【中小企業も脱炭素経営が必要】その理由・取り組み方・事例などを解説!
- 脱炭素経営とは、気候変動対策(≒脱炭素)の視点を織り込んだ企業経営のこと。
- 中小企業が脱炭素経営を進めることは、競争力を維持し、事業継続のために不可欠。
- 進め方は4ステップ。ポイントは、温室効果ガス排出量の削減ターゲットを絞ることです。
コストや時間、人材面から、「脱炭素経営の積極的な推進は難しい」と感じている中小企業も多いかもしれません。しかし、世界的なエネルギー価格や物価の高騰により、企業経営にとってさまざまな課題が降りかかる今こそ、実は取り組む好機なのです。
この記事では、なぜ今こそ中小企業が脱炭素経営が必要なのか、求められる背景と現状をはじめ、取り組むべき理由や取り組み方、成功するための秘訣、事例を紹介します。脱炭素経営を進めるために、ぜひ参考にご覧ください。
中小企業に脱炭素経営が求められる背景と現状
なぜ、中小企業に脱炭素経営が求められるのでしょうか?脱炭素経営を考える際の基本として、まずは背景と現状をみていきましょう。
参考:環境省『脱炭素経営とは』
そもそも脱炭素経営とは?
脱炭素経営とは、気候変動対策(≒脱炭素)の視点を織り込んだ企業経営のこと。各企業において気候変動対策を行おうとすると、少なからずコストがかかります。そのため、これまでの気候変動対策はあくまでもCSR活動の一環として行われることがほとんどでした。
しかし、近年では、気候変動対策を単なるコスト増加の取り組みとみなすのではなく、リスク低減と企業成長のチャンスと捉える企業が増えてきました。
脱炭素経営は、事業の根幹を固め、経営上の重要課題として全社を挙げて取り組むという考え方にシフトしています。
今、地球温暖化が世界的な課題に
2024年夏の猛暑も記憶に新しく、今、世界的な地球温暖化が進んでいます。2020年時点の世界平均気温は、工業化以前(1850~1900年)と比べて約1.1℃上昇。長期的には、100年あたり0.76℃の割合で上昇しており、今後も更なる気温上昇が見込まれています。
地球温暖化が進行する中で、消費者は危機感を覚え、環境意識を高めています。こうした動きにより、企業は環境への配慮を求められるようになりました。
実際、日本をはじめ世界各国で、温室効果ガス排出削減に向けた規制強化が進行中です。また、ESG投資(企業の環境・社会・ガバナンスへの取り組みをもとに投資先企業を選定する投資方法)も増加しています。
つまり、地球温暖化は企業にとって切り離すことのできない事項となっているのです。
温室効果ガスや削減に向けた各国の動きについては、以下の記事で詳しく説明しています。
脱炭素に向けた取引先からの協力要請が増加
脱炭素化を実現するためには、一企業だけの取り組みでは不十分です。温室効果ガス排出量の削減に向け、サプライチェーン全体での環境負荷低減が求められます。
また、大手企業は持続可能な原材料や製品の調達を進めており、環境基準を満たすサプライヤーとの取引を優先しています。
上のグラフからわかるように、中小企業が取引先から脱炭素経営の要請を受けた割合は、2020年からの2年間で倍増しています。現状を踏まえると、今後もこの増加傾向が続いていくといえるでしょう。
脱炭素経営は、中小企業の競争力を維持し、事業を継続していくための重要な要素なのです。
脱炭素経営に取り組むべき5つの理由
脱炭素経営に取り組む理由は5つあります。それぞれ詳しく説明します。
参考:環境省 脱炭素ポータル『中小規模事業者様向けの『脱炭素経営のすゝめ』』
理由1.企業ブランドと認知度が向上する
企業として脱炭素に取り組むことは、環境や社会に十分配慮しているということであり、企業の自社ブランドの向上につながります。また、さまざまな取り組みを行い、周知することにより、企業の認知度もアップするでしょう。
逆に、脱炭素経営をしないと、社会的な信用が著しく低下する可能性があります。
理由2.売上が増加する
脱炭素経営により企業イメージが向上すれば、温室効果ガス削減に意欲的に取り組んでいる取引先や、環境意識の高い顧客からの信頼を得やすくなります。これにより、環境に配慮したい取引先や顧客との取引が増え、売上が増加するでしょう。
また、脱炭素化を進めていく中で、環境に優しい商品やサービスを思いつくこともあります。新商品・サービスの展開により新たな市場を開拓でき、売上アップが見込めます。
理由3.コストを削減できる
脱炭素化のひとつとして、温室効果ガス排出量を削減させるために、省エネルギー化や製造工程の見直しを進める企業も多いでしょう。こうしたエネルギー削減の動きは、原料費や光熱費、燃料費の削減につながります。
また、今後日本でも本格的な導入が見込まれるカーボンプライシングへの備えという点でも、脱炭素経営は有益です。カーボンプライシングとは、企業などの排出する二酸化炭素(CO2)に価格をつける政策手法のこと。排出量を削減しないとコストが増えてしまうため、企業の脱炭素化を進めることはこうしたコストの抑制にも寄与すると考えられます。
理由4.人材獲得の円滑化や定着率の向上につながる
サスティナブルな企業への応募は年々増加しています。就職活動において売り手市場が続く昨今、人材の獲得はどの企業にとっても重要課題です。
環境問題に積極的に取り組む企業は、求職者に対して「社会に貢献している企業」というイメージを持たれやすくなります。環境への意識が高い人材から「魅力のある企業」と判断されやすくなり、求人への応募数が増えることが期待できます。
また、環境問題に取り組む企業では、社会的な貢献度も高くなります。従業員にとっては、働きがいをより感じやすくなるでしょう。それにより、定着率の向上にもつながります。
理由5.有利な条件で資金調達が可能になる
企業の⾧期的な期待値を測る指標として、「脱炭素への取り組み」の重要度が増しています。環境問題に適切に対応している企業は、環境に対する意識が高く、社会からの要請に柔軟に対応できていると判断され、事業リスクが低いとみなされるでしょう。
このような企業に対し、金融機関は「安心して融資を行いやすく、長期的な利益が見込める」と判断する可能性が大きいです。その結果、有利な条件での資金調達につながります。
また、多くの投資家が注目しているESG投資に対しても有効といえます。
【中小企業向け】脱炭素経営の取り組み方4ステップ
脱炭素経営を効果的に進めるためには、以下のようなステップを踏むことをおすすめします。各ステップを詳しくみていきましょう。
なお、これから紹介する各ステップについて詳しく知りたい方は、下記のホームページに掲載されている『中小規模事業者向けの脱炭素経営導入ハンドブック』を参考にしてください。
参考:環境省 脱炭素ポータル『中小規模事業者様向けの『脱炭素経営のすゝめ』』
ステップ1.自社が置かれた現状を知る
日本をはじめ世界は地球温暖化をどのように捉え、どのような対策をとっているのかという大枠を理解したうえで、自社の置かれた現状を知ることから始めます。
まずは、最初に世界的に進められているカーボンニュートラル(CO2をはじめとする人為的な温室効果ガスの「排出量」と「吸収量」を均衡させること)の理解を深めましょう。そのうえで国の動き、企業が所在する地域の動き、バリューチェーンにおける動き、消費者の動きと自社との関連を探ります。
これを踏まえ、「自社ができること」「自社が提供できる付加価値」を考え、自社の脱炭素経営の方針を定めます。
ステップ2.温室効果ガス排出量を測定する
自社の方針が決まったら、温室効果ガス排出量を実際に算定します。計算式は以下の通りです。
温室効果ガス排出量(tガス)=活動量×排出係数(活動量当たりの排出量) |
※排出係数:活動量当たりの排出量のこと。排出原単位とも呼ばれる。排出活動ごとに、排出係数が定められている
なお、CO2以外の温室効果ガスの排出量をCO2に換算する際には、以下の計算が必要です。
温室効果ガス算定排出量(tCO2)=温室効果ガス排出量(tガス)×地球温暖化係数 |
地球温暖化係数は温室効果ガスの種類ごとに定められています。2024年4月時点での「温室効果ガス排出量算定・報告・公表制度」で採用されている地球温暖化係数は、以下の通りです。
温室効果ガスの種類 | 地球温暖化係数 |
---|---|
二酸化炭素(CO2) | 1 |
メタン(CH4) | 28 |
一酸化二窒素(N2O) | 265 |
ハイドロフルオロカーボン類(HFCs) | 4~12,400 |
パーフルオロカーボン類(PFCs) | 6,630~11,100 |
六ふっ化硫黄(SF6) | 23,500 |
三ふっ化窒素(NF3) | 16,100 |
なお、算定対象となる主なエネルギーは以下が挙げられます。
- 電力
- 灯油
- 都市ガス
- ガソリン
- A重油
- 軽油
- 液化石油ガス
- 液化天然ガス
温室効果ガス(GHG)の種類や計算方法については、以下の記事が参考になります。
ステップ3.温室効果ガス排出量削減のターゲットを絞る
自社の温室効果ガス排出量を算定したら、削減を効果的に進めるために削減ターゲットを絞りましょう。具体的には、事業所単位や事業活動単位でグラフ化するなどして分析します。
分析することで、どの場所やどの事業内容を重点的に改善していけばよいのかの糸口が見つかるでしょう。
ステップ4.温室効果ガス排出量を減らす
削減ターゲットが絞れたら、まずは、削減計画を策定します。その際も、算出したデータをもとに分析するのが重要です。
■削減計画の策定に向けた比較検討事例
比較事例 | 内容、確認観点の例 |
---|---|
時系列 | CO2排出量が過度に増加しているエネルギー使用や、異常な変動がないかを確認。 複数年にわたり比較することで、事業活動との関連性も把握できる |
事業所・設備間 | 同じくらいの規模、類似する事業内容の事業所や設備と比較し、温室効果ガス排出量が多くなっている箇所がないかを確認。 CO2排出量を事業所ごとの専有面積、売上、製造量などで割った「排出原単位」で比較する方法も効果的 |
適正値 | 目的や利用用途に対して、台数や性能、設定値が過剰でないかを確認。 省エネ診断士など専門家に相談するのもよい |
上記のように、さまざまな角度から分析したうえで、定量的な目標値を定めます。進め方や取り組み内容は企業ごとで異なりますが、地球温暖化をストップさせるためには、どの企業も2050年までのカーボンニュートラル実現を目指すことが大切です。
計画が定まったら、取り組みを実施します。設備投資が必要な場合は、リース会社や金融機関とのファイナンス相談、メーカーや設備業者の連携も取りながら、実行しましょう。
取り組む際のポイントは、実行したままにしないことです。自社の温室効果ガス排出量を定期的にチェックし、目標達成に向けた進捗状況を確認しましょう。見直した際にステップ1~ステップ3からの修正が必要なら、該当ステップに戻って計画や実施内容を見直します。
こうした、「知る→測る→ターゲットを絞る→減らす→見直し」を繰り返すことで取り組みがさらに効果的に進められます。
なお、「2050年カーボンニュートラル」については、以下の記事で詳しく紹介しているので、ぜひご覧ください。
中小企業が今すぐ実践できる!脱炭素経営を成功に導く3つの秘訣
中小企業が有益な脱炭素経営をするために、ぜひ押さえておきたい秘訣を紹介します。多くの企業が実践できることなので、ぜひチャレンジしてみてください。
秘訣1.中小企業版SBTを取得する
中小企業版SBTとは、中小企業が科学的根拠に基づく温室効果ガスの削減目標を設定し、SBTi(SBTの運営機関)が目標を妥当とみなせば取得できる国際的な認定です。
具体的にはパリ協定の目標(地球温暖化を1.5°C以内に抑える)に合致した排出削減計画を立て、実行することで認定が得られます。
なお、SBT認定には、通常のSBTと中小企業版SBTがあります。中小企業が通常のSBTを取得することも不可能ではありませんが、目標値や費用などの条件面から、中小企業版SBTの方が取得しやすいといわれています。
SBT認定を取得する企業は近年増加しており、2024年3月時点で、日本のSBT認定企業は904社あります。そのうち、704社(約77%)が中小企業版SBTを取得しています。
中小企業版SBT認定を取得することで、先ほど紹介した「脱炭素経営に取り組むべき5つの理由」で述べた内容の他にも、以下のようなメリットが期待できます。
- 環境経営をアピールできる
- 取引喪失リスクを回避できる
- イノベーションの推進につながる
中小企業版SBTについては、以下の記事で詳しく紹介しています。
参考:環境省『SBT(Science Based Targets)について』
秘訣2.セミナーやフェアへ参加する
セミナーなどに参加し、最新の情報を得ることも大切です。世界中で進められる脱炭素化の流れを受け、脱炭素経営に関するセミナーや講演会が多く開催されています。例えば、日本最大級のイベントである「脱炭素経営EXPO」は、年3回行われる脱炭素経営の専門展です。再生可能エネルギーや省エネ設備など企業向けの脱炭素サービスや商品が並びます。
自治体主催のセミナーもあるので、企業が所在する自治体のホームページなどで情報収集することをおすすめします。
秘訣3.外部の専門業者と連携する
脱炭素経営を推進するためには、専門知識や最新動向の理解が欠かせません。しかしながら、中小企業にとっては、そのリソースを確保するのが難しいということも大いに考えられます。そのようなときは、外部の専門サービス会社に依頼し、連携して進めていくのもよいでしょう。
中小企業版SBTの取得のサポートを展開している業者もあります。まずは、自社の脱炭素経営の方針を明確にした上で、それと合う専門業者をリサーチしてみましょう。
【事例】中小企業の取り組みを紹介
脱炭素化を進めるうえで、ぜひ参考にしたいのが実例です。ここでは、「脱炭素経営の取り組み方4ステップ」の章で紹介したステップに沿って、中小企業の取り組みを紹介します。
■脱炭素経営の取り組み方4ステップ
- 現状を知る
- 温室効果ガス排出量を測定する
- 温室効果ガス排出量削減のターゲットを絞る
- 温室効果ガス排出量を減らす
なお、取り組みに際して、設備の更新など相当の費用がかかることもあります。費用面については、国や自治体などによる補助金制度を活用するのもよいでしょう。
なお、これから紹介する取り組み事例について詳しく知りたい方は、下記のページに掲載されている『中小規模事業者向けの脱炭素経営導入 事例集』を参考にしてください。
参考:環境省 脱炭素ポータル『中小規模事業者様向けの『脱炭素経営のすゝめ』』
【太陽光発電の導入】恩田金属工業(製造業・従業員数22名)
金属のプレス加工を手掛ける恩田金属工業は、本社工場の省エネ対策を検討・実施し、脱炭素経営を推進しました。
ステップ | 内容 |
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知る | 直近1~2年における省エネ対策の洗い出しとその実施 |
測定する | CO2排出量の大半がScope2であり、中でもコンプレッサーと空調の消費電力量が約70%を占めると判明 |
ターゲットを絞る | 現地踏査などの結果、特に優先度が高いと判断された高効率空調機とエアコンプレッサーについて、削減効果と費用、投資回収年数を試算 |
減らす | 高効率空調機への切り替えとエアコンプレッサーの更新 |
【新規事業の立案】おぎそ(卸売業・従業員数45名)
陶磁器卸売業を営むおぎそは、サプライチェーンの活性化に向けた新たな脱炭素の取り組み「リペア事業」を考案。しかし、顧客からの「どれだけ削減できるのか」という質問に回答できなかったことをきっかけに、自社のCO2排出量削減対策に乗り出しました。
ステップ | 内容 |
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知る | 「リペア事業」の必要性と貢献度の洗い出し |
測定する | 自社の燃料、電気の使用量データを整理 |
ターゲットを絞る | リサイクル食器のLCAデータを取得するなど、他の主体と連携した排出量の算定を実施。CO2排出削減対策の絞り込み |
減らす | 「リペア事業」の展開により、燃料・電気の使用量の削減に伴う、光熱費・燃料費の低減に成功 |
【中小企業版SBTの目標達成】協発工業(製造業・従業員数34名)
自動車部品をはじめとする金属プレス製品を製造する、プレス加工メーカーである協発工業は、すでに取得していた中小企業版SBTの目標達成に向け、CO2排出量の削減対策を進めました。
ステップ | 内容 |
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知る | 取引先のグローバル企業が、サプライヤー企業へ再エネ利用や排出削減の取り組みを取引条件としつつある現状が背景に |
測定する | 排出量の約90%が電力起源CO2。主な電力消費機器は、プレス機やコンプレッサーなどの生産機器、空調、照明 |
ターゲットを絞る | 新社屋・第2工場の新設に伴う新規設備の導入や、照明のLED化や人感センサーの導入、不要な設備の電源オフなどの省エネ対策を検討 |
減らす | Scope1・2の温室効果ガス排出量について、2030年までに2018年度比50%削減とする目標(SBTの1.5℃水準目標に合致)を設定し、計画を推進中 |
脱炭素経営に向け中小企業ができることを理解し、推進しよう
脱炭素経営は、決して上場企業や大企業だけが行えばいいものではありません。地球温暖化が進み、世界全体で危機が高まる中、中小企業も積極的に推進する必要があります。
そうすることで、地球規模でのカーボンニュートラルに貢献できるだけでなく、自社としても、「企業ブランド・認知度の向上」「売上の増加」「コストの削減」などのメリットが期待できます。
脱炭素経営に向け中小企業ができることを理解したうえで、本記事の取り組み方ステップを参考に、自社でできることから始めていきましょう。