【徹底解説】カーボン・クレジット市場の仕組み。市場規模、参加企業など
- カーボン・クレジット市場は、カーボン・クレジットが売買できる市場。参加企業は200社以上(2024年8月時点)。
- 企業にとっては売買の手間が軽減され、取引の安全性も確保されることがメリットです。
- 今後、日本政府の動きと合わせて、市場の活性化が期待できます。
カーボン・クレジット市場とは、カーボン・クレジットを売買するための取引市場です。それまでカーボン・クレジットは、直接、または仲介者を通す方法でしか取引できませんでしたが、市場開設によって情報が広く開示され、企業にとってさまざまなメリットを生み出しています。
今回は、カーボン・クレジット市場の仕組みや、実際にどの程度の企業が参加しているのかなど、取引市場の実態に迫ります。市場動向に関する情報もまとめていますので、カーボン・クレジットの市場取引を検討している企業の方は、ぜひお役立てください。
日本のカーボン・クレジット市場とは?
カーボン・クレジット市場とはどのようなものか、開設の背景も交えて紹介します。
東京証券取引所によって開設された市場
カーボン・クレジット市場は、2023年10月、東京証券取引所によって開設されました。市場で売買するものは株式など金融商品ではなく、カーボン・クレジット。つまり、温室効果ガスの排出を削減した分から創出されたクレジットを、「売りたい」「買いたい」ときに利用できる取引市場です。
市場を開設したことで取引の透明性が向上
それまで主流だったのは、直接または仲介者を通した相対取引です。相対取引では、カーボン・クレジットの取引を新たに始める場合、さまざまな課題がありました。以下に、相対取引の主な課題と市場開設後の変化をまとめました。
相対取引の課題 | カーボン・クレジット市場開設後の変化 |
---|---|
・取引相手を探すのに手間や時間がかかる ・取引内容が外から見えにくい ・価格相場がわからない | ・取引の手間が少ない ・取引の透明性アップ ・公開された価格相場を参考にできる |
カーボン・クレジット市場が開設されたことで、クレジットがどのくらい売買されているのか、取引の実態や相場などを事前に把握できるようになり、取引の透明性が向上。情報が開示されることで、取引に参入しやすくなったといえるでしょう。
カーボン・クレジット市場の仕組み
カーボン・クレジット市場では、どのように売買のやりとりが行われているのでしょうか。カーボン・クレジットの仕組みや体制を紹介します。
取引には参加登録が必要。個人は不可
カーボン・クレジット市場で取引を行うには、まず参加登録が必要です。一般的な株式取引などは個人も利用できますが、カーボン・クレジット市場は法人や地方公共団体などが対象となっており、個人は利用できません。
そのほかの条件について知りたい方は、東京証券取引所のホームページで確認できます。
取引所を介して売り手と買い手が売買
参加登録後、カーボン・クレジット市場の取引所を介してクレジットを売買します。株式取引と同じく、売り注文や買い注文を取引所のシステム上で行うのがルールです。
取引が約定すると、参加者画面で価格が表示され、東京証券取引所のホームページにも掲載されます。カーボン・クレジットは売り手から買い手へ渡り、購入価格分の資金は買い手から売り手へと支払われます。
取引成立後のやりとりも取引所が介入。安心、負担減のメリット
「クレジットをきちんと渡してもらえなかったらどうなる?」など、取引後のやりとりについて、安全性が気になる方もいるかもしれません。カーボン・クレジット市場では、クレジットや資金のやりとりも東京証券取引所が間に入って行うので安心です。
期日までに、クレジットが売り手から買い手へと移転されなかった場合(不履行)、資金決済は不要に。また、その反対に資金が支払われなかった場合は、クレジットが売り手に返還されます。
このような手続きを取引所が担ってくれるため、安全性はもちろん、売買する企業にとって負担軽減のメリットもあります。
市場で扱うカーボン・クレジットの種類
カーボン・クレジットは、主にCO2の吸収や削減効果が期待できるプロジェクトによって生み出されます。その根拠を審査し、カーボン・クレジットとして認証する機関も、政府から民間まであります。
このように多種多様なカーボン・クレジットがある中、カーボン・クレジット市場で取り扱っているのは、環境省などが運営する日本のJ-クレジットのみです。(※2024年11月より、GXリーグの排出量取引における超過削減枠も追加予定)
市場での売買に際して「どのような取り組みから創出されたクレジットか」という視点から、J-クレジットは以下のように分類されます。
■カーボン・クレジット市場におけるJ-クレジットの分類(2024年5月時点)
・省エネルギー
・森林
・再生可能エネルギー(電力)
・再生可能エネルギー(熱)
・再生可能エネルギー(電力・熱混合)
・再生可能エネルギー(電力:木質バイオマス)
カーボン・クレジットには、J-クレジット以外に、環境NGOなどの民間団体が主導するボランタリークレジットなどもありますが、カーボン・クレジット市場では取り扱っていません。売買したいクレジットが、取り扱いの対象かどうか確認しておきましょう。
価格の動向は?カーボン・クレジット市場規模
「実際に、市場でどのくらいの取引があるのか?」といった疑問を持っている方もいるのではないでしょうか。ここでは、市場規模や価格の動向について解説します。
参加企業は200社以上(2024年8月時点)
2024年8月時点で、カーボン・クレジット市場に参加している企業は200社以上です。業種別では電気・ガス業、商業、保険・金融業、サービス業など、東証上場企業も参加しています。
J-クレジットの取引価格
取引価格はどのくらいでしょうか。J-クレジットの市場機能に関する実証期間中の売買状況は次のとおりです。
■実証期間のJ-クレジット取引価格(2022年9月~2023年1月)
J-クレジットの分類 | 取引価格(円) | 加重平均価格(円) |
---|---|---|
省エネ | 800~1,600 | 1,431 |
再エネ | 1,300~3,500 | 2,953 |
森林 | 10,000~16,000 | 14,571 |
実証期間中の累計売買高
約15万t-CO2
実証期間中の売買の総額
約3億円
実証には、183者の企業や地方公共団体が参加し、試行取引を実施。期間中のクレジット種別取引価格は、省エネが800~1,600円、再エネが1,300~3,500円、森林10,000~16,000円です。加重平均価格※は、省エネ1,431円、再エネ2,953円、森林14,571円となっています。
市場開設以降の最新価格を知りたい場合は、東京証券取引所のホームページで確認するとよいでしょう。日々の価格情報が掲載されています。
※加重平均価格=各データの重みも加味して計算した平均価格
参考:経済産業省『「カーボン・クレジット市場」の実証結果について』
今後どうなる?カーボン・クレジット市場
取引市場に参加するかどうか検討している企業にとっては、市場の将来性が気になるのではないでしょうか。市場の課題や政府の動向から、今後を予測してみましょう。
取引対象の拡大が課題
市場開設によって参入しやすくなりましたが、実際には多くの企業が慎重な姿勢を保ち、様子を見ている状況にあるようです。取引のもととなるカーボン・クレジットが、現時点においてJ-クレジットに限定されていることも、活発化しにくい一因でしょう。
ただし、将来的には国際的なカーボン・クレジット制度との連携も期待されており、取引対象はさらに広がる可能性があります。
マーケットメイカー制度の導入
カーボン・クレジット市場の課題の一つが、取引量の安定化です。対策として「マーケットメイカー制度」が試験的に行われています。
マーケットメイカー制度とは、取引所から指定された一部のカーボン・クレジット市場参加者(=マーケットメイカー)が、継続的な売呼値や買呼値を行うことです。これによってカーボン・クレジットの流動性向上が期待されています。
政府は2026年度から排出量取引制度を本格化
政府は、カーボンニュートラルの実現に向けた取り組みの一環で、2026年度に「排出量取引制度」の本格稼働を計画しています。
今後、排出枠の割り振りなど、事業者への規制が強化されれば、カーボン・クレジット市場を含めた排出量取引市場も活性化することが予想されます。
新たな時代を創るカギとなるカーボン・クレジット市場
CO2排出削減量・吸収量という新たな価値に値段をつけ、取引されるカーボン・クレジット市場。カーボン・オフセットなど、企業の貢献活動を支える仕組みとして、市場取引の活性化が期待されます。排出量取引制度の本格稼働に備えて、今後の動向をチェックしていきましょう。