森林クレジットの仕組みや価格推移、問題点を解説!導入前に知るべき注意点

「森林クレジット」は、脱炭素経営が求められる昨今、CO2排出量を相殺(オフセット)する手段として関心が高まっています。しかし、導入を検討する中で「再エネ由来のクレジットと何が違うのか」「価格が高騰していると聞くが、適正価格はいくらなのか」「本当に環境貢献につながっているのか」といった疑問や不安をお持ちではないでしょうか。
森林由来のクレジットは、単なる数字上のオフセットにとどまらず、生物多様性の保全や地域活性化といった付加価値を持っています。その一方で、調達の難易度や制度上の複雑さといった課題も存在します。本記事では、森林クレジットの基礎知識から市場動向、導入前に知っておくべきリスク対策までを詳しく解説します。
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- 森林クレジットはCO2吸収だけでなく、地域貢献や生物多様性(TNFD)の観点でも高いPR効果を持つ。
- 価格は再エネ由来より高値で推移しており、人気が高いため安定的な調達ルートの確保が重要である。
- 「グリーンウォッシュ」のリスクを避けるため、自社削減を優先し「中小企業版SBT」などの認定取得も視野に入れる。
森林クレジットとは?
森林クレジットとは、適切に管理された森林がCO2(二酸化炭素)を吸収した量を国が認証し、企業間で取引可能な価値(クレジット)に変えたものを指します。
日本においては、国が運営する「J-クレジット制度」の中で、森林管理による吸収量をクレジット化する仕組みが整備されています。企業はこのクレジットを購入することで、自社の排出量を埋め合わせる「カーボン・オフセット」に活用したり、環境貢献企業として社会的な価値を高めたりすることができます。
J-クレジットにおける森林クレジットの位置づけ
J-クレジット制度には、「省エネルギー」「再生可能エネルギー」「工業プロセス」「農業」「森林」など、いくつかの方法論(クレジット認証の対象となる活動の条件や、削減・吸収量の算定・モニタリング方法などを定めた規定)が存在します。
森林の方法論について、一覧にまとめました。
| 方法論NO. | 方法論 | 対象 | 活動の概要・特徴 |
|---|---|---|---|
| FO-001 | 森林経営活動 | 手入れが必要な森林(人工林、天然生林など) | 現在、最も主流な方法論です。間伐などの適切な管理を行うことで促進されたCO2吸収量をクレジット化します。 |
| FO-002 | 植林活動 | 森林ではなかった土地(草地、農地など) | 過去(2012年度末時点)から森林ではなかった場所に、新しく木を植えて森を造成する活動が対象です。 |
| FO-003 | 再造林活動 | 木がない土地(伐採跡地、未立木地など) | 木を伐採したまま放置されている土地などに再び木を植える「再造林」を促すため、2022年8月に策定された新しい方法論です。 |
これら3つの方法論は活動内容によって区分されていますが、J-クレジット制度においては、これらに基づく取り組みを総称して「森林管理プロジェクト」と呼びます。
多くのクレジットが「CO2排出量の削減(再エネ導入などで、本来出るはずだったCO2を減らす)」を評価するのに対し、森林クレジットは「CO2の吸収(大気中のCO2を固定する)」を評価する点に大きな特徴があります。これは、世界的な脱炭素の潮流において、排出削減だけでは達成できない「カーボンニュートラル」を実現するための重要な手段(ネガティブエミッション)として位置づけられています。
企業が注目する森林クレジットのメリット
再エネ由来のクレジットに比べて価格が高くなりやすい森林クレジットですが、それでも多くの企業が導入を希望するには理由があります。単なるCO2オフセット以上の「付加価値」が評価されているのです。
環境価値のアピール
森林クレジットを購入し無効化(使用)することで、企業は「温対法」や「SHIFT事業」の目標達成などにおいて、排出量のオフセット報告として活用できる場合があります(※制度ごとの最新ルール確認が必要)。
また、製造過程のCO2をオフセットした「カーボンニュートラル商品」として展開することで、製品に新たな環境価値を付与し、ブランド力を高めることが可能です。
地域・生物多様性への貢献(TNFD)
近年、気候変動対策と並んで重要視されているのが「ネイチャーポジティブ(自然再興)」です。TNFD(自然関連財務情報開示タスクフォース)の枠組みなどにより、企業は自然資本への影響を開示することが求められ始めています。
森林クレジットの創出は、間伐などの適切な森林管理を前提としています。つまり、企業がこのクレジットを購入することは、資金を森林整備に還流させ、水源涵養(かんよう)機能の維持・増進や土砂災害防止、そして豊かな生態系を守る活動を直接支援することになります。このストーリー性は、単なる再エネ導入にはない強力なアピールポイントとなります。
| 水源涵養機能 森林の土壌が持つ、降水を貯留し、河川へ流れ込む水の量を平準化して洪水を緩和するとともに、川の流量を安定させる機能のこと。また、雨水が森林土壌を通過することにより、水質が浄化されます。 |
ブランドイメージの向上
「どこの誰が作ったか分からないクレジット」ではなく、「地元の森林組合が作ったクレジット」や「災害復興支援につながるクレジット」などを選ぶことで、企業は地域社会との共生(CSR活動)を具体的に示すことができます。
特に地域密着型の企業や、木材を利用する住宅メーカーなどにとって、森林由来のクレジットは自社の事業ストーリーと非常に親和性が高く、ステークホルダーからの信頼獲得につながりやすいというメリットがあります。
森林クレジットの具体的な活用法と市場動向
実際に企業や団体はどのように森林クレジットを活用しているのでしょうか。ここでは特徴的な3つの事例と、市場の取引状況について解説します。
企業事例の紹介
森林クレジットの創出・販売・購入事例を紹介します。
(参考:林野庁『J-クレジット制度』『第1部 第1章 第2節 森林整備の動向(3)』)
【地域循環の創出】東急リゾートタウン蓼科
長野県茅野市にある複合リゾート「東急リゾートタウン蓼科」では、2012年の土砂災害を契機に、森を守り活用する「もりぐらし(R)」プロジェクトを展開しています。同社は適切な間伐などの森林整備を行い、総合デベロッパーとして初めてJ-クレジット(森林経営活動)の認証を取得しました。
創出されたクレジットは、外部へ販売するのではなく、施設内のゴルフ場における「ゴルフカートの走行」などで排出されるCO2のオフセット(無効化)に利用しています。自社の事業地である森を整備し、そこで生まれた環境価値を自社で消費するこの取り組みは、理想的な「地産地消型カーボン・オフセット」のモデルケースとして高く評価されています。
【木材市場での販売】長崎県林業公社
長崎県諫早市の長崎県林業公社は、公社営林を対象に森林管理プロジェクトを実施し、クレジット認証を取得しています。
この森林クレジットの特徴として、木材の流通網(サプライチェーン)をクレジット販売に組み込んだ点が挙げられます。具体的には、木材を取り扱う流通企業(木材市場)に向けて、森林管理プロジェクト由来のクレジットを販売する手法をとっています。
この事例では、市場側が木材輸送(トラックなど)に伴うCO2排出をオフセットするためにクレジットを購入しており、その費用には木材販売収益の一部が充てられています。一方、公社側は木材の定量出荷を行うことで市場を支援しています。
木材を輸送する際に発生する不可避な排出を「木材を出荷した森林」の吸収量で相殺するこの仕組みは、サプライチェーン全体での脱炭素化に貢献するものです。さらに、クレジット販売による収益は基金化され、さらなる森林整備の財源として活用されています。
また、同公社は、教育機関と連携して森林環境関連の研究や人材育成に取り組むなど、次世代につなぐ新たな活動も展開しています。
【玉ねぎ栽培で購入】きたみらい農業協同組合
北海道北見市のきたみらい農業協同組合では、CO2排出量削減の一環として、2014年からカーボン・オフセット玉ねぎの販売を継続して行っています。
化学肥料や農薬の低減努力に加え、どうしても削減できない農作業機械の使用に伴うCO2排出分について、北海道の森林から創出されたJ-クレジットを購入し相殺。環境にやさしい農産物として商品の魅力を高めると同時に、クレジット購入代金を通じて北海道の森づくりに貢献しています。
カーボン・クレジット市場の取引状況
東京証券取引所が開設した「カーボン・クレジット市場」などの動向を見ると、森林由来のJ-クレジットは、再エネ由来のクレジット(太陽光や省エネなど)に比べて、取引価格が高い傾向にあります。
■2023/10/11~2025/12/1のJ-クレジット約定結果
| 約定価格(円/t-CO2) | 約定数量(t-CO2) | |
|---|---|---|
| 省エネ | 2,850 | 344,048 |
| 再エネ※価格は電力・熱の加重平均 | 4,557 | 685,040 |
| 森林 | 5,595 | 19,947 |
| 全体※価格は全約定クレジットの加重平均 | 4,016 | 1,050,291(総額約42.2億円) |
森林クレジットが高値で取引される理由は、単なる脱炭素の効果だけでなく、「地域貢献」や「生物多様性」といった付加価値(プレミアム価値)が含まれているためと考えられます。
CO2の削減量という数字だけで見れば他のクレジットと同じ「1トン」ですが、森林クレジットを選ぶことは、社会全体で森林を支え、環境を守る活動への直接的な投資という意味を持ちます。企業の森林クレジット購入目的が社会貢献(CSR)から、より戦略的な脱炭素経営へと移行する中で、こうした森林クレジット独自の価値が今後どのように市場で評価され、価格に反映されていくかが注目されています。
カーボン・クレジット市場については、以下の記事で詳しく解説しています。参考にご覧ください。
森林クレジットの課題
導入メリットの多い森林クレジットですが、活用にあたってはいくつかの重要な課題やリスクも存在します。これらを理解せずに導入を進めると、後々トラブルになったり、期待した評価が得られなかったりする可能性があります。
グリーンウォッシュとみなされるリスク
最も注意すべきは「グリーンウォッシュ(見せかけの環境対応)」との批判です。「自社での排出削減努力をせず、金銭でクレジットを買って帳消しにしているだけではないか」という厳しい目が、投資家や消費者から向けられています。
クレジットはあくまで「どうしても削減できない残留排出量」を埋め合わせるための手段であり、主役は「自社での削減」でなければなりません。
削減努力の証明として「中小企業版SBT」取得を目指す
このリスクを回避するための有効な手段の一つが、「SBT(Science Based Targets)」の認定取得です。特に中小企業向けには「中小企業版SBT」という枠組みが用意されています。
SBT認定を取得することは、国際的な科学的根拠に基づいた削減目標を持っていることの証明になります。「まずはSBTに沿って削減努力を行い、その上で森林クレジットを活用する」という姿勢を示すことで、対外的な信頼性は格段に高まります。
中小企業を対象とした中小企業版SBTの申請方法について以下の記事で解説しているので、ぜひご覧ください。
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永続性に対する不確実性の問題
森林には「永続性」のリスクがつきまといます。具体的には、山火事や台風、病虫害などによって森林が消失・損壊し、予定していたCO2吸収機能が失われてしまうリスクです。
J-クレジット制度では、森林由来のクレジットを発行する際、このリスクに備えて認証量の3%を「バッファー(保険)」として制度側が管理する仕組みを設けています。購入する企業側としても「自然相手のプロジェクトである」という認識を持っておく必要があります。
市場において価格が高騰し、安定調達が困難
森林由来のJ-クレジットは、再エネ由来などに比べて認証・発行される量が少なく、市場での流通量が限られています。その一方で、地域貢献などの付加価値を求める企業からのニーズは安定して高く、品薄で手に入りにくい状況が続いていると考えられます。
そのため、「毎年100トン買いたい」と計画していても、市場に在庫がなかったり、価格が急騰して予算オーバーになったりするリスクがあります。スポット購入(都度購入)だけでなく、森林組合や創出事業者と長期契約を結ぶなど、安定調達のための戦略が必要になります。
「再エネ由来」に比べ制度が限定的
現在の国際的な温室効果ガス算定基準(GHGプロトコルなど)において、森林吸収由来のクレジットは、再エネ由来のクレジットに比べて、用途や控除できる範囲に制限がある場合があります。
例えば、再エネ電力証書は「Scope2(電力使用による排出)」の削減として算定できますが、森林クレジットは「オフセット(相殺)」としての扱いとなり、直接的な排出量の削減とは区別されることが多いです。自社が目指す開示基準において、森林クレジットがどのように扱われるかを確認しておく必要があります。
■再生可能エネルギー(電力)由来クレジットと森林吸収由来クレジットの比較
| 再生可能エネルギー(電力) 由来クレジット | 森林吸収由来クレジット | |
|---|---|---|
| 温対法での報告 (排出量・排出係数調整) | ◯ | ◯ |
| カーボン・オフセットでの活用 | ◯ | ◯ |
| CDP質問書での報告 | ◯ ※条件あり | ✕ |
| SBTでの報告 | ◯ ※条件あり | ✕ |
| RE100での報告 | ◯ ※条件あり | ✕ |
| SHIFT事業の目標達成 | ◯ | ◯ |
森林クレジット活用と同時に、確実な「削減計画」の策定を
森林クレジット最大の魅力は、単なるCO2の相殺手段という以上に、地域社会への貢献や生物多様性(TNFD)の保全といった「付加価値」を企業活動に付与できる点にあります。
しかし、省エネや再エネ導入といった根本的な削減策を疎かにしたままクレジットに頼れば、それは「グリーンウォッシュ」と見なされ、かえって企業価値を損なうリスクになりかねません。「森林クレジットの活用」のポイントは「自社での着実な削減努力」をセットで進めることです。自社努力による削減を進めながら、付加価値の高い森林クレジットを戦略的に組み合わせることで、よりステークホルダーからの信頼を得ることができるでしょう。
「戦略的な脱炭素経営」という土台があって初めて、森林クレジットはその真価を発揮します。まずは自社の現状を把握し、SBTなどの目標設定を行うことから始めてみてはいかがでしょうか。
HELLO!GREENでは、これから脱炭素経営に取り組む中小企業の皆さまに向けて、有益な情報を発信しています。環境省認定制度「脱炭素アドバイザー アドバンスト」にも認定されている 「炭素会計アドバイザー」資格を持つ専門スタッフの知見を活かし、わかりやすく信頼できる記事づくりに努めています。