【わかりやすく】カーボンバジェットとは?CO2排出量の残量や世界の動向
- カーボンバジェットとは、地球の気温上昇をあるレベルまでに抑えようとした際の温室効果ガス累積排出量の上限のこと。
- 気温上昇を1.5℃以内にとどめるためのカーボンバジェットの残量は、約500GtCO2といわれています。
- これ以上カーボンバジェットの残量を圧迫しないよう、世界中の全ての国・企業・個人が、CO2排出削減に本腰を入れて取り組む必要があります。
地球の気温上昇をあるレベルまでに抑えるという観点から許容される温室効果ガス累積排出量の上限を意味する、カーボンバジェット。企業として温室効果ガスの排出削減に取り組む中で、カーボンバジェットという用語があることを知った方もいるでしょう。
この記事では、カーボンバジェットの概要や残量、国内外の動向などを紹介します。これを読めば、カーボンバジェットが切迫した状況であることがわかるでしょう。企業で環境への配慮を進める際、押さえておくとよい言葉ですので、ぜひご一読ください。
カーボンバジェットとは?
カーボンバジェットとは、地球の気温上昇をあるレベルまでに抑えようとする場合に決まってくる温室効果ガス累積排出量の上限のこと。日本語に直訳すると、「炭素予算」です。
気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の統合報告書では、以下のように定義されています。
カーボンバジェットの定義 他の人為的な気候変動要因の影響を考慮した上で、地球温暖化を所定の確率で所定のレベルに抑制する、地球上の人為的なCO2排出の累積量の最大値 |
簡単に説明すると、「温暖化を+X℃にとどめるには、温室効果ガスの累積排出量をYトン以内に抑えなければならない」といった言い方をした場合のYトンがカーボンバジェットです。
よりイメージしやすいよう、「容器」と「液体」に例えてみると、以下のようになります。
容器に入る量の上限を超えた液体を入れようとすると、当然、液体は外に溢れてしまいます。それと同じように、累積の温室効果ガス排出量がカーボンバジェットを上回ってしまった場合、地球の気温上昇をあるレベルに抑えることは不可能なのです。
カーボンバジェットに関する世界の動向
カーボンバジェットに関する世界の動向として押さえておきたいのが、「カンクン合意」「IPCC第5次評価報告書(AR5)」「パリ協定」「IPCC第6次評価報告書(AR6)」の4つです。
それぞれの概要について、表にまとめました。
世界の動向 | 概要 |
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カンクン合意 | ・2010年のCOP16(国連気候変動枠組条約第16回締約国会議)で採択された、地球温暖化対策の国際ルール作りに向けた合意 ・「産業化前からの地球平均気温上昇を2℃ないし1.5℃以下に抑制し、それを可能にする2013年以降の国際枠組みを構築し、機能させることを目指す」ことが示された |
IPCC第5次評価報告書(AR5) | ・2013年のIPCC第40回総会で採択された、気候変動に関する科学的および社会経済的な見地からの包括的な評価報告書 ・「カーボンバジェット」という概念が、初めて登場した |
パリ協定 | ・2015年のCOP21(国連気候変動枠組条約第21回締約国会議)で採択された、2020年以降の気候変動問題に関する国際的な枠組み ・「世界の平均気温上昇を産業革命以前に比べて2℃より十分低く保ち(2℃目標)、1.5℃に抑える(1.5℃目標)努力をすること」などが示された |
IPCC第6次評価報告書(AR6) | ・2023年のIPCC第58回総会で採択された、気候変動に関する科学的および社会経済的な見地からの包括的な評価報告書 ・「気温上昇を1.5℃までにとどめるために残されたカーボンバジェットがどの程度あるのか」などが示された |
これらの動向から、カーボンバジェットや1.5℃目標についての議論が世界的に進んでいるといえるでしょう。
カーボンバジェットと地球温暖化の関係
カーボンバジェットと地球温暖化は、深く関係していると考えられます。
実際、2023年に発表されたIPCC第6次評価報告書統合報告書には、以下のような言及があります。
人間の影響により、既に約1.1℃の温暖化(気温上昇)が見られる:人間活動が主に温室効果ガスの排出を通して地球温暖化を引き起こしてきたことには疑う余地はない。1850年~1900年を基準とした世界平均気温は、2011年~2020年に1.1℃の温暖化に達した。 人為的な気候変動は広範な悪影響、損失と損害をもたらした:人為的な気候変動は、既に世界中の全ての地域において、多くの気象・気候の極端現象に影響を及ぼしている。それにより、自然と人々に対して、広範な悪影響や損失・損害をもたらしている。 今後近い将来に、+1.5℃に達する可能性が高い:継続的な温室効果ガスの排出により、さらなる地球温暖化がもたらされ、短期間のうちに1.5℃の温暖化(気温上昇)に到達する可能性が高い 温暖化を1.5℃または2℃に抑制できるかどうかは、累積炭素排出量などに左右される:温暖化を1.5℃または2℃に抑制しうるかは、主に正味ゼロのCO2排出を達成する時期までの累積炭素排出量と、この10年の温室効果ガス排出削減の水準によって決まる |
これらの内容から、「地球温暖化を抑制するためには、カーボンバジェットを超過しないことが重要である」ということが読み取れますね。
2030年には「決定的な10年」が終わる
「決定的な10年(critical decade)」とは、パリ協定で定められた1.5℃目標を達成するために決定的に重要とされている10年間のこと。具体的には、2020年~2030年までを指します。
2021年に開催された国連気候変動枠組条約第26回締約国会議(COP26)にて採択された「グラスゴー気候合意」では、2030年に向けての各国に対する要求が盛り込まれました。
具体的には、パリ協定の1.5℃目標を達成すべく、今世紀半ばのカーボンニュートラルとその重要な経過点となる2030年に向けて、野心的な対策を各国に求めることが示されています。なお、カーボンニュートラルとは、温室効果ガスの人為的な排出量と吸収量を均衡させることです。
「決定的な10年」が終わる2030年まで、残された時間はあと数年です。自身の子どもや孫、その先の世代の生活を守るためにも、今すぐ、温室効果ガスの排出削減に向けた取り組みを強化しましょう。
参考:環境省 脱炭素ポータル『COP26の結果概要について』
カーボンバジェットの残りはどのくらい?
カーボンバジェットの概要について紹介してきましたが、「カーボンバジェットの残りは、あとどのくらいなのか」も気になるところです。そこで、IPCC第6次評価報告書統合報告書をもとに、カーボンバジェットの残量を紹介します。
以下の図は、カーボンバジェットとCO2累積排出量を示したものです。
IPCCの報告書によると、気温上昇を1.5℃までにとどめるために残されたカーボンバジェットは、約500GtCO2(5000億tCO2)と推定されています。なお、この推定は「50%以上の確率でこうなる」というものです。
一方で、2019年の排出水準のまま推移したと仮定した場合の2020年から2030年のCO2累積排出量は、約495GtCO2(4950億tCO2)になる想定。つまり、気温上昇を1.5℃までにとどめようとすると、2030年にはカーボンバジェットの上限近くにまで達してしまう可能性があります。カーボンバジェットが非常に切迫した状況にあることがわかりますね。
排出量ギャップが課題となっている
カーボンバジェットが残りわずかとなっている背景には、「排出量ギャップ(排出ギャップ)」があります。排出量ギャップとは、「各国の掲げる温室効果ガス削減目標」と「気温上昇を1.5℃や2℃に抑えるために必要な温室効果削減量の水準」のギャップのこと。
IPCC第6次評価報告書統合報告書では、パリ協定に基づいて各国が策定した「国が決定する貢献(NDCs)」の政策だけでは、1.5℃目標や2℃目標の達成が困難な旨が言及されています。具体的には、以下の記載があります。
2021年10月までに発表された「国が決定する貢献(NDCs)」から示唆される2030年の世界全体のGHG排出量では、温暖化が21世紀の間に1.5℃を超える可能性が高く、温暖化を2℃より低く抑えることが更に困難になる。 |
また、下のグラフからは、「実施済みの政策のみを考慮したシナリオでは、排出量が微増すること」「1.5℃目標を達成するには、2030年までにこれまで以上に大幅な排出削減が必要であること」もわかります。
これらの情報から、各国政府が対策をより強化していく必要があると考えられます。企業としては、「現状の排出削減努力だけでは、地球温暖化を抑制するには不十分」と認識し、さらなる対策を早急に検討・実施しましょう。
今の選択・行動が、数千年先にまで影響を及ぼす
IPCC第6次評価報告書統合報告書では、私たちが今、どのような選択・行動を取るかが数千年先にまで影響を持つ旨も言及されています。
具体的には、以下の記載があります。
・全ての人々にとって住みやすく持続可能な将来を確保するための機会の窓が急速に閉じている(確信度が非常に高い)。 ・この10年間に行う選択や実施する対策は、現在から数千年先まで影響を持つ(確信度が高い)。 |
つまり、今まさに行動するかが、私たちの子や孫、さらにそのずっと先の世代にまで影響を与えてしまうということです。数千年先の地球やそこで暮らす人々を守るためにも、今できる最大限の対策を速やかに実施する必要がありますね。
なお、同報告書では、各国が今すべき対策の方向性も提示しています。対策の方向性について知りたい方は、環境省の『IPCC第6次評価報告書統合報告書 Summary for Policy Makers(政策決定者向け要約)解説資料』をご確認ください。
CO2排出削減に向けた日本政府の動向
先述の「パリ協定」を受け、菅内閣総理大臣(当時)は2020年10月26日の所信表明演説において、「2050年カーボンニュートラル宣言」と呼ばれる宣言をしました。
2050年カーボンニュートラル宣言 我が国は、二〇五〇年までに、温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする、すなわち二〇五〇年カーボンニュートラル、脱炭素社会の実現を目指すことを、ここに宣言いたします。 |
この宣言を受け、CO2排出削減に向けた日本政府の取り組みが強化されました。
■CO2排出削減に向けた日本政府の主な取り組み
取り組み | 概要 |
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グリーン成長戦略の策定 | ・2050年カーボンニュートラルの実現に向け、「経済と環境の好循環」を構築していくための産業政策(2021年6月策定) ・産業政策およびエネルギー政策の観点から成長が期待される3つの産業・14の重要分野について実行計画を策定 |
地球温暖化対策推進法(温対法)の改正 | ・国や地方公共団体、事業者、国民が一体となって地球温暖化対策に取り組むための枠組みを定めた法律 ・1998年10月に成立した後、地球温暖化の実情などに合わせ、2024年までに9回の法改正を実施 ・直近3回の法改正では、「2050年カーボンニュートラルを同法の基本理念として位置づける」「二国間クレジット制度(JCM)を強化する」などの動きがあった |
地球温暖化対策計画の改定 | ・温対法に基づく政府の総合計画 ・「2050年カーボンニュートラル宣言」を受け、2021年4月に日本政府は、温室効果ガスの具体的な排出削減目標を表明。それを受け、2021年10月に地球温暖化対策計画が改定された |
日本政府の動向については、以下の記事でも紹介しています。
また、経済産業省の『2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略』や環境省の『地球温暖化対策推進法の成立・改正の経緯』『地球温暖化対策計画の改定について』も参考にするとよいでしょう。
CO2排出削減に向けた企業の取り組み例
CO2排出削減に向けた企業の取り組みとしては、以下のようなものがあります。
■企業の取り組み例
- 生産プロセスの見直し:「CO2排出量が多い工程がどこか」を分析し、排出量を減らすための方法を検討する
- エネルギー効率の向上:「省エネ機器の利用」や「節電の実施」などを推進する
- オフィス緑化の実施:「会社の庭に苗木を植える」などの取り組みを実施する
- 再生可能エネルギーの活用:オフィスの屋上などに、太陽光発電パネルを設置する
取り組みについて詳しく知りたい方は、こちらの記事を参考にしてください。
カーボンバジェットを圧迫しないよう、CO2排出削減に取り組もう
パリ協定で示されている「1.5℃目標」を実現するためのカーボンバジェットの残量は、約500GtCO2と推定されています。しかしながら、CO2排出削減に向けた現行の取り組みだけでは、そう遠くない将来に、温室効果ガス累積排出量がカーボンバジェットを上回ってしまう可能性があります。
私たちの暮らす地球を守り、子どもや孫、さらにずっと先の世代への影響を最小限にするためには、世界中の国・企業・個人がCO2をはじめとする温室効果ガスの排出削減に本腰を入れることが重要です。企業としては、これ以上カーボンバジェットを圧迫しないよう、CO2排出削減に向けた取り組みを早急に強化しましょう。