目標オプションが自社の経営戦略や将来のビジョンと整合しているかを確認することが重要です。
経営計画と目標期間とのつじつまを合わせるだけでなく、目標承認後にどのように目標を公表するか、また承認された目標の進捗を毎年公表することも約束します。取得後は5年ごとの目標の見直しをする必要があるだけでなく、企業構造に大きな変化があった場合も目標を見直す必要があります。これらは検証プロセスのためだけに留まらず、企業の経営と環境戦略を一体化させるために不可欠な要素です。
脱炭素経営に向けて、新しく取り組みを始めようと考えている企業は、最も取り組みやすい短期目標を設定することがおすすめです。以下の記事では中小企業版SBT認定について、要件や申請ステップについて詳しく解説しています。
目標設定の際に注意すべき4つのポイント
SBTi Servicesに目標を提出し、検証を受けるためには、SBTiの厳格なルールに基づいて、排出量算定と目標設定を行う必要があります。以下の4つのポイントに加え、中小企業版SBTの目標設定について解説した以下の記事もご覧ください。
1.GHGプロトコルに基づく排出量算定
目標検証を円滑に進めるためには、正確で完全なGHGインベントリの作成が必須です。目標は、GHGプロトコルに基づいて要求される7つの温室効果ガス(二酸化炭素、メタン、亜酸化窒素、ハイドロフルオロカーボン、パーフルオロカーボン、六フッ化硫黄、三フッ化窒素)が関連する排出量すべてをカバーする必要があります。
また自社の事業活動のどこまでを排出量の報告対象に含めるかを明確にすることを義務付けています。企業がこの「組織境界」を決めるために選択できる連結アプローチは、財務支配力・経営支配力・出資比率基準の3つです。この3つのアプローチの中から1つを選択しなければなりません。
このアプローチを企業構造全体にわたって一貫して適用し、包括性を担保することが求められます。つまり、親会社は、すべての子会社に対し、境界基準に則った排出量を含める必要があります。
2.基準年と目標年設定のルール
目標を定める際の出発点となる基準年と目標年を設定する際には、SBTiのルールに従う必要があります。通常版では排出削減の透明性を高めるため最新年を基準とすることが推奨されていますが、中小企業版の場合は、必ずしも最新年である必要はありません。なお、どちらのルートを選択した場合でも、企業の状況に合わせて2015年まで遡って設定することが可能です。
しかし、さかのぼる期間が長くなると、買収や売却などの構造的変更が発生している可能性が高くなり、場合によっては再算定が発生します。また基準年として2020年以前を選択した場合には、年率4.2%の削減を累積で達成するために、目標期間の年数に応じて総削減率が高くなります。
自社は基準年を設定する際にさかのぼる必要があるかどうかを、しっかりと確認する必要があります。また、短期目標とネットゼロ目標を設定する場合には基準年を同一年にしますが、目標年の設定は短期目標とネットゼロ目標では異なる、などさまざまなルールが存在します。
3.取得後の課題
目標が検証・承認された後は、企業には継続的な責任が生じます。SBTを取得した企業には、目標を継続的に管理し、透明性をもって進捗を示すことが求められます。まず、少なくとも5年ごとに目標を見直し、最新の基準と整合しているかを確認する義務があります。これにより、気候変動対策の科学的知見や国際基準の更新に対応し続けることができます。
企業構造の変化(買収・合併・売却など)や排出量算定方法の変更によって、基準年排出量が5%以上変動した場合は、目標を再計算、そして再検証を受ける必要があります。これは、企業の実態に沿って正確な削減目標を維持するための重要なプロセスです。
さらに、企業は毎年、スコープ1および2の温室効果ガス排出量と、目標達成に向けた進捗を公開する義務があります。なお、承認された目標は、SBTiのホームページ上で承認日から6カ月以内に公表されることになっており、社会に対して透明性と説明責任を果たすことが求められます。
上記に違反した場合、法的な罰金や罰則などはありませんが、社会的な信用に関わるペナルティが存在します。SBTiのウェブサイト上でのステータスの変更や、認定の取り消し(削除)の可能性もあり、ブランドイメージの低下や取引先からの評価低下といった形で経営に深刻な影響を及ぼすリスクがあります。SBTの継続的な管理と透明な報告は、単なるルール遵守ではなく、企業の信頼性と持続可能性を担保するための重要な経営課題として捉えるべきでしょう。
4.カーボン・クレジットの扱い
SBTiの基準において、カーボン・クレジット(炭素クレジット)の扱いは明確に定められています。短期目標・ネットゼロ目標達成に向けた排出量削減量としてカーボン・クレジットの利用はできません。
一方で、カーボン・クレジットはネットゼロ達成後に残る「削減が困難な排出量」を相殺するための手段として位置づけられています。つまり、排出削減努力を最大限行った上で、それでも残る排出分を中和する目的での活用が想定されています。自社の目標を超える追加的な気候変動対策や、社会全体の緩和活動を支援するための社会貢献といった意味合いで用いることは可能です。
【事例】中小企業版SBT取得をした企業を紹介
実際に中小企業版SBTの認定を取得し、環境負荷の低減と企業価値向上を実現している企業の事例を紹介します。これらの事例は、目標設定の選択肢や具体的な取り組みを考える上で、参考となるでしょう。
1.株式会社K-POWER
長野県上田市で建設業を営む株式会社K-POWERは、大型トラックやショベルカーなどの重機を多用する事業特性から、温室効果ガス排出への課題意識を持っていました。地元の取引先である大企業の脱炭素への取り組みを参考に、自社もサプライチェーンの一員として、アクションを起こす必要性を感じ、中小企業版SBTの取得に踏み切りました。
以下の記事では、株式会社K-POWERの担当者にインタビューした内容を交えて詳しく紹介しています。支援サービスを利用するに至った経緯や今後のアクションについても触れています。
2.株式会社相和
長野県のSDGs推進企業である株式会社相和は、取引先とのやり取りの中で環境課題への対応の必要性を感じていました。具体的な対応策のひとつとして中小企業版SBTの取得にチャレンジ。取得後は取引先や金融機関からの評価が高まり、ブランディングにも好影響を与えています。取得までの道のりや今後の脱炭素経営に関する展望にも言及している以下の記事もお読みください。
中小企業版SBT認定の取得に向けて
中小企業版SBT認定の取得を自社で目指す場合、多くの企業は取得に関して以下のようなハードルを感じているようです。
- ノウハウがない
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- 海外とのコミュニケーションが不安
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中小企業版SBTの目標設定は「専門家とともに」進めるのが近道
中小企業版SBTの目標設定は、自社の未来への重要な投資であり、経営戦略そのものです。しかしながら、本記事で解説したように、GHGプロトコルに基づく正確な排出量算定、組織境界の定義、SBTiの特定の基準に合わせた削減目標の計算が求められます。また、通常版SBTに比べて取得が容易な中小企業版SBTですが、その資格要件は年々厳格化されています。申請時に求められる情報もより詳細になり、具体的なデータや裏付けが不可欠です。
これらのプロセスを自社のリソースだけで進めようとすると、算定ミスによる再提出の発生や、目標認定までの大幅な遅延、さらには目標達成のための戦略の誤りにつながるリスクがあります。
正確かつ効率的に検証プロセスを完了し、目標を承認へ導くためには、これらの複雑な要件を熟知した専門家のサポートを得ることも視野に入れるのがよいでしょう。自社の目標を適切に設定した上で達成に向け削減し、脱炭素化を進めましょう。
HELLO!GREENでは、これから脱炭素経営に取り組む中小企業の皆さまに向けて、有益な情報を発信しています。環境省認定制度「脱炭素アドバイザー アドバンスト」にも認定されている 「炭素会計アドバイザー」資格を持つ専門スタッフの知見を活かし、わかりやすく信頼できる記事づくりに努めています。