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脱炭素の「なぜ」に迫る。必要な理由や世界・日本の動向、事例を紹介

目次
記事の要点
  • 脱炭素とは、一般的には全体として温室効果ガスの排出をゼロにする状態のこと。
  • 脱炭素が必要な理由は、「地球温暖化の防止」「持続可能な社会の実現」「経済成長への寄与」の3点です。
  • 企業としては、国内外の脱炭素化の動きを押さえつつ、脱炭素化に向けた取り組みを進めることが大切です。

2024年10月4日の石破内閣総理大臣所信表明演説でも登場した「脱炭素」。エネルギーのくだりで「脱炭素化を進めながらエネルギー自給率を抜本的に高めるため、省エネルギーを徹底し」と用いられ、脱炭素に対する注目の高さが伺えます。他のニュースなどでも「脱炭素」を見聞きする機会が増えたと感じる人も多いでしょう。

では、なぜ脱炭素が必要なのでしょうか。この記事では必要な理由について、国内外の動向や事例を交えつつ紹介します。企業として脱炭素化を進める際の参考にご一読ください。

脱炭素とは

脱炭素とは、一般的には全体として温室効果ガスの排出をゼロにする状態のことを指します。

CO2削減に焦点を当てた言葉という意味合いが強く、二酸化炭素(CO2)削減に焦点を当てたビジョンの大枠を示す言葉として用いられることが多いです。

なぜ、脱炭素が必要なのか?3つの理由

昨今、注目度がますます高くなっている脱炭素ですが、なぜ取り組む必要があるのでしょうか。その理由は、主に以下の3点です。

■脱炭素が必要な理由

  1. 地球温暖化を防ぐ
  2. 持続可能な社会を実現させる
  3. 経済成長につながる

それぞれの内容について詳しくみていきましょう。

理由1.地球温暖化を抑制する

地球温暖化が進むと、海面水位の上昇や異常気象の多発、感染症の増加、生物多様性の減少など、さまざまな問題が引き起こされます。

地球温暖化がもたらす影響

企業にとっては、直接的な影響だけでなく、間接的な影響も考えられ、場合によっては経営危機に陥ることも懸念されます。環境省は、『民間企業の気候変動適応ガイド』にて「気候変動影響は企業の持続可能性を左右する 」としています。

なお、直接的・間接的な影響としては、以下のようなことが考えられます。

■直接的な影響の例

  • 台風やゲリラ豪雨による公共交通機関や道路の遮断、停電、浸水、断水などで事業活動が停滞する
  • 気温上昇により、エネルギーコストが増加する
  • 気温上昇により、労働環境が悪化する
  • 資源や原材料の不足により、収量が減ったり価格が高騰したりする
  • 自然環境に依存する観光業が衰退する(スキー場、海水浴など)

■間接的な影響の例

  • サプライチェーンでの脱炭素化が必要になるため、脱炭素経営を怠ると取引縮小・停止される可能性がある
  • 商品開発や製造過程で脱炭素化を取り入れないと、消費者が離れていく可能性がある
  • サプライヤーの操業停止により、自社が廃業に追い込まれるリスクがある

こうしたさまざまな影響が懸念されることから、地球温暖化を抑制するために全企業が脱炭素化を進めなければなりません。

理由2.持続可能な社会を実現させる

持続可能な社会とは、将来の世代も健全で、豊かな自然や調和のとれた環境の中で暮らせるような社会のことです。産業革命以後、特に第2次世界大戦以降、さまざまな分野で工業化が進み、モノが大量生産・大量消費されるようになりました。その原動力となったのが、石炭や石油などの化石燃料です。化石燃料に頼った経済システムは、私たちの生活を豊かにしている反面、資源の枯渇や温室効果ガスの大量排出も引き起こしています。

このままでは持続可能な社会の実現は難しいといえます。再生可能エネルギーの導入や省エネルギー化を進めることで、環境への配慮とエネルギーの安定供給を両立し、未来につながる社会が実現できるのです。

理由3.経済成長につながる

脱炭素化は、再生可能エネルギーや省エネルギー技術、EV化など新たな産業の創出、イノベーションの推進にも寄与します。

資源エネルギー庁によると、特許数のほかに特許の注目度、排他性などを定量評価した「特許競争力」において、日本は世界的に見て高い水準にあるとのこと。

2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略(「経済と環境の好循環」を作っていくための産業政策のこと。詳細は後述)の14分野について、各国の特許競争力を比較した表が、以下になります。

国別特許競争力ランキング
参考:資源エネルギー庁『エネルギー白書2021について』を加工して作成

こうした技術力の高さは、日本全体の経済成長、ひいては国際競争力の強化につながります。

参考:資源エネルギー庁『エネルギー白書2021について

脱炭素のためにできること

脱炭素化を進めるにあたり、企業としてはどのようなことができるのでしょうか。ここでは主なものを紹介します。

カーボンニュートラルを実現する

カーボンニュートラルとは、温室効果ガスの人為的な排出量と吸収量を均衡させることです。

カーボンニュートラルのイメージ
環境省 脱炭素ポータル『カーボンニュートラルとは』を加工して作成

現在、日本をはじめとする世界各国が「2050年までのカーボンニュートラル実現」を目指して、取り組みを進めています。そのためには、国だけに任せるのではなく、全ての企業がカーボンニュートラルを目指さなければなりません。

カーボンニュートラルと企業の関わりについては、次の記事で深堀りしています。企業が取り組むメリットや企業事例なども紹介していますので、参考にご覧ください。

使用エネルギーを再生可能エネルギーに転換する

人々の生活や産業において、エネルギーを全く使わないという選択肢はありません。しかし、これまで多く依存してきた化石燃料は、前述した通り大量の温室効果ガスを排出します。

そこで、重要になるのが、使用エネルギーを化石燃料から再生可能エネルギーに転換することです。再生可能エネルギーとは、一度利用しても比較的短期間に再生が可能で、繰り返し利用できるエネルギーのこと。主なものとして、以下の5種類があります。

■主な再生可能エネルギー

  • 太陽光発電
  • 水力発電
  • 風力発電
  • バイオマス発電
  • 地熱発電

再生可能エネルギーについては、以下の記事で詳しく解説しています。

脱炭素化実現に向けた世界の動き

早急な対応が必要となる脱炭素化ですが、世界の動きはどのようになっているのでしょうか。さまざまな動きがありますが、その中でも特に注目したい3点を紹介します。

パリ協定で世界共通の長期目標が決定

パリ協定とは、2020年以降の気候変動問題に関する、国際的な枠組みのこと。2015年にパリで開かれた、COP21(国連気候変動枠組条約締約国会議)で、採択されました。UNFCCC(国連気候変動枠組条約)の目的を達成するための具体的な枠組みとして位置付けられています。

パリ協定では、以下のような世界共通の長期目標を掲げています。

パリ協定における長期目標
・世界の平均気温上昇を産業革命以前に比べて2℃より十分低く保ち、1.5℃に抑える努力をする

・そのため、できるかぎり早く世界の温室効果ガス排出量をピークアウトし、21世紀後半には、温室効果ガス排出量と(森林などによる)吸収量のバランスをとる
参考:資源エネルギー庁『今さら聞けない「パリ協定」 ~何が決まったのか?私たちは何をすべきか?~

パリ協定後、2018年10月に開催されたIPCC(気候変動に関する政府間パネル)の第48回総会において、「2050年までにカーボンニュートラルを実現すべきであること」が明示されました。これにより、世界各国が実現に向けた目標を掲げることとなったのです。

また、パリ協定では、削減目標の到達具合について世界全体の進捗状況を確認するため、5年ごとに評価を実施するグローバル・ストックテイクというサイクルを取り入れています。

グローバルストックテイクの構成
参考:資源エネルギー庁『気候変動対策、どこまで進んでる?初の評価を実施した「COP28」の結果は』を加工して作成

2023年のCOP28において、初のグローバル・ストックテイクを実施。2023年時点では、世界の気温上昇を1.5度に抑えるという目標と実情との隔たりがあったことから、目標達成に向けた支援が必要と強調されました。

カーボンプライシングの導入

カーボンプライシングとは、企業などの排出するCO2に価格をつけることで、排出者の行動変容を促す政策手法です。制度が導入されると、CO2排出量に比例して、事業者のコスト面での負担が増大するため、CO2排出量削減に積極的に取り組む企業が増えることが期待できます。

主に取り入れられている手法としては、以下の2つがあります。

手法内容
炭素税企業などの排出者に対して、CO2排出量に応じて課される税金
排出量取引制度企業ごとに排出量の上限が定め、上限を超過する企業と下回る企業(排出枠に余裕がある企業)との間でCO2の排出量を取引する制度

なお、日本では、2012年に開始された「地球温暖化対策税」が、炭素税として機能しています。

排出量取引制度については、東京都や埼玉県など一部の自治体とGXリーグが導入。2026年度からは、日本全体を対象とする制度が開始される見通しです。

カーボンバジェットへの意識の高まり

カーボンバジェットとは、地球の気温上昇をあるレベルまでに抑えようとする場合に決まってくる温室効果ガス累積排出量の上限のこと。日本語に直訳すると、「炭素予算」です。

イメージしやすいように絵にすると、以下のようになります。

カーボンバジェットのイメージ

IPCC第6次評価報告書 統合報告書によると、気温上昇を1.5℃までにとどめるために残されたカーボンバジェットは、50%以上の確率において約500GtCO2(5000億tCO2)と推定されています。

一方で、2019年の排出水準のまま推移したと仮定した場合の2020年から2030年のCO2累積排出量は、約495GtCO2(4950億tCO2)になると想定。上の図の容器で例えると、2030年の時点で容器の99%が液体で満たされており、溢れる寸前になってしまうのです。

カーボンバジェットの上限を超えてしまうと、地球の気温上昇をあるレベルに抑えることが難しくなり、地球温暖化をストップさせることが困難となります。つまり、地球の存続にも影響が及ぶのです。世界全体で、カーボンバジェットへの意識を高め、温室効果ガス排出量の削減を加速させなければなりません。

参考:環境省『IPCC第6次評価報告書 統合報告書 Summary for Policy Makers(政策決定者向け要約)解説資料

脱炭素化に向けた日本の動き

脱炭素化に向け、日本はどのような動きを見せているのでしょうか。ぜひ押さえておきたい動きとして、以下の3点を紹介します。

「2050年カーボンニュートラル」宣言

パリ協定などを受け、日本では菅内閣総理大臣(当時)が2020年10月26日の所信表明演説において、以下を宣言しました。

我が国は、二〇五〇年までに、温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする、すなわち二〇五〇年カーボンニュートラル、脱炭素社会の実現を目指すことを、ここに宣言いたします。
引用:首相官邸『令和2年10月26日 第二百三回国会における菅内閣総理大臣所信表明演説

この宣言は、「2050年カーボンニュートラル宣言」と呼ばれています。

地球温暖化対策推進法の改正

地球温暖化対策推進法(温対法)とは、1997年の京都議定書への採択を受けて1998年に成立した法律です。日本における地球温暖化対策の第一歩とされています。

地球の環境は変化しており、温暖化防止に向けた対策を強化すべく、これまでに何度も法改正が行われています。直近では、2021年に大きな法改正がありました。

■2021年改正のポイント

  • 2050年までの脱炭素社会の実現を基本理念として明記
  • 地方創生につながる再生可能エネルギー導入を促進
  • 企業の温室効果ガス排出量情報のオープンデータ化

グリーン成長戦略の策定

グリーン成長戦略とは、地球温暖化への対応を社会経済の成長の機会ととらえ、「経済と環境の好循環」を作っていくための産業政策のこと。日本政府によって、2021年6月に定められました。

グリーン成長戦略の産業・重点分野
参考:経済産業省『2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略』を加工して作成

この戦略では、上の図で示した3つの産業・14の重点分野に関して、2050年カーボンニュートラルの実現に向けた実行計画を示しています。

【事例】脱炭素化を進める企業の取り組みを紹介

脱炭素化は、国だけが取り組めばいいというものではありません。国主導の施策はもちろん大事ですが、企業レベルでも推進して行く必要があります。ここでは、脱炭素化を進める企業の事例を紹介します。

参考:環境省『令和5年度版(2023年度版)活用事例

省エネ|蓋付き冷凍ショーケースの導入(大槻食材株式会社)

大槻食材株式会社は、業務用食材の販売や量販店・デパートの食材を取り扱う小売業です。店頭の冷凍ショーケースについて、プロパン冷媒を使用した冷蔵・冷凍設備を更新する際、オープンショーケースから蓋付の冷凍ケースへと切り替え。その結果、CO2排出量・エネルギーコストとも、前年比で大幅に削減できました。

取り組み内容オープンショーケースを蓋付きショーケースに変更
CO2削減量約114t-CO2/年
エネルギーコスト削減額約282万円/年
副次的な効果・ショーケースの騒音が軽減した
・ショーケースの設備容量が増え、商品補充回数が減り、作業効率が上がった
・商品パッケージへの霜付きがなくなり、商品の品質劣化によるロスが削減できた

太陽光発電|ソーラーカーポートの導入(積水化学工業株式会社)

化学製品を製造する積水化学工業株式会社は、ソーラーカーポートを新設しました。その結果、購入電力の費用を1年間で1000万円近く削減することに成功しました。

取り組み内容太陽光発電設備とパワーコンディショナーを備えたソーラーカーポートを導入
CO2削減量約485t-CO2/年
エネルギーコスト削減額約989万円/年
副次的な効果・日中に太陽光発電設備による電力供給が可能になった
・停電時の事業継続計画(BCP)対策が可能になった
・太陽光発電に取り組むことで、自社の環境への意識が高まった

電動化|EVトラックの導入(西濃運輸株式会社)

大手運輸会社の西濃運輸株式会社は、EVトラックを導入しました。燃料を従来の軽油から電力への切り替えたことにより、エネルギーコストを約6割以上削減。サプライチェーンのCO2排出量削減に貢献している点も注目です。

取り組み内容EVトラック(8t未満)を2台導入
CO2削減量約7t-CO2/年
エネルギーコスト削減額約54万円/年
副次的な効果・EVトラックは運転時の振動と騒音が少ないため、ドライバーの労働環境の改善につながった
・自社のCO2排出量を削減するとともに、荷主側のCO2排出量(Scope3に該当)削減に貢献できた

サプライチェーン排出量については、以下の記事をご覧ください。

脱炭素がなぜ必要なのかを理解し、自社でできることから始めよう

脱炭素という言葉はよく耳にしますが、その具体的な意味が明確でないと感じる方も多いかもしれません。しかし、脱炭素に向けた取り組みを進めていくためには、脱炭素の意味や、「なぜ必要なのか」という点を理解しておくことが大切です。

脱炭素は、地球温暖化を防ぎ、持続可能な社会を実現させるために必要であり、同時に経済成長にもつながります。脱炭素化を進めるためには国の施策はもちろん重要ですが、企業も率先して取り組むことが必要です。地球環境を守り、自社を存続させるために、できることから積極的に進めていきましょう。