【最新知識】カーボンインセットとは?カーボンオフセットとの違いやメリット
- カーボンインセットとは、自社の温室効果ガス排出量をバリューチェーン内で相殺する取り組みのことです。
- カーボンオフセットの違いは、「どこで温室効果ガスを相殺するのか」。カーボンインセットでは自社のバリューチェーン内で、カーボンオフセットでは自社のバリューチェーン外で相殺します。
- 企業がカーボンインセットを実施するメリットは「企業イメージの大幅な向上」「取引先との関係強化」。課題も認識した上で、実施の有無や進め方を考えることが大切です。
バリューチェーン内で自社の温室効果ガス排出量を相殺する取り組みである、カーボンインセット。温室効果ガスの排出削減を進めており、「カーボンインセットという用語を聞いたが、具体的にどのようなことかイメージしにくい」「カーボンオフセットとの違いが知りたい」という企業も少なくないでしょう。
そこで今回は、カーボンインセットの定義やカーボンオフセットの違い、企業にとってのメリット、取り組みの課題などを解説します。これを読めば、カーボンインセットの理解が深まり、自社で実施するかどうかを検討しやすくなるでしょう。
カーボンインセットとは?
カーボンインセットとは、自社の温室効果ガス排出量をバリューチェーン内で相殺する取り組みのことです。
具体的には、自社のバリューチェーン内で実施される温室効果ガス排出削減に向けたプロジェクトに直接投資。プロジェクトによって創出されるカーボンクレジット(企業間で温室効果ガスの「排出削減量・吸収量」をクレジット化し、取引できるようにした仕組み)を使って、自社の温室効果ガス排出量を相殺します。
カーボンインセットのプロジェクトにはさまざまなものがありますが、自然基盤に着目したものであることが多いです。具体的には、「リジェネラティブ農業(土壌を修復・改善しながら、自然環境の回復を図る農業)」や「アグロフォレストリー(森林管理のかたわら、農作物の栽培や家畜の飼育などをすること)」などが挙げられます。
イメージがわきやすいよう、自社が製造業の場合を例に見ていきましょう。
カーボンインセットの例(自社が製造業の場合)
・原材料の調達元との間で実施される、自社の温室効果ガス排出量を相殺する取り組み(環境負荷の低い原材料の開発プロジェクトへの投資など)
・製品の輸送業者との間で実施される、自社の温室効果ガス排出量を相殺する取り組み(「製品輸送車両の燃料を環境負荷の少ないものにするプロジェクトへの投資」など)
つまり、温室効果ガス排出量を相殺する取り組みが、「取引先との間で行われる」という点がポイントになります。
現状、カーボンインセットは明確には制度化されていませんが、フランスの非営利団体である「IPI(International Platform for Insetting)」がガイドラインを出しています。
カーボンインセットが注目されている背景
今、カーボンインセットが注目されてきています。その背景としては、「地球温暖化を抑制するために、温室効果ガスの排出削減が世界的に急務となっていること」と「サプライチェーン排出量の削減が企業に求められていること」が挙げられます。
温室効果ガスの排出削減が世界的に急務となっている
近年、地球温暖化は急速に進行しているといわれています。それに伴う異常気象や気象災害は私たちの生活にとって悪影響となるだけでなく、「工場の操業停止」「サプライチェーンの断絶」といった形で企業の事業活動にも影響を与える可能性があります。
皆さんご存じかと思いますが、地球温暖化の主な要因は温室効果ガスの大量排出であるといわれています。人々が大量の化石燃料を消費した結果、大量の温室効果ガスが排出されるようになりました。その結果、大気中の温室効果ガス濃度が急激に上昇し、地球温暖化につながったのです。こうした理由から、地球温暖化抑制のために、世界中の国・企業・個人に温室効果ガスの排出削減が求められています。
社会全体として見た場合、カーボンインセットは温室効果ガスの排出削減効果が高い取り組みであるといえるでしょう。また、カーボンインセットで行われるプロジェクトによっては、自然環境や生態系を回復させることもできます。
こうした理由から、カーボンインセットが注目されているのです。
サプライチェーン排出量の削減が企業に求められている
温室効果ガスの排出削減が世界的に急務となっていることから、企業にはサプライチェーン排出量の削減が求められています。
サプライチェーン排出量とは、「原材料の仕入れ」「製品の生産」「廃棄処理」といった製品や事業に関連する全ての活動から排出される温室効果ガスの総量のこと。
具体的には、以下の3つのScopeにおける温室効果ガス排出量を合計したものが、サプライチェーン排出量となります。
・Scope1:自社からの直接的な排出
・Scope2:他社から購入した電気、熱・蒸気の使用に伴う間接的な排出
・Scope3:Scope1・2以外の間接的な排出(※全15カテゴリ)
このうち、カーボンインセットとの関係が深いのが、Scope3です。
Scope3は、Scope1・2以外の間接的な排出のことで、全15のカテゴリからなります。具体的には、他社から仕入れた原材料の調達や他社に依頼した輸送など、自社の事業活動に由来して他社が排出する温室効果ガスなどが、Scope3に該当します。つまり、自社の製品・事業に関連して取引先から排出される温室効果ガスは、Scope3の一部であるといえますね。
カーボンインセットはScope3の排出削減効果が期待できる取り組みであることから、サプライチェーン排出量の削減に意欲的な企業の間で関心が高まっていると考えられます。
カーボンインセットとカーボンオフセットの違い
カーボンインセットと混同されがちなのが、カーボンオフセットです。カーボンオフセットとは、自らの活動に伴い排出する温室効果ガスを認識・削減した上で、それでもなお発生してしまう排出量を埋め合わせる取り組みのこと。
両者はいずれも「自社の温室効果ガスを相殺する取り組み」という意味では同じですが、「どこで温室効果ガスを相殺するのか」が違います。
上の図で示したように、カーボンインセットでは自社のバリューチェーン内で温室効果ガス排出量を相殺します。一方、カーボンオフセットは、自社のバリューチェーン外で温室効果ガス排出量を相殺する取り組みです。
つまり、整理すると以下のように分けられます。
・自社工場で排出される温室効果ガスを自社のバリューチェーン内(原材料調達元や輸送業者など)で相殺→【カーボンインセット】
・自社のバリューチェーン外の企業が行うプロジェクトに投資して相殺→【カーボンオフセット】
なお、カーボンオフセットについて詳しく知りたい方は、こちらの記事を参考にしてください。
カーボンインセットを企業が実施するメリット
企業にとって、カーボンインセットはどのようなメリットがある取り組みなのでしょうか。カーボンインセットの実施により、以下のメリットが期待できます。
■カーボンインセットのメリット
- 企業イメージが大きく向上する
- 取引先との関係強化が図れる
- 持続的な成長が可能になる
それぞれについて、見ていきましょう。
メリット1.企業イメージが大きく向上する
カーボンインセットは、世界的な普及はまだ十分とはいえない状況です。そのため、実施していることを外部にアピールすれば、「気候変動問題への関心がとても高い企業」という印象を与えられます。企業イメージが大きく向上するでしょう。
それにより、新規顧客獲得や人材採用、ESG投資(企業の環境・社会・ガバナンスへの取り組みをもとに投資先を選定する投資方法)への好影響も期待できます。
メリット2.取引先との関係強化が図れる
先ほど紹介した通り、カーボンインセットは自社のバリューチェーン内で進めていきます。そのため、実施に際しては取引先との連携が不可欠です。企業間でのやり取りの頻度が増えることで、相互理解が促されます。その結果、取引先との関係強化が図れるでしょう。ひいては、市場における企業の競争力向上も期待できます。
メリット3.持続的な成長が可能になる
カーボンインセットにより、企業の持続的な成長が可能になります。なぜなら、カーボンインセットにより、以下のような効果が期待できるからです。
カーボンインセットによって期待できる効果
・プロジェクトによっては、自然環境の改善や多様な生態系の維持が促され、自然由来の原材料を安定的に調達できるようになる
・原材料の安定的な調達が可能になることで、企業のレジリエンス(変化やリスクに柔軟に対応し、持続的な成長・安定を追求する能力)が高まる
つまり、カーボンインセットと企業のレジリエンスや持続的な成長は、密接に関係しているといえますね。
こうしたメリットがあることも、カーボンインセットに関心を寄せる企業が徐々に増えてきている理由の一つと考えられるでしょう。
カーボンインセットには課題もある
企業にとってのメリットが大きいカーボンインセットですが、以下のような課題もあります。
■カーボンインセットの課題
- 実施に先立ち、膨大な金額の初期投資が必要となることが少なくない
- 高度な専門知識がないと、温室効果ガス排出量に関するデータを正確に収集・分析できない
- 他社と共同で行う取り組みであることから、カーボンインセットの効果検証に不確実性が生じる可能性がある
- ガイドラインこそあれど明確には制度化されていないことが、カーボンインセットを実施する上でのハードルとなる(社内外の協力を得にくい)可能性がある など
企業としては、こうした課題を認識した上で、「カーボンインセットを実施するかどうか」を検討することが大切です。
日本におけるカーボンインセットの事例
世界に目を向けると、カーボンインセットが普及しているとまではいえないものの、バーバリー社やケリング社、ネスプレッソ社、ロレアル社、DHL社などの大手企業は取り組んでいます。
一方、「HELLO!GREEN」の調べによると、2024年8月時点においてカーボンインセットの実施を公表していることが確認できた日本企業は、株式会社ユーグレナと佐川急便株式会社の2社(1事例)のみです。
実施企業 | 株式会社ユーグレナ、佐川急便株式会社 ※佐川急便株式会社は、株式会社ユーグレナのバリューチェーン内にある企業 |
事業内容 | 【株式会社ユーグレナ】 ユーグレナなどの微細藻類の研究開発・生産、微細藻類の食品・化粧品などの製造・開発ほか 【佐川急便株式会社】 宅配便をはじめとする各種輸送にかかわる事業 |
プロジェクト名 | サステナブル配送プロジェクト |
プロジェクトの概要 | ユーグレナ社製品の公式通販における配送の一部に、次世代バイオディーゼル燃料「サステオ」を使用するプロジェクト (2023年6月26日より開始) |
プロジェクトにおける役割 | 【株式会社ユーグレナ】 1.公式通販サイト「ユーグレナ・オンラインショップ」でプロジェクトに賛同する顧客の参加を募る 2.集まった支援額と同額を「サステオ」導入費用として拠出し、佐川急便に「サステオ」を供給 【佐川急便株式会社】 1.プロジェクトに集まった支援額と同額を「サステオ」導入費用として拠出 2.佐川急便浜松営業所の輸送事業において、「サステオ」を使用 |
プロジェクトの賛同総数・総額 | 賛同総数は845口、総額は845,000円 (※一口、1,000円) |
プロジェクトの成果 | 4.11トン相当(樹齢40歳の杉の木が1カ月に吸収できるCO2量の約5,500本分)のCO2排出量削減を実現 |
実施を検討している場合は、こちらの企業事例を参考に「どのようにカーボンインセットを行うか」考えてみるとよいでしょう。
参考:株式会社ユーグレナ『ニュースリリース(2023.06.26)|お客様・荷主・運送事業者の三者が協力 国内初の「サステナブル配送プロジェクト」を開始 通販の配送で次世代バイオディーゼル燃料「サステオ」を使用』『ニュースリリース(2024.04.24)|国内初※1の「サステナブル配送プロジェクト」により杉の木約5,500本相当、4.11 トンのCO2排出量削減を達成 次世代バイオディーセル燃料「サステオ」を宅配便に活用』
温室効果ガス削減に向け、カーボンインセットの実施を検討しよう
自社の温室効果ガス排出量をバリューチェーン内で相殺する取り組みであるカーボンインセットは、社会全体における温室効果ガス削減につながるとして注目されています。
カーボンオフセットとの違いについては、自社の温室効果ガス排出量をバリューチェーン内で相殺する場合はカーボンインセット、バリューチェーン外で相殺する場合はカーボンオフセットであると覚えておきましょう。
カーボンインセットの実施により、「企業イメージの大幅な向上」「取引先との関係強化」「持続的な成長の実現」が期待できます。一方で課題もあるため、「実施するか否か」「どのように実施するか」を慎重に考えることをおすすめします。
温室効果ガスの排出削減に向け、「節電・省エネの実施」や「再生可能エネルギーの活用」といった身近な対策とあわせて、カーボンインセットの実施も検討してみてはいかがでしょうか。