FIP制度とは?FIT制度との違いをわかりやすく解説
- FIP制度とは、売電の価格に市場状況も反映させつつ、手当としてプレミアム(補助額)を発電者に支給する制度です。
- FIT制度との違いは、電気を売るときの市場状況によって価格が変わること。
- FIP制度を活用して収入を増やすには、市場状況のチェックや蓄電システムの活用が重要!
「FIP制度」とは、再エネ電力を売る際の価格に市場状況も反映させつつ、手当としてプレミアム(補助額)も支給する形をとった日本の制度です。「FIT制度とどこが違う?」「デメリットは?」などと、気になっている方もいるのではないでしょうか。
今回の記事は、再エネを利用して発電する際に、FIP制度の活用を検討している方に向けて、制度をわかりやすく紹介します。売電での収入額の決まり方やFIT制度との違いも解説していますので、ぜひ参考にしてください。
FIP制度の概要
FIT制度に続いて、2022年度から導入された「FIP制度」。認定されると、売電の収入として「通常の売電金額+プレミアムの補助金額」を受け取れるようになります。どのような仕組みなのか、概要をみていきましょう。
市場動向によって売電価格が変わる制度
FIP制度は、卸市場などで電気を売った際に、売電価格に基づいた収入プラス、手当として「プレミアム」を発電した事業者に支給します。FIPは「Feed-in Premium」の頭文字をとった略称で、読み方は「フィップ」です。
市場価格を反映しつつインセンティブを設けることで、市場とのバランスもとりながら再生可能エネルギーの普及を図っています。
FIP制度の対象
FIP制度の認定対象となる発電方法と、適用される期間(交付期間)をまとめました。
■対象
発電方法 | 発電方法 |
---|---|
太陽光発電(10kW~) | 20年間 |
風力発電(50kW~) | 20年間 |
水力発電(50kW~) | 20年間 |
地熱発電(50kW~) | 15年間 |
バイオマス発電(50kW~) | 20年間 |
発電に使う電源の種類と期間は、FIT制度と同様ですが、FIP制度の場合は、出力50kW以上が主な対象です。ただし、事業用太陽光発電は、一定の条件を満たす場合は10kW以上からFIP制度の対象となります。
FIP制度と「FIT制度」の違いとは?
「従来のFIT制度と何が違う?」と、気になっている方もいるのではないでしょうか。簡単に説明すると、電気を売ったときの価格が一定なのがFIT制度、売るタイミングによって価格が変わるのがFIP制度です。
ここからは、FIP制度と「FIT制度」の違いについて、基礎知識も交えながら解説します。
「FIT制度」は一定価格で売電できる制度
FIT制度(固定価格買取制度)とは、一定期間内であれば、再エネ発電で作った電気をいつ売っても同じ価格で買い取ってもらえる制度です。
太陽光発電などを導入するには高額な設備投資など、発電者に大きな負担がかかります。導入を後押しするために、FIT制度は「◯年間、◯円で買い取ります」と約束する制度です。
課題解決に向けて「FIP制度」がスタート
FIT制度によって再生可能エネルギーの導入は進みましたが、今後さらに推進していくために、課題も出てきました。
電力市場から切り離されたFIT制度では、いつ発電しても同じ金額で買い取ってもらえます。そのため、再エネ発電事業者が電気の需要と供給のバランスを意識する必要がないという問題があります。これを解決するには、火力発電などと同じように、ニーズや競争で価格が決まる電力市場とバランスをとっていくことが必要です。また、国民が負担する再エネ賦課金※の抑制も重要な課題でしょう。
解決に向けた段階的な措置として、発電者が電力市場を意識するよう「FIP制度」が導入されました。
※再エネ賦課金=電気の使用量に応じて国民が支払っているお金。FIT制度での買い取り資金は賦課金から捻出されている
違いは売電のタイミングで価格が変動すること
FIT制度とFIP制度の大きな違いは、「売る方法」と「価格の決まり方」です。
FIP制度 | FIT制度 | |
---|---|---|
電気を売る方法 | 卸電力取引市場、相対取引など | 電気事業者による買い取り |
価格の決まり方 | 売るときの電力市場の状況などによって価格が変わり、収入も変動する | いつ電気を売っても一定価格のまま収入は変わらない |
FIT制度は、電気を電力会社に自動的に買い取ってもらえます。一方、FIP制度では、発電した電気を卸電力取引市場などで自ら売却。売電価格は市場の需要と供給のバランスによって変動します。つまり、需要が高いときには価格が上がり、反対に少ないときには価格が下がります。
FIP制度では計画に準じた運用も必要に
このほかの違いとして、FIP制度では発電の計画と実績が合うよう「バランシング」が求められます。FIP制度では再エネ発電に取り組む事業者は、発電量の見込みとして「計画値」を作ります。計画値と実績値の差が出た場合には、その差を埋めるための費用(バランシングコスト)を発電者が払います(FIT制度では免除)。ただし、FIP制度ではこのコストを「プレミアム」によって補助するような仕組みをとっています。詳しくは次で紹介します。
FIP制度での価格と収入の決まり方。基準価格と参照価格について
FIP制度での売電による収入の決まり方について、詳しくみていきましょう。売電での収入は、以下の内訳の合計金額になります。
■売電収入の内訳
売電金額 | 通常の売電で得られる金額 |
プレミアムの総額 | プレミアムの単価(基準価格‐参照価格)×再エネ電気供給量 |
卸市場などで売電したときの価格に、プレミアム(手当の金額)を足した分が収入になります。プレミアムは、一定価格ではなく1カ月毎に更新される変動型です。
つまり、FIP制度では、プレミアムの単価が高く、再エネ電気供給量(電気を売った量)が多い月ほど、交付される金額は増えるといえるでしょう。
プレミアムの単価は、どのように決まるのでしょうか。これは、上の表でも示したように「基準価格」と「参照価格」の差分によって決定されます。
基準価格 | 再エネ電気の供給に必要だと見込まれるコストをベースに、さまざまな事情を考慮してあらかじめ設定される |
参照価格 | 市場価格により機械的に決定される 【計算方法】 「卸電力市場」の価格状況を反映した価格+「非化石価値取引市場」の価格状況を反映した価格-バランシングコスト |
それぞれ、どのように価格が決まるのか紹介します。
基準価格|年度別に国が決める
FIP制度の基準価格は、各関係機関の状況などを踏まえて国が決定するもので、「FIT制度における調達価格」と同水準です。つまり、FIT制度によって電力会社に再エネ電気を買い取ってもらう際の、1kWhあたりの単価と同じです(2024年10月時点)。
例えば、2024年度では、太陽光発電50kW以上(屋根設置)だと、1kWあたり12円となります。
参照価格|1カ月毎に一定の計算式で決める
参照価格は、市場取引で期待される価格をもとに、一定の計算方法で1カ月毎に決まります。
参照データのうち、一つは卸電力市場、もう一つは「非化石価値取引市場」です。非化石価値取引市場とは、再エネ電気の「環境価値」のみを証券化した「非化石証書」などを売買する市場です。再エネ電気の市場取引での収入は、この2つの取引市場での収益の合計となります。
ただし、バランシングの費用が生じる場合もあります。その費用を、プレミアムの一部として交付するのがFIP制度の仕組みです。
制度開始当初は、バランシングコストが多めにプレミアムに含まれています。発電に取り組むにつれて、計画の精度は向上すると見込まれるため、交付額は少しずつ低減されます。
売電先の種類
電力会社が自動的に買い取ってくれるFIT制度と違い、FIP制度ではさまざまな取引方法があります。代表的な方法を以下に挙げました。
■売電の方法
卸電力取引市場で売る | 特定の相手と契約を結ばずに、市場取引する |
小売電気事業者に売る | 取引相手と直接契約を結ぶ |
中間事業者に売る | 発電事業者とアグリゲーター間で売電契約を結ぶ |
アグリゲーターとは、再エネ電力を買い取り、小売事業者や市場で売る「電気の仲買人」のような役割をする事業者です。このような大量に買い取ってくれる中間業者と固定契約を結ぶことで収入の安定化が期待できるでしょう。
FIP制度の特長と注意点
申請を検討している場合は、FIP制度の特長や注意点も事前に押さえておきましょう。
メリット | 価格が高いときに売電すれば、収入にも反映される |
デメリット | 自分で売電先を確保する必要がある |
それぞれについて紹介します。
【メリット】電気を高く売れる可能性も。「蓄電池の活用」がカギ
FIP制度では、電気を売ったときの価格が収入に反映されます。収入を増やす戦略として、蓄電池を活用して電気を貯めておき、価格が高いときに売るのも有効でしょう。反対に、電気の価格が安いときはメンテナンスや装置を停止させるのも方法の一つです。
【デメリット】自分で売電先を確保する手間がかかる
市場売電ではなく、特定の相手と契約して取引を安定化したいという方もいるでしょう。その場合、取引相手がなかなか見つからない、または見つかっても売る時期や取引内容の交渉が進まないこともあるかもしれません。FIP制度では、売電先を探す手間や、マッチングが課題です。
この課題に対し、国では「マッチングプラットフォーム」の設置も議論されています。
FIT制度からFIP制度に移行する企業も
これまでみてきたようにFIP制度では、電気を売るタイミングが重要となります。市場動向をチェックし、さらに蓄電システムなどの活用によって売るタイミングを調整できる場合は、高い収入が見込める可能性もあるでしょう。実際に、FIT制度からFIP制度へと移行する企業もみられます。
経済産業省『再生可能エネルギーの長期安定的な大量導入と事業継続に向けて』によると、2023年度の終わりにかけてFIP制度の新規認定・移行認定が大きく増加しています。
上のグラフから、FIT制度からの移行は349件ということが読み取れます(2024年2月末時点)。移行した案件には、バイオマス発電によるものが多いといった調査結果も出ています。
一方、新規認定でFIP制度を活用している企業は、50kW未満の低圧太陽光発電が主流。太陽光以外の発電方法では比較的大規模なものが多い傾向にあります。
参考:経済産業省『再生可能エネルギーの長期安定的な大量導入と事業継続に向けて』
【要検討】期間満了後の対策
FIT・FIP制度の活用を検討する際は、期間満了後の対策についても事前に検討しておく必要があります。「自家消費に切り替える」「売電契約を継続する、または更新する」など、期間満了後の運用や売電の方法を社内で話し合っておきましょう。土地を借りて発電する場合は、地主との契約内容についてもよく確認しておくことが大切です。
よくある質問Q&A
ここからはFIP制度についてよくある質問にお答えします。
Q.家庭用の太陽光パネルでもFIP制度は申請できる?
一般的にはできません。FIP制度の対象は出力10kW以上なので、家庭用の小規模な太陽光発電設備では出力が満たない可能性が高いでしょう。ただし、自宅を事業所扱いにして10kW以上の発電設備を設置している場合などは、FIP制度の対象となります。
Q.インバランスリスクって何のこと?
電気の需要量と、発電の供給量が一致しないとき(インバランス)、その差額を調整するために発生する費用は発電会社が負担します。このようなペナルティによって運営におけるコストが増えてしまうことをインバランスリスクといいます。
需要と供給のミスマッチにより発生するインバランス料金は、収益性を悪化させる要因の一つ。発電に取り組む際は注意しましょう。
Q.運転開始期限とは?
「運転開始期限」とは、制度の認定を取得してから発電を開始するまでの期限です。この期限までに、運転が開始されないと「認定失効」となります。発電方法の種類や規模、さまざまな条件で期限は異なりますが、おおむね3~7年となっています。
参考:経済産業省『FIT・FIP制度ガイドブック2024』
FIP制度を活用して再エネの導入に取り組もう!
安心して発電を始められることを重視したFIT制度に対し、FIP制度は市場とのバランスもとりながら再エネ導入を支援する制度です。申請を検討する際は、市場売電や特定の相手との取引など、どのような方法で売るのかについて事前に考えておきましょう。高く売るためには、蓄電システムなどの設備も必要です。FIT制度とも比較してそれぞれにあった制度を活用し、再エネを利用した発電に取り組んでいきましょう。