再生可能エネルギーの発電コスト。世界との比較や日本が高い理由など

- 日本の再生可能エネルギーの発電コストは、世界と比較するとかなり高いのが現状です。
- 日本の再生可能エネルギー発電コストが高い理由としては、「地理的要因」「物価・人件費の高さ」「自然災害の多さ」が挙げられます。
- 発電コスト低減に向け、日本政府はさまざまなことに取り組んでいます。企業としては、「再生可能エネルギー発電事業者からの電力購入」や「各種イニシアチブへの参加」などを進めましょう。
企業として再生可能エネルギーの活用を進める中で、「日本の再生可能エネルギーの発電コストはどのくらいなのか」を知りたいと思った方もいるでしょう。世界との比較も気になるところです。
この記事では、日本の再生可能エネルギーの内訳や現状、日本の発電コストが高い理由、コスト削減に向けた国・企業の取り組みなどを解説します。これを読めば、再生可能エネルギーの発電コストへの理解が深まるとともに、企業として何をすべきかが明確になるでしょう。
再生可能エネルギーの発電コストとは
発電コストの説明の前に、再生可能エネルギーについて押さえておきましょう。再生可能エネルギーとは、一度利用しても比較的短期間に再生が可能で、繰り返し利用できるエネルギーのこと。発電時に温室効果ガスを排出せず、国内で生産できるのが特徴です。主な種類としては、「太陽光発電」「水力発電」「風力発電」「バイオマス発電」「地熱発電」があります。
この記事では再生可能エネルギーの発電コストについて解説しますが、「そもそも、発電コストとはどういったコストを指すのだろうか」と疑問に感じている方もいるでしょう。発電コストは、以下のコストを合算したものです。
■発電コストの内訳
内訳 | 具体例 |
---|---|
資本費 | 建設費や固定資産税など |
運転維持費 | 人件費や修繕費など |
政策経費 | 発電所が立地している地域への交付金など |
燃料費 | 化石燃料の価格や核燃料サイクルの費用など |
社会的費用 | CO2対策費や事故リスク対応費用など |
上で紹介した5つの再生可能エネルギーのうち、バイオマス発電以外の4つについては、発電コストに含まれるのは「資本費」「運転維持費」「政策経費」のみです。一方、バイオマス発電では、上記5つ全ての費用がかかります。
参考:資源エネルギー庁『電気をつくるには、どんなコストがかかる?』
【日本と世界を比較】再生可能エネルギーの発電コスト
実際のところ、日本の再生可能エネルギーの発電コストはどのくらいなのでしょうか。日本の現状と今後の見通し、世界との比較について、紹介します。
日本の現状と今後の見通し
資源エネルギー庁が設置した「2021年発電コスト検証ワーキンググループ」の検証によると、2020年および2030年の電源別発電コスト(火力発電、原子力発電も含む)の試算結果は下記の表の通りです。
なお、試算結果は2020年・2030年ともに、新たな発電設備を更地に建設・運転した際のコストを一定の前提で機械的に試算したものであり、既存の発電設備の運転コストではありません。
カテゴリー | 電源 | 2020年試算結果(円/kWh) | 2030年試算結果(円/kWh) |
---|---|---|---|
再生可能エネルギー | 太陽光(事業用) | 12.9 (12.0) | 8.2~11.8 (7.8~11.1) |
太陽光(住宅用) | 17.7 (17.1) | 8.7~14.9 (8.5~14.6) | |
陸上風力 | 19.8 (14.6) | 9.8~17.2 (8.3~13.6) | |
洋上風力 | 30.0 (21.1) | 25.9 (18.2) | |
小水力 ※小規模な水力発電のこと | 25.3 (22.0) | 25.2 (22.0) | |
中水力 ※中規模な水力発電のこと | 10.9 (8.7) | 10.9 (8.7) | |
地熱 | 16.7 (10.9 ) | 16.7 (10.9 ) | |
バイオマス(専焼) ※バイオマス燃料だけを燃料とする発電のこと | 29.8 (28.1) | 29.8 (28.1) | |
バイオマス(混焼) ※バイオマス燃料と石炭などの非バイオマス燃料を併用する発電のこと | 13.2 (12.7) | 14.1~22.6 (13.7~22.2) | |
火力発電 | 石炭 | 12.5 (12.5) | 13.6~22.4 (13.5~22.3) |
LNG(液化天然ガス) | 10.7 (10.7) | 10.7~14.3 (10.6~14.2) | |
石油 | 26.7 (26.5) | 24.9~27.6 (24.8~27.5) | |
原子力発電 | 11.5~ (10.2~) | 11.7~ (10.2~) |
参考:資源エネルギー庁『発電コスト検証について』
2020年試算結果では、太陽光発電(事業用)が12.9円/kWh、陸上風力発電が19.8円/kWhなどとなっています。火力発電や原子力発電と比べると、同程度~やや高いのが現状です。
2030年試算結果では、太陽光発電(事業用)が8.2~11.8円/kWh、陸上風力発電が9.8~17.2円/kWh程度と、一部の再生可能エネルギーにおいては2020年より低くなる見込みです。火力発電や原子力発電では発電コストが変わらない~やや増える見通しであることを考えると、再生可能エネルギーの発電コスト減少に期待したいところですね。
下のグラフは、再生可能エネルギーの発電コストの内訳を、2020年試算結果と2030年試算結果で比較したものです。

内訳の構成比に大きな変動はないと見込まれています。なお、太陽光発電や風力発電については、「資本費(建設費や固定資産税など)」が減少する見込みです。
世界との比較
日本の再生可能エネルギーの発電コストは、世界と比較するとかなり高いといわれています。
一例として、下の2つのグラフは世界と日本の「太陽光発電」と「陸上風力発電」の発電コストの推移を示したものです。


太陽光発電については、2022年上半期時点の日本の発電コストが12.0円/kWhだったのに対し、世界の発電コストは5.2円/kWh。日本の太陽光発電の発電コストは、世界の2倍以上であることがわかります。
陸上風力発電については、太陽光発電よりも世界との差が顕著です。2022年上半期時点の日本の発電コストが14.9円/kWhだったのに対し、世界の発電コストは5.2円/kWh。日本の陸上風力発電の発電コストは、世界の3倍近くであることが見て取れます。
太陽光発電、陸上風力発電のどちらも、2014年時点よりは世界との差は縮まっているとはいえ、まだまだ開きがあります。
参考:経済産業省『国内外の再生可能エネルギーの現状と今年度の調達価格等算定委員会の論点案』
日本の再生可能エネルギー発電コストはなぜ高い?
日本の再生可能エネルギーの発電コストが高い理由としては、以下が考えられます。
■日本の再生可能エネルギーの発電コストが高い理由
- 地理的要因が影響している
- 物価や人件費が高い
- 自然災害が多い
それぞれについて、解説します。
理由1.地理的要因が影響している
日本の再生可能エネルギー発電コストが高い理由の一つが、地理的要因です。
日本には、「国土の面積がさほど大きくはない」「山間部が多く、平野部が少ない」「津波や土砂崩れの危険が少ない場所が限定される」といった地理的特徴があります。そのため、再生可能エネルギー発電設備を設置できる場所が限られています。
また、再生可能エネルギーの発電に適した場所と既存の火力発電所の場所が近いというケースばかりではありません。そのため、再生可能エネルギーで発電した電力を利用者に届けるためには電力系統の増設/新設が必要となる場合があり、多くのコスト・時間を要します。
こうした理由から、再生可能エネルギーの市場規模は急拡大しにくいのが現状です。再生可能エネルギー市場がなかなか広がらないため、コスト削減が図りにくくなっていると考えられます。
理由2.物価や人件費が高い
日本は諸外国と比べると、物価・人件費が高い傾向にあるといわれています。物価や人件費はどうしても費用に反映されるため、自ずと発電コストも高くなってしまうのです。
また、新たに再生可能エネルギーの発電事業を始める際には、発電設備を購入したり、作業員を確保したりする必要があります。そのため、物価や人件費が高いことから、「再生可能エネルギーの発電事業を始めたかったが、断念した」という企業も少なからずあったと考えられます。
新規参入する企業が急増しないことが地理的要因同様に再生可能エネルギー市場の急拡大につながらず、再生可能エネルギーの発電コストが高い理由の一つといえるでしょう。
理由3.自然災害が多い
日本は、台風や地震、それらに伴う津波・土砂崩れといった自然災害が多い国です。そのため、災害に耐えうる頑丈な発電設備を設置する必要があります。また、災害によって設備設備が損壊した際には、修理しなければなりません。
このように、日本では多額の「災害対策費」や「修繕費」が必要となっていることも、再生可能エネルギー発電コストが高い理由の一つといえます。
再生可能エネルギーの発電コスト削減に向けた日本の取り組み
日本政府は、再生可能エネルギーの発電コスト削減に向けた取り組みを進めています。具体的には、以下のような取り組みがあります。
■日本政府の取り組み
- FIP制度の新設
- 税制特例措置や融資の実施
- 再エネ特措法の改正
- 次世代型太陽電池の開発プロジェクトの立ち上げ
詳しく見ていきましょう。
FIP制度の新設
再生可能エネルギー市場の拡大により発電コストを削減することを目的に、2022年度に新設されたのが、「FIP制度」です。FIP制度とは、再生可能エネルギーで発電した電力を売る際の価格に市場状況も反映させつつ、手当としてプレミアム(補助額)を上乗せした制度のこと。

もともとあった「FIT制度(一定期間内であれば、再エネ発電で作った電気をいつ売っても、同じ価格で買い取ってもらえる制度)」との違いは以下の通りです。
FIP制度 | FIT制度 | |
---|---|---|
電気を売る方法 | 卸電力取引市場、相対取引など | 電気事業者による買い取り |
価格の決まり方 | 売るときの電力市場の状況などによって価格が変わり、収入も変動する | いつ電気を売っても一定価格のまま収入は変わらない |
FIP制度には、「価格が高いときに売電すれば、収入にも反映される」というメリットがあります。こうしたこともあってか、FIT制度からFIP制度に移行する企業が増えてきています。
税制特例措置や融資の実施
再生可能エネルギー市場の拡大により発電コストを低減すべく、税制特例措置や融資も実施されています。
税制特例措置
特例措置については、再生可能エネルギー発電設備に対して、固定資産税を軽減する措置を実施。対象者は、再生可能エネルギー発電設備を取得した事業者です。対象設備は、以下の通りとなっています。
対象設備 | 補足 |
---|---|
太陽光発電設備 | FIT制度・FIP制度の認定を受けたものを除き、「ペロブスカイト太陽電池(詳細は後述)を使用した一定の設備」または「認定地域脱炭素化促進事業計画に従って取得した一定の設備」に限る |
風力発電設備、中小水力発電設備、バイオマス発電設備(2万kW未満)、地熱発電設備 | FIT制度・FIP制度の認定を受けたものに限る |
軽減率については、対象設備の種類や発電電力などによって異なるため、資源エネルギー庁の『なっとく!再生可能エネルギー|各種支援制度|税制』をご確認ください。
融資
融資については、「環境・エネルギー対策資金(非化石エネルギー設備関連)」というものがあります。
内容 | 中小企業や個人事業主が非化石エネルギー設備(再生可能エネルギー設備)を取得・更新などを行うために必要な設備資金を融資 |
貸付期間 | 20年以内 |
貸付限度額 | ・中小企業事業(主に中小企業)/7億2,000万円以内 ・国民生活事業(主に小規模事業者、個人事業主)/7,200万円以内 |
利率などの詳細は、資源エネルギー庁の『なっとく!再生可能エネルギー|各種支援制度|融資』や同ページに掲載されている『環境・エネルギー対策資金(非化石エネルギー関連設備)』をご確認ください。
再エネ特措法の改正
再エネ特措法とは、再生可能エネルギーの発電を促進するための法律で、主にFIT制度やFIP制度について定めたものです。2024年4月に施行された改正再エネ特措法では、「説明会等のFIT/FIP認定要件化」をはじめとしたさまざまな改正がなされました。
中でも、再生可能エネルギー発電コストの削減と関わってくるのが、「太陽光パネルの増設・更新に伴う価格変更ルール見直し」です。既存の再生可能エネルギー発電設備を最大限に活用すべく、地域共生や円滑な廃棄を前提に、太陽光発電設備に係る早期の追加投資(更新・増設)を促進するための改正が行われました。
具体的には、太陽光発電パネルの増設・更新を行う際、認定出力のうち既存設備相当分は価格を維持しつつ、増設・更新のための追加投資部分(出力が増えた分)は新たな価格を適用する形となっています。これにより、再生可能エネルギーによる発電の継続が促され、ひいては再生可能エネルギー市場の拡大につながっていくでしょう。
なお、再エネ特措法について詳しく知りたい場合には、以下の記事が参考になります。
参考:資源エネルギー庁『なっとく!再生可能エネルギー|FIT・FIP制度|再エネ特措法改正関連情報』
参考:経済産業省『脱炭素社会の実現に向けた電気供給体制の確立を図るための電気事業法等の一部を改正する法律案【GX脱炭素電源法】の概要』
次世代型太陽電池の開発プロジェクトの立ち上げ
再生可能エネルギーの発電コスト削減に有効と考えられているのが、「ペロブスカイト太陽電池」という次世代型太陽電池です。
ペロブスカイト太陽電池とは、ペロブスカイト結晶構造という独自の構造を持つ化合物を用いた太陽電池のこと。この太陽電池の主な原料である「ヨウ素」は、日本が世界第2位の生産量を誇っており、その世界シェアは約3割です。
また、ペロブスカイト太陽電池には、太陽光発電で一般的に用いられている「シリコン系太陽電池」に比べ、「薄くて、軽く、柔軟」という特性があります。加えて、製造工程が少なく大量生産が可能なため、発電コストを低減できると考えられています。
ペロブスカイト太陽電池の開発を促すべく、日本政府は2兆円規模の「グリーンイノベーション基金(令和2年度第3次補正予算にて造成)」において、「次世代型太陽電池の開発プロジェクト」を立ち上げました。
また、2023年8月には開発プロジェクトの予算を、当初の「498億円」から150億円増額し、「648億円」に変更。今後は、基盤技術の開発事業や大型化・発電コストの向上に向けた実用化事業、量産技術なども含めた実証事業などの拡充により、2030年を待たずに社会実装の実現を目指す方針です。
参考:資源エネルギー庁『日本の再エネ拡大の切り札、ペロブスカイト太陽電池とは?(前編)~今までの太陽電池とどう違う?』『日本の再エネ拡大の切り札、ペロブスカイト太陽電池とは?(後編)~早期の社会実装を目指した取り組み』
再生可能エネルギーの発電コスト削減に向け、企業としてできること
企業として、再生可能エネルギーの発電コストを削減するためにできることは、再生可能エネルギーの活用を推進することです。そういった企業が増えれば、再生可能エネルギーの市場規模が広がり、将来的なコスト削減につながっていくでしょう。
具体的な取り組みとしては、以下のようなものがあります。
■企業としてできる取り組みの例
- 太陽光発電パネルの設置:社屋の屋上や会社の敷地内、カーポートの屋上などに太陽光発電パネルを設置する
- 再生可能エネルギー発電事業者からの電力購入:再生可能エネルギーによる発電を行っている電力会社と契約を結び、電力を購入する
- 各種イニシアティブへの参加:「RE100」や「再エネ100宣言 RE Action」といった企業における再生可能エネルギーの利用推進を目的としたイニシアティブに参加する
無理なく行えるものから、確実に実行しましょう。
また、「日本社会全体における再生可能エネルギーの活用推進」という観点から、取り組み内容を社内だけでなく、社外にも情報発信することも大切です。自社の取り組みに関する情報が、他社における再生可能エネルギー活用を促すことにもつながり、ひいては日本社会全体における活用推進に寄与するでしょう。
再生可能エネルギーの発電コストは、今後下がっていく見通し
日本の再生可能エネルギーの発電コストは、世界と比べ、かなり高いのが現状です。その理由としては、「地理的要因」「物価・人件費の高さ」「自然災害の多さ」が挙げられます。
再生可能エネルギーの発電コスト削減に向け、日本政府は「FIP制度の新設」や「次世代型太陽電池の開発プロジェクトの立ち上げ」などに取り組んでいます。また、再生可能エネルギーの活用を推進している企業も多くあります。
政府や各企業の取り組みが功を奏せば、再生可能エネルギーの発電コストは下がっていくと考えられます。企業としては、「再生可能エネルギー発電事業者からの電力購入」や「各種イニシアチブへの参加」など、できることを確実に実行しましょう。