【企業向け】再エネ特措法とは?施行規則と2024年からの改正点

- 再エネ特措法とは、再エネ発電を促進するための法律です。
- FIT・FIP制度の規則として、調達価格の決め方や認定条件などを定めています。
- 2024年4月に施行された改正再エネ特措法の内容として、住民説明会の実施、委託先の監督、土地開発の許認可の事前取得などがあります。
再エネ特措法とは、FIT・FIP制度におけるルールが定められている法律です。再エネ発電に取り組む事業者や関連する電気事業者にとっては、内容を把握しておきたい重要な法律でしょう。
今回の記事では再エネ特措法の概要と、改正によって2024年4月からなにが変わったのか、関係者が知っておきたいポイントをまとめました。
再エネ特措法とは
再エネ特措法とはどのようなものかについて紹介します。
再エネ電力を固定価格で買い取る「FIT・FIP制度」について定めた法律
再エネ特措法とは、主に再エネ電力を買い取る仕組み「FIT制度※1」と「FIP制度※2」について定めた法律です。再エネ電力の調達価格、調達期間についてや、電気事業者の義務、罰則などを決めています。
■再エネ特措法の概要
正式名称 | 再生可能エネルギー電気の利用の促進に関する特別措置法 (【旧】電気事業者による再生可能エネルギー電気の調達に関する特別措置法) |
通称 | 再エネ特措法、FIT法 |
成立 | 2011年 |
内容 | ・FIT、FIP制度の認定ルール ・再エネ特措法交付金 ・認定失効制度 ・出力制御の規則 ・違反時の罰則 など |
再エネ特措法は、もともと「電気事業者による再生可能エネルギー電気の調達に関する特別措置法」、通称「FIT法」として作られました。その後、改正を重ねて名称が変わり、FIT制度と合わせて、「FIP制度」についても規定しています。
※1:FIT制度=再エネ電力の固定価格買取制度
※2:FIP制度=再エネ電力の市場連動型の導入支援制度
参考:国立国会図書館 日本法令索引『再生可能エネルギー電気の利用の促進に関する特別措置法』
対象は「太陽光」「風力」「水力」「地熱」「バイオマス」
再エネ特措法では、FIT・FIP制度で対象となる再生可能エネルギーを以下の5つに決めています。
FIT・FIP制度の対象となる発電方法
・太陽光発電
・風力発電
・水力発電
・地熱発電
・バイオマス発電
FIT・FIP制度の対象となるには、上記の5つのエネルギー源を使うことのほか、以下の条件もあります。
- 再エネ特措法に基づき、国が定める要件を満たす事業計画を策定すること
- 上記の計画に基づいて新たに発電を始める者
事業計画については後で詳しく紹介します。
目的は再エネ電力の普及
再エネ特措法は、再エネ電力を普及させるのが目的です。再エネ特措法の制定によって、発電事業者は売電による収入の予想ができ、導入しやすい環境が生まれています。
実際に、再エネ特措法の施行後、全体の発電量に占める再エネ電力の割合は上がっています。

さらに、政府は2030年度には再エネ電力の割合を36~38%にまで高めることを目標にしています。
参考:経済産業省『再生可能エネルギーの導入状況』
2022年4月から「FIP制度」もスタート
再エネ特措法改正とともに、2022年4月から「FIP制度」が導入されました。FIP制度の特徴は市場連動型であることです。

FIP制度のポイント
・市場連動型の支援制度
・再エネ発電事業者が卸市場などで売電したとき、その売電価格に対して一定のプレミアム(補助額)を上乗せ
・市場価格の変動に応じてプレミアムは変わる
FIP制度は、プレミアム(補助額)を与えることで、発電事業者が安定的に取り組めるように支援しつつ、発電事業者が市場状況を意識するよう促す仕組みです。蓄電池などを活用し、価格が高いときに電気の供給量を増やすといった市場を意識した行動が期待できるでしょう。
参考:経済産業省『再エネを日本の主力エネルギーに!「FIP制度」が2022年4月スタート』
定められていることは?再エネ特措法の施行規則
再エネ特措法では、FIT・FIP制度におけるさまざまなルールを決めています。押さえておきたいポイントと関連のある条文をみていきましょう。
「調達価格」の決め方と制度が適用される「調達期間」
再エネ特措法 第3条
経済産業大臣は、再生可能エネルギー発電設備の区分等のうち、これに該当する再生可能エネルギー発電設備を用いて発電した再生可能エネルギー電気について、当該再生可能エネルギー発電設備の規模その他の事由により、その利用を促進するために、電気事業者があらかじめ定められた価格、期間その他の条件に基づき当該再生可能エネルギー電気を調達することが適当と認められるもの(以下「特定調達対象区分等」という。)を定めることができる。
引用:e-Gov『再生可能エネルギー電気の利用の促進に関する特別措置法』
ここでは主に、再エネ電力を電気事業者が買い取る際、価格とその適用期間をどのように決定するかについて定めています。調達価格(交付価格)は、以下も加味して、経済産業大臣が決定します。
- 水力、太陽光など各電源の運用にかかるコスト
- 調達価格等算定委員会の意見
- 国の定める価格目標
- 発電事業者の適正な利益
2024年度以降の調達価格(交付価格)と調達期間(交付期間)は、経済産業省『買取価格・期間等(2024年度以降)』で確認できます。
再エネ電力における発電事業計画の認定条件
再エネ特措法 第9条
自らが維持し、及び運用する再生可能エネルギー発電設備を用いて発電した再生可能エネルギー電気を市場取引等により供給し、又は特定契約により電気事業者に対し供給する事業(以下「再生可能エネルギー発電事業」という。)を行おうとする者は、再生可能エネルギー発電設備ごとに、経済産業省令で定めるところにより、再生可能エネルギー発電事業の実施に関する計画(以下「再生可能エネルギー発電事業計画」という。)を作成し、経済産業大臣の認定を申請することができる。
引用:e-Gov『再生可能エネルギー電気の利用の促進に関する特別措置法』
この条文では、発電事業計画について述べられています。FIT・FIP制度への申請を考えている方は、再エネ特措法で規定している「再生可能エネルギー発電事業計画」についても押さえておきましょう。代表者氏名や実施時期など、事業計画書に記載しなければならない項目が規定されています。
認定を取得するための「再生可能エネルギー発電事業計画」の主な条件
・関係許認可を取得していること
・発電のための場所を確保していること
・1箇所に複数の再エネ発電設備を設置しないこと
・どのような発電設備を使うかが確定していること
・発電設備を電線路に接続することについて同意を得ていること
・保守点検の実施など管理体制が整っていること
・廃業時における発電設備の廃棄方法などについて、適切な計画が立てられていること
・関係法令の規定を遵守すること
参考:経済産業省『FIT・FIP制度ガイドブック2024』
経済産業省では、再エネ特措法に基づき、電源別の「事業計画策定ガイドライン」を作成しています。事業計画を作る際のルールが知りたい場合は、以下の一覧から各ガイドラインの内容を確認しましょう。
事業計画策定ガイドライン一覧
・太陽光
・風力
・水力
・地熱
・バイオマス
参考:経済産業省『令和5年度改正』
電気事業者の義務
再エネ特措法 第16条
電気事業者は、自らが維持し、及び運用する電線路と認定発電設備とを電気的に接続し、又は接続しようとする認定事業者から、当該再生可能エネルギー電気について特定契約の申込みがあったときは、その内容が当該電気事業者の利益を不当に害するおそれがあるときその他の経済産業省令で定める正当な理由がある場合を除き、特定契約の締結を拒んではならない。
引用:e-Gov『再生可能エネルギー電気の利用の促進に関する特別措置法』
ここでは、正当な理由がある場合を除いて、電気事業者は認定事業者からの特定契約の申し込みを拒めないことをルールとしています。
このほかにも、再エネ特措法では再エネ電力を供給する方法として、卸電力取引市場で売るか、または電気小売事業者(もしくは登録特定送電事業者)に売るかのどちらかで行うことを規則としています。
系統設置交付金
再エネ特措法 第28条
一般送配電事業者又は送電事業者(電気事業法第二条第一項第十一号に規定する送電事業者をいう。以下同じ。)は、供給計画(同法第二十九条第一項に規定する供給計画をいう。)に従って、同法第二条第一項第十八号に規定する電気工作物(変電用又は送電用のものに限る。以下この節において「系統電気工作物」という。)であって再生可能エネルギー電気の利用の促進に資するものを設置するときは、当該系統電気工作物の設置及び維持に要する費用を当該系統電気工作物を使用する期間にわたり回収するための交付金(以下「系統設置交付金」という。)の交付を受けることができる。
引用:e-Gov『再生可能エネルギー電気の利用の促進に関する特別措置法』
再エネ特措法では、再エネ由来の電気を利用するために必要な設備を設置する場合に、系統設置交付金が受け取れることを定めています。系統設置交付金の額の算定方法(第29条)のほか、認定取消の場合の返還命令(第29条の2)などについても記載されています。
認定失効制度
再エネ特措法 第14条
認定事業者が次の各号のいずれかに該当するときは、第九条第四項の認定(第十条第一項の変更又は追加の認定を含む。次条、第十五条の十七及び第十五条の十八第一項において同じ。)は、その効力を失う。
一.認定計画に係る再生可能エネルギー発電事業を廃止したとき。
二.第九条第四項の認定を受けた日から起算して再生可能エネルギー発電設備の区分等ごとに経済産業省令で定める期間内に認定計画に係る再生可能エネルギー発電事業を開始しなかったとき。
引用:e-Gov『再生可能エネルギー電気の利用の促進に関する特別措置法』
認定失効制度とは、一定期間内に発電のための施設を運転開始しないと認定が失効となる制度です。再エネ特措法の2020年度改正によって、運転開始期限が設けられました。この運転開始期限は、太陽光や風力など電源ごとに決められており、おおむね3~7年間となっています。
参考:経済産業省『認定失効制度について』
廃棄等費⽤積⽴制度
再エネ特措法 第15条の12
経済産業大臣は、交付対象区分等及び特定調達対象区分等のうち、これらに該当する再生可能エネルギー発電設備の解体等の適正かつ着実な実施を図る必要があるもの(以下この節において「積立対象区分等」という。)を指定することができる。
2.認定事業者は、積立対象区分等に該当する再生可能エネルギー発電設備を用いて発電した再生可能エネルギー電気を供給するときは、経済産業省令で定める期間にわたり、当該再生可能エネルギー発電設備の解体等に要する費用に充てるための金銭を解体等積立金として積み立てなければならない。
引用:e-Gov『再生可能エネルギー電気の利用の促進に関する特別措置法』
再エネ特措法では、一定のルールに従って、発電のための設備の解体や廃棄などに充てる費用を積み立てなければならないことが定められています。FIT・FIPの認定を受けた、太陽光発電(10kW以上)が対象です(複数太陽光発電設備設置事業を含む)。
参考:経済産業省『太陽光発電設備の廃棄等費⽤積⽴制度について』
【2024年4月施行】再エネ特措法改正の概要
2024年4月に施行された、再エネ特措法の改正内容は以下の通りです。
- FIT・FIP認定要件として住民説明会などの事前周知を規定・委託先(再委託先)に対する監督を義務化
- 違反時の措置。FIT・FIP交付金の一時停止など
- 太陽光パネルの増設・更新について新支援制度が創設
- 土地開発に関わる許認可の取得(2023年10月施行)
改正のポイントを、一つずつ解説していきます。
改正点1.認定要件として住民説明会などの事前周知を規定
認定を申請する前に住民説明会などを実施し、事前周知に取り組むことが認定要件の一つとして追加されました。説明会実施の対象は、大規模電源や周辺地域に影響を及ぼす可能性が高いエリアを使用する場合です。
説明会等を実施すべき再エネ発電事業の範囲
① 次のいずれかに該当する事業に係る電源を除き、認定に当たっては、再エネ特措法、施行規則及び本ガイドラインにおいて定める説明会等を実施すること。
(ⅰ)出力が10kW未満の太陽光発電事業(住宅用太陽光発電事業)
(ⅱ)屋根設置太陽光発電事業
(ⅲ)再エネ海域利用法の適用事業
【施行規則第4条の2の2】
② 屋根設置太陽光発電事業を実施する場合には、事業の影響と予防措置等について、説明会等の実施に努めること。
引用:経済産業省『説明会及び事前周知措置実施ガイドライン』
詳しくは、経済産業省の『説明会及び事前周知措置実施ガイドライン』で、対象区分や開催時期を確認できます。
改正点2.委託先(再委託先)に対する監督を義務化
認定を取得した発電事業者は、その事業の一部または全部を他社に委託、再委託する場合は、適切に監視する義務を負います。必要に応じて定期的な報告を求めたり、立入検査を実施したりなど、認定計画が事前全体で適切に遂行されるよう努めましょう。
改正点3.違反時の措置。FIT・FIP交付金の一時停止など
認定を受けた事業者が、関係法令(条例含む)や、認定計画・認定基準に違反している場合、FIT・FIP交付金が一時停止(積立命令)されます。さらに、違反を解消せず認定が取り消された場合、一時停止されたFIT・FIP交付金を返さなければなりません。
違反しないことが第一ですが、万が一積立命令が発令された場合は、なるべく早期の解消に向けて必要な措置をとりましょう。
改正点4.太陽光パネルの増設・更新について新支援制度が創設
太陽光パネルを増設・更新する際、既設設備に相当する分の価格は維持しつつ、追加投資部分(出力が増えた分)に最新価格相当が適用されることが、新ルールとして定められています。以前は、太陽光パネルの更新・増設をした場合、全ての設備が最新価格に変更されていましたが、改正によって措置が見直されました。
なお、増設の場合は、増設する部分の廃棄費用などを確保しておくことが条件となっています。
改正点5.土地開発に関わる許認可の事前取得
ほかの追加規則より先に2023年10月から始まったのが、土地開発に関わる認定手続きの厳格化です。これは、災害の危険性に直接影響を及ぼすような土地開発の場合、FIT・FIP制度の認定申請前に該当する許認可を取得しておくことを、認定の条件としているものです(一部例外あり)。
必要な許認可
・森林法における林地開発許可
・宅地造成及び特定盛土等規制法の許可
・ 砂防三法(砂防法・地すべり等防止法・急傾斜地法)における許可
該当する場合は、認定の申請前に許認可を取得できるよう、準備を進めておきましょう。
電気やエネルギー全般に関する法律改正の動き
発電に取り組む企業が知っておきたい、近年の法律改正の動きについて紹介します。
電気事業法が一部改正(施行2024年4月)
2024年2月29日に、「電気事業法施行規則の一部を改正する省令」が公布されました(施行日は2024年4月1日)。電気事業法に基づく、さまざまな手続きにおいて以下の確認をすることがルール化されています。
電気事業法における規則
・事業用電気工作物の設置又は変更の工事計画の届出段階において、土地の開発に必要な許認可の取得状況を確認する
・事業用電気工作物の使用開始段階において、土地の開発の完了状況を確認する
引用:経済産業省『電気事業法施行規則の一部を改正する省令について』
電気事業法においても、電気に関する手続きをする際に、土地の開発に関する許可が出ているかどうかを、必ず確認するように定められているのですね。
カーボンニュートラルに向けて省エネ法も改正(施行2023年4月)
省エネ法とは、エネルギーを使用する企業などに対し、エネルギー使用状況などを報告することを義務付けている法律です。2022年改正(2023年4月施行)によって、非化石エネルギーが報告対象として追加されました。
また、改正省エネ法では「化石エネルギー」から「非化石エネルギー」への転換を求めており、実際にその計画や使用状況を国に報告する必要があります。
再エネ発電に取り組む事業者にとっては、再エネ電気の需要が増えることが期待できるかもしれません。改正省エネ法のポイントは以下の記事で詳しく紹介しています。
脱炭素社会の実現に向けて重要な役割を担う再エネ特措法
FIT・FIP制度を定めた再エネ特措法が施行され、発電電力量全体に占める再エネ電力の割合は年々増加しています。改正によって2024年4月からは、住民説明会の義務化や認定事業者の監督強化など、より厳格なルールも導入されました。脱炭素社会の実現やエネルギー自給率の向上など、重要な役割を担う再エネ特措法。今後も状況や課題によって内容が見直される可能性があるため、動向をチェックしていきましょう。