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【基礎知識】中小企業版SBTとは?SBTとの違いや申請方法などを解説

目次
記事の要点
  • 中小企業版SBTとは、中小企業を対象としたSBT認定のこと。
  • SBT認定との違いは、対象となる企業の要件の定めがあること、温室効果ガス排出量の削減対象が初期段階ではScope1とScope2になる点などがあります。
  • 日本でSBT認定を取得している企業は904社。そのうち704社が中小企業版SBTでの認定取得です。

中小企業版SBTとは、中小企業が取得できる温室効果ガス削減に向けた認定です。環境問題への取り組みが重要視されている中、持続可能な発展を目指して取得を検討している企業も多いのではないでしょうか。

本記事では、中小企業版SBTの基本的な項目や通常版SBTとの違い、取得することで得られるメリット、申請方法、自治体からの補助金情報などを詳しく解説します。中小企業版SBT認定の取得を検討している企業にとっては、何をすべきかがイメージしやすくなるでしょう。ぜひ参考にご覧ください。

中小企業版SBT(Science Based Targets)とは

中小企業版SBT(Science Based Targets)とは、中小企業が温室効果ガスの削減目標を設定し、SBTi(SBTの運営機関)が目標を妥当とみなせば取得できる認定です。

環境省では「中小企業向けSBT」と表記していますが、一般的には「中小企業版SBT」と言われることが多いです。また、国際認証であるため、「中小企業版SBT認証」と表記されることもあります。

SBTの概要は以下の通りです。

・パリ協定が求める水準と整合した、企業が設定する温室効果ガス排出削減目標。具体的には、世界の気温上昇を産業革命前より2℃を十分に下回る水準(Well Below 2℃:WB2℃)に保持し、また1.5℃に抑えることを目指す

・対象とする温室効果ガスの排出量は、サプライチェーン排出量のこと

サプライチェーン排出量とは、部品の仕入れや、製品の製造、廃棄といった、一連の流れ全体における温室効果ガスのこと。Scope1排出量+Scope2排出量+Scope3排出量で算出できます。

サプライチェーン排出量
参考:環境省『サプライチェーン排出量算定について|サプライチェーン排出量全般』を加工して作成

Scopeとは、サプライチェーン排出量を分類する3つの枠組みのことで、内容によって以下のようにScope1、Scope2、Scope3に分けられます。

  • Scope1:事業者自らによる温室効果ガスの直接排出(燃料の燃焼、工業プロセス)
  • Scope2:他社から供給された電気、熱・蒸気の使用に伴う間接排出
  • Scope3:Scope1、Scope2以外の間接排出(15カテゴリに分類)

サプライチェーン排出量やScopeについての詳細は、以下の記事をご覧ください。

参考:環境省『SBT(Science Based Targets)について

2種類あるSBT認定のうちのひとつ

SBT認定には「SBT」と「中小企業版SBT」の2種類があり、中小企業版SBTはそのひとつです。SBTは、中小企業版SBTとの違いを明確にするため「通常版SBT」と呼ばれることもあります。

SBTやSBT認定の詳細については、以下の記事で紹介しています。

SBTとは基準が異なる

「SBT」と「中小企業版SBT」は、どちらもSBTiが認定します。気になるのはその違いではないでしょうか。大きな違いは、対象や削減対象範囲、SBT目標年、目標レベルなどの基準です。詳しくは次章で説明します。

中小企業版SBTの要件・概要|通常版SBTとの違いとは

中小企業版SBTは2024年1月に改訂があり、要件が変更されました。中小企業版SBTと通常版SBTの違いをみていきましょう。

参考:環境省『SBT(Science Based Targets)について

1.所定の要件を満たす企業のみ対象となる

中小企業版SBTでは一定の要件を満たす企業が対象となります。一方で、通常版SBTでは対象が定められていません。

中小企業版SBTの対象になるか気になる企業は、以下のチェックリストで確認してみてください。中小企業庁が定める中小企業者の定義とは異なるので、注意しましょう。

確認方法

  1. 必須要件の5項目全て当てはまるか
  2. 追加要件4項目のうち3項目当てはまるか
  3. 1・2ともに当てはまれば、中小企業版SBTの対象
満たすべき要件
必須要件以下の5項目全てを満たす必要があります
▢Scope1とロケーション基準のScope2の排出量合計が10,000tCO2e未満であること (※CO2e:二酸化炭素に換算した数値)
▢海運船舶を所有または支配していないこと
▢再エネ以外の発電資産を所有または支配していないこと
▢金融機関セクターまたは石油・ガスセクターに分類されていないこと
▢親会社の事業が、通常版のSBTに該当しないこと
追加要件上記の必須条件に加え、以下の4項目のうち3項目を満たす必要があります
▢従業員が250人未満であること(パートタイマー従業員を含む)
▢売上高が5,000万ユーロ未満であること
▢総資産が2,500万ユーロ未満であること
▢森林、土地および農業(FLAG)セクターに分類されないこと

2.目標年が2030年に限定

削減を達成する目標年については、以下の通りです。

中小企業版SBT通常版SBT
2030年申請時から5年以上先、10年以内の任意年

3.基準年が選択可能

目標を定める際の基準となる基準年にも違いがあります。

中小企業版SBT通常版SBT
2018年~2023年から選択最新のデータが得られる年で設定することを推奨

4.削減対象範囲がScope1とScope2(初期段階)

削減対象とする温室効果ガスの排出量については、求められる範囲が異なります。

中小企業版SBT通常版SBT
Scope1、2排出量(初期段階)Scope1、2、3排出量
※Scope3がScope1~3の合計の40%を超えない場合、Scope3目標設定の必要はなし

5.Scope3の目標レベルの基準値がない

目標レベルについても、中小企業版SBTの方が緩和されています。

中小企業版SBT通常版SBT
・Scope1、2:1.5℃、少なくとも年4.2%削減
・Scope3:算定・削減について特定の基準値はなし
下記水準を超える削減目標を任意に設定
・Scope1、2:1.5℃、少なくとも年4.2%削減
・Scope3:Well below2℃、少なくとも年2.5%削減

6.費用が通常版SBTより安価

かかる費用についても、大差があります。

中小企業版SBT通常版SBT
1回につき、USD1,250(外税)・目標妥当性確認サービス:USD9,500(外税)※目標評価を受けられる(最大2回)以降の目標
・再提出:1回につき、USD4,750(外税)

目標値や費用などを比べると、中小企業版SBTの方が、通常版SBTよりも取得しやすいと言えるでしょう。

とはいえ、目標設定のためのさまざまなデータ(電気使用量、ガソリン使用量など)を揃える必要があったり、計算方法が複雑だったりと、自社だけで進めるのはなかなか大変です。そのようなときは、専門知識を有する外部サービスを利用するのもおすすめです。

中小企業版SBT認定を取得するメリット

中小企業版SBT認定を取得することで、以下のようなメリットが得られます。

中小企業版SBT認定を取得するメリット

  • 環境経営のアピール
  • 取引喪失リスクの回避
  • イノベーションの推進

それぞれについて、見ていきましょう。

メリット1.環境経営のアピール

中小企業版SBTを取得すればSBTiのホームページなどで企業名が公表されるので、企業が環境に配慮した経営(環境経営)を行っていることを社外に効果的にアピールできます。また、持続可能な取り組みは、企業の社会的責任を積極的に果たすことにもつながります。顧客や取引先からの信頼を得やすくなるという効果も期待できるため、結果的に競争優位性を高められるでしょう。

メリット2.取引喪失リスクの回避

取引喪失のリスクを回避できることも、メリットです。

近年、「サプライチェーン全体で温室効果ガスを削減しよう」という企業が増えてきています。そのため、取引先企業から温室効果ガス削減を求められることが考えられ、これに応じられないと取引を失うリスクがあります。しかしながら、SBT認定取得に向けて動けば、自ずと温室効果ガス削減を図れるため、取引先との関係維持につながるでしょう。

また、ESG投資(企業の、Environment/環境・Social/社会・Governance/企業統治への取り組みを判断基準とした投資手法)を重視する企業や投資家からの信頼も得やすくなります。環境意識の高い企業との新たなビジネスチャンスを獲得するためにも、中小企業版SBTの取得は重要です。

メリット3.イノベーションの推進

SBTの目標値は非常に野心的であり、環境目標を達成するための新しい技術やプロセスの開発が求められます。そのため、イノベーションの創出や企業の競争力向上につながります。また、新しい技術・プロセスの要求は、挑戦意欲のある社員のモチベーション向上にも寄与するでしょう。

中小企業版SBT認定の申請方法~4ステップ~

実際に中小企業版SBT認定を取得するためにはどのように進めるのでしょうか。中小企業版SBT認定を申請する方法は、大まかに分けて4ステップあります。

中小企業版SBT認定申請フロー

環境省が公表しているSBTの手続きを参考に、申請方法の各ステップについて、解説します。

参考:環境省『SBT(Science Based Targets)について

ステップ1.申請書を提出する

認定基準を満たすように目標を定め、Target Submission Form(目標認定申請書)をSBTiに提出します。目標のほかに、企業の一般情報なども記入する必要があります。

ステップ2.SBTiが目標を確認する

SBTiが提出された目標を確認し、その妥当性を見極めます。2024年1月の改正により、承認までのプロセスにおけるデューデリジェンス(提出資料の精査)が強化されているようです。

ステップ3.費用を支払う

SBTiから請求書が届いたら、中小企業版SBTの費用(USD1,250、外税)を支払います。その後、支払い確認書をSBTiに提出しましょう。

ステップ4.目標が公表される

目標が妥当だと判断されると、SBTiなどのホームページで企業名が公表されます。

自治体によっては、中小企業版SBT認定取得に補助金を支給

通常版SBTに比べ安価とはいえ、中小企業版SBT取得には申請自体に費用がかかります。また、前述したように、目標値の設定には専門的な知識が必要なため、自社だけで対応するのが困難なケースも少なくありません。そのため、温室効果ガス排出量の算定を手掛ける専門サービスや、コンサルタントを利用する企業も多く、その場合には費用がかさみます。

そのようなときは、自治体が用意している補助金を利用するのも一案です。補助金の申請対象者や条件は、自治体によって異なります。例えば、中小企業版SBTの取得に向けたコンサルタント料だけを補助するパターンもあれば、申請費用も補助の対象に含まれるパターンもあります。

中小企業版SBT認定取得に向けた補助金を支給している自治体を一部紹介します(すでに募集が終了している場合もあります)。

自治体名補助金額補助の対象
栃木県宇都宮市上限100万円温室効果ガス排出量の算定や削減目標の設定、削減計画の策定のための委託料、認定取得に係る申請費用
栃木県小山市上限100万円認定取得のためのコンサルタント料、認定取得に係る申請費用
新潟県三条市上限15万円取得に向け、申請業務を外部機関などに委託した際に発生する経費(申請費用は対象外)

この他の自治体でも支援しているケースもあるので、事業所がある自治体のホームページなどをチェックしてみてください。

参考:小山市『【受付は4月1日から】小山市中小企業SBT認定取得支援事業補助金
参考:宇都宮市『中小企業向け温室効果ガス排出削減目標(SBT)認定支援事業補助金
参考:三条市『中小企業向けSBT認証取得促進補助金

【環境省公表】業種別取組事例一覧

中小企業版SBTの取得に向け、実際に取得した企業の取り組み事例を参考にしたい企業も多いでしょう。環境省のグリーン・バリューチェーンプラットフォーム『取組事例01 業種別取組事例一覧』では、企業ごとに、以下の内容がまとめられています。

取組事例01 業種別取組事例一覧 掲載項目

  • 企業情報
  • 削減目標案
  • 基準年のGHGインベントリ(温室効果ガスの排出量や吸収量を、排出源・吸収源ごとに示すデータ)
  • 気候変動によるリスクと機会の分析
  • 削減⽬標設定の背景・⽬的・期待する効果など
  • ⽬標設定のプロセスと社内の議論
  • 今後の課題 など

実例は大いに役立ちますよね。取得を検討している企業は、参考にしてください。

【Q&A】中小企業版SBTに関する疑問にお答え

SBTについて、まだまだ知りたいこともあるでしょう。SBTや中小企業版SBT認定について、多くの疑問が寄せられる項目にお答えします。

Q1.日本ではどのくらいの中小企業が取得していますか?

2024年3月1日現在、日本でSBT認定を取得している企業は904社ありますが、そのうち704社が中小企業版SBTでの認定取得です。つまり、全体の約8割の企業が中小企業版SBTで取得しています。通常版SBTを含め、 日本では電気機器、建設業の企業の取得が多く見られます。

参考:環境省『SBT(Science Based Targets)について

Q2.目標が達成できない場合、ペナルティは?

目標が達成できなくても、ペナルティが課せられることはありません。大事なのは、自社にとって野心的ともいえる高い目標を掲げ、それに向かって真摯に取り組む姿勢です。ペナルティを恐れるより、目標達成に向けた取り組みの推進に注力しましょう。

Q3.中小企業版SBT以外に検討できそうな枠組みは?

中小企業における自社での環境の取り組みとして、中小企業版SBTの他に検討したいのが、再エネ100宣 RE Actionです。再エネ100宣言 RE Actionとは、再生エネルギー100%利用を促進する枠組みのこと。企業や自治体、教育機関などの団体が使用電力を100%再生可能エネルギーに転換することを宣言し、実践していきます。中小企業でも参加しやすく、従業員が10人未満でも活動できます。

参考:環境省『RE100について

中小企業版SBTを取得して、環境経営を推進しよう

中小企業版SBTは通常版SBTに比べ、削減すべき目標設定のハードルが低く、費用も安価なのが特徴です。中小企業版SBT取得は、「地球温暖化対策」「環境経営の実現」といった時代のニーズに応え、中長期的な成長を実現するための戦略的な投資ともいえるでしょう。安価とは言え費用面がハードルとなる場合には、自治体による補助金制度の活用をおすすめします。環境省公表の取り組み事例も参考にしながら、中小企業版SBTを取得し、環境経営を推進していきましょう。